episode 21
キットとディセルが大聖堂《黒魔術信仰》の捜査に当たって二日目。別の任務で行動を離れていたレイスはセリカに呼ばれていた。
《純白の剣姫》 団長室________
「レイス、それでそちらの調査の方はどんな感じだ?」
「はい、比較的落ち着いているかと」
「落ち着いている?」
どういうことだという表情でセリカはレイスに問い返す。
「目に見えて、大きな動きはしていませんし、何よりあの者達は上からの命令で動くだけの駒に過ぎませんので緊急事態に対しての対応などは行き届いてないと思います」
「なるほど。確かにそれは最もな考えだな。しかし、厄介だな・・・」
「厄介・・・?何がですか?」
「真の敵が一向に姿を見せないというのはそれだけ、私たちも動き辛いというわけだ。実はもう、あちら側の黒幕を視界に映していたとして、私自身はそれに気づていない。しかし、向こうの方は気づいていたとしたら____」
これはセリカという一剣士の考えには過ぎなかったがそれでも、その考えを蔑ろに出来なかった。確かにその線で物事を考えるのなら、相手側のこれまでの動き、そして目立った行動の少なさにも一つの合点がいく。例えば、試験の問題を先に知っている状態で試験に赴き、いかにもな仕草で分からないふりをするといった、【有利故の擬似的な不利】を演出できるのかもしれない。
「もてあそばれてるってことですよね・・・・・・?」
「癪に障るがそう言わざるを得ないのかもしれないな」
「そう・・・ですか・・・・・・」
「これはあくまでも推測に過ぎない。あまり気を落とすなよ、レイス。私たちの戦いはまだ始まったばかりなんだから」
「そうですね、分かりました」
「それでは任務に戻ってくれ、良い結果を期待しているよ」
「はい」
レイスは任務の続きに向かうべく扉に手を掛けた。その様子をセリカは何かを思うように見つめ、やがて姿が見えなくなったことを確認し口を開いた。
「____レイスにこの調査をやらせるのは間違いだったかな。かつて《ロイ家》と対をなす形でその権力を強め、時には犯罪にも加担していたとされる、《スレイシア家》の調査をさせるのは____」
暗い表情を浮かべながら、セリカはそう言葉を発する。彼女のその声色には言えた傷口を抉らせてしまったかもしれないという、罪悪感と命令を下すことしかできない自身の立場を呪っているようだった。
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団長室を後にしたレイスは《ロイ家》と何かしらの因縁があるとされる《スレイシア家》について知るべく。セレクトリアの城へと歩みを寄せていた。城には大きな書庫が設けらており、街の事や魔物の生体などと言った知識を増やすための書物が無数に保管されている。
彼女自身が家系の事を調べるのはこれが初めてだろう。当時はまだ年が一桁だった少女には名家や貴族といった複雑なことは理解できるはずもなく、名家のご令嬢という立場だけで成り立っていた立ち位置だった。そんな、彼女は14歳にして家族、そして家を失い剣士になった。だから、今もこうして家系というあまり触れたことのない自身の根源を調べるのには言葉に出来ない奇妙さと曖昧な気持ちがあった。それに、《スレイシア家》といえば、ハーブを使った紅茶が有名でその味は貴族や王族にもたしなまれている逸品だ。レイス自身もこの紅茶を何度か口にしたことがあり、その味に魅了されている一人でも。だから、今回の件に関して朧かな不信感があったのだ。
それは《ロイ家》との因縁だ。彼女自身は知らないにしろ、団長曰く《スレイシア家》とは上手くいっていなかったらしくその話は当時を知る者には当たり前らしい。因縁といって思いつくのは階級の差だろう。《ロイ家》はどちらかと言うとそこまで高い階級は持ち合わせておらず、一般的に考えれば貴族という立場に属する《スレイシア家》の方が位は上だろう。しかし、そんな《スレイシア家》にも超えられない壁というモノがあってそれが今回の因縁に関係しているのではないかという仮説に至る。
《ロイ家》は代々、外交貿易を主に執り行い、セレクトリア外にも数多くの権力者との繋がりを持っていた。もちろん、《スレイシア家》の仕事も似たものだったのだが、これもタイミングというモノだろうか。少しの時間のズレで《スレイシア家》は機会を逃したのだ。
その事はレイスに語られるはずもなく今に至るわけで当時少女だった彼女にはこれからその事実を知ることになるだろう____。
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「えーと、確かこの辺にあったはずなんだけど」
レイスは書庫で、とある本を探していた。千を超える本がズラリと並ぶここでは目当ての本を一発で見つけるのは容易なことではないだろう。カテゴリー分けは一応されてはいるが同じような背表紙の本が無数に並べられているここでは無意味に近く、今も少女の探し物は行方知れずだった。
「あっ!これかな? えいっ! えいっ!」
それらしき本を見つけすぐさま手に取ろうと試みるが、7段にも及ぶ本棚の一番上にあるそれにはレイスの身長では届くはずもなく、その場で何度も跳躍し悪戦苦闘を続ける。
「うーん・・・あとちょっとなんだけど・・・・・・・」
指先は6段目の本まで届く者の後、数十センチの差がどうにも埋まらなかった。レイスは半ば諦めてその場を後にしようと踵を返した時だった。
「この本でいいのかな?」
不意に背後から声をかけられる。
「え?」
突然の出来事にレイスは言葉を失う。
「取り辛そうにしていたから、つい。迷惑だったかな?」
視界の先には茶色い髪色をした男の人が立っていた。そして、差し出された手にはレイスが必死に取ろうとしていた本が握られており、少女はそれを見て事の顛末を理解した。
「あ、えっと・・・ありがとうございます!この本が取れなくて困っていたので!」
「そっか、それは良かった。俺も取った甲斐があったてもんだよ」
そう言って、男の人は優しく微笑んだ。
「あのえっと・・・」
レイスは何か言葉を続けようとしたがそれ以上が出てこず言葉に詰まってしまう。
「別に当たり前の事をしたまでさ。だから、そんなに緊張しなくてもいいんだよ」
「私は別に緊張は・・・してないです」
レイスに取ってこんなべたな展開は初めてだったこともあって、自分が今置かれている状況を上手く呑み込めていなかっただけだった。
「まぁ、本が取れて良かったね。それじゃあ、俺は人を待たせてるからこれで」
「あ、はい!」
風のように現れ風の様に去っていく人をレイスは少しの間見ていた。やがて、姿が見えなくなると渡された本を手に近くにあった机の上で開いた。
「目次はっと・・・あった」
分厚い本を数ページほどめくった場所にそれあった。各ページ数の前に題名が綴られており、それは数十にもわたって分割されていた。
「これかな?」
レイスはその中でも一際目を引く《ロイ家とスレイシア家の冷戦》という題名のページを開いた。見出しからも分かるように《ロイ家》=《スレイシア家》という構図は確実にあるらしい。それを再度認識しながら、少女は文章をなぞり始めたのであった。




