episode 31
大聖堂_《黒魔術信仰》捜査 3日目
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《秘匿剣士》_キット=レイター
・通常通り聖堂に向かい、教祖の監視及び聖堂内の監視の継続
・教祖は《心読》の異能持ちの為、過度な思考の行使は避ける
・非常事態に備え、小型の短剣を所持
《異界の狙撃手》_ディーセルシ=ラニ
・《魔眼》の使用可能範囲内での遠距離からの聖堂内監視
・長距離特化型狙撃銃を携帯し非常時での援護
・その他、聖堂近辺への警戒
《今は無き最高位》_所属の騎士
・上記二人の行動補佐と組織内での情報提供及び統合
《???》
・キットの計画の中に忍び込ませた異分子的存在の行動
・それに伴う、信者たちの行動変化を狙う
※備考
キットとディセルはお互いの状況把握の為、左耳に連絡手段の為の秘具を着けている。この秘具は他の外的要因の影響を一切受けない。名称は《鳥の囁き》と言われており、はめ込まれた水色の輝石結晶に魔力を宿した物でその希少さはダイヤやルビーといった高値が付きそうな物の数倍とされている。今回は組織からの提供という事もあり、俺達に課されたのはそれを破損させないという緊張感だけだった。
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「今日の行動はこんな感じにしてみたけど何か質問とかあるか?」
俺は一通りの計画内容をディセルに話すと、視線を少女に向けそう聞いた。
「特に気になることは無いけど。強いて言えばこの《???》って何?・・・後、この肩書ぐらいかな____」
「えっとこれはまだ言えないんだ・・・それを言ってしまうと、俺の計算に響くからね」
俺はディセルの質問にぎこちなく答えた。最後にボソッと呟かれた彼女の肩書については俺が雰囲気で言ったもので別段重要な意味は無い・・・。
「・・・なるほど。要はこれがかなり重要ってことね?」
「そうなる」
(ディセルも察してくれたのかな・・・?
「わかったわ。じゃあ、深くは聞かない」
「ありがとう。でも、一つだけ頼みがあるんだ」
「何?」
「もし、ディセルの視界から見える位置に灰色のローブを被った者が映っても、それを警戒対象に入れないでほしいんだ。それと、姿が見えたことも言わないでほしい」
「・・・どういうこと?もしかして、《???》ってそのローブの事を指してるの?」
「・・・・・・」
「まぁ、いいわ。私は私の役目に専念するからあんたも、自分の事に集中しなさい」
察してくれたのだろう。ディセルは自身の役目を再確認した後、俺に軽く右手を上げ、見晴らしの良い城へと走り去った。それを合図と言わんばかりに俺も気持ちを切り替え、聖堂へと歩みを始める。胸元のポケットに忍び込ませた鋭利は俺の脈をほんの少し、早めた。何故なら、俺がこうして殺傷能力を秘めた物を隠して携帯したことが無いからだ。かといって、刃物を携帯すること自体にはそこまでの拒絶感は不思議となかった。それは俺のいた世界のRPGゲームやこの世界に来てからの生活がそうさせたのは言うまでもないだろう。仮にゲームを例に挙げると、勇者が魔王を倒すという、定番と言えるモノがるだろう。その勇者は当たり前の様に剣で魔物を斬り裂き、時には盗賊_いわゆる《人》でさえも障壁になるのなら斬ったであろう。それなのに何故か、この手のゲームはそこまで高い《R指定》_年齢制限を設けてはいなかった。これは単に人々の認識の違いに答えがるのではないかと思ってしまう。例えば、勇者は悪を討つ、《英雄》として幅広く知られ、魔王は確固たる《悪》という覆すことのできない設定を押し付けられている。そう言った、鼻から決められた悪を討つからこそ勇者はその在り方を構築してきたのだと思う。そして、そのことがもたらした、悪は正義に倒されるのが当然だという集団的意識が悪やそれに近い者を斬る事への抵抗を薄めさせたのだと俺は思う。
そして、もう一つはこの世界での存在意味だ。
セレクトリアは日本とは違い、魔物や魔獣といった人の生命を奪う脅威が存在している。丸腰で草原に出ようものなら問答無用でその身を食い千切られるだろう。だからこそ、ここでの生活には自身の身を守るために剣や弓、ナイフといった対脅威武器の携帯が当たり前とされており、セレクトリアの人々はそのことについて何の疑問も示してはいなかった。最初は俺も、魔物を斬ることに抵抗があった。剣先を伝う初色の液体に飛び散る赤。その生温かな感触に幾度となく吐き気がしたことを俺は覚えている。それでも、俺がそのことに抵抗が無くなったのは、レイスとの一件があったからなのかもしれない。それは、初めて剣の練習の為に森に訪れた時だ。突如として、現れた巨大な翼を持った黒竜。それは俺ではなくレイスを襲おうとしていた。そんな時、俺は剣を取り地を蹴った。ただ、目の前の大切な存在を助ける為に____。
黒竜の眼球に勢いよく刺した剣からは大量の血しぶきが俺に降り注いだ。しかし、そんなことはどうでも良かった。だって、レイスを守る事が最優先だったのだから。
その時からだった、俺は血への抵抗が消えた。
___《消え去った》の方が適切だろう。
そんなことを考えながら俺は聖堂への道を歩き続けていた。
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《今は無き最高位》の組織内____
襟元の白十字が特徴的な青いコートに身を包んだ騎士たちが各自集まって話し合いをしていた。
『何ですかその薄汚いローブは?』
一人の騎士が隣に居た、金髪の騎士_クレイに声をかける。
「薄汚いは余計だろ?マルス」
『だって本当の事でしょ?そんな物を着ていると街の人間に知られたら、組織の品格が下がりますよ?』
「何も、そこまで言うことないじゃないか!それに、これは任務の一環でしていることなんだし、お前が口出しすることもないだろ?」
『確かにそうかもしれないね・・・でも、それは団長に命令されての事なのか?』
「・・・違うけど・・・・・・それが何だよ」
『いや、君が団長以外の命令を聞くような人間には思えなかったから?というか、たかが人間の意見を受け入れるようには思えなくて』
マルスは意味深な発言と共に言葉を続け、そう言った。
「なぁ、マルス?」
流石のクレイもその発言意は思うところがあったらしく、半ば呆れ気味に言葉を発した。
『何です?』
「その《人間》っていう言い方どうにかならないのか?聞いててあまりいい響きじゃないし、第一に差別的に聞こえるぞそれ?」
『・・・はぁ、そうですか・・・・・・。これは癖と言いますか、なんと言えば良いのでしょうか・・・』
クレイの指摘にマルスは頭を悩ませていた。それは、『何で自分が直さなければいけないのか?』と指摘されたことについて不満を表しているようだった。
「それにマルス、君は仮にも時期副団長候補だろ?だったら、もっと品格を整えないと」
『そうですね・・・これからは出来るだけ気を付けますよ』
「出来るだけって・・・・・・本当に直す気あるのか・・・」
クレイはマルスのその能天気な態度と言葉に頭を悩ませ、右手を顔に付けやれやれという仕草を取った。
『それとクレイ、君も同じようなモノじゃないですか?』
「何が?」
『君の体には特殊な血が流れてるって言ってたじゃないか?それが本当なら、君は人間じゃないと言っても過言ではないんじゃないのかな?だとしたら、クレイ、君こそ街の人間を《人間》と呼ぶのに相応しい思うけどね』
不敵な笑みを浮かべマルスはクレイに言葉を投げかける。それは相手の傷口を抉るかのような発言だった。クレイはマルスに言われたことに対して何も言い返すことが出来ず、その場に立ち尽くしていた。そんな、クレイの姿を見たマルスはさらに言葉を続けようと口を開いたがそれは相手側の発言により中断を余儀なくされた。
「確かに俺の体には竜の血が流れているかもしれない・・・けど、それはもう古い祖先の話だ。今はその真意を確かめることは出来ないけど、祖先は凄い人だって聞いてる、だから、そんな祖先の血を侮辱することは許さないよ」
『なるほど。クレイ、君の祖先は興味深いね。だけど、そんな噂の様な情報でよくもまあ、そこまで誇れるものだね?____腰に付けた、その《黄金の剣》が関係しているとすれば話は別だけどね』
「もういい。この話はこれで終わりだ。俺はこれから用がるからもう行くよ」
『あ、そうだ。ちなみにそのローブを使う事を考えたのは誰なのかな?』
横を通り過ぎて行く、クレイを呼び止める様に声をかけたマルス。
「《純白の剣姫》のキット=レイターっていう剣士だけど。それがどかしたのか?」
『あぁ、なるほど、あの人ですか。立場的には俺達の駒の____』
「____マルスッ!いい加減にしないか」
『____今は謝っておきます。それじゃあ、クレイ』
マルスはクレイの怒声をもろともせず、軽やかにその場をやり過ごした。そうして、クレイが視界からいなくなったことを確認すると、独り言のように呟いた。
____知っていますとも、だってあの方は、わたっ・・・俺の答えなんですから。




