episode 4
呼吸が止まり。
時間が停止し。
思考が固まった____。
頭を銃で撃ち抜かれたかの如く、俺の頭部は弾かれた。雷鳴に撃たれた、と表現した方が良いのだろうか。記憶の回廊を光の速さで侵食する、少女の眼差しと名前。そのどちらもが、今の俺には全くの無関係とは思えなかった。【スレイシア】という名を聞いた時、俺はレイスの顔が真っ先に脳裏をよぎった。何で彼女の顔が今、この瞬間に思い起こされたのかは容易に理解できた。
それは、【ロイ家とスレイシア家の関係を知ってしまったからだ】。古書館で読んだ、本には二つの名家の歴史が事細かく記されてはいたが、本当に大事なのはそこではなかった。俺は以前、何度かレイスに紅茶を振る舞ってもらっていたことがあった。それは、名家_スレイシア家のハーブ園のモノを使った、貴族たしなみの紅茶だった。レイスはこの紅茶を好んで飲み、日々の疲れや午後の一息にとその喉を潤わせていた。そして、俺もその一人だった。
だが、今はそんな事にさえも酷く怒りが見え隠れしていた。もしかしたら、レイスはあの時_体調を崩していた時、この事を俺に伝えたかったのではないかと考えてしまう。大切な人の不調に気づいておきながら、自分の任務を優先した俺には取り返しのつかない後悔だけが濁り残っていった。
目の前の少女がこの事を知っているのかは分からない。仮にも《スレイシア家》という名家の元に生まれた一人の無垢な少女なのかもしれない____。それなのに、俺はこの無邪気な顔に底知れない何かを感じてしまう。
もしも、この右手でこの少女の首を絞めたら、何かが変わるのだろうか?それとも、何かが始まるのだろうか?____と、歪み澄んだ心が、そうさせようとする。
自身の行動は今もなお、停止したままで言葉を発することも、呼吸を整えることもままならなかった。
____ただ、スレイシアという名前を聞いただけで。




