episode 24
冷めた瞳で冷ややかな時間を生きる。
亀裂を入れた空間に歪な足音と不穏な気配が生じる。
指先が小刻みに震えている。これは今までの計画が全て思うように運ばれてきている故の緊張だろう。そして、俺はその計画にさらなる装飾を施す準備をする。ディセル、そして、クレイ、二人の支援は実によく働き始めている。だからこそ、俺はその積み重ねてきた、《心理のドミノ》を崩すわけにはいかなかった。
「おや?キット=レイター君にディーセルシ=ラニさんだね?今日はよく来てくれたね。歓迎するよ」
足音の正体は案の定、俺達の標的_教祖_ゼオル=ターニスだ。
その、優し気な表情の裏に隠した異形の面を壊すために俺達は派遣された。
「おはようございます。教祖様」
俺は純粋な好青年を装う事にした。
「おはようございます。ゼオル様。今日はとても良い天気ですね?」
ディセルはディセルなりに自身が思いつく、彼女像を生み出し、俺の挨拶に続く。・・・しかし、今、天気についてどうこう言うのは果たして正解なのだろうか?____と、考えたところで本当の関係ではないのでそこを突くのはと思い、思考を中断させた。
____だって、ディセルは今もこうして俺の為に頑張ってくれているんだから。
「はっはっ、二人とも本当にお似合いだね」
定型文の言葉が返ってくる。
「は、はいっ?何がですか?」
俺も同じく心の固定メッセージを返す。
「すまないね。私はそう言った事柄には疎いものでね。つい、その場しのぎの言葉を使ってしまったよ・・・・・・」
これは挑発なのか、それともゼオルという人間、つまり、教祖でない時の本当の姿のだろうか?
「ゼオル様、いくら、そう思っていても口出すのはどうかと思います!」
(可愛い・・・)
俺は心読という異能を持ち合わせているかもしれない相手の前で素直な気持ちを出してしまった。なんだ?何なんだ?この、ディセルの変わりようは?もしかしたら、昔、演劇でもしていたのだろうか?とありもしない過去を考え始めてしまう。
「ディ、ディセル!いくら何でも教祖様にそんな口の利き方は・・・良くないと・・・・・・」
「え?あ、ごめんなさい!」
もうここまで来たら、彼女は俺の恋人役に完全になり切っているとしか思えなかった。何気ない仕草から息遣い、そして、咄嗟の判断力と言動。そのどれを取っても、まるでどこにでもいるイチャイチャなカップルのそれにしか見えなかった。
「別にいいんだよ。私もあまり、教祖様と神格化されたり、雲の上の人などと呼ばれるのは息苦しくてね。だから、君たちの様な若いお方がここの風を変えてくれたらと思っているんだ」
「なるほど。ですが、俺達にそんなことが出来るのですか?」
不意に問う。
「出来る出来ないにしろ、君たちがここを選んでくれたことに意味がるんじゃないのかな?少なくとも、教祖がそう言っているんだ間違いはないと思うがね?」
「はぁ、そうですか」
ゼオルの言っていることの意味が分からなかった。もし、それが新たな入信希望者の増幅を比喩しているのなら話は簡単なのだが、何せ相手はあの《黒魔術》を背景にしているかもしれない者だ。だから、俺はゼオルの何気ない言動、一つ一つに疑問と思惑を生じさせざるにはいられなかった。
「おっと、私の為に時間を割かせてしまって悪かったね。では、私はここで失礼させてもらうよ」
「え、俺達はこれからどうすれば____?」
「なに、簡単なことだよ。自分たちがしたいことをしなさい。神に祈るもよし、物思いにふけるもよし、その他にもいろいろとあるが、私は個人の思想には決して干渉しないたちなんだよ」
「それならゼオル様は普段何をなさっているのですか?それに、これから何をされるおつもりなのですが?」
ディセルは話の流れにそぐわない形で言葉を切り出す。確かにこの会話からのこの文面は何も怪しいこともないし、無理やりの誘導尋問にも思われない。それに、何か俺達に知られたくないことを行っているとしても、その証拠を何一つ持っていない、俺やディセルに何も言わないのはかえって不信感を生みかねない。だからこそ、ここでの彼女の質問は《当たり障りのない確実的な会心攻撃》に匹敵した。
「私かい?」
だが、この少女の問いが俺達と大聖堂への明確な断絶を作り出したことは言うまでも無かった。
「はい!ゼオル様は何をなされるのかなって・・・?もしかして、聞いちゃいけませんでしたか?・・・・・・プライベートな事だったら、ごめんなさい・・・」
しょんぼりとした顔と声。喜怒哀楽を自由自在に扱う少女は最早、ここを彼女の独壇場にしていた。仲間である俺すら、もしかしたら、欺かれているのではないかと思わされてしまう程に____。
後は相手方の質問を待つだけだ。




