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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
Twilight Lady
81/100

Fast prologue

 オレンジ色の街灯が照らす街を歩く。


 鳥は無く事をやめ、人は灯りのともった家庭へと消えてゆく。


 どこもかしこも無駄なものが無い。それは、物理的な事を取っても、景観的な意味を取ってもだ。かという私もそのどちらかに加担しているわけではない。いうなれば、私はこの街の一つの歯車に過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。


 そして、私の役割には休みというモノが存在せず、常にその歯車を動かし続けていた。いつか壊れてしまうかもしれないと分かっていても、それをやめようともせず、止めようともしなかった。

 

 重厚な門を入ってすぐに私は用意された自室へと足を運ぶ。用意という事柄があるだけでこうも、息が詰まりそうになるのは何故だろうか。街には恐らく、泊りがけで仕事をしている人もいるのだから、私の置かれている状況もその延長線上のものだと理解しているはずなのに。それでも、幸いだったのはここが牢屋でも軍の監視部屋で無かったことだった。完璧と言っていいほど必要なものが必要なだけ取り揃えられており、羽毛のベッドは一日の疲れを一瞬にして取り去ってくれる。それに、この部屋は私が一人で使うには勿体もったいないほど広く、置かれている家具はどれを取っても一級品ばかりだった。

 それは、この屋敷の主の権力の度合いを示しているように思えた。


 コートにも似た、軍からの支給品である羽織を掛けると私は浴室へと向かった。鏡に映るのは紛れもなく自分自身で黄金に輝く髪色は照明の灯りでさらにその輝きを増していた。流石さすがにこの時間帯にでもなれば整えたいた髪は崩れ、少しだけ品を落としていた。

 汗ばんだ白一色のカッターシャツは肌の色をけさせ、その柔らかな丸みと、美という名の曲線を引き立たせていた。シュルシュルと何かを考えるわけでも脱いだ衣服をカゴに入れると私は体を流し、湯船へと浸かった。熱めの液体は体の芯にまで到達し、内側から全身を温めてゆく。水面に浮く、金の糸を眺めるようにして私はその一時を過ごす。


 シルクの布に体をまとわせ肌の水滴を吸わせる。体温の変化で火照った体は、ほのかに血色を帯びており、姿見に映った私の頬も微かに赤みがかっていた。

 肌に乗る水滴は少しの振動で滑り落ち、毛先、そして、体の曲線を伝い沿うようにゆっくりと降下し、いつしか床を濡らしていた。完全ではない、濡れた体を拭き終えると下着に手を伸ばし____。


 「あっ____」


 はらりと滑り落ちた一枚の布は音を立てず、床につき、不規則に折りたたまれた。対して私は最終防衛と呼ぶべき一線を失い、鏡の前にその肌色を映していた。本来ならここですぐにでもそれを拾い上げ、体を隠すのが妥当なのだろうが、仮にもここは自室で部屋の扉には鍵はかけてあるし、誰かが近づけば私には半径十メートル以内なら容易に察知することが出来る。

 だからなのかもしれないが、私にはこの状況が昼下がりのコーヒーブレイクの様な何の変哲へんてつもないただの出来事に思えてしまっていた。


 「こんな体・・・・・・。軍人として生きる以上_____」


 軍人である以上、私には女であることを忘れなければいけなかった。それは私自身が良く知っている事で嫌という程、思い知らされた事だった。

_____________________________________



 とある、組織に配属された時の話だ。正式に訓練を受けた、軍人ではなく森の盗賊や街のごろつきを取引で寄せ集めた組織に私は管理者として派遣された。立場で言えば、私の方が上だという事は明確だった。それは組織の連中も頭では分かっていた。しかし、そんな言葉だけの決めつけを組織の連中は素直に受け入れることはなく____。

 反抗心と新入りを見る目で奴らは私の元で任務をこなした。


 ____それから数日して事件は起こった。


 連中は私の認可を取らず、任務に向かったのだ。それに気づいた私は本来の責務を全うすべく、すぐに行方を追った。その場に着いた時、目の前には無数の魔物と戦う組織の姿があり、大方の魔物は全て倒しつくしていた。連中は自分たちでも役に立てると言わんばかりに、持っていた武器を振り回し、その手を赤に染め続けた。

 私はそんな連中に声をかけようとした____。


 ____その時だった、今までの魔物と比べ物にならない程の殺気をただよわせた魔獣が姿を現したのだ。


 結末は言うまでも無く、全滅で私の瞳の先には人か魔物かも分からない肉片が無残に散りばめられていた。吐き気がする程の光景と鼻を突く死臭に口元を押さえ、私はその場を逃げ去った。戻った組織には誰一人と姿を現さず、鼻からそこには命が無かったように思えた。


 数日後、私は軍の上層部に呼ばれた。これから私にどんな罰が下されるのかは大方察しはついていた。軍からの追放、名誉の剥奪はくだつ、その他いろいろと考えられる節はあったが今の私にはそんなことはもう、どうでもよかった。けれど____


 「何故です____!?何故、私にそのような任務を・・・・・・」


 あろうことか上層部は私に罰を与えることは愚か、罪をとがめる事もせず、新たな役割を提示してきたのだ。それは、意表を突かれたと言っても過言ではなく、今の私には理解することが出来なかった。


 「それに・・・お言葉ではありますが、私にその役目が務まるとは思えません____」


 これは私のこれまでの経験とこれからの役目を天秤にかけた上の答えだった。しかし、上層部の含みのある言葉に私は違和感を覚えずにはいられなかった。そして、その違和感を決定づけるように放たれた言葉に私は心を射抜かれ、それ以降は言われるがままに任務への承諾の意を示していた。

 私は未だにその言葉を引きづっているのかもしれない____


 ____それはお前が、【女】だからだ________。


_____________________________________


 鏡に映る自身の容姿を呪うようににらみつけ、私はその場を後にした。


 一息つく為、ベッドに腰かけ、仮眠を取るように軽く瞳を閉じた。何も見えない真っ黒な闇に流れ続ける、過去の記憶と思い出したくない気持ちにおぼれそうになる。酷い目覚めだ。動機が収まらない。呼吸が荒くなる。脈打つ鼓動が深呼吸を無視し続け、焦りを生じさせる。

 そんな時だった、部屋に備え付けられた呼び鈴が落ち着いた室内に鳴り響いた。短めになったその呼び鈴に私は招かれるように、いざなわれるように向かう。これから何をされるのかも、何を求められるのかも全て知った上でなお、私は自己を殺し歩き出す。


 トントンッとノックをした後、中から入室をうながされる。


 床に敷かれた絨毯と部屋を曇りなく照らす照明が眩しく、思わず立ち眩みを覚える。


 「一秒遅刻よ?」


 声がした。それも聞き覚えのある声だ。


 「すみません。お嬢様」


 視線を逸らし、感情のこもっていない声で謝罪を述べる。


 「まぁ、いいわ。それより、早くこっちに来て?私は二回目を許すほど、優しくは無いわよ?」

 「____はい」


 言われるがままに私は呼ばれた方へと歩みを進める。


 「うん、今日も綺麗だね サリア」


 ベッドの上に腰かけた私の髪を見つめながら、少女はそう言って微笑んだ。


 「そんなことはありません。私は____」

 「もう!サリアはいつも、自分を卑下するのね?そんな綺麗な髪と肌を持っているのに」

 「____」


 言葉が出なかった。というより、何と返したらいいか分からなかった。自身が否定した、【女】という在り方を肯定され、なおかつ、それに価値を見出している目の前の少女に私はただ、黙り込むことしか出来なかった。


 「なに?サリアは自分に自信がないの?それとも、私の声が聞こえないの?」

 「い、いえっ・・・!決して、そんなことはありません・・・・・・ですが・・・ですがお嬢様は何故、私をそこまで評価してくださるのですか?」


 思いの核を問いとしてぶつけた。


 「そんなの好きだからに決まってるじゃない?」

 「えっ____?」

 「私は私が好きなモノを手放したくはないの。それに、サリアは私が見てきた中で一番の一品なんだから!」

 「・・・それは私をモノとして見ているという事ですか・・・・・・」


 不意に出た言葉だった。


 「なに?いけないの?」

 「すみません。私の様なものがお嬢様に指図できる立場ではありませんでした・・・」

 「そうよ?だからサリアは私のモノなのよ?そして、大切な召使いなの。だから、私にはたっぷり、ご奉仕してもらわないとね?」


 少女の前では軍人としての誇りも、プライドも通用しない。どんなに屈辱的な行為をされても、それを拒む権利は無く、私は一人の少女の人形としての存在を求め続けられた。抵抗も反抗も許されない、見えない鎖に繋がれた手足と心は今も私の意思を捻じ曲げる。


 「あっ____うぅ」


 暖かく粘着いた舌が頬を絡めとるように触れる。


 「いいわ。サリアの肌は真っ白で綺麗で柔らかくて、甘い」


 目を細め、あやしく微笑む少女はそう言って私との距離を少しづつ縮めてくる。それは、外面的なことを取っても内面的な部分を取ってもだ。


 「日差しの様な髪色に、零れ落ちそうな程に青い瞳。ねぇ、サリア?」

 「____は・・・い、何でしょうかお嬢様・・・・・・?」


 酔ってしまいそうな感覚に途切れそうな意識で返答する。


 「今日はもう少し、いいでしょ?」

 「____え・・・?」


 少女の部屋では拒否権は剥奪され、私には全てを受け入れるという選択肢しか与えられてはいなかった。伸ばされた指先が体に触れる。それは、首筋から胸、腹へとゆっくり品定めをする様に行われた。


 「あっあぁ____うっ____!」

 「サリアは私よりお姉さんなのに、こういうのには弱いんだね?でも、そこがまた可愛いいんだけどね」

 「・・・・・・お・・・嬢様」

 「なに?」

 「非常に・・・言いにくいのですが・・・・・・今日はこの辺で____」

 

 朦朧もうろうとする意識の中で私は許しをこう。だが____


 「だーめ。サリアは私のモノって言ったでしょ?だから、私が満足するまではどんなに辛くても、やめないから?____いい加減、覚えろよ」


 低く残忍な声が脳内に響く。


 「さっ、続きをやりましょ!それじゃあ____」


 軍人の自分ならこの状況を打破することなど容易なのだが、今はその立場を隠さなければいけない。それに、もしも、ここで主の機嫌を損ねるような事があれば、私は愚か、軍にまで影響を及ぼしかねなかった。そうなれば私は恐らく、軍から永久追放されることは目に見えていた。それは私にとって、大切なモノを失う事よりも酷く、絶対に《嫌だ》と思えた唯一の事だった。


 「きゃっ____!」

 「いいわ、いいわ!サリアのそう言った表情嫌いじゃないわ!それに、普段はあんなに気丈なサリアが私の前ではこうも、簡単に()()()ってのも、そそるわね!」


 狂気に満ちた、口調とそれに伴うように激しくなる行為に私は自我を失いかけた。しかし、そんな私の事など気にも留めないと言わんばかりに伸ばされた手は____


 「お嬢様っ・・・・何を!?」

 「うん?別にいいでしょ?」

 「・・・はっ____い?」


 小さな少女の指先が下着に触れた。ゾクッとする寒気と、これからされることへの恐怖心が体をあおる。


 「大丈夫だよ サリア。純潔はちゃんと守ってあげるから安心して?これからも、この先もずっと____ね」


 その言葉は他のどんな事よりも戦慄せんりつを覚え、決して逃れられないという未来永劫の闇を感じさせた。少女の指先が少しずつ、下着をずらしてゆく。


 「や・・・め・・・・・・・_____」


 あえぎにも声で私は拒否を口にする。それは、ここに来て私が発した唯一の《自分自身の言葉》だった。


 「ん?何?どーしたの、サリア?そんなに怯えなくていいんだよ?」


 無邪気な何かが声を出す。それは、無垢で優しくて残酷で____


 「はうっ____!」

 「うんうん。かわいい かわいい。サリアは可愛いね。じゃあ、早速_!」


 ____一線を越える。

 このまま、少女の人形に成り下がる。見えない鎖で繋がれた四肢と心は凍りつき、その瞬間ときを待つ。


 だが____


 「やめっ____!」


 パチンッ________!!


 「痛っ____!何するのよ、サリアッ!あんた、私に逆らっていいと思ってるの?どっちが正解か分かるわよね?」


 迫りつつあった手を私は弾いてしまっていた。


 初めて、抵抗をした。


 それは、条件反射的なモノではなく、自分という感情が起こしたモノだった。


 「・・・・・・すいません」

 「謝るんなら、やらせてよ?私の一番したいことを・・・さっ!」

 「____それだけはできません。私にはお嬢様を否定することはできません。ですが、それだけは・・・・・・」

 

 一語一句を震える声で絞り出す。


 「分かってるんじゃない?それならさ____別の事でもそれは言えるの?」

 「え?」

 「【色】なら、どうなのかって聞いてんだよっ!」

 「____」

 「なにっ?今度は黙っちゃうの?それもそうよね?だってあんたは、【最上階級の金色】、そして私もそれなんだもんね?悔しいよね、主従関係でも下、そして同じ色でも()はさらに特別!もうこれは、決められた事よね?」

 「____はい、その通りです」


 諦めにも似た声で私は絶対的な負けを味わう。


 「なら_____ちゃんと、ご奉仕してもらわないとね」


 それから先は、少女の愛玩動物(おもちゃ)としての役割を果たさせられ続けた。


 灯った光を消した瞳でただじっと、何かにこらえる。握り続けたシーツにシワが入る。眠気とロウソクの火の様に今にも揺らめいて消えてしまいそうな意識の中で無邪気な声がする。暖かな手の熱が腰へと伝わる。密着された柔らかな膨らみが私の体を微弱に押す。時折、感じてしまうその反応に私は自分を失くしかける。次第に火照る、体はいつしか限界を迎えていた。


 そう、落ちたのだ____。


 真っ黒な世界は私の心を再現したかの様でとてもむなしく、落ち着いていた。本来の私はこれなのだろうと考えていた。何もかもから、解き放たれた世界はどんなだろう?


 軍人という立場、召使いという役割、女であるという事。それらを無かったことに出来れば私はきっと、楽になれる。

 叶いもしない願望を口にする。そして、私は現状で出来る唯一の事を想った。




 ________【この娘を殺せば私はまた、軍人としての正当な仕事に戻れるのだろうか】____と。

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