episode 18
「それではキット、これは確かに受け取りました。依頼は今日の夜であっていますね?」
「夜であってるよ」
「分かりました。それではまた後程」
街の路地で剣士と騎士が会話をしている。何も怪しい話をしているわけではない。これは今回の《黒魔術信仰》の捜査に取ってとても大事な計画の一つだ。呼び出したのは《今は無き最高位》の騎士_クレイ=スペシャリティだ。その騎士は馴れ馴れしいという部分を除いて、信頼を置ける騎士の一人に違いなかった。そして、そんなクレイに俺が今回頼んだ以来と言うのは公に言えたものではなかった。それは、仕方ないと言えば仕方ないのだが一歩間違えれば、犯罪と何ら変わらないモノだった。
依頼内容はいたって簡単でいたって難しいモノだった。この矛盾は俺自身も理解はしているつもりなのだが、それでもこの依頼だけ確実に成功させなけらばいけなかった。
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時間は数分前に遡る。
「おはよう キット」
金の髪に青いコート。こちらに向かってくる、それは一言で表すなら《THE 騎士様》と言ったところだろう。コートは《今は無き最高位》特製の物で俺の着ているコートと同様に丈が長く、そして防寒に優れている。青い色はクレイの金の髪とベストマッチで街を歩く女性の目を引いていた。
(女性からから見たら、あいつの周りには光のエフェクトが輝いてるんだろうか・・・?)
と考えながら俺は苦笑していた。
「呼び出して悪い」
「いえ、そんなことありませんよ?キットに呼ばれるなんてこれが初めてですから!」
「頼むからその目を輝かせるのはやめてくれ・・・・・・」
俺からの呼び出しが嬉しかったのか、頼まれごとをされたことが嬉しかったのか、クレイはいつもに増してテンションが高めで普段、あまり感情を表に出さない俺はこの感じが苦手だった。
「は、はい・・・すいません・・・・・・」
「いや別にそこまで____」
「それじゃあ!このままでも____」
「それはやめてくれ」
「はい・・・」
このままでは話の本題に入る前に日が暮れてしまうかもしれないと思った俺はすかさず、話を本題に切り替えた。
「クレイ これを見てくれ」
俺は左手を差し出し、その手のひらで輝く光の粒子を見せた。
「これは?」
「分子変換させた、《反射輝石》だ」
「《反射輝石》ってあの、《反射輝石》ですか?」
「そうだけど、何かあるのか?」
「そうではないですけど、こんな希少な輝石をどうやって手に入れられたのかと思いまして」
「採集しに行っただけだけど・・・?」
「じゃ、じゃあこれは!?キットが自ら、見つけ入手したという事ですか・・・!」
「まぁ、そうだけど・・・」
異様にテンションが高くなったクレイと反比例して俺は何かが覚め始めていくのに気付いた。計画を成功させる為に歩んできた道のり、そして何度も危険にさらされたこの身。生きるか死ぬかという二択の未来を見せられたこともあった。
だから、そんな経験を台無しにしようとしている、この騎士に苛立ちを覚えずにはいられなかった。そして、それと同時にこんな奴に俺の計画を手伝わせて、本当に良いのか?という疑問までも生じさせていた。
「キット やはり君は凄いです。あの雪山には《大剣の悪魔_アヴァランシェ・クレイモア》がいたはずです。そんな、異形の者がいる場所に躊躇いなく赴くとは____」
初めて聞くその情報。雪山にそんな危険度がS以上もありそうな名前の魔獣が居ることを俺は今日知ったのだ。ただでさえ、あの吹雪で視界が悪い中、そんな者がいることが分かっていたら俺は間違いなく、雪山への輝石採集を諦めていただろう。それに、一応、騎士であるクレイがあんな驚いた表情をするという事は相当な魔獣であることに間違いないだろう。そして、この話を聞いて俺はあることを思った。
____ディセルはこの事を知っていたのだろうか?
終わったことを今から聞きなおそうとは思わない。けれど、もし、ディセルが魔獣の存在を知ってなお、俺に付き合ってくれていたとしたら____。
「アヴァランシェ・クレイモア・・・・・・」
「あれ?もしかして知らなかったんですか!?」
「い、いやっ!?別に・・・!」
俺はクレイに気づかれそうになり咄嗟に嘘を吐く。ただでさえ、そんな魔獣がいるというのに雪山に素材採集を行った俺を評価したクレイ。そんな騎士に本当は何も知らなくて、偶然遭遇して偶然倒したと言ったらどんな反応をされるのだろうか?対抗策などの準備もせずにあの窮地を奪還したのはある意味、奇跡だ。この一連の事を踏まえて言葉を発現するならば、何も言わない方が良いだろう。
(クレイの俺に対する、評価がさらに上がってしまう・・・・・・)
と、考えていると、目の前の騎士が再び口を開いた。
「《アヴァランシェ・クレイモア》という魔獣は鋼よりも固い大剣が特徴的ですよね?」
「あ・・・あぁ」
「それにあの体格からは想像もできない程の瞬発力と攻撃速度、一撃でも喰らったら、跡形もないですよ・・・・・・」
そう言ったクレイの口ぶりは人ず手や図鑑などの書物から引用してきた知識をそのまま口に出しているようには思えなかった。
「もしかして、クレイはあの魔獣と戦ったことがあるのか?」
「____一度だけですが」
俺が質問するとクレイはただ一言そう言った。
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫?何がですか?」
「戦闘になって負傷したとか・・・」
「あぁ、それは心配いりませんよ?」
クレイは俺の疑問に対して、不思議そうな声色でそう返してきた。別段、俺がおかしなことを聞いたわけでも、何故それを今聞くのか?と言われてもおかしくない発言をしたわけでもないのにその時だけは俺の言葉に自信が持てなかった。
「それはどういう意味なんだ?」
「だって、相手はたったの二体でしたから」
「____」
一瞬、思考が停止する。
《二体》という言葉だけが頭の中に残り続ける。それをどうにか溶かし、解凍を探そうとする。俺はこのクレイという騎士の事をそこまで深く考えたことがなかった。騎士という立場で俺達の組織とは対等な立場に属している者という認識だけがあった。だが、そんな軽いキャラ設定は今この瞬間を持ってことごとく、改変される。
剣士と騎士。
立場は違えど同じ物を扱う。
もちろん、俺の実戦経験が浅いという事は自身でも分かっているのだがそれでも納得できないことがある。
俺はあの日、奈落で死闘を繰り広げた。それも、命を剥き出しにしたような。
剣技を使い、自由を奪う。
技術を駆使し、それを補強する。
異能を使い、命を摘み取る。
この三段階の手順を踏んでやっと辿り着いた、勝利という結末。
この戦いの勝因のほとんどは、俺の両目に宿る《天眼》だろう。
だからこそ、俺はクレイの話に納得することが出来なかった。
「どうかしましたか・・・?」
「いや、何も・・・。それより、クレイ そろそろ本題に入っていいか?」
「はい。いいですよ」
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そして、今に至るわけだ。俺からの依頼を受け、反射輝石を片手に仕事に戻る騎士の後姿を俺は見えなくなるまで見ていた。その際、クレイは一切振り返ることはせず、託された目的と自身の仕事の為に迷いなく歩いているように見えた。俺はどこかで自身の強さを過信していた部分があったのかもしれないと、先程の話の事もありつくづく思うのであった。
そして____
________もしも、相まみえる時が来たら____と。




