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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
Twilight Lady
85/100

episode 3

 そして現在に至る_____。


 「まずは、《古書(オールド・グリ)(モワール)》に行ってみた方がよさそうだな。あそこなら、サータリアの古い歴史についても、分かるだろうし」


 久々に役に立ちそうな有力な発言をしたラクトに俺は「お前、本当にラクトか?」と心の中で言葉を発していた。


 「それで、場所は分かってるのか?俺はこの街に来たのは初めてだから、あまり深い所の道は知らないけど・・・?」

 「大丈夫、大丈夫。俺を誰だと思ってるんだ?この一週間でおおよそは把握したぜ!」

 「そうか____。ラクトって意外と凄いんだな。俺でさえも、まだ、街の全貌ぜんぼうは理解できていないのに・・・・・・」

 「ん?キット、お前何を言ってるんだ?」


 何とも言えない空気が流れる。


 「いや、だから・・・ラクトは街を_____」

 「街は全然知らないけど?」


 初めは、(ラクト)が何を言っているのか分からなった。仮にもここでの目的は強制的に同じだったはずだ。それなのに何だ?この微妙に噛み合っていない会話は・・・・・・?不確かではあったが俺にはこの先の展開がある程度、予測できた。だが、それが現実に起こった場合、俺はラクトに剣を向けるという怒りを露にしてしまうかもしれない・・・そう思いながらも、話を進めることにした。


 「・・・・・・じゃあ、何を()()したんだ?」


 唾を飲む。それは緊張感でも、のどの渇きでも何でもない。


 ただ、ラクトの返答を待つ間の時間潰しに過ぎなかった。


 「それは・・・・・・この街にいる、女の子たちの情報に決まってるだろ!!花屋の娘に雑貨屋の女性・・・それから・・・あぁ、もう何でこの街にはこんなにも可愛い子がいるんだ____!今度、一人ずつ会いに行ってみようぜ!だけど、安心しろよ キット。お前にだって、きっと 相性が合う子もいると思うからさ!」


 清々《すがすが》しい・・・あまりにも清々し過ぎて、絶句してしまっていた。過去の俺なら、ラクトの話に目を輝かせていたかもしれないが、今の俺には・・・【レイス・ディセル】、二人の少女との出会いを失った俺にはそんな資格なんてないんだ_____と氷の心に冷たい風が吹き抜けた。


 「・・・あれ?キット・・・・・・お前、どうかしたのか?いつもなら、この辺で・・・その、剣とか向けてくる・・・」

 「____向けた方が良かったか?」

 「うわっと・・・!そ、それはやめとこうかな・・・?」

 「____安心し、俺はもうお前に剣は向けない。・・・よっぽどのことが無い限りは・・・な?」

 「お、おう・・・若干、語尾に狂気を感じたが・・・わかった!」


 ラクトは軽く慌てた後、気分を取り戻す様に声を上げた。機転の利かせ方がいいのか、それともトーク力が単に高いだけなのかは分からないが、ラクトの言動には無駄が何一つなかった。逆に言えば、それがとても深い闇を孕んでいる様に思えた。


 _____________________________________


 それから俺達は未だに見慣れない街を見渡しながら、目的の《書館》へと向かった。色とりどりの街並みと統一感のある、人々の髪色。金や銀と言った、上位階級の色と出会うことは無かったものの、オレンジからしたの階級色はそれなりにおり、行き悠々と歩くラクトとは正反対に黒髪の俺は肩身が狭く、出来るだけ人気のない道を選び歩いた。表の通りとは打って変わって、光が余り届かない路地は俺にセレクトリアの街並みを覚えさせる。そして、ここは《黒ずくめの薔薇(ブラッキー・ローズ)》が店を構えている場所によく似ていた。


 「お、あったぞ。ここだ」


 ラクトが指示した場所には古民家にも似た、古めかしい一戸建ての建物が姿を現していた。


 「古書ってだけあって、外見も古いんだな。まぁ、外見と内面のギャップがある方が俺は驚くけど・・・・・・」

 「何一人で言ってんだよ?キット、ほら 中に入るぞ」

 「あ、あぁ。わかった」


 足を踏み入れると、中から人の声が聞こえてきた。ひそひそ話にも似た、声量が飛び交う館内は俺の世界で言うところの図書館に匹敵していた。


 「それで、目星はついてるのか?」


 俺がラクトに問うと静かに返答してきた。


 「まずは街の歴史と法則に関する本を探そうと思ってる。任務を遂行するにはその街の特色と形態、そして、人口の割合が欠かせないんだ」


 仕事のことになると人が変わったかの様にラクトは率先して、本を探し始めた。歴史と言っても俺にはこの世界自体が未知のモノで街一つの歴史を知ったところで何かが分かるとも思えなかった。強いて言うとすれば、セレクトリアで言うところの夜の警備隊の事だろう。朝の賑わい豊かな街と違い、夜の街は犯罪を防ぐ為の防衛形態へと街が姿を変える。仮にサータリアにも同じような事があるのだとしたら、【暗殺】を遂行しているラクトにとっては未然に知りえておかなければいけない情報なのだろう。


 「じゃあ、俺は奥の方に行ってみる」

_____________________________________


 俺は館内の奥へと歩みを進めた。長方形の長い本棚が無数に並べられた間の通路を本の背表紙を見ながら進んで行く。見慣れない、文字に図鑑の様に分厚い本がぎっしりと並べられており、どれから手を付けたらいいのか分からなくなってきていた。


 「ん?」


 そんな時だった。


 規則正しく揃えられた本の中に一つだけ、せり出している物を見つけ、俺は直すついでにそれを手に取った。もちろん、中身は愚か、題名すらも読めない俺は魔法を唱えた____


 《知識を知る為・異なる語源を主人の可能に変換せし》


 これは、簡単に言うと唱えた術者に一番合った文字に異語を変換する呪文だ。セレクトリアでの生活である程度の文字は習得したのだが、それでも全てを理解できたわけではなかった。かといって、この世界圏での言語習得は英語を覚えるよりも簡単で比較的、読めない文字は無かった。これはいわゆる、保険的な呪文だ。


 「【対を成す二つの名家】」


 表紙の題名を読むと、俺は適当に数ページ程めくり、目次に目を通した。


 「____これは・・・・《ロイ家とスレイシア家の冷戦》?スレイシア家って確か、レイスがよく飲んでた、紅茶の________」


 それからは興味に引かれるまま、本を読み進めていた。どれだけの時間をその本に費やしたのかは分からない。けれど、読み進めるうちに何か、違和感の様な物を覚えたのは確かだった。以前のレイスの体調不良と何かを言いたげな表情が今になって何故か脳裏をよぎる。


 「レイスがこれを読んでいたとしたら_____」


 過ぎ去ったことを思い出し、懐かしむ様に呟いた俺はそっと本を棚に戻した。


 一通り館内を見た後、俺は元来た場所を戻っていると一人の老人に声をかけられた。


 「もし、そこにおられる お方。一つ私の頼みを聞いてはくださらないか?」

 「はい、いいですよ。それで俺は何をすれば?」

 「近くにあるはずの杖を取ってほしいのですが、ありますかな?」


 杖はあろうことか老人の目の前に立てかけられる形で置いてあり、位置から考えてみても視界に入るはずだった。しかし、老人はそれに気づいていないようだった。


 「あの、杖なら目の前に____」


 ここで俺はようやく、老人の真実に気が付いた。


 「いえ、これですよね?」


 俺は言葉を切り上げ、そっと杖に手を伸ばし老人の手に触れさせた。


 「ありがとう。これがなければ私はここに居座ることになっていました」

 「あの・・・・・・」

 「いいんですよ。そう言った事柄にはもう何度も出くわしてきましたから」

 「・・・そうですか」

 「それではお礼ついでに私に話を聞いてもらえませんかな?」

 「何ですか?」

 「いや、ちょっとした歳を重ねた上の経験と言いますかな。あなたは感じでは若く感じられます。だからこそ、あなたの様な方に聞いてもらいたいのです」


 落ち着いた声色で俺に語り掛ける様に口を開く老人の話を俺は聞くことにした。


 「見えていなくても大切なモノは記憶に刻まれている。夢と比喩する方が良いでしょうか?ですが、人はそれに気づいた時には既に大切な何かを失っているものです。常に傍に在り続けながら、決して交わらない平行線とでも言っておきましょう。それでも、大切は隣に寄り添うようにあるものです。そして____」



 ________目に見えていなくても、思い出すだけで心が揺れるモノこそがその人に取っての大切なんですよ。


 老人は懐かしむ様に自身の現状を交えた話をした。


 ここで言う、大切なモノは俺にとって何なのだろうかと不意に考えてみる。それは、あの日の暖かな日常であったり、何気ない会話の中での笑顔であったりと、思考は常に過ぎ去った日々を思い起こさせていた。失ったモノ、亡くした人____。取り返したくても取り返せない大切を俺はそっと胸の内にしまい込んだ。それでも、胸を締め付けるこの苦しさは消えることは無く、から風が吹いた後の様な虚しさを残していた。


 そして、話が終わると俺はその場を後に書館の入口へと歩みを進め始めた。


 _____________________________________


 「あ、えーと・・・キットにはあぁ言ったけど正直、俺はこういうところには慣れてないんだよな・・・・・・」


 ラクトはキットと別れた後、すぐに本来の目的からそれた行動を取っていた。


 「本には興味ないけど、やっぱり()()()の本とかあれば救いなんだけどな・・・。何だろう・・・・・・今、物凄く殺気を感じたんだけど・・・まさかな・・・・はは」


 上下左右どこを見ても本一色に染められた館内で一人肩を落とす、狙撃手は精神的に気疲れした体を持たれ掛けさせる様に近くの本棚に手をついた。


 その時____


 「うわっ!」


 持たれた本棚が横にスライドし、棚と棚の隙間に扉が現れた。


 「これって、もしかして隠し部屋ってやつか!だとしたら・・・・レアな本とかあるかも」


 半ば興奮気味に早々と独り言を言うと、ラクトは一瞬の躊躇ためらいも無く、扉に手を掛けた。


 「・・・中は思ったより綺麗だな?それじゃあ、早速____」


 ラクトは不確かな期待を胸に抱きつつ入った部屋に置かれていた本を物色し始めた。ここに、そう言った本があるとは思えないのだが、何せこの狙撃手の悪運はずば抜けて秀で出ている物があった・・・・あり過ぎたのだ・・・・だから____。


 「おぉーーーー!これは、今は絶版で入手困難になっている【セレクトリア=ルル】様の写真集じゃないか!しかも、プレミア価格がついていて、とても手が出せる物じゃないのに・・・定価かよ!____あぁ、俺はきっと、この本に巡り合う為にここに導かれたんだな____」


 昇天してもおかしくない程の満足気な表情を浮かべラクトはそう言った。ここに来た目的などもう、どうでもいいと感じていたに違いなかった・・・・・・。


_____________________________________


 時間は経ち_____。


 「何か情報は分かったか?」


 再び合流しラクトに問いかける。


 「あ、えーと・・・あんまり有力なのは無かったな」


 声色から何も探していないという事だけが分かった。そして、背中に隠している何かにも俺はすぐに気づいた。もしも、それが俺達の任務についての重要なモノならばすぐにでも見せてくるはずなのだが、その素振りを微塵も感じさせないのはそれが、ここに来た目的とはかけ離れたモノだからなのだと悟った。


 「ラクト、怒らないから、その後ろに隠してる物を見せてくれないか?」


 俺は穏やかに笑みをこぼす様にそう言った。


 「え・・・?」


 目を丸くしキョトンとした表情で一言が返ってくる。


 「俺もたまには、ラクトの趣味に付き合ってもいいかなって思ってさ。それに、お前とは使い方が違うだろうけど、俺は俺でその()から学べることがあるかもしれないしさ!」


 鮮やかに、そして爽やかに____。


 「そ、そ・・・・そうか!キットもたまには、ノリがいいこともあるんだな!それじゃあ、一緒にこの()を____」


 時すでに遅し。ラクトは俺が張った、話術の罠にまんまと引っかかった。


 「本か____」

 「ち、違うんだキット・・・これは、その偶然ていうか何て言うか・・・・・・別に初めからこれが目的で来たわけじゃないんだぜ?途中まではしっかり____」

 「別に俺は起こってないぞ?それに、その本の表紙の人には以前、あったことあるし」

 「キット お前!?セレクトリア=ルル様にあったのか!?」

 「あ、あぁ。少し会話をしたぐらいだけど・・・・・・多分その人だと思う」

 「まじか・・・お前、それ《一生の思い出級》に貴重な経験だぞ?」

 「そうなのか?」

 「やっぱりどこか抜けてるんだよな・・・キットは・・・・・・まぁ、いい。俺はこの本を買えただけでもよしとするか・・・」


 若干、気落ちした雰囲気を出すラクトは持っていた本を数ページめくり、それを閉じた。【セレクトリア=ルル】は俺が最初に居た街の王女で城の警備で立ち寄った薔薇の庭園であったのが最初で最後だった。黄金に輝く髪としなやかな体のラインは見る者を魅了させてしまう程に思われた。現にラクトが持っている、本に映っている彼女の姿だけでもその感じは伝わってくる。それ程までに王女は気品と神々しさを兼ね備えているのだと、ここに来て実感させられた。


 「なぁ、ラクト。その本棚にこの本を戻しておいてくれないか?」


 俺は傍に無造作に置かれていた本を手に取ると、ラクトの背後にあった本棚を指さした。


 「分かった」


 そう言うと俺は手に持っていた本を軽くラクトの方へと投げた。


 「よっと____!えーと・・・この本の題名は・・・・《読んだら死ぬ____》」

 「____ダメか・・・」


 俺はため息交じりに言葉を漏らす。


 「おい!何て言う本を渡すんだ。もし俺がこれ読んだらどうするつもりだったんだよ!てか、怒ってないって言ってなかったか!?どう見たって、怒ってるだろ!と言うか、これ!怒ってるって理由だけでやるような事じゃない・・・・」

 「大丈夫。その本、多分、偽物だから・・・・多分」

 「今、多分って言ったよね!?しかも二回も・・・・・・」

 「考えてみろよ。仮にもその本が本物だとしてもそんな危険なモノを館内に置くか?」

 「確かに・・・だけど、じゃあ何でこんあモノがここに・・・」

 「大方、誰かのいたずらか、魔法で題名の部分を変換しただけだろと思う」

 「そうか・・・」


 何も知らないラクトはほんの題名を見ただけで驚いてはいたが、俺は題名を読んでも驚くことは愚か、恐怖の一つも感じなかった。俺の世界にはこれによく似た本が存在していたからだ。それは主にパソコンでプレイすることのできる、フリーホラーゲーム《魔法少女の家》によく似た本が登場していからだ。ゲームの中では読めば本当に死ぬことになるのだが・・・・・・。そして、答えはもっと簡単だった。何故なら____


 ____本に細工をしたのは俺だからだ。


 _____________________________________


 書館を後にした俺達は特にやることも無く、ひたすらに街を歩いていた。時刻はちょうど昼を指した辺りで仕事をしている人々も休息の為に街に姿を現していた。近くには長蛇の列ができている、ピザ屋や紙袋から飛び出た長細いフランスパン似のパンを抱え歩いている人もいた。街並みはイギリスやフランスの様で別段、異世界に来たという実感は無かった。馬車や荷車は止めどなく視界の横を過ぎて行き、日々の営みを感じさせていた。

 俺は自身の役目を探す様に街を見るがどこに瞳を向けても何も感じられず、本当の所は何も解決していないのだと、痛いほど実感させられた。ラクトとのコミュニケーションだって、ただの暇つぶしに過ぎず、することが無いから____と、言い聞かせているだけだった。


 剣士と銃士は流れゆく人の波に身を任せる様に次の行き場を探していた。暗殺という、ただ一つの成功をゆだねられた者はその日を今も探っていた。この一週間で分かったことは数少ないがそれでも、何も手掛かりを掴めないよりかはましだろう。・・・と言うのがラクトの見解だった。


 かという俺はどうなのだろうか?

 意味も無くこの街に運よく入り、運よく条件の良い寝床を見つけただけに過ぎない。そう思っても、仕方がないほどに俺の心はすさんでいた。大切な人を失い、絶対の約束を壊した俺にはもう_____。

 


 「わぁ!見てみて!ここのお洋服、可愛いと思わない?」


 不意に声質の高い少女の声が耳に飛び込んできた。


 「後、これも!絶対、似合うと思うけどな!」

 「ですが、私にはその様な____」


 少女の声に返答する様に発せられたもう一つの声に俺は目を向けた。すると、そこには紺色のフードを被った少女と生地の硬い、ダッフルコートに身を包んだ金髪の女性が仲睦まじく会話をしながら店の前に立っていた。


 「もう、サリアはいつだって自分を低く見てるんだから・・・!そんなんじゃ、その髪色が勿体ないよ?それに____」


 フードの少女は言葉を途中で切り上げると、スッと金髪の女性の方へ歩み寄り耳打ちをする様に自らの口を手で覆い隠した。大方、内緒話のたぐいだろうとは思ったが女性の方は酷く深刻な表情を見せていた。


 「ね____っ?わかった?」

 「____はい」

 「それじゃあ、行きましょう!」


 何を言われたのかは分からなかったが、女性の方は目に見えて気落ちしていた。それは単純な疲れではなく、何か内に秘めた思いがある時の様に____。


 「あの!そこのお二人さん!」


 一瞬だった。俺がラクトから目を話していた、ほんの数秒だった。


 「・・・・!ラクトッ____!」


 遅かった。それよりも、ラクトの瞬間的判断が速かったと言った方が適切だろう。


 「____何です、あなたは?これ以上、私たちには近づかないでください」


 俺は目の前の光景に内心、やれやれと思いながらも今後の展開に興味を示していた。たまには、ラクトにもいい薬だと思ったからだ。


 「いや、そのーーーーあなたのその、金髪凄く綺麗ですね。一目見た時から、気になっていたんですよ」


 ベタなセリフを躊躇ためらいなく口に出すラクト。


 「____」


 目を細め、殺意と警戒心を露にする金髪。


 「あのーーーー・・・・・・もし良かったら、名前だけでも・・・」


 流石の狙撃手も自身の置かれた状況を察したのだろう。先程までの威勢のいい口調から、所々がかすれて聞き取りにくい、声量になっていた。


 「____お嬢様、どうかお下がりください。ここは私が____」


 【お嬢様】という単語と「お下がりください」の二文字を認識した時、俺は事の重大さに気づきすぐにでもラクトをこの場から引き離そうと行動に出ようとした。まず、一つ言えることは金の髪を持つ女性はフードを被った少女の召使、あるいは護衛の役を任されている者だろう。もしかすると、それ以上の役を持っているかもしれないという考えが次に思考を占拠する。仮にもラクトは、【レ・ラクトイレミア=バレット】の後継車で銃の腕もかなりのモノだ。だが、今のラクトはナンパをする治安の悪い典型的な青年に成り下がっており、一般市民の目から見たら、ラクトはそれだ。しかし、金髪の女性はそれを敵として認識したかのような、体制を取っていた。目を細め、死を覚悟したような面持ちと護衛対象を最優先に考えるその判断能力は剣士や騎士のそれに値していた。


 そして、彼女はサータリアでの最上位階級の【金】だ。それだけで、俺達に逆らう権利は無く、ここで殺されても何もおかしくはなかった。


 「____ラクト!」


 声を上げた。必死に事を収束させようと俺の体と感情がそうさせていた。取り返しのつかなくなる前に____と。だが、そんな心配も予想外の出来事により簡単に崩される。


 「()()()!外ではそんな行動はとらないって約束したでしょ!」


 甲高く響いた少女の声がその場にいた俺を含めた、三人の気を一気に逸らす。


 「でっ・・・ですがお嬢様・・・・・・・この者は____」

 「言い訳はいいから。黙って____ね?」


 冷たい声が発せられる。


 「____すみません」

 「なら、あの人に謝って。それと、後ろの人にも」

 

 疑問の表情を浮かべた、サリアという女性はすぐさま俺の方へと視線を向けた。純粋な青い瞳が俺を見つめる。


 「経緯はどうであれ、あのような態度を取ってしまい申し訳ありませんでした」


 納得は言っていないのかもしれない。けれど、主人の命令には逆らえない。見ている俺にそう思わせてしまう程、二人の関係は歪に思えた。絶対的な権限を持った、少女と手足、そして(感情)に鎖を繋がれた、サリア。見えない関係性が垣間見えた気がした。


 「うんうん!ちゃんと謝れて偉いよ、サリア!あ、そうだ!折角だし自己紹介しときましょ?」

 「それはっ!」

 「____なに?」

 「____いえ・・・・」

 「それじゃあ、私がサリアの事を紹介してあげるね!」


 そう言って、フードの少女は俺達を見た。華奢な体とは裏腹に絶大な力を感じずにはいられない、その少女はより一層フードを深く被り、声を発した。


 「この人は私の()()()()()の、サリア=スカイです」

 

 言い終えると同時にサリアは咄嗟に訂正を入れようとする。しかし、それをあたかも予測していたかのように少女はすぐさま、サリアの方へ向き直り駆け寄った。


 「あっ・・・!あの、お嬢____」

 「シー。今は・・・今だけはいいでしょ?」


 サリアの言葉を閉ざす様に少女は右手の人差し指は鼻に着け、それ以上の発言を制止させた。


 「は・・・・・・はい____」

 「えーと、次は私かな?」

 「あの、くれぐれも その____」

 「分かってるわよ。サリア」


 何かを確認した後、再び少女は機嫌を戻し俺達の方へさらに歩みを寄せてきた。タンタンッ____と軽快に地面を踏み鳴らす軽やかな足取りは、その場の雰囲気を先導しているように思えた。そして、少女はラクトの方ではなく俺の方へと迷いなく近づき言葉を発した。


 「あなた、低俗の黒髪なのによく、この街に入れたましたね?もしかして、何か裏があるのですか?」


 意外に勘の良い、発言に俺は体をビクつかせたがそこは、いつもの様に気丈(ポーカーフェイス)を装った。


 「運が良かったってところかな・・・・・・」

 「そうなんですね。ですが、運も実力の内と言いますし、誇っていいと思いますよ?」

 「そうかな・・・・」

 「はい!」


 何だろう、この違和感は____。どこかの令嬢であることに間違いはないのだが、それ以前に不確かな狂気を感じる。出ては消える、とげの様に____美しいモノには棘がある様に____。


 「そう言えば、私の名前を名乗っていませんでしたね」


 これが俺がこの街_【サータリア】に来た理由になるかもしれない。意味の無かった行動に意味が点くかもしれない。

 そんな、必然的偶然を俺は数秒後に思い知らされることになる。


 

 ________私の名前は、レディ_【レディ=スレイシア】です。



 顔を覗き込んでくる少女の瞳に引き込まれそうになる。俺から見て、左眼に蒼穹の青、右側に金色の黄を宿したその瞳に____。


 そして、フードの中でサラサラと輝きを放っている、白く黄金に輝く、【白金】の髪に俺は声を出すことは愚か、呼吸をする事さえもできてはいなかった。


 ____そして、これが大切なモノを失う為の引き金でもあった。 

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