episode 7
雪山へと赴く足取りは両足に枷でも付けられているのかの様に重く。一歩を踏み出すたびに通常の二倍近くの動力を消費させていく。この動きづらさは降り積もる雪に沈む際に起きるモノでもあったが、それにプラスする形で先程、聞いたディセルの話とそれに伴って起こった俺自身の心の変化がそうさせたのは言うまでもない。
セレクトリアの街から出て、郊外の草原をしばらく進んだ場所に辺るこの雪山は一面を真っ白な雪に覆われ、吹いた風にその粉塵を柔らかに撒き散らせ、又、空から差し込む陽の光によってそれは黄金の砂金へと姿を変えてゆく。自然が起こす現象は本当に感慨深いものがあるなと俺は心で思った。
「遅いっ!もっと早く来れないの?」
自然現象に見とれていた俺の意識と目線は発せられた不機嫌な声に向けられる。
「そうはいっても、この雪の積もり方は尋常じゃないって・・・・・・一歩間違えれば、死ぬかも」
「それは好都合・・・ね?」
ディセルがわざとらしい笑みを見せる。
「なら、一層歩くのには努力しないとなっ!」
そう、思惑に乗るものかと、俺は足に力を入れると同時にそのままの勢いで雪の積もった場所を蹴り上げた。
「きゃっ!・・・なに、するのよ!!」
以前の修練場での試合の時の様に物は違う同じ砂とも言えなくはない、それをディセルにめがけて振りかけた。
「修練場での続きさ!はははーーーー!やっぱり、ディセルも女の子らしい声を出すんだな!?」
と、笑って見せた所までは良かったものの・・・・・・それ以降は地獄だった。蹴り上げた足はその一撃に全てを駆けた技の如く、俺はそのまま後方へと倒れてしまった。幸いにも、頭は雪の柔らかさにより、守られ大事には至らなかった。だが、ここで気絶した方が良かったのではないかという、意味の分からない自問自答をしてしまう。
「ねぇ、キット?魔弾は弾丸よりも威力が強いの知ってる?____実際に見てみないと分からないわよね?」
「____えっ」
「私の目の前に丁度良い、標的があるから試してみる?」
念の為、俺は数秒間という短い時間の中で首を左右に動かした。
当たり前の様だが、周りに俺以外の生物は見つからず、雪が積もった木々が無作為に連なっているだけだった。標的という言葉は間違いなく、生きている者に使われるワードだ。無論、自然も陽の光を浴びて今もこうして、地に根を生やし生きていると言えなくもないが、あいにくそのワードを口にしたのは紛れもない、狙撃手だ。このことが意味することは一つ____生命体=キット=俺に試し撃ちをしようとしているのだ。遠回しな言い方だけに、その意味を理解する頃にはすぐさま、逃げの体制に入っていた。
「ちょ、ちょっと待って!まさか、俺じゃないよな?」
「____さぁ、どうかしらねっ!」
言葉の終わりと同時に俺は思わず顔を手で塞ぐ。この場合、その場所に留まる事よりも、どこかに身を潜めた方が良いのかもしれないがこればかりは、条件反射というもの。どうしようもなかったのだ。
「痛っ!・・・って、これ雪じゃないか!?」
俺の顔にめがけて投げられたそれは白くそして、霧散した。
「うわっ!やめ、やめろって____!」
連弾の様に二発目が俺を襲う。初撃を拭っている間に投げられたのだろう。
白く見えずらい、視界のまま俺はディセルに声を投げかけた。
「雪原に生成された季節限定の魔弾ってところかしらね?」
小瓶でも持つ様に白く、そして丸みを帯びた雪の塊を空にかざしながらディセルはそう言った。
「いや、それは、ただの雪だからっ!」
「・・・・・・分かってるわよ。あんたには冗談ってものが無いの?」
「あるけど、今このタイミングでやる事か!?」
「先に仕掛けたのはそっちじゃない?それに、本当に撃たれなかっただけ感謝しなさい?
「・・・は、はい・・・・・・。まぁ、俺が始めたことだしな・・・・・・・・」
ここで俺は我に返った。何でこんなことをしているんだと。本来の目的を忘れているわけではないが、それでも俺はいつもと違った、パートナーとのコミュニケーションを楽しんでいる自分がいることに改めて気づいていた。
「それじゃあ、気を取り直して先を急ごう」
「・・・・・・どの口が言えるのやら・・・・・・はぁ・・・」
俺の開き直った言葉にディセルが思わずため息をこぼすのであった。




