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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
Bullet&Butterfly in to the Rainbow.
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episode 43

 モノクロの景色に薄く半透明な視界。白く塗りつぶした修正液(現実逃避)が瞳の中で使用され、見たくない《事》をかき消してゆく。刹那せつなという言葉があまりにもこの状況に的確すぎていたから、俺はそんな事実から目をそらしたのだろう。動かす足が重い、伸ばした手が届かない____。


 ____【胸中に芽生えつつあった、思いが伝えられない】


 スローモーションの様に床を一歩一歩、踏みしめる。


 一定を保っていた、脈は呼吸が飛ぶのと同時に一気に跳ね上がり俺の体を熱くする。溢れ出す、様々な感情と思い。どれだけの事を脳裏に映し出したのかは分からない。けれど、今はそんなこと____。


 糸の切れた人形の様にたった一発のはずみで全てが奪われる。それは例え、どれだけの《死戦》をくぐり抜けて来た者であってもだ。



 バタッ________。



 黒い蝶の様に伸ばした髪をなびかせた一人の少女は、この静かで穏やかで何もかもに終止符が打たれた、平穏な聖堂内にそっと倒れた。

 呼吸はしていた、瞳もちゃんと開いており、両眼の(エメラルド)(ルビー)はしっかりと光を灯していた。近づけた俺の右手は彼女の顔に触れていた。泣きそうな顔を無理やり押し殺し、気丈に振る舞う。そして、すぐに彼女の力の入っていない体を起こす。それはとても虚しく、たったそれだけの事でさえも俺には意味が分かってしまう。

 

 「・・・・・・キット・・・・・・・・・」


 苦し気に発せられた俺の名で全てが分かった。何故、彼女がこんなにも苦しそうで消えてしまいそうなのかを____。

 右胸の辺りから絶え間なく、流れ続ける朱色の液体とそこにある弾痕の様な傷口が俺に事の始まりを告げた。


 「____ディセルッ・・・!」


 必死に名を呼ぶ。それは彼女の意識を繋ぎ止める行った行為にしか過ぎなかった。けれど、俺にはこうする事しかできなくて、どんなに高度な剣技や技術、魔法が使えても、【魔眼を持った少女には治癒魔法は効かない】。


 「____すぐに・・・すぐに助けを____」


 最善策だと思われることはすべてやる。それでもだめなら、新たな最善策を探す。それが今の俺に出来る、限られた行動の一つなのだから。


 「・・・・・・・・・私は・・・もう・・・・・・・・・・・・」

 「____なんで・・・なんでそんなことを・・・・・・言えるんだよ!」

 「____」


 少しの沈黙の後にディセルは再び口を開く。


 ____キットを守れたから。


 頭を銃弾で撃たれような錯覚が俺を襲う。それは自分ではなく他人の為に命を投げ出すという事の意味とそれにともなう気持ちが押し寄せてくるようだった。


 「____俺は・・・俺は君をディセルを・・・・・・守れなかった。だから、俺は____」


 ____俺はどうすれば良いのかな・・・どうするのかな・・・・・・。


 「・・・今度・・は・・・・・・あんたが・・あの子を・・・・守って・・・上げて・・・・・・誓ったんでしょ?」

 「何を、何を言ってるんだっ!これから先も俺達は一緒に____共に戦って行くんだろ!?」

 「・・・・・・こんな私を見て、助かると・・・思う・・の・・・?」

 「嘘だよな・・・嘘・・・だろ?・・・・・・嘘だっと言ってくれっ!」


 治癒魔法は効かない。仮にディセルが自身に魔法をかけたとしてもその際に消費される魔力源(マナ)()そのもので致命傷以上の傷を負った、ディセルがそれを行使するのは自殺行為に近かった。その事が意味するのは【助からない・助けられない】といった願いに否定的で絶対的な二つの単語だった。


 ____何も考えられない。考えたくない。考えるのをやめたい。


 「これ、貰ってくれない?私の銃____ 《バタフライ・エフェクト》っていうの____」


 赤い液体に浸っていた銃を震える手で取ると、ディセルは俺にそれを差し出した。狙撃手に取って銃は自分の分身そのものと言っても可笑おかしくはなく、そんな大切なモノを俺に渡すという事は彼女が狙撃手を・・・・・・。いや、根底はそこではないのかもしれない。

 

 「馬鹿野郎・・・!俺に・・・俺にこんな形でお前から銃を取り上げさせるなよ____っ!」


 ディセルの愛銃に名付けられた、《バタフライ・エフェクト》という言葉の意味を俺は知っている。一匹のチョウの羽ばたきが竜巻を起こすというモノだ。俺はその名を聞いた時、それが真実であると思い知らされた。竜巻という名の《人生の分岐》を____。

 俺がセレクトリアに来る以前のレイスとディセルの話がそれを物語っていたからだ。《呪いの体現者の少女》に放った一発の弾丸が二人の少女の間に亀裂を作り、それを境に《黒竜討伐戦》が始まり、多くの剣士や騎士たちが戦場に散った。そして、唯一の生き残りとされる、《純白の剣姫(リリィ・ソードダンス)》の団長_セリカが今の組織を作ったことをきっかけに、レイスはディセルと再び再開した。それがレイスの心の傷をいやし、彼女に転機をもたらす。それは俺とレイスが巡り合ったことだ。


 そして、その銃から放たれた弾丸の余波は微弱ではあったが続いていた。


 だから、今、俺の心に抑えきれない程の風が吹いているのだと____。


 「ねぇ・・・キット・・・・・・最期に・・・一つ頼みが・・あるんだけど・・・・・・」


 優しく微笑む様に言葉をかけてくる黒い蝶に俺は意識を失いかけていた意識を取り戻す。


 「・・・・・・・な、なんだ・・・?」

 「私・・・の・・魔眼を貰ってくれない?」

 「それは・・・・・・・それは、ディセルのモノだろ・・・?それが無くなったら、任務に支障が・・・」


 何もかもを手放す様にディセルは俺に魔眼の後継を願う。泣くこともせず、辛い表情を悟らせない様にするその様子を見ていると俺は何も言えなくなり黙り込んでしまう、俺を見たディセルは促す様に言葉を続けた。


 「生きてる間じゃないと・・・後継は出来ないから・・・・・・おね・・・が・・い」


 本当は繋ぎ止めたくて、助けたくて、救いたくて。俺の気持ちはそんな綺麗ごとばかりを延々と述べていた。それが彼女の為ではなく、自分の為だと分かっていた。・・・分かっていて俺は・・・・・・わがままをつらぬこうとしてしまう。けれど、それを止める様に理性がおおいかぶさり、思考を止める。


 「____わかった」


 ディセルの言葉を聞くとそれを承諾するしかなかった。笑みと涙を同時に起こした俺の顔は彼女にはどう映っていたのだろう。それは、とてもおかしなものだったのだろうか、それともあまり見えてはいなかったのだろうか。俺は後者の方が良かったな・・・・・・。などと、思ってしまう。


 俺は自分の気持ちを殺し、彼女の気持ちを生かした。


_____________________________________



 彼女と(まじ)わる。


 それは決して真っ当なモノではなかったけれど____それでもこれがきっと正解なのだろう。


 初めての経験、最初で最後の意思疎通。


 見つめた先には辛そうな表情と苦し気な声を発する、少女が映る。


 瞳は透き通るように綺麗で水面みなもの様に揺らめく。


 その顔を見ていると俺はこの行為を止めようと心が思ってしまう。


 けれど、もしそれをやめてしまったら____と。


 頬を伝う涙が彼女の顔に落ちる。俺はいつの間にか泣いていた。感情というモノに嘘は付けなかった。暖かく、熱を帯びた光の粒は止めどなく目尻から溢れ出し、今も継続して視界をにじませ続ける。


 本当はこういう時はどうすれば良いのだろうか____。


 相手の事を気遣い、ペースを合わせることが本当なのだろうか____。


 それとも、今の様に一方的な継続こそが妥当なのだろうか____。


 分からない____分かりたい____理解したい____答えを知りたい。


 ________だって、これがディーセルシ=ラニという一人の少女の最初で最後の存在証明なのだから。


 力が抜けた体からは、あえぐ声も抵抗する素振りも見受けられなかった。苦しそうにしているのを見るのは辛かったから、俺にとって彼女のそれは少しばかりの救いを意味していた。

 だけど、それが無性に寂しく儚く、そして残酷に思えた。


 「頼むよ・・・頼むから・・・・・・俺に君の存在を覚えさせておいてくれよ・・・。その手で俺に深い爪痕を____ディセルという少女の意味(存在)を残して________」


 肩に置かれたディセルの手は銃を握る程の力も残っていないのではないかと思う程、不安定で次第に熱が無くなってゆき、その感覚に俺は自然と涙腺が崩壊してゆくのを感じた。


 「・・・・・・うっ・・・」


 聞こえてくるのは弱々しくも美しい少女の声。これが最後かもしれないと悟ってしまった俺は今、この瞬間(時間)を永遠と思える様に生きようと心に刻む。


 「____これが、魔眼____」


 徐々に薄れてゆく、彼女の赤い瞳の色は本来の色へと姿を変えてゆき、いつしかそこには右目と同じ、あわい緑色が姿を現していた。それは同時に《魔眼の引継ぎ》が終わったことを意味していた。


 「・・・・・・似合ってるよ・・・キット・・・・・・」


 ディセルの瞳には赤と青の魔眼(オッド・アイ)を宿した剣士が映っているのだろう。


 「____これでいいかい?」

 「うん・・・・・・。ねぇ、キット、最期にあんたの本当の名をもう一度聞かせてくれない・・・?」

 「____あぁ、いいよ。俺の名は____【ナトリ・カイト】だよ」

 「・・・そっか、カイト・・・・か・・・・・・」

 「____他には何か・・・何か・・・無いのかっ____!?・・・死ぬなよ・・・死ぬなよ・・・・・・ディセルッ!・・・・・・・ディセル________」


 言葉が続かなかった。何を言っても無意味な気がして・・・何をしても無駄な気がして・・・・・・。そんな俺は自分自身を呪わざるにはいられなかった。

 皮肉なことに今、俺の目の前にいる少女は両眼が緑色をしていた。それは彼女が俺に依頼してきた、イラストの少女そのものだった。あの日、ディセルの瞳を近くで見た時、俺は右目の緑に意識を集中させそれを左眼にも反映させようとした。けれど、今俺の目の前の少女は彼女が・・・・ディセルが望んでいた本来の姿をしていた。


 「____こんな形で・・・・・・・俺はまだ、君を・・・ディセルを描き終えていないんだっ!だから・・・だから、せめて・・・・・・最後までえがかせてくれよ______」


 悲痛な叫びは届かなくてもいい、それでも俺は声の届く限り、思いを告げ続ける。上へ上へと向けられた意識を俺は無理やりにでも繋ぎ止めさせる。それは誰の為でもなく、俺の為でもなかった。それはこれ以上、悲しみを生ませないための最終防衛であるように____。


_____________________________________



 ______偽善、偽り、虚偽きょぎ



  _____全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部 全部、全部 全部


       全部、全部 全部 全部、全部 全部


       全部 全部 全部ッ_____________!



 「分かっていたことじゃないかっ________!!俺は・・・俺がどんなに目の前の大切を救おうとしても、いつも最後は_____っ!」


 誰へと向けられたか分からない怒りをあらわにする。この理不尽なことの完結に____。感情に振り回され、感情に救われたこともあった。暖かな眼差しと、優しい感覚に心に光を灯したこともあった。それでも、俺はどこかに別れを感じづにはいられなかった。たくさんの会話と数えきれないほどの喜怒哀楽をくれた少女に俺は何を返せたと言うのだろうか?

 いつかの約束もしないまま____出来ないまま、終わってしまうのか・・・。


 「そんなの・・・そんなの・・・・・・・絶対に許さない、認めない____』


 黒く歪んだ感情があざとく、黒光りを放ち始める。


 「俺はディセルを死なせはしない、逝かせはしない。俺は一度受けた依頼は最後までやり通す。例え、それが居なくなった依頼主からのモノでもだ____』


 両手に抱いた、少女はそんな俺を見ていたのか、ゆっくりと言葉を発した。 


 「____うん、ありがとう。____カイト・・・・・・君」


 頬に涙を伝わせた少女はそんな俺でも許してくれと言わんばかりに、小さくうなずき、名を呼んだ。


 「____ディセル・・・せめて、安らかに____」


 噛みしめていた唇を開け、俺は押し殺していた、禁忌の言葉を口にする。一度、口に出してしまった発言は偽りにはならなかった。それを肯定し否定する様にディセルは声を返した。


 「馬鹿・・・ね?私は、これまでにたくさんの命を奪ってきたのよ?・・・・・・だから、私がこれから逝くのは天国じゃなくて地獄・・・よ?」


 最後はいつもの様に冗談交じりの返答だった。でも、今だけはそんな彼女の言葉だけでどうにかなってしまいそうな自分が居た。そんな俺に出来ることと言えば、彼女と同じように冗談を口にする事だけだった。しかし、今の俺にはこれからの発言が酷く、本当のように思えてしまう。


 「____そうか。ならさ、俺がここで生きている間に、たくさん殺してそっちに送ってやる。そしたらさ・・・あいつもさ・・・神もさ、死者を裁くのには時間がかかるはずさ。だからさ、神がお前を裁く前にそっちに逝って俺が必ず____必ず・・・連れ戻してやるからさ・・・・・・!!だから・・・だから、それまでは待っててくれ________」

 「うん・・・うん・・・・・・・。ありがとう____でも、もうそんな事必要ないわ。・・・・・・だって、私はいつでもあんたの瞳に宿っているんだから________だから、これからはあんたの・・・カイト君の世界(景色)を一緒に見させてね________」

 「________」


 最後にディセルは俺の本当の名を口にし、ゆっくりと瞳を閉じた。彼女が俺へ、君付けを使うようになったのはつい先日の話で初めは慣れない言葉に見せていた。ディセルという少女が人を呼ぶときは、基本的に「あんた」や「キット」といった呼び方が基本的だった。だから、今回の設定も彼女にとっては不慣れなことだったに違いなかった。それでも、最期に少女は俺の名を口にした時も《君》付けで呼んできた。それは最後まで思い人との間柄を演じきったのだろうか?それとも、これが彼女の本当の気持ちだったのか____。それは今となっては確認することはできなかった。

 けれど、最期に見せた彼女の表情は切なく、そして儚くあったものの、その穏やかな笑顔だけは、決して演技だったとは思えなかった。



 _____なぁ、ディセル?聞いてるか・・・・本当はこんな事、言ったら君に銃で頭を撃ち抜かれてしまうかもしれないかもしれないけどさ・・・・・・俺はここに来て、ディセルと初めて会った時からすぐに君をイラストの参考にしようと思ったんだ。


 _____それから、数日も経たない内に俺とディセルは剣と銃を交えたよな。あの時は正直、俺が負けると思ってたんだ。だけど、俺が勝ってしまった____。


 _____俺の事を《転移者(エミュレーター)》と看破かんぱしたのも君で俺はディセルの存在に少しだけ、警戒してんだ。だけど、それも俺の間違いだったみたいだけど。


 _____雪山にデートに行った事もあったよな。ディセルは乗り気じゃなかったみたいだけど・・・・・・。それでも付き合ってくれたよな。


 _____それに今日も俺を助けてくれた。



 _____【いつもはツンとしていて、会話の言葉にも気を付けないといけない君だけど。時折見せる、その赤く染めた頬からつむがれる言葉と素振りは普通の少女と変わらなかったよ】



_____________________________________

 その日、《純白の剣姫(リリィ・ソードダンス)》_単独任務特化分室所属 狙撃主_ディーセルシ=ラニは1人の剣士の腕の中で静かに舞い散った。

_____________________________________



 黒く美しいアゲハチョウと添えられた銃は虹色の色彩に彩られた空間の中でその身を静かに安らかに____。


 そして、一人の剣士はいなくなってしまった依頼主を前に誰に語られることのない、誓いを立てた。



 「俺はこれから、かつての自分(ナトリ・カイト)を捨てる、一人の人間(キット)として復活する(生きる)。そして_____」



 例え、イラストの依頼主が消えたとしても契約は破棄されない。だから、俺はそんな最期(ディセル)の為にも描き続ける。だから、これから俺は____





 ________【《最後の描き手(ラスト・レーター)》として筆を持ち続け、キットとして復活する】。


 ________Last Rotor - Resurrected as Kit -


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