episode 16
「何よ?私がこれを使えるのがそんなにおかしいの?」
「・・・・・・」
「・・・相当、驚いてるみたいね・・・・・・これってそんなに・・・あはは」
黙り込んでしまった俺の顔を見て、ディセルも何かを察したのだろう。ひきつった顔で苦笑をする。
「そんなことより、キット 見た感じ、フォルダのほとんどが女の子のイラストばっかりだけど・・・あんた、相当ね・・・・・・」
黒蝶は右手に握ったマウスを上下左右に動かし、まとめられたフォルダを開いては中身を確認していく。俺のプライバシーを完全に無視した行動にも関わらず、俺はただそれを何かを考えるように見ていた。
「言っておくけど、それ全部、俺の描いたイラストだからな」
最初に発した言葉がこれだった。
「え?そうなの、てっきり【アシエル】の絵かと思ってた」
アシエル、それは俺とレイスの会話や彼女の過去に何度か登場した【白銀の勇者】の名前だ。黒竜と戦った森でもレイスはその勇者の話をしていた。魔物を倒した際の《死に逝く魂の舞》を《レベルアップ》などと自己流の呼び名を付けたりと、不可解な親近感を覚えずにはいられなかったその人。そして、今もディセルは俺の絵を見て、アシエルが描いた物と勘違いしていた。この事で分かることは、アシエルという者は液タブ、もしくはそれに近い機器を用いてイラストを描いていることになる。
「前から気になってたんだけど、そのアシエルって人は誰なんだ?」
「レイスから聞いてないの?」
「聞いてないけど」
「しょうがないわね。簡単に説明するからよく聞いておきなさい?」
「分かった」
「アシエルは魔獣討伐戦、いやあれは魔竜ね。で、その魔竜討伐戦で散った一人の剣士の名よ。ま、他の剣士達からは【白銀の勇者】なんて呼ばれてたけど。組織には属してなかったみたいだけど、何故か討伐戦の日に突然姿を現して、参戦を申し出たらしいわ。戦況は有利に思われてたけど、最後は呆気なく____」
「じゃあ今はその人は・・・・・・」
「いないわ」
魔竜討伐戦_恐らくそれは、《純白の剣軌》を壊滅させたあの戦いに間違いないだろう。そして、丁度そのころはレイスとディセルの関係が崩れ、お互いに疎遠になった頃だ。
「アシエル・・・白銀の勇者・・・一体どんな人だったんだろう?」
「あんたと髪色以外は全て鏡に写した通りよ」
「____っ!?」
言葉にならなかった。
何が俺をそうさせたのかも、どうしてそうなったのかも。
「それってつまり・・・俺に似ているってことか・・・・・・」
「似ているってもんじゃないわ。剣士服を着ている時のあんたは、アシエルその者よ」
告げられる衝撃的な事実。何をどう理解すればこの胸の動悸は収まってくれるのだろうか?ドッペルゲンガーとはよくいったものだ。同じ人間が世界に二人いて、もしその二人が出会ってしまったら、片方は消えてしまうというものだ。だが、今回のケースは少し違う。ディセルのいう通り、俺とアシエルがそっくりだとしてもそれは全く別の人間が非常に似ているだけに過ぎないのだ。だから、もし俺がその【白銀の勇者】に出会ってしまっても消滅はすることはないだろう。
「それにしても、俺とアシエルはどこか似ているな」
「ふーん、ま、顔が似ているんだし当たり前じゃない?」
「どういう結論だよ・・・それ」
「でも画風まで同じだったのは少し驚いたな」
「それは俺も思ったよ。だって、画風は影響されたモノや見てきたモノが反映されることがあるからな」
これはあくまで俺の経験と考えの理論に基づいた事なのだ、イラストは心を打った絵師のイラストに影響されやすいと思っている。それ故、俺の画風がアシエルの画風に似ているという時点で確かな疑問が生まれるのだ。俺が絵師になりたいと思ったのは現実世界にいた時だ。それは、とある絵師に憧れからだ。胸を打つイラストを描き、絵画の様なタッチと解読不明な塗りの方法。その全てが桁外れと思ってしまう程のイラストを見た時、俺はある種の運命の様な感覚に捕らわれたのだ。絶対になるという、呪いにも似た宿命。それでも俺は描き続けることをやめなかった。その結果、俺は天使に招かれこの世界に来たのだ。
「キット あんたがアシエルの影響を受けてないって言うなら、あんたは誰の影響を受けたの?」
思えばセレクトリアに来て自身の根源に光を指示した人の名を口にするのはこれが初めてだった。それも、同じ趣味を持つ人や絵についての話をする機会が無かったこともあるが。それに、ここ最近はまともに筆も持っていなかった。
「《深咲 暮人》っていうイラストレーターだよ。ディセルには分からないと思うけど」
「ミザキ・・・クレヒト?確か・・・・・・」
「うん、ディセル? 何か知ってるのか?」
ここでこんな質問をする事が自体がまずありえないのだ。現実世界の人間に異世界の事の対して何かを質問するタイミングが来ること自体がまず、不思議なのだ。
「____多分、アシエルも同じ名前を言ってた」
「____っ!」
全く予想の出来ない回答が返ってくる。常に隣にあり続けながら決して交わることのない平行線の様な二つの世界線が今、繋がった気がした。




