episode 12
(これも運命か____)
ミスと言ってしまえばどれだけ簡単だろうか?
しょうがなかったと言ってしまえばどれだけ、楽だろうか?
まるでスローモーションの様に迫りくるそれと、俺の行動の結果。
そんなものも、後少しで終わりを告げる。
(このまま、ここで終わるのか____?)
(あの少女との約束は果たさないのか____?)
(自身の夢は叶えないのか____?)
不思議なことにこんな状況になっても、自問自答をする時間は設けられていた。しかし、ここでその質問に肯定的な答えを出した所で何が変わるわけでもないし、第一に俺は今もこうして自らの足で死地へ赴いている。そんな、俺にこの先____数秒先に命はあるのか____。
答えは簡単だ。
________あるのは、永遠の眠りと悠久の大地への巡礼。
死後の世界の事を俺はこれまで何度考えたことだろう。
実際に言ったわけでもないし、聞いたわけでもない。それでも、俺はどこかで想像した世界をそれと見たてていたことがあった。それも、この瞬間、無意味なことになる。
何故なら、今からこの瞳が見るモノが真実であり、唯一の答えなのだから。
だけど、一つだけ心残りがあった。
________レイスにちゃんと別れを告げられないことだ。
あの日、死ぬはずだった俺を繋ぎ止めた、【純白の天使】。
本当なら、彼女の方が俺より先に逝ってしまうのが運命だった。それなのに、俺は____俺はそれよりも先にこの世界から消えようとしている。
________それでいいのか?
俺に、ただ一言、そう問われた。
どんなに先を見越す返答をしたとしても、この状況は変わらない。
仮に変えられるのだとしたら、俺はきっと____。
俺の体に大剣が触れるのはもう、数メートルの話だった。
(避けられない____やっぱり俺はここで・・・)
心は諦める形で落ち着いていた。
だが、そんな時、白髪の少女の顔が不意に脳裏によぎる。鮮明かつ、綺麗な顔立ちをしている少女は俺を見つめている様に思えた。
「____っ」
隠しきれない悲しさと戻れない後悔が俺の涙腺を刺激する。
この生理現象がどこからくるものなのかは容易に確認できた。しかし、頬を伝い風にさらわれる水滴を止める術もなく、とめどなく流れ続けていた。
命半ばにして、消え去る自身をレイスはどう思うのだろう?俺は自身をどう納得させるのだろう?
そんな事、今となっては考えることも無意味に思えた。
だけど、思うところはあって。今もこうして、そのことだけが記憶の片隅に残り続けていた。
________どんなに彼女の顔を思い浮かべても、脳裏に映るのは悲し気な表情だけだ。
こんな事を考えるのはレイスに対しての押し付けなのかもしれないが、俺との日々で彼女は笑顔を取り戻したはずじゃないのか?少なくとも、俺は彼女の笑顔を知っている。共に戦い、共に生きていくと誓った瞬間からそれは変わったのだと思っていた。それなのにどうして、俺の中の彼女はこんなにも・・・・・・こんなにも、一人なんだろう____。
その時、俺は何かをひらめくように気持ちに光が指すのを感じ、すぐに意識をそちらに向ける。
(そうか____。レイスは・・・レシウル=ロイという少女は俺といる間だけ笑顔を見せてくれていたのか・・・・・・・・)
もっと早く気づけばよかった真実。それでもディセル達といる時の彼女は笑っていたはずだ。それなのに何故____?
疑問が生じる。
(あぁ、そういうことか____)
答えが出される。
________レイスは俺がその髪色を受け止めたからこそ、素直でいてくれたんだと。
安直な回答ではあったけど、その答えはどこかしっくりくるモノがあった。
(レイスに違うって言われたら、それまでだけどな・・・・・・)
「ここで____」
意識を現実に向ける。いつまでも、思い出の中で浸るのは良くない。
俺は最後のあがきを行おうともせず、攻撃姿勢のままで死へと駆け抜ける。
終わりの見えなかった人生はこうも呆気なく、終わるのだと、心底呆れていた。
夢はある、希望は無い____。だけど、その片方を持ち合わせた人はいた。
________俺と彼女はそんな、お互いの欠損を埋め合わせるために巡り合ったのだとこうして、死の間際に想う。
贖いは通じない。だからこそ、俺は____。
瞼を閉じる。深い闇が揺らめく。ひんやりとした風を頬に感じる。
巨大な何かの影を感じる。殺そうとする者の闇だろう。
恐怖を感じる。当たり前だ。非日常的な死に方をするのだから。
思考を感じる。痛いのかな?____と。
心残りを感じる。
思い人を感じる。
大切を感じる。
先を感じる。
【生きる術を考える】
「・・・・・・俺は、俺はまだ____。こんな、こんな所で________終わるわけには行かないんだ!」
【黒銀の勇者】は再び瞳を覚醒た。眼前に差し迫る、驚異の銀。どの方向に回避しようと、それは避けられない位置を取っており、勝敗は決しているように思えた。
その時、心に響く自身の鼓動。それは何かを訴えかけている様にも思えた。
(あいつの後ろに回り込めれば・・・!)
大きく見開いた、青い瞳。灼熱の様に荒れ狂うそれを俺は精神力で制御する。
そして、次に行動を取ろうとした時には既にその効果は表れていた。
「何だ____?」
気づけば自身の体は魔獣の背後を取っていた。意味の分からない現象に説明を問いただそうするが答える者はいない、あるのは自身の体験という答えだけだ。
それでも、一度救われた命。今度はこちらが反撃だと慰安ばかりに俺は魔獣の方へと力強く地を駆ける。
《栞》の効果は今も発動されおり、この状況での戦闘は普段、修練場で修練を行っている俺のホームに近かった。
「これなら____!」
ザッ____。
地面を蹴った。それも、飛躍するための力を備えて。高く飛んだ体を空中でコントロールする。右手の《エミュレータ》を持ち直すと、」俺はすぐさま剣技を行使する。
時異連撃技 《ツイン・フェイス》
狙いは首。一瞬の判断で標的を定め、剣先を見据える。
青く輝く刃からオーラが立ち込める。
「____行くぞ」
体を捻るようにし、首に鋭利を当てる。擬似連撃技の《ツイン・フェイス》は的確かつ迅速に魔獣の首を切り裂く。分厚い鱗の様な皮膚に剣が掠れ、腕にはその衝撃が伝わる。一撃目をヒットさせ、二撃目の俺へと、とどめ託す。基本的に威力は等倍で同じ攻撃をもう一度繰り返すだけのこの技は初撃_つまりは最初の力の入れ具合が鍵になってくる。その為、腕からではなく体の体重と遠心力を生かし、一撃目の一振りに全てを込めたのだ。
ガガガガッ____!
剣先が鱗を砕く。
シャッ____!
刃が首を斬り入る。
「____終わりだ」
俺は最後の一撃を繰り出し、これで終わったと再度思った。流れゆく剣を横目に降りしきる、朱が視界を過ぎてゆく。徐々に降下する体。
しかし、魔獣は絶命などしていなかった。
大量の出血と致命的なダメージを追ってなお、咆哮を轟かせる。
「____!?」
俺はこれ以上ないほどの攻撃をしたはずだった。だが、魔獣を殺すほどの威力は兼ね備えていなかったらしい。その時、俺は悟った。
「もう____」
だと。
いくら、剣術で勝っていても根本的なモノが違う相手にはその道理は通用しないのだ。愛剣は今も健在でその輝きを失ってはいなかった。
________失っていたのは俺の心だ。
負けを確信せざるを得ないこの状況で俺は何を思うのだろう。柔らかな冷たさのはずのそれは俺の《異能》によって、氷と同じ意味合いへと変えられている。
「まだだ・・・まだ、追われない____!」
そう思った時、俺は右手の剣が技を発動しているのに気付いた。
「いつの間に!?」
その剣技は先程と同様の時異連撃技で、発動させた覚えもないし、第一に発動させところで意味はないのだ。しかし、俺は次の瞬間、視界に映った光景に息を呑む。
「俺は・・・確かそのまま地に足を着けていたはず____」
靴底は確かに地に着くはずだった。しかし、今、俺のいる場所は剣技発動前に飛躍した空中だった。それも、同じ角度、同じスピード、同じ感覚。まるで、リプレイをその体現してているかのような状況に俺は違和感を覚えざるにはいられなかった。それでも違う点があった。リプレイというものは普通、過去をもう一度見返すものだ。それなのに、どうだ。俺が今、眼前に写している光景は先程と同じだろうか?
「一体、どうなってるんだ?」
剣技で負わせた、首の傷は確かにそこにあり、大量の血が流血していた。これは間違いなく、俺の攻撃によるものだろう。ならば、今俺自身が体験しているこの光景は過去ではなく、今も現在進行形で進み続けている時間の中なのだ。そして、これから起こりうることは、魔獣に対する反撃という名の連撃だろう。
(理由は分からない、それでもこれは好機に間違いない_____なら!)
不可思議な現象に身を任せる。
「いっけーーーーーーーー!!」
青白い光が剣の周りを覆う。同じことが繰り返されているなら、発動剣技は時異連撃技だろう。そして、先程の剣技と今からの連撃数を合わせると、8連撃もの技を俺は魔獣に浴びせたことになる。擬似的にもそれは上位剣技のそれにあたり。この栞の効果がそれを起こしたのだとすれば、俺はかなり強力な力を持つことになるだろう。
そして____。
ザシュッ________。
グシャッ________。
首の連結部分を切り離す音が聞こえる。その音と感触に吐き気がする。それでも、命を繋ぎ止めるにはここでそんな、精神の事情に目を向けてはいられない。
「まだだ、まだ・・・!もっと・・・・・・もっと、重ねろっ!」
俺はさらなる連撃を強く念じた。
すると、その思いが通じたのか俺は再び連撃発動前の空間に身を置いていた。今度は首が切れかかっている魔獣の姿が目に映る。この時俺は一つはっきりした。
この現象俺の固有スキルで使い方次第ではどんな連撃技にでも勝ることが出来るかもしれないという事に。
「はあぁぁぁぁーーーーーーーー!ツイン・フェイス 改!」
俺は咄嗟に剣技に新たな名を付けていた。
一振りに二つの意味を持たせるそれとは、意味合いのかけ離れてしまった剣技。今、この瞬間の連撃数を合わせると、優に12連撃もの斬撃を繰り出しているのだ。それはもう、二倍の攻撃とは言わない。だから、俺はこの剣技に新たな意味合いを込め、《改》と付けた。
ザシュッ!________ゴトッ____。
この雪上でまずありえない、きみの悪い重低音が響く。しばらく、その音が耳なりの様に離れない。俺がやったことの結果による、惨劇と残像が視界に入る。
「終わった____」
何かを成し遂げ、何かを失ったような声色で俺はそう発した。俺はこの世界に来て幾度となく、魔なるモノの生命を奪った。現実世界で生活している人間にはまず、こんな経験をする機会はないだろう。だけど、今俺が生きているここは、そんな命のやり取りが毎日のように行われている。始めは魔物でさえも、命を奪うのには躊躇いがあった。それはまるで、大切に育ててきた鶏を殺す様に。
だが、ここでそんな様な気持ちを持ち合わせてしまったら、俺は何か大切なモノを失いそうで俺は本来の気持ちを心を押し殺してここまで生きてきた。無数の魔物の死と引き換えに強くなったこの身体で。
死に逝く魂の舞が起こり、討伐対象者の体に光が宿る。
「何度目かな?俺は今、何レべ位なんだろう?」
不意に自身の強さに疑問を浮かべる。
正確にはレベルというモノは存在しないのだが、ふとそんなことを呟いた。
「とりあえず、出口を見つけないと」
俺は歩みを再開すると同時に視線の先に《反射輝石》の原石の塊を見つけた。岩石が絡みつき、本来の輝きは発していなかったが、それでも、これだけの量が手に入れば恐らく今回の作戦は成功に終わるだろう。
「しょうがない、あれやるか____」
左手を二回ほど開閉して、俺は詠唱を唱える。
「《物質は質量の理に従い・分子となりてこの手に宿り給え》____」
二節の詠唱を口にする。高等魔法の一種で俺が扱うには、まだ早いとも思えてしまうそれは、使い手の体力を大きく削る。それ故、魔獣との戦闘を終えたばかりの俺には自殺行為も甚だしかった・・・。
「う・・・流石に・・・・・・きついな____」
視界がぐらつく、立っているのがやっとだった。それでも魔法は成功し俺の目の前にあった輝石の塊は一瞬にして姿を消し、光の粒子として俺の手の平に収まっていた。この魔法は主に農作や運搬を主に行う者達が扱う魔法で最初からその方面に特化した職業を専攻しているのなら、使用も容易なのだが、対してこちらは剣士という《運び屋》とは似ても似つかない職を選んでいる。それ故、本来の職との相性が向かない魔法はその役柄から見れば、高等魔法になりうるのだ。
「やばい・・・目が閉じ・・・・・・る。ディセル・・・頼む‥見つけてくれ________」
ディセルへの奇跡的な救助を願い俺はこの深い暗闇の奈落で意識を失った。
「たまには普通にあとがきを書くのも悪くないかな? キットです」
「ここまで読んでくれている読者の方々、そして、今日から読み始めてくれている方、偶然、俺の小説を見つけてくれた方、理由は様々ですがそれでも少しでも俺の小説に興味を持って頂けたのなら嬉しいです」
「第二章はまだまだ、始まったばかりですが、第一章の話も度々絡んでくるのでその辺は用途に合わせて、読み直して頂ければと思います」
「最後にこの【Last Rotor -Resurrected as Kit-】という小説をこれからもよろしくお願いします」
レイスの家の一室から、物語を紡ぎし者 キット=レイター




