Second prologue
暗がりの中を一直線に走っていた。
いつ来るか分からない、敵を警戒し俺は右手に剣を持ち次の街へ急いでいた。この行動がどれだけの安全マージンになるかは分からないが、それでもやらないよりは、ましだろう。片手直剣のリーチはいたってノーマルでRPGゲームの主人公の初期装備の様な剣と大差がないといったところだろうか。愛剣である【エミュレータ】は魔法で縮小させている為、すぐには取り出せず、今はそんなことをしていられるほど、余裕は無かった。
林を抜けた先には丘があり、そこから目的地の街を一望できる。だが、今の状況は最悪に近かった。それは、夜行性の魔物が徘徊している森に足を踏み入れていたことだった。時間で言えば、午前二時。こんな時間にこんな場所に人はいるわけでもなく、救援を呼んでも誰も来ない。
「はぁ...」
ひとり、駆けていた足を止め指先を動かした。そして、俺はため息を漏らした。理由は、この状況に最も必要とされるモノがなかったからだ。それは、回復系の道具だった。どのゲームにも何らかの形で必ず存在しているそれは、プレイヤーに必ずと言っていいほど使用されているアイテムだ。
そして、俺の体は危険領域に瀕していた。
再び街への歩みを再開した。月の明かりが微かに道中を照らし出した。それは、林から少しずつ抜け出していることを意味していた。
しかし、運命の女神というものがいるとすればこの明かりは俺への慈悲ではなく、魔物への慈悲だったのかもしれない。
気づけば、周りを四匹の魔物に囲まれていた。
「そう簡単にはいかないよな・・・・・・」
分かっていたと言うように俺はひとり呟き、周囲のを見た。上下左右を囲まれた事により俺の戦闘での立ち回りは完全に断たれた。蛇の様な顔立ちと三本指の手足を持つそれは蛇人間____ 《リザード・ノクターナル》と呼ばれ、青黒い肌に光沢がある鱗、そして右手に握られた剣。左手に構えられた盾が特徴的な魔物。
まるで、アイテム取りの盗賊に囲まれた様なこの状況は長くは続かなかった。人のように話が通じれば何かしらの解決策はあるだろうが相手はそんな言葉の通じない魔物だ。
『ギィャァァァッ!』
一匹の蛇人間が雄たけびを上げると、それを戦闘の合図と言わんばかりに一斉に襲い掛かってきた。
すかさず俺は右手の剣に力を込め、体を思いっきり捻った。それは、剣技の動作だった。
広範囲攻撃 《ブレス・リボルバー》
剣先は青い閃光に包まれ、竜巻の様な疾風を起こした。遠心力の力と剣技の効果で回転斬りとなったそれは俺と蛇人間との間に間合いを作った。攻撃をくらった、三匹の蛇人間は赤い血を噴き出して、すぐに霧散した。その際に俺の体へと、経験値となるため《死に逝く魂の舞》を起こし、眩い光を灯す。
そんな中、一匹だけ剣ではなく盾を構えたモノがいた。そいつは仲間の敵討ちと言いたげに自らの剣を静かに俺の方に向けてきた。
「____いいぜ」
俺は、それに応える様に言葉をかけた。
細く長い舌を鋭い牙の中に戻し、俺を嘲笑うように蛇人間は目を細めた。
『ギィィギャァァッ!』
「はぁっ!」
お互いの攻撃のタイミングは同時だった。だが、一つ違うといえば、それは攻撃の際の姿勢の角度だった。相手より低い姿勢で放った、一撃は蛇人間の腹部にクリティカルヒットし霧散した。
林には再び静寂が訪れた。
「夜は冷たいな____」
俺は辺りに気を配りながら、月の光が指す方へ行った。
丘から見える街の灯りは俺の心を少しだけ癒し、戦闘態勢だった為か抜きっぱなしだった剣を背中の鞘に戻した。今となっては日常的な動作になったこの動き。最初は慣れなかったそれは時間を重ねるごとに自然なものになっていた。本当はこんな動作は決して習慣づくべきではないのかもしれない・・・。
それでも、この世界で生きるためには絶対に必要な事だ。
俺の使っている剣は魔物から命を守る意味から【剣であって盾】のように思えた。
ここから見える景観は比喩的表現をすれば、地上に咲いた宝石の花とでも言うのだろうか。
「あいつは今どこで何をし、何を思っているのだろう____」
月を見上げ俺はひとり呟いた。
風が木々たちを揺らし俺の肌を掠めてゆく。この風は本物ではない、そして本物だ。こんな矛盾した世界は今も俺たちを観続けている。
そんな風に俺は背中を押されるように街の方へ前進を再開していた。
____そう、あの日を思い出しながら。




