episode 1
「起きろ!朝だぞ!」
酷い目覚めだ。強制的に夢の世界から引き離される気分だ。
「お前、朝は弱いんだな?あの時はあんなに強かったのによ・・・」
一方的な声が耳を突く。寝起きというだけあって、思考は回らず、ただその声を聞いているだけだった。俺は焦点のあっていない、視界を数秒かけて戻すと、瞳の先に映る人物へと顔を向けた。
「あいにく、昨日は遅くまで作業していたんだよ・・・仕方ないだろ?結構、目が疲れるんだぜ・・・あれ」
「俺にはお前が何を言っているのかさっぱり分からないけど・・・それが今の状況と、どんな関係がるんだよ?」
「目が疲れる、イコール、寝て治すってとこかな?だから、今の俺に必要なのは栄養のある食事よりも、睡眠なんだ・・・・・・だから____」
と、言い残し俺はおもむろに、シーツを両手で握り夢の世界に________。
「いかせるかっーーーーーーーー!」
「うわっ____!」
睡魔のせいで体の力が抜けていた俺の抵抗虚しく、シーツは勢いよく引きはがされ、その勢いの余韻で俺はベッドから落とされた。
「痛っ・・・・・・何で朝からこんなことに・・・それに____」
「うん?どうかしたか?」
「どうかしたかじゃない!?何でお前がここを知ってるんだよ!っていうか何で部屋に入ってこれたんだ!?」
聞きたいことは山ほどあったがその中でも俺は最も気がかりな事を質問した。
「そんなの、入れてもらったに決まってるだろ?」
「入れてもらった?誰に?」
「この宿の娘さんに決まってるじゃないか?綺麗だよな、ここの娘さんはさ!」
「・・・いや、お前の感想は聞いてないんだが」
「ま、理由はそんな所だ。さぁ、今日も行くぞ」
「行くってどこに?」
「そりゃ、帝国内部に決まってるだろ?と言っても、そう簡単には潜入できそうにないからな・・・まずは、近辺の状況把握と情報収集の為の聞き込みからだな」
目の前で一人で盛り上がっている者に俺はやれやれという素振りを取り、いつしか消え失せていた眠気を恋しく思うのであった。
木造の部屋に微かに感じる風の匂い。街が変われば、気候にだって変化はある。かという俺は慣れない、街並みとがらりと変わった、生活に未だに適応できず少しばかり体調不良気味だった。
「今日は休みたいんだけど・・・・・・」
聞き入れられるはずもない願いを弱々しい口調で口にする。
「却下」
「だよな」
という、二つ返事で俺はクローゼットに掛けてあったコートに手を通す。この一連の流れもこれで7回目になる。
「支度できたぞ」
「了解。それじゃあ____」
「____行こうか」
こうなれば俺達はもう、誰にも止められない。【純黒の剣士】と【異国の狙撃手】は瞳を閉じ、深呼吸を軽くした後、扉を閉じた。俺のいた部屋は二階に位置しており、街に繰り出すには階段を降りる必要があった。ギシギシと《木》特有の軋む音を立たせながら俺達はそれを一段一段をブーツで踏みしめてゆく。そして____
「おはようございます キット!今日もいい天気ですよ!それに・・・えーと・・・・・どなたでしたっけ?」
一階に降りるとすぐに元気のある高い声が耳に届く。
「おはよう イヴ」
そんな声に答えるように俺はいつもの様に返事をした。彼女は俺の止まっている宿の娘でここの経営も一任されている、しっかりとした経営者だ。
「今日はどこかに行くのですか?」
「それがこいつの手伝いをしなくちゃいけなくなってな・・・本当は嫌だけど・・・・・・はぁ」
「そうなんだ・・・それは大変ですね。無理はしないでくださいね?」
「あぁ、ありがとう」
愁いを秘めた瞳で俺はイヴを見つめ、イヴも憂いを感じさせる様に胸に両手を当て、そう言った。イヴの方は本当に俺の事を心配してくれているのだろうが、俺の方は違った。今も現在進行形で俺を目の敵の様に睨みつける、その視線を煽るために起こした事に過ぎなかった。
「何なんだ、その会話は!!て言うか、イヴちゃんはさっき話したばっかりだよな!?・・・・・・てか、ここのところほぼ毎日のように来てるんだから、俺の事を忘れてるとか冗談だよな!?」
「落ち着けよ、イヴも本当にお前の事を思い出したくないのかもしれないしさ・・・な?」
さらに挑発する。
「え?・・・キットが言うなら、そうなのかもしれませんね・・・・・・」
この返答には俺も驚きを隠せなかった。てっきり、今までの会話は俺の役に付き合ってくれていたのだと思っていたのだが、どうやら彼女は本当に覚えていないらしい。
「____てっイヴちゃん・・・!?今、さりげなく俺の事を嫌ったよね・・・!?というか、君までキットのノリに乗ってるように見えるんだけどっ!?」
終始、落ち着きのない声が宿に響く。このままでは他のお客さんの迷惑になると思い、俺は「そろそろ頃合いだな」と呟き、次の行動へと移る。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫・・・・・・な、わけあるかーーーーっ!!」
宿には悲痛な叫び声と失恋したかのような悲しみを覚える言葉が反響し続けていた・・・・・・。
俺は落胆し膝から崩れ落ちそうになっている相棒の肩を軽く叩くと、イヴに別れを告げ宿を後にした。
街に出るとすぐに俺は空を見上げた。青い空に透き通る様に透明な雲。そして、陽の光を遮るように、そびえたつ【帝国】を瞳に写した。
「なぁ、キット?お前はここに何の為に来たんだ?」
落ち着きを取り戻したのか、それとも気分を変えるために話を振ってきたのか俺に声をかけてきた。
「____俺にも分からないんだ」
「そうか。なら、それを見出すために来たってことでいいんじゃないか?」
「____あぁ、きっとそうかもな。あの時、お前に____ラクトに出会ってなかったら俺はきっと、別の道を行ったのかもな?」
新たな名を口にするのはこれで何度目だろうか?思えばここに来てからというもの、俺は人との関わりを絶やすことは無かった。それは、セレクトリアの生活においても、今、俺が身を置いている【サータリア】においてもだ。
「別の道?それでもいいんじゃないのか?でも、俺はここに来るのが運命だって思ってるんだぜ」
「____それは出会いを言ってるのか?」
「違うよ。俺はただ、やらなきゃいけないことがあるだけなんだ」
「____奇遇だな。俺も、やらなきゃいけなかったことがあったんだ」
互いに含みのある言葉を述べるとそこから先は自然と会話も無くなり、いつしか目的地までの道をひたすらに歩いているだけだった。基本的に俺はあまり、会話をしない性格なのだが、そんな俺でも気づくことはあった。それは____
宿でのテンションが嘘だったと思わされてしまう程に、ラクトは静かだったことだ。
________それはあの夜の日の時と同じように____。




