episode 38
時間はまだ朝を迎えるには暗いほどの時を刻んでいた。しんしんと降り続ける雪は静かに、そして無数に空から舞い降りていた。触れた壁の冷たさが張りつめた心を凍らせる。
「ここだよ」
俺はレイスに見せたいものがあると言われ自室を後にし、彼女について行った。二階から一階へ降りて、いつもの食卓を横に過ぎ、しばらく歩くと、いつしか突き当りの部屋まで来ていた。扉は俺の部屋やその他の部屋と何ら変わりは無く、特別な感じは一切しなかった。
ギィッと軋む音を立てながら開かれた扉の奥から部屋が少しずつ視界に入る。灯りが点いていないため、中の状況を正確に確認するこてとはできなかったが、それでも他の部屋とは違って、掃除や手入れの一切が行き届いておらず、何かに触れた指先は埃によって灰色に覆われていた。
「ここは?」
「物置部屋って言った方が良いのかな?と言っても、私もあまり使わないし、最後に入ったのだって二ヶ月ぐらい前だったかな」
「・・・二ヶ月・・・・・・確かにこれだけ大きな家なら使わない部屋があってもおかしくないか」
「・・・まぁ、そうだね」
俺とレイスは苦笑いを浮かべてそう言った。
「それでレイスが見せたいものって何なんだ?」
「ちょっと待ってね」
「うん」
レイスは入ってきた扉の方へ歩みを寄せると、部屋の灯りを付けた。
「うん____?」
鮮明になった視界に映ったのは何も物が置かれていない殺風景な部屋の一室だった。どれだけ見渡しても、机や椅子といった家具の類は一向に見つからず俺はここが本当に物置部屋なのかと疑い始めていた。それに、レイスはこの部屋を二か月前に使ったと言ってはいたがこんな何もない部屋で一体何をしたんだという疑問も同時に生じさせていた。仮にレイスがその際に部屋の片づけをしたと言うのなら話は別だが。
「ここに見せたいものがあるのか?」
「間違ってはないんだけど、少し違うかな?私が見せたいものは下にあるんだ____」
「下?」
「____そう。この部屋には地下室があるんだ。だから、見せたいものはその地下室に」
ここでようやく俺は何故レイスがこんなにも、俺に謝ってきたのかを思い出した。そして、それと同時に彼女が俺と出会う経緯を再度、記憶の宝物庫から呼び起こした。
「それじゃあ、ここにレイスが俺の世界に転移するきっかけを作った魔法陣が____」
「うん。____そうだよ。ここが私とキットの出会いを運命づけた場所だよ」
点が線で繋がった。
そして、異世界と現実世界が、繋がろうとしている。
何もない部屋の床に不自然な正方形の線があった。その正方形には取っ手が付いており、手前に引くと蓋をしていた板が開閉し階段が姿を現した。。
「こんなところに俺の世界への糸口が____」
「でも、私はあの時ちゃんと話したはずだよ?」
「・・・この二ヶ月は忙しくてその話を思い出すこと自体、出来なかったんだ・・・・・・・」
「そうだよね・・・キットは本当にこっちで頑張ってたんだもね」
____だから、だから、尚更、俺はレイスの顔を見れなかった。
「随分暗いけど、前はどうやって進んだんだ?」
「あの時はランプを持って進んだよ」
そう言ってレイスはいつの間にか持っていたランプに灯りを付けた。俺はそれを受け取ると先導する形で先へと進みだした。階段の段数は想像より遥かに多く、先が見えないこの暗闇では半ば無限ループの様にも感じていた。だが、そんなことを考え出して、少し歩いていると気づかぬうちに最下層に着いてしまっていた。
「開けるぞ?」
「うん」
俺の部屋とさほど変わらない扉に手を掛ける。多少の抵抗はあったものの比較的、簡単に開いたそれはギシギシと床を擦らせながら開閉した。
「____ここは」
眼前には案の定暗闇が広がってはいたが、それでもどこか親近感のある雰囲気が漂っていた。一歩を踏み出し、室内に体を入れる。後ろをついて来ていたレイスもどことなく緊張しているようだった。
「ランプがあっても室内は暗いな」
「私も前ここに来た時、同じ経験をしたよ。あっ____!」
「どうした、レイス!」
突然声を上げたレイスに俺は何か危険が迫ったと思い瞬時に視線を向け直す。
「えっと・・・中には紐が張り巡らされてるから気をつけてって言おうとしたんだけど・・・」
「・・・わかった。次から気をつけるよ」
レイスが俺に注意喚起をしたと同時に俺は足を滑らせ、そのまま紐に足を引っかけてしまったっていた____。ピンッと張ったそれは罠なのではないかともう程、この暗闇に染まる黒い色をしていた。
「なんでこんなところにこんな物が・・・え____?」
絡みついたそれを俺は引き離そうと手を伸ばす。そして、指先に感じた感触に俺は震撼する。繊維の類とは到底思えない、ツルツルとした肌触りにランプの灯りに黒光りを放つそれは____
____【紛れもない、電子ケーブルだった】




