episode unknown
規則性を持って鳴り続けるアラームに目を覚ます。時刻は午前6時を指していた。いつも決まった時間に設定されたそれは、朝の始まりを予感させる。電気を消した部屋にはまだ、陽の光が差し込んでおらず、不思議な程に静かで落ち着いていた。まるで、自分だけがこの時間の止まった世界で動いている様に____。
サーっと、音を立てて開かれたカーテンからは溢れんばかりの朝陽が零れ出し、部屋の床から壁一面を照らし出す。思わず目を瞑ってしまいそうになりながらも、全開した窓からは涼しくも肌寒い、秋の風が吹いていた。部屋から見える木々の葉は淡い、べっこう色をしており、時折、その葉を風がさらってゆく。
完全に引いては無い、眠気を抑え、クローゼットから衣服を取り出す。真っ白なカッターシャツに紺色をしたブレザーとベスト、そしてスカート。何気ない着替えだというのに、寝起きは思考が定まらず、シャツのボタンを一つ一つ止めることでさえも、面倒に感じてしまう。けれど、ここで面倒がっていてはさらなる面倒ごとを引き起こすことぐらい分かっていた。ボタンの掛け違いだ。シャツを着終えると、後は順番通りにベスト、ブレザー、スカートと意味もなしげに纏った。そして、足を黒く染めるタイツに身を包むと、私は荷物を取り揃えるだけ____と、一週間のほぼ大半はこの動作から始まる。
階段を降り、一階の食卓へと向かう。電源の入ったテレビからは天気予報と占い、それに最新のニュースが報道されており、視線を向けた画面には最先端技術を開発中と称された大手ゲーム会社の新作ソフトの特集がされていた。
特に興味を引くわけでもそれを聞きながら朝食を取ると、乱れた髪を手入れするために洗面台へと歩みを進める。くしを入れた髪は枝毛に引っかかり上手く砥ぐことはできなかったものの、それも回数を重ねるごとに力を入れなくても良くなるほどに整えられたいた。
部屋に戻り、鞄に教科書と筆箱、時間潰しの為の小説を淡々と入れると、部屋を後にした。後ろ髪を引かれる思いで閉じたドアはバタンと音を立て、意識を今へと向けさせる。まるで、自分の役目を忘れるなと言われている様に____。
靴を履くときの感覚がいつも嫌いで、いつもそれを行っていた。玄関を出ると、憂鬱という名の重しによって、体は鈍く、そして、足取りを妨げる。
アスファルトの道を特に何かを考えるわけもなく、歩いていると、一人の少女に声をかけられる。
「__先輩、おはようございます!」
服装から察しはついていたがどうやらこの少女は私が通う、高校の下級生らしい。挨拶をされるのは、この少女に限った事ではなく、ほぼ毎日のように同じような声色と瞳で私を見つめそう言ってくる人たちは数えきれないほどいた。どちらかと言うと、私は人にあまり興味を示すような性格ではなく、もしかしたら、同じ人間が毎日のように声をかけて来ていただけかもしれないのかもしれない。
それでも、私には明確に分かることがあった。それは、視線だ。同級生、下級生を問わず、私には様々な感情を抱いた視線が降り注いでいた。並大抵の人間なら、ストレスで精神的に病んでしまうかもしれないが私には《人に対しての興味》など、ほとんど無かった。だからこそ、私は今もこうして平然と校門に足を踏み入れ、それからの数時間を生きていられるのだと思っていた。
浅い呼吸と静かな足音で教室に入ると、そこには既に生徒が数人登校しており、一人の生徒の机の上で雑誌を広げ盛り上がっていた。何が楽しくてそんなことをするのだろう?何が知りたくてそれを持ってきたのだろう?と言う、簡単な疑問が不意に頭をよぎるが、数秒後には「そんなことどうでもいいと」と投げ出していた。教室の一番左の一番後ろが私の席でそこはいわゆる、窓際と言える場所だった。窓を開ける主導権を持った私は数センチほどの隙間を開けると、そこから入って来る、秋の風に頬を冷やされ、目を閉じ、心を詠う。風音が優しく耳に伝わり、吹き抜けてゆく。永遠の暗闇は視線をかき消し何も感じなくさせる。朝礼の前のこの時間が私にとっての癒しであり、誰にも邪魔されない唯一の時間だった。
「おい、聞いたか!遂にあのゲームの発売めどが立ったんだってよ!」
耳障りな音の悪い音色が私を砕く。
「マジか!?でも、もしそれが本当なら現代のゲーム業界が一瞬にして覆されるぞ!?」
「だろうな、何て言ったて、開発者はあの_【輝崎秀一】だろ」
「そう、大手ゲーム会社_【ノクターナル社】を僅か数ヶ月で設立し、一夜にして業界のトップにまで上り詰めたあの輝崎秀一だ。そんな、化け物が創りあげたゲームだとしたら、俺達の様な、一ユーザーには到底想像のできない、変化球を提供してくるんだろうな」
「確かにそれは言えるな。普通の【VRMMORPG】なら、ゲーマーの気も引かなかっただろうけど、今回使用される技術が【IR_イデアルリアリティー】っていう新技術だからな。それも気になるよな」
「だな!ところで発売日はいつなんだ?」
「えーっと・・・確か、あった。来年の秋頃って書いてある」
「そうか。発売日までは時間はかなりあるけど、βテストとかあるのかな____」
男子生徒の会話を聞きながら私は今朝のテレビの事を思い出す。内容は今の会話とほとんど変わりは無く。近頃の男子生徒の話は大抵がそれだったことを思い出す。【VR_バーチャルリアリティー】と言うモノが流行った時も同じだった。どこもかしこも、新しいモノや珍しいモノにうつつを抜かし、前が見えていない。そんな、人たちを私は下に見ていた。《仮想・架空・非現実》といった今の現実から目を背けることに力を入れた様なその技術は私にとっては、ただの《逃げ》に思えてしまっていた。人の考えにまで自身の道理を貫こうとは思はないが、一つ言えるとすれば私は決してそれに手を伸ばしたりはしないことだ。
理由はいくつかあったけれど、私には家の名を汚さない様に常に【完璧】であり続けなければいけないという、絶対的な概念があった。
だからこそ、私にはそんな得体のしれない玩具よりも、気になることがあった。それは____
________数か月前、突然姿を消した一人の高校生のニュースだ。
行方不明や失踪といった事は日々のニュースで嫌という程、見てきてはいたがこのニュースには不可解な点が幾らか見受けられた。それはただ、姿を消すのなら簡単なことなのだが一部の記事によると、この高校生の自室からは大型の電子機器が無くなっていたということだ。それが何かまでは書かれていなかったが、私にはそのことがどうも気になった。
事件の不可解さもあるが、これは単に私の置かれている境遇と真逆だと思ってしまったからかもしれない。仮にこれが事件ではなく本人の意思で行われたモノだとしたらその高校生にどんな心境の変化があったのだろうか。そして、それを後押しした要因は何だったのだろうかと考えていた。
私には分からない、そんな【何かを犠牲にしてでも、自分の望みだけを押し通す考えなんて____。決められた生き方の上から足を踏み外すことなんて私にはできない】____。
授業が終わり昼を迎えた頃には私の心は屋上へと向いていた。監獄の様な箱から抜け出して、早く風に当たりたかった。席を立つと同時に再び視線がこちらを向く。
「やっぱり、__さんは綺麗だよな。靡いた髪に凛としたあの立ち姿」
クラスの男子生徒の一人が隣の席の男子生徒に話しかけていた。
「おまけに成績も学年トップでスポーツも出来て、まさに才色兼備って感じだよな」
他人から見える部分は完璧と言っても嘘ではない。だけど、そんな張りぼてを信じ切っている生徒を見ると私の中で何かが、くすみそうになる。真実は時に内面を隠す。これは私がこれまで生きてきて悟ったことだ。
「あの・・・__先輩、もしよろしければ、お昼をご一緒にどうですか?」
今、こうして私に話しかけている女子生徒もそうだ。たかが、昼の休憩だというのに何故、こうも人を誘おうとするのだろうか?この子も私と一緒で一人だから?それとも、友達に誘って来てと言われたから?仮に前者だった場合、私と彼女には決定的な違いがある。それは、【例え一人だったとしても、誰かを求めたりはしないことだ】。
「・・・・・・そうですか。引き止めてしまってすみませんでした・・・」
私が軽く首を横に振ると、女子生徒はそう言って。廊下足早に歩き去っていった。
「____本当、こういう時ってどうするのが正解なのかしらね」
溜め息の様にそう呟いた私は再び廊下を歩き出した。
才色兼備と私を評価する人もいるけど、それは大きな間違いだ。いくら学業に置いて、《A判定》という結果を見ても、それはそれだけでしかなくそれ以上も以下も無かった。もっと言えば、私はそんなモノよりも、日々の人との接し方でその結果を出したかった。【どれだけ認められようと、どれだけ人より優れていても、私の内面はE判定以下だ】。
屋上の風にあたったところで何かが変わるわけもなく、私はそれ以降の時間を午前中と同じように過ごした。
終業のベルが私を柵から解放する。
校門出る際に感じた、心の澄み切った感覚は風となり帰路への足取りを早める。
道中で眺めた、スマホには今朝、男子生徒が話していたゲームのニュースが表示されており、私は意味も無くその記事を読んでいた。
読み終えた頃には家の近くまで着いていた。
「____異世界か___。システム的には従来のVRゲームと変わらないわね」
読み終えて最初に出た言葉がそれだった。
「____仮にそんな場所が本当にあったとしても私は行きたいとは思わない。それに、____そんな子供の遊びの様なモノをやっている暇は私にはない____けど________」
もしも、そんな場所で本当に生きている人がいて、本当の恋に落ちて、いつか元の世界に戻らなければいけない時が来たとしたら、その人はどんな気持ちを抱くのだろうか____。
自分でも信じられなかった。まさか、そんな考え自体を胸中に抱くとは____と。
いつもの偽った私にはその答えを数式の様に答えを導き出すことも、仮説を立てることもできなかった。
【そして、感情E判定の私にはそれを解明することも出来はしなかった】。
________【夕刻の時と秋を吹く風が景色を包み込む中で一人の少女は伸ばした黒髪を風にさらわせていた】。
予告
その日、俺は小さな黄昏と凛とした金木犀に出会った。
________だーかーらー私は_レディ レディ=スレイシアです!レディは名前であって性別のことじゃないです!
________銃と指先が動けば人は殺せる。これでもラクトイレミアの後継者なんですけどね。
________私は一体どうすれば。私は軍人として生きるべきなのでしょうか・・・それとも____。
________メイドに鎌はつきものなので。
________え、えーと・・・わっ私はキット=レイナーと言います。
________でもね、今もその約束は続いていると思うんだ。
全てを投げ出して、全てを求めた少年は新たな地へと翼を広げた。
思いを抱き、失った少女は途絶えた道を紡ぐように新たな地へと羽を広げた。
________頼みがあるんだ、レイス 死んでくれ________。
Last Rotor - Resurrected as Kit - 第三章
【Twilight Lady】
2020 Winter
黒と白が交わる時、そのキャンバスには軌跡が描かれる________。
※予定なので予告なく変更になる可能性があります。




