episode 8
しばらく雪原を歩いていると、いよいよと言わんばかりに吹雪が強さを増し始めた。視界が完全に遮断されているわけでもないのだが、それでも今までの景色とは格段に違っていた。一際目立つ物も見つからず、目印といった取り決めも出来ないだあろう、この先はあからさまな雪の迷宮に近かった。歩くたびに傾斜が増す、この山道を一歩一歩、雪に根を生やす植物の様に歩いていく。そうでもしないと、不意の突風に体をさらわれかねないからだ。
日没までにはまだ多少の時間はあったがそれも今に至っては、さほど意味のない事だった。あいにくの視界にこの寒さがそんなことは二の次だと告げていた。それでも、警戒は怠れなかった。理由はここが街から出た郊外だという事にあった。以前、俺はレイスと剣術の練習の一環で森に足を運んだことがあったのだが、あの時は比較的弱い魔物がいる場所を選んでいた。しかし、そんな余裕も黒竜という異分子の存在で一瞬にして崩れ去られたのだが・・・・・・。だからこそ、俺はこの雪山に入ってからは常に剣を握りしめ離さずにいた。そして、もう一つこれは、これから出現するであろう魔物にも言えたことだった。お互いに共通してある、不利_それは言うまでもなくこの《白い闇》だろう。奇襲を仕掛けるにもこの吹雪では攻撃が、ぶれることは間違いなかったのだ。
「ねぇ」
ディセルに声をかけられる。
「何だ?」
俺はそれに反射的に声を返す。
「ここに来て何をするつもりなの?いまいち、あんたのやろうとしていることが見えないんだけど・・・・・・?」
その質問は最もだった。だって俺は彼女に《雪山デート》などと意味のわからない理由でここまでついて来てもらったのだから。厳密に言えば、しっかりとした理由は存在する。しかし、それをディセルに言ってしまうと少々、難しいことがあった。今回の脅威は間違いなく、ゼオルの《異能》だろう。それを踏まえて、俺の行動の理由を説明するのであれば、こういうことになる____
____協力はしてほしいが、その意図までは知って欲しくはない。
傍から見れば、自身の考えを強制し無理やり手伝わせている様に思うかもしれないが、このやり方は今回の件に置いてだけは実に合理的で手っ取り早い方法だったのだ。無論、そのこと自体を彼女に伝えるのには何ら問題はない。
「相手の異能がある以上、多くは語れないけど、ここでする事は素材収集ってとこかな?」
「素材収集?」
ディセルは首を傾げながら言葉を繰り返した。
「そう、それもここでしか手に入らない物さ」
「・・・てことは、《反射の輝石》?」
「よくわかったな。その通りだよ」
「ま、とりわけこの辺でまで来て採集するものだから見当はついたんだけどね。普通に手に入るのならここじゃなくてもいいでしょ?」
「・・・その通りだよ」
ディセルの分析じみた返答に俺は少し、おののいた。
「・・・でも」
「でも?何?」
「それがどこにあるかまでは知らないんだ____」
「____」
俺とディセルの間に沈黙が訪れる。それはこの吹雪の音さえも聞こえなくしてしまう様に包み込んだ。
「場所なら分かるわよ・・・・・・まったく・・・」
呆れ顔でディセルは俺に救済を告げる。
「そう・・・か・・・・・・そうかっ____!良かった____」
その言葉に俺は感謝以外の何も無かった。
「はぁ・・・「良かった」、じゃ、無いわよ・・・・・・それってつまり私に全てが賭かってたってことじゃない?」
「それでどこにあるんだ?」
「くっ____!あんたねぇっ!?」
俺はディセルの言葉もろくに聞かず、話を進める。これは彼女の話を無視しているのではなく、仕方なくそうしているに過ぎなかった。《反射輝石》_あらゆる魔法を跳ね返す、その石は俺の計画と大聖堂のコンディションにこれ以上ない程合っていた。だが、ディセルにここでの目的をすぐに言い当てられ、俺は焦りを禁じえなかった。ここでもしも、ディセルに計画の本質を考えさせてしまえば、恐らく彼女は俺と同じ結論に至るだろう。そうなれば、本末転倒は免れないのだ。ゼオルに心を読まれれば、一瞬にしてそれは見抜かれ対策をされるだろう。だからこそ、俺は短いペースで話を区切り、話題を変えようと思ったのだ。もし、既にディセルが計画に気づいてしまえば、明日からの大聖堂への入信をやめれば良いだけの話なのだが・・・・・・。
____ここで思うことがあるはずだ。
____じゃあ、キットは何故、その考えを抱いたまま、教祖の前に立てるのかと。
____答えはその本質にあった。
____何故なら、この計画には心読が届き得ない領域が存在するのだから。




