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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
Bullet&Butterfly in to the Rainbow.
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episode 28

 いつもと変わらぬ日常に差し込む朝陽。毛布の温かみが薄れる頃に俺は目覚めた。

 三日目の朝は普段通り訪れ、営みの始まりを告げていた。軽く伸びをした後、俺はなまっていた両手を開閉し、いつもの調子に整える。そして、ベッドから起き上がると、任務用の普段着に身を包み部屋を後にする。最近は捜査の関係上であまりイラストを描くことが出来ていないのだが、それでも俺には描きたいものがたくさんあって、今のこの瞬間にだって、何かの案を探していたりする。A4サイズにつづる想いはいつも、俺の感情次第で時にはモノクロで書き上げたり、落書きの様な段階で完成と断言してしまうこともある。それはそれで楽しいこともあるのだが、何より大事なのは創作意欲を失わないことだ。もしも、俺がそれを失ってしまえば、きっとそれこそが俺の終わり()だろう。


 「ちょっと朝から暗いことを考えすぎかな?今日はいつもより早く起きたわけだし、レイスと話でもしてみるか」


 階段を降りると、俺はいつもの様に食卓へと歩みを進めることにした。階段の手すりを伝う、感触が今日はやけに乾いて感じられて、それだけで俺は何かと不思議な気分にさせられてしまう。数歩、また数歩と歩数を重ねるごとに時折、木の軋む音が耳に伝わる。それはこの家が大方、木造で出来ているせいなのだが、そういった普段は気にならないことでさえも今日は敏感びんかんに感じてしまっていた。


 「おはよう レイス」


 俺は食卓の椅子に腰かけているレイスに声をかけた。


 「あ、おはよう キット」


 いつもと変わらないやり取りだ。


 「レイスも今日は早いんだな。何かしてたのか?」

 「ううん、特に何もしてないよ。昨日はあまり眠れなくてね・・・それで、そのままって感じかな?」

 「そうか。でも、あまり無理はしない様に。任務も大事だけど、一番は体だから」

 「うん、ありがとう。でも、キットが思ってるほど、私の体は弱くないよ?現にキットよりは強いはずだもん」

 「そ、そうか・・・それは、何よりだ・・・」


 強いというのが剣技の事を指すのだとしたら、それは間違いなのではないかと思ってしまった。俺も剣には

覚えはあったし、戦闘経験では負けていたとしても、それを補うように幾度となく死闘はしてきたからだ。仮に強さが目に見える部分ではなく、精神的なことを指しているのだとすればそれはもう、俺の完敗だ。そうなれば、俺はレイスどころかディセルにすら負けてしまうだろう。


 「そう言えばキットの方はどうなの?」

 「何が?」

 「任務は上手くいってるの?」

 「それなら、心配いらないよ。俺もディセルも割としっかり任務をこなしてるから」

 「そうなんだ。それは良かった。最初、ディセルと一緒って聞いた時、大丈夫かなって思ってたんだよ?」

 「心配してくれてたのか・・・でも、今はしっかり俺の恋人でいてくれてるから大人しいよ」


 失言だった。話の流れで遂、誤解を招く様な言い回しをしてしまった。《恋人》などと普段は滅多に使わない単語を俺は一瞬の乱れも見せず、発していた。


 「恋人・・・・・・ねぇ、キット?」

 「・・・うん」

 「その恋人はあくまで()()だよね・・・・・・?もしかして、本当に____」


 久々の暗黒微笑を俺に向け、「実際はどうなの?」と聞いてきそうな顔を向けてきたレイスに俺は戦慄を覚えた。これが副団長様の圧というやつなのかと考えてしまう自分がいた。


 「ちがっ、違うって確かに傍からみたらそう思われても仕方がないかもしれないけど、ディセルのそれは紛れもなく完璧な演技だからっ・・・!」

 「ふーん、()()()()()ねぇ____どれほどなんだろう・・・?」

 「・・・手を繋いで街を歩くぐらいかな?」

 (あっ・・・これは言ったらまずかったかな・・・・・・)


 これはあくまでもディセルとの捜査との延長線上で起こった一種のアフターストーリーに過ぎず、設定云々の事柄が混ざって出来た状況ではなかった。故にこの話をレイスにするというのはある意味、危険であると言える。・・・と気づいたのは言葉を発した後だった。


 「手を繋いだんだ・・・ディセルと・・・・・・あの子、そこまで・・・」


 (あれ?そこは普通、さらに追及するとこじゃないのかな?)


 「それでその後は?」

 「え、あっ!えーと・・・・・・店とかを見て回ったり、今後の捜査についての話し合いをしたぐらいかな?」

 「そうなんだ。で、ディセルは途中でいつもみたいに銃を突きつけられたりはしなかったの?」

 「なんでそう思うんだ?」

 「キットの事だから、またどこかで余計な事とか率直な感想を言って、ディセルを赤面させたのかなって思ったから」


 ある意味それも無くも無かったのだが、今回ばかりは無いか違う様な気がしていた。それも、この大聖堂の捜査に二人で当たり始めた頃からだ。最初の頃は俺の無茶な設定にいつもの様に銃を突きつけて威嚇してきた彼女だったのだがここ数日間はそれも起こっておらず、逆に俺の方が調子を狂わされている程だ。恋人設定の影響なのか、ディセルは任務外でも俺への接し方を柔らかくし、いつもの様なディセルは姿を消しているように思えた。気のせいな部分も否めないのだが、それでは少し、合点がいかない点が一か所だけあった。

 それは昨日の事だ。俺は《君付けやちゃん付け》といった事の話をしていた時に不意にディセルに対して《ちゃん》を付けた。無論、彼女はいつもと同じで怒りを露にして俺を追いかけてきたのだが、その時だけ黒蝶はいつもと完全に違って見えた。


 ____地を蹴って俺を追う彼女の手には銃が持たれていなかったのだ。


 これは単なる忘れからくるものなのか、それとも街中だけあって品格を気にしたのか、そのどちらとも見解に俺は頭を悩ませてしまう。それでも、俺にはその二つの見解に疑問を覚えた。もしかしたら、その答えはもっと簡単なモノなのかもしれないと思ってしまう。あの時の少女は確かに俺の接し方に怒ってはいたがそれでも、その様子が愛くるしく、そして尊く見えてしまったのだ。


 ____もしかしたら、ディセルはその状況を楽しんでいたのではないかと。


 「まぁ、それはあったけどそこまで酷くは無かったぞ?」

 「やっぱり、あったんだ・・・ははは・・・・・・」

 「頼むからその苦笑いはやめてくれ・・・」

 「ごめんね キット」

 「別に謝らなくても____いいんだけど」

 「うん。そうだ、何か飲む?」

 「頼めるかな?えっと、前の紅茶とかってまだあるかな?」


 それは何気ない会話の成り行きだった。いつもの様に、それは慣れの様に____。けれど、そんな発言が人によっては酷く胸に刺さる時があるのだと痛感する。


 「・・・・・・えっと、それって、いつも朝に飲んでるやつを言ってるの?スレイシア家の」

 「そうだけど、何かあった?」


 俺はここ最近、レイスがれてくれる《スレイシア家》の紅茶にはまっていた。黄金色の液体に芳醇な味わい、一口目から体の疲れをさらう様なその飲み物に俺は日々の疲れを癒してもらっていたのだ。


 「ごめん。今日は切らしてるの・・・だから・・・」

 「あ、そうなのか。分かった。だったら、別の物で頼めるかな?」


 何かがおかしいと思ってしまう自分がいた。確かに物を切らすと言うのは誰にでも起こりうることなのだが、レイスに限ってそれはどうも信じがたかった。ましてや、あの紅茶はレイスのお気に入りであれなしでは一日が始まらないと豪語していた程だった。だからこそ、それを切らすと言うのは、()()()()()があったのではないかと俺なりに考察を進めてしまう。


 「ホットココアだよ。冬にはぴったりだよね!」


 そんなことを考えていると、レイスは俺にコップ一杯のココアを差し出した。室内の温度が低いこともあって、容器からは湯気がのうのうと立ち込めては霧を晴らす様に消えていく。冬場に温かい物を飲むのはいつぶりだろうか。俺は基本的には冷たくて舌触りの良い、緑茶ぐらいしか飲まない為、ここまで糖度のある、液体を飲むのは何故だか新鮮さを覚えた。


 「そうだな。冬は体も冷えるし、こういったのもいいかもな」

 「うん。冷めないうちにどうぞ」


 俺はココアの熱を肌に感じながら、口を付ける。ほのかに香る、カカオの甘いにおいとコクのある苦みが味覚を通して、すぐさま口全体に広がる。ほっと一息というのはこういうことを言うのだろうか。明確な疲労はあったものの、体に伝わる温かみがそれを緩和してくれている気がした。


 「レイスは飲まないのか?」

 「私はキットが来る前に飲んだから、大丈夫だよ」

 「そっか。____それにしても珍しいな」

 「え、何が?」

 「レイスの私服を見るの」

 「私の私服?普段は組織の仕事があるから、私服じゃないのは当たり前だけど・・・・・」

 「そうだけど。本当、久々だなって」


 (変なキット。私服ぐらいでそんなに珍しがるかな?)


 それから俺はレイスとの会話をした後、時間を見て捜査に向かう事にした。


 「俺はそろそろ時間だから行くよ」

 「行ってらっしゃい キット。無理はしないでね?」

 「あぁ。でも、出来る範囲での無理はするけどな」

 「・・・キット!」

 「うっ・・・分かった。分かったよ・・・・・・って!レイスはまだその服のままなのか?このままだと、遅刻とかになるんじゃないのか?」


 あろうことかレイスは俺の任務時間になっても、依然として私服のままだった。かという俺も、任務の都合上、剣士服は切れない立場なのでレイスがそう言った都合を持っていたのなら話は別だ。


 「____今日は休みを取ったの」

 「____そう、なんだ。体調でも悪いのか?」

 「うん、ちょっとね。熱っぽくて____」

 「なら、俺も家に居ようか?一人だと何かと大変だろ?」

 「ううん、大丈夫。そこまで酷くはないから。多分寝てたら治ると思うから。____それより、キット行かなくていいの?ディセルを待たせると後が怖いよ?」

 「そうだな・・・分かった。じゃあ、行ってくる。あまり無理はするなよ?」

 「うん。ありがとう」


 レイスが体調を崩したのを見たのはこれが初めてだ。かという俺もセレクトリアに来てから、大方、風邪の一つも引いてはいなかった。雪山に行こうがどれだけ多忙な任務に就こうがそれは起こらなかった。もしかしたら、アドレナリンというモノが俺に風邪の症状を今もなお、気づかせていないのではないかという意味の分からない仮説を打ち立たせてしまう。だとすれば、レイスはどうなのだろうか?俺が気づかないだけで、本当は無理をしてきたのではないのかと思ってしまう。副団長という立場なだけあって、言動と品格は常に正しくり続けなければいけない。そんな、日々の気の張りが限界に達し、遂に体調を崩したと考えられなくもない。

 俺は一番身近な人の体の事を気づかえなかった自分に嫌気がさしてしまう。それは外的要因の影響を受けた内側に関してもだ。同じような経験がある俺にはその事が手に取るように分かって。そう____


 ____レイスの体調不良は偽りだ。


 最初の一文を聞いた時に俺はすぐに理解した。それは内面的な部分の不調だと。今にも壊れてしまいそうな少女を見るだけで俺はそのことを見抜いてしまった。本当はそのことについて言及するべきなのは痛い程、分かってはいたがそれを聞かれる側の気持ちも痛い程、分かり過ぎてしまっていたのだ。だから、俺はレイスに対して、気丈な態度を取ったのだ。


 「____気をつけてね?」


 玄関まで見送り来た少女は弱々しい声でそう言った。心配そうに見つめるその瞳に映る俺はどんなだったのだろうか____。

 

 「レイスも今日は外出は控えた方が良いと思うぞ?」

 「わかった。じゃあ、今日はキットのいう事を聞くね」


 にこやかな笑みと天使の様な微笑みを向けながら、発せられた言葉はどことなく震えていた。それは微弱なオーラの様に普通は気づかないであろうモノだった。けれど、俺はどうもそう言った事柄には敏感らしい、だからこそ俺は____


 「なぁ、レイス 知ってるか? 《心と体は繋がってるんだ》____だから、制御が効かなくなる前に頼るんだぞ________」

 「え____それって____」


 言い残す形で残した言葉は少女の核心的な部分を突いていた。

 少女はすぐさま、その言葉の意味を訪ねてきたが俺はそんな彼女を直視することが出来ず、ただ前へ前へと歩みを進めていた。右手を胸に当て強く握るようにしたそれは、門の格子を出るまで離せずにいた。

 それは自身への怒りがさせたモノに過ぎず、そこに意味はいらなかった。

 ただ、一つ思うとすれば____


 ____何でこうも俺の傍に居てくれる人は悲しい顔をしているんだと。

 

 


  


 

 


 


 


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