episode 14
・ディセルが何かの拍子で起きる
・レイスが様子を見に部屋に入ってくる
「お、おい!ディセル!起きろ・・・起きてくれ・・・・・・これは____」
完全に眠りに落ちていた。それも俺の胸の上でだ。そして、この状況は室内に入る扉から見れば、《そうゆう》事にも見えなくないような位置取りをしていた。起こってしまった事をどうこう言う気はないが、俺はそれよりも今からの展開に身を強張らせていた。
スヤスヤと寝息を立てて、眠るディセル。その様は日ごろから見せている、優雅な蝶というよりは、自由気ままな黒猫に近かった。(以下 ディセルを黒猫と略す)。猫が良く主人の上に寝るとういう事は俗に聞くがこうゆう事を言うのかは不明・・・。
「さぁ・・・黒猫をどうするかだよな・・・・・・。自力で起こして・・・あぁ、ダメだ・・・寝顔を見たとか言われて銃を突きつけられるぞ・・・・・・。そうだ!先に銃を____体が動かないんだった・・・・・・」
ありとあらゆる可能性を考え、閃いても行動に移す段階でその全てが没案になってしまう。例えるならこの状況はイラストの没案を描き上げる以前にペンを持てないという状況を指すだろう。
カチャッ____。
「えっ____!?」
不意に聞こえた金属音の様な音。俺は一瞬、ディセルが銃を握ったのかと冷や汗を感じたが黒猫は依然として、静かに寝息を立てている。
「なんだ・・・ディセルじゃないのか・・・・・・安心した。____っじゃあ、何の音だ!」
そう、ディセルじゃない=別の何か。つまりは最悪の展開も起こりうるのだ。それすなわち、レイスがこの部屋に入って来ることだ。先ほど聞こえた、カチャッという音は容易に察しがついた。レイスの淹れる紅茶のカップの音だ。あながち、ディセルに一息入れてもらう為に用意した物だろう。
「音はそう遠くない。だとしたら、ここに来るのも後数秒・・・・・・」
聞こえてくる、足音に軋む床の音。
そして____
ガチャッ____。
とうとう、扉は開かれ、俺とディセルの勘違いされてもおかしくはない、光景が白髪の少女の目に映る。
「・・・ディセル?」
不思議そうな声色でレイスはディセルの名を口にする。
「それにキット?」
声からして怒ってはいないようなのだがそれでもこの不利な状況が変わっていなのは間違いなかった。
俺の机に紅茶の一式を置き、レイスはベッドの方へ歩みを寄せる。寝ているふりをしていた俺は音だけ現状況を理解しようとしていた。思考に描いた部屋の見取り図を見ながら、今後の動向を予測する。
(二人とも寝ているんなら、問題ないだろ・・・・・・?)
明らかな視線を感じる。それも、疑いの視線だ。《ジー》という擬音が聞こえてきそうな程のそれを俺は精神力で耐えていた。
「起きてるよね キット?」
(____!)
鎌をかけたのかそれとも本当に気づいていたのか、レイスは何の迷いもなくそう言った。俺はその予測できなかった展開に思わず、ビクつかせてしまった。
(いや、まだばれてないはずだ・・・!このまま____)
「あくまでもその態度を続けるんなら、こっちにも考えがあるんだから」
(なんだ?レイスは一体何を?)
俺は急な静寂とガサゴソという音が気になり、気づかれない程度で目を開けた。すると、視界に映ったのは俺の液タブの前に歩みを寄せるレイスの姿だった。この視界の情報だけで俺は最悪なシナリオが脳裏によぎった。
「この中のデータ全部消しちゃうよ?いいのかなー?」
悪魔っ娘ぽい口調でそう言うレイスに俺は「すぐさま、やめてくれ!」と言えば良いのだが、普段見ないその姿と雰囲気に俺はもう少し、じらせてみたいという気分が勝ってしまった。
カタカタカタ・・・・・・。
不規則になるキーボード音。恐らくこれがレイスにとってタイピングを初めてした瞬間だろう。
「もう、本当に消しちゃうよ?」
少し困った口調でそう言うレイス。俺はそろそろ潮時だなと言わんばかりに声を出した。
「レイスにはすっかり見抜かれてたな・・・起きてるよ」
「やっぱり・・・・・・」
「怒らないのか?」
「何が?」
「ほら、この状況・・・」
俺はレイスに再度、ディセルと俺のこの距離を認識させるようにそう言った。
「仕方ないよ。だって、ディセルここまでキットを運んできたんだし。それと、傷の手当の為にかなりの魔力を使い果たしてるはずだもん」
「そうなのか?ディセルはそんな事別に言ってなかったけど?」
「ディセルの性格を忘れたの?言うわけないよ」
「そうだよな」
レイスはベッドの端に腰かけると、ディセルを動かし安定した場所へと寝かしつけた。
「寝顔はこんなに可愛いのにどうして、いつもああなんだろう・・・はぁ」
などと言いつつ、黒猫の頭をゆっくりと撫でる白猫。
「それがディセルの味なんだと思うけどな」
「味?そうなのかな・・・?」
「ま、どちらにせよ今日はゆっくりと休んでくれたらいいんだけど」
「そうだね。明日も任務はあるんでしょ?」
「あぁ、任務というよりは日課に近いけど」
「なら、今日はキットもこのまま体を休めてね」
「分かった。____ところで一つ聞きたいんだけどレイスは今、どんな任務にあたってるんだ?」
これは単純な疑問だった。レイスの傍付き剣士から秘匿剣士へと役を変えた俺は本来の副団長を守るという目的は変わらないものの常に傍に居続ける必要が無くなったのだ。その為、俺のいない間の彼女の行動が少しばかり気になっていた。
「そう、だね。書類の後始末とか事件の把握とかかな?この前みたいな危険な仕事は今のところ回って来てないよ」
「そっか、なら良かった」
「でも、キットは私との約束を守ってないんじゃない?」
不満げな顔でレイスはそう言う。
「それはどういう意味で?」
「自分を大事にするっていう私との誓いを忘れたの?」
「う、そ・・・それは・・・・・・」
思わずレイスから目をそらしてしまう。確かにあの日の誓いはレイスのいう通り一語一句間違っていなかった。そして、その誓いを破っていることにも気づいていた。しかし、もし、あの場でそれを破っていなかったら俺は間違いなく死んでいただろう。そうなれば、俺とレイスの本来の約束である_【最後の最期まで描き続ける】という願いが叶わなくなる。だからこそ、俺はあの場で先を見据えた行動をとったのだ。
「今回は場合が場合だから無かったことにするけど、もし次、同じような事があったら、副団長権限で傍付き剣士に戻すから」
「・・・はい」
「じゃあ、お休み。ディセルはここに寝かせておくから」
俺との距離を数十センチ離した場所にレイスは黒猫を寝かせていた。
「え____!同じ部屋でしかも、一つのベッドだぞ!?いいのか?」
俺は当然の反応を返した。
「何か問題でもある?」
きょとんとした顔でレイスは俺にそう返す。
「問題っていうかなんというか・・・その・・・・・・」
「キットは体が動かないし、ディセルは銃を持ってる、大丈夫だよ」
「何だその自己解決は・・・・・・」
「それにキットはそうゆう事する人じゃないから」
そう言った、レイスの表情は信頼と言うよりも、信じているという声色を兼ね備えたいた。
「レイス____」
その天使の様な穏やかな表情に俺は思わず少女の名を呼んだ。別段、何かを言おうとしたわけでもなく、何かを告げようとしたわけでもない。それでも、俺はそっと名を口にしていた。
「それじゃあ、お休み キット」
「____お休み レイス」
日常の会話のようにお互いの休息を口に出すとレイスは持ってきていた、紅茶のそれらをまとめ、静かに扉を閉めた。
砂時計をひっくり返して眺めている時の様な時間の流れを感じる。実際にそんな気分になったのは今日が初めてだった。静かな世界に夜の深い海と凛と鳴く青い月。カーテンのレースからは差し込む月の光が朧かな雰囲気を醸し出し、自然と眠気を誘う。微かな肌寒さと、雪のひんやりとした冷気が優しく街を包み込む。
体にかけた毛布はそんな季節特有の感覚を柔らかに感じれるように緩和し、体温の低下を一定に保たせていた。




