episode 20
入り口には昨日、俺達を教祖_ゼオル=ターニスに紹介してくれた受付嬢の姿は無く、そのままそこを素通りする形で扉を開けた。
聖堂に入ると中には数人の信者と思しき人影があった。見た目は普通の一般人と大差はなくあながち俺達の様に日課としてここに来ている人達だろう。各自、各々の場所で両手を祈るようにし目を閉じていた。その光景を俺とディセルはただ静かに邪魔しない様に眺める。
しばらくすると、信者たちは俺の横を通り過ぎ、日々の暮らしへと帰ってゆく。
ここでまず一つ、分かることがある。それは、《黒魔術信仰》の時間帯だ。朝はいつもの様にここを開放的にし、いつも通りの大聖堂を偽っている。しかし、それはあくまでカモフラージュ。本当の部分はきっと人目につかない場所で行うだろう。だが、もしもそれが俺の推測違いだったらと考えてしまう。もしも、俺がゼオルの立場だったらここ以外でそんな危険な行為は行わないだろう。理由は二つ____
一つ目は迎撃のしやすさだ。
仮に《黒魔術信仰》及びそれに伴う、儀式が行われていた場合、信者たちはその事に集中する。そうなれば、突然の奇襲に驚き、コンマ数秒ほどの隙ができるはずだ。しかし、ここならどうだろうか?自分たちのホームで儀式をするという事はそれだけここに慣れがあると考えられるはずだ。即ち、【何かしらの警備システム】は備えているという事だ。
二つ目は人の心理を突いた部分だ。
この街_セレクトリアはいくつかの治安保護隊が街を警備している。例を挙げるとすれば、《今は無き最高位》や《純白の剣姫》といった騎士や剣士を指す。そんな、者達が朝から夜にかけて街を見張っているという事実だ。このこと自体は非常に理にかなっていると思うが事はそんなに甘くないのかもしれない。例えば、街で殺人が起こったとする、そうした場合、犯人は大抵すぐさまその場から離れようと逃げるはずだ。そうした場合、犯人は目立ってしまう。目立つ=見つけやすい。こんな風に合理的である行動も時と場合によっては裏目に出ることがあるのだ。そうなってしまえば、犯人は駆け付けた警備隊にすぐさま取り押さえられるだろう。
しかし、ここで少しでも頭を働かせる犯人がいたとすれば話はまた違ったモノになる。例えば、犯人が【その場からにげなかった】としたらどうだろか?死体の周りに集まる人込みの中に何食わぬ顔で「何かあったんですか?」などと、一般人を装った行動を取れば警備隊もすぐには犯人の存在に気付くことは無いだろう。そして、警備隊は当然、犯人が逃走したと考え自身の周りから自ずと離れて行く。
これは一見して、《黒魔術信仰》の捜査と関係のない事と思うかもしれないが本質は同じだ。行為自体に差異はあったとしても、やっていることは同じ犯罪で見つかれば捕まるという点だ。
だとすれば、ゼオルという男はこの大聖堂内で禁忌に触れていると考えられるのではないだろうか。
簡潔に説明すると____
________【こんな人目の多い場所、ましてや剣士たちが警戒している中で行わないだろう】という心理を逆手に取っていると考えることが出来る。
「いないみたいね?」
「教祖の控室とかにでもいるんじゃないのかな」
「そう考えるのが普通よね」
聖堂内を見る限り、教祖の姿は影も形も無く、俺はその場で待つことにした。
「ちゃんとやってくれたらいいんだけど」
見上げた天井に埋め込む形で虹の光を放射し続けているステンドガラスを眺めながら俺はそう呟いた。
「何の事?」
ディセルは俺の一言を聞き逃さず、すぐさま質問を返してくる。
「あっ!えーと・・・それは言えない・・・・・・」
「言えない?何で?」
当然の返しだ。少なくとも同じ任務で行動を共にしている相手に隠し事をするというのは、一種の裏切りにも近い行為だ。だからこそ、ディセルは俺の発言に対して酷く不満そうにしていた。このままでは今後の行動に支障が出かねないと思った俺は現時点で自分が公表できる部分までを話すことにした。
「それを言ってしまうと、計画に支障が出るんだ」
「計画に支障?」
「うん。仮にも相手は人の心が読める異能を持ってるだろ?だから、俺の今の事をディセルに話したら、相手に俺の計画がばれかねない。だから____」
「そういう事ね・・・でも、その考えはおかしいわよ?」
「どこが?」
「あんたの計画に付き合い始めたころから思ってたけど、私にその内容を教えなくても、キット あんたはそれの結末まで知っている____。だとしたら、相手は既にその計画の全貌を把握していると考えるのが妥当じゃないかしら?」
「恐らくね____おおよそはばれていると考えていいと思うよ」
「・・・・・・」
呼吸がしずらい、それに首が痛い締め付けられているみたいだ・・・というか、絞め付けられている。肌に原因の爪先が刺さる。
「う・・・息が・・・・・・」
「これくらいは当然よ!何が計画よ!相手にバレてる事態でそれは計画とは言わないのよ!」
ディセルの言っていることは正しい。本来計画うというものは自身が思い描いた結末を再現する為に行う下準備の様なものだ。それが鼻から相手側にバレているのなら、まず上手くいきはしないだろう。そして、今までやってきた事が無意味なことになるかもしれないということ、バレているかもしれないという事を黙っていたことに激怒しディセルは俺の首を強く絞める。
「黙ってい・・・たこと・・・は謝るから・・・・・・息が・・出来ない・・・」
「このっ!このっ!」
首を絞める力を強めたり弱めたりしながら、俺をさらに苦しめる少女の手。
「だ、大丈夫だって・・・!計画・・・は・・・・・・まだ・・・」
流石に息が出来なくなり、視界がかすんでゆく。
「え____」
少女は自身がやったことが想像よりも絶大な効果を発揮したことに驚き、思わずその手を離す。
「う、うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・。俺を殺す気か・・・・・・・!?」
「仕方ないじゃい!あんなこと言われて、どうしたらいいか分からなかったんだから・・・!それに私はまだ、許したわけじゃないんだからね!」
「あんだけやって、まだ許してくれなのか・・・・・・」
「当たり前よ・・・!」
「・・・はい」
数秒間の間、俺は失った酸素を取り戻すため何度か深呼吸を繰り返す。微かに感じる首の痛みと少女の疑いの視線。
「で、計画はまでって言ってたけど、どこがどうなの?」
「順を追って説明すると、これはある種のゲームなんだ」
「ゲーム?」
「お互いに切り札を持って戦ってるんだ。例えば、ゼオルなら《心読》、俺達なら《今は無き最高位》といった勢力なんだ。この場合だと俺達の方が有利と取れるかな」
この他にもディセルの魔眼や俺の天眼といった未知数の異能をバックに備えていることを考えると勢力的には俺達にプラスαとしておくのが良いだろう。
「でも、相手にはあんたの計画がバレてるんでしょ?それだったら、いくらこちらの勢力が勝っていても先に対抗策を準備している相手の方が有利に思えるけど?」
「確かにディセルの言っていることは正しいと思うよ。でも、それは本当の戦いになったらの話だろ?」
「本当の戦い?」
「俺はこの捜査はあくまでも捜査の内で行いたいんだ。その結果が全面戦争になったとしてもそれまではこのままでいいと思ってる」
「どういうこと?全く話が見えないんだけど?」
「要するに俺達は互いの秘密を知られない限りは友好的でいられるってわけなんだ。もちろん、黒魔術が人に害を成すモノでそれを行使するとしたら俺達はそれを止めなければいけないけどね」
「じゃあ、あんたは仮に教祖が黒魔術に関わっていたとしても、それを行使しない限り、何もしないって言うの?」
「そこだよ。そこなんだ、ディセル。俺はそれを待ってるんだ」
ディセルの会話から出た言葉を引き金に俺はこの話の核心的部分の話を始める。
「え____?」
当然の反応だろう。
「相手が黒魔術を行使する。そうなれば俺達は嫌でも動かなくちゃいけない。だとしたら、俺達はどうすればいいと思う?」
「・・・もしかして・・・・・・は!まさか____」
「使わざるを得ない状況を俺達が作りだすのさ」
「で、でも、それってどうやって?」
「それについては今は話せない」
「そう・・・なんだ・・・・・・」
これも俺の計画の内だ。後はクレイが無事に事を済ませ、思った通りに動いてくれればいいんだけど・
「後、最後に俺はこの捜査をゲームって言ったろそれについて話すよ」
「ゲーム・・・ねぇ・・・・・・任務を何だと思ってるのやら・・・」
「何か言ったか?」
「ううん、何でもない」
「ゲームと言ってもこれは単純なモノじゃないんだ。どちらか言うと、互いの判断と行動、それに瞬発的な発想が必須とされるんだ」
「うん」
顔を見る限り、いまいち理解が追い付いていないディセルに俺はさらに言葉を続ける。
「言葉と言葉の合間で相手の動向を見据え、次の言葉を紡ぐ。その間に生じる微弱な時間のズレや声の震えに気づきそこに疑問という照準を合わせ、疑いをかける。そして、徐々に相手の精神に詰め寄る。時に自身が意図的にミスを露呈させ、相手に有利な立場を与える、そうした攻防の末に訪れる結末を楽しむ。これはそう言ったゲームなんだ」
この時ディセルが本当に俺の言った言葉の意味を分かっていたのかは分からなかったがそれでも彼女は何かを考える様に首を傾げ口元に手お置いていた。
「話を聞く感じだとあんたはこの捜査にとって一番大切なのは精神力って言いたいんでしょ?」
「分かるのか?」
あろうことか目の前にいる少女は俺の硬い単語の並びを正確かつ迅速に分析し俺へと提示して見せた。これには俺も驚きを隠せず本当なのかと疑ってしまう。
「分かるっていうか経験故の慣れかしらね?」
「慣れ?」
「言ったでしょ?私はこれまでにいくつもの任務を遂行してきたってその時に非戦闘の事も体験してるの。だから、こういった表面上の馴れ合いは人並みに慣れてるのよ」
「人並みって・・・・・・。普通の人はそんな体験自体をしないんじゃ・・・」
「ま、どっちでもいいでしょ?あんたの言っていることを理解できたんだから」
「それはそうだけど・・・・・・」
「で、その精神力とやらの重要性はどの程度なの?」
「この計画の要だと思ってるよ」
「そう____」
ディセルは納得したのか、俺の発言を聞き大人しく黙り込んだ。そして、俺はすぐさまその変わりようの意味に気づく。
静かにそして、ゆっくりと一定のリズムで聞こえる何者かの足音。その音は俺達の心に緊張を生み、脈を速くする。どうやら、本命さんの登場の様だ。俺達はいつもの様に(仮)手を繋ぎ、見つめ合った。そうするだけで何故か心に落ち着きが生まれ、張りつめていた空気が緩和される。その、安らぎの時間に俺は最後の言葉を発した。
「さぁ、始めようか 俺達の《精神戦》を________」




