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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
Bullet&Butterfly in to the Rainbow.
39/100

episode 6

 「まぁいいわ、だけど私からも言っておかなければいけないことがあるわ」


 急に改まってディセルはそう言った。


 「キット あんたは以前のリフとの件を引きずっている様に見える。それにあの日を境に私たちを見る目が尊いモノに変わった様な気がするわ」

 「それは____」

 「それは、自身の大切なモノを失いたくないという《()》よ」


 ディセルにそう言われて俺はやっと気づくことが出来たのかもしれない。心に残るこの重しの様なしこり。単なる疲れからくるものだと思っていたこれは、多分それだ。


 「でも、世界はそんな個人の気持ちなんて考えてはくれないのよ?」

 「・・・何で分かるんだ」

 「私がそうだったから」


 少女の発言は胸の奥から、何か言いようのないモノを吐き出すような声色をしていた。


 「あんたは知っているかもしれないけど、私は一度、【人を殺しているのよ】____それもまだ幼い少女を」

 「そ、それはっ!呪いの体現者の話だろ?」

 「そう、呪いよ・・・呪いなのよ・・・・・・だけど、私はそれでも・・・それでも人だったモノを殺したのよ____あの時レイスが言ったことは紛れもなく真実だったのにね・・・・・・何で・・・」


 あぁ、きっとこれが彼女の本当の姿なのだろう。いつも見せてくれている、あの冷静な姿はきっと、自分の弱さを悟らせない様にしている仮の姿。そして、今こうして心の内を話した彼女が本当(ディーセルシ・ラニ)なのだろうと俺は思った。


 「それにね・・・私はレイスには到底言えないような事もたくさんしてきたのよ?それも、殺人といったことは日常茶飯事だったわ」

 「・・・・・・うん」


 返す言葉が見つからず、返事を返すことしかできなかった。殺人_仮にも人の命を奪う行為のそれは人の禁忌に当たるであろうモノだ。しかし、ディセルとの会話や日ごろの彼女からは想像できないものだった。もし、仮にディセルという少女が殺人に手を染めたとして、それは彼女の本心から起こした行為なのだろうかという疑問が浮かんだ。例えば、悪に襲われ殺されそうになった時に人はまず、自分の身を守るだろう。その結果が起こした、弾み(殺人)と考えれはしないだろうか?少なくとも、俺は彼女にそうであって欲しかった。


 「あの子と出会うずっと前、私は《異能(魔眼)》持ちということで誰かもわからない大人たちに連れ去られたの・・・その際、家族は全員殺されたわ。目の前が真っ赤に染まる中、ただ私だけが悪に重宝ちょうほうされてね・・・・・・。それからは、死角を遮断され手足を拘束され、揺れる馬車の中で次の人生()を待つだけだった」


 震える声で語られるその話に俺は思わず耳を塞ぎたくなる。ここに来て、ディセルとの出会いはまだ数ヶ月と決して長くはないが、それでも彼女の話を聞くだけで俺は自身の生き方の無力さに押し潰されそうになる。


 「そうして、私は地下という牢獄で知らない大人たちが集まる中で競売にかけられたの。血走った目で会場の中央に置かれた商品()を興奮しながら競り合っていたわ。皮肉めいた声も聞こえたわ_「俺が君を絶対に大切にするから」ってね・・・・・・」

 「それでも、本当にそう思っていた人もいたんじゃないのか・・・・・・?」

 「いるわけないっ!だって、商品()を紹介する主催者が言ったのは私の名前じゃなくて、《商品名(魔眼)》だったのよ!そんな、奴らが私を、連れ去られた子供を大切にすると思うっ!?」


 今までディセルの事をそこまで深くは考えていなかったがこの話を聞いた時から、俺は彼女に対する意識が変わったのを今でも覚えている。冷静さの裏に隠した、過去の自分(恐怖)、それらの全てを理解できるはずがないが、それでも彼女は俺に話してくれた。それが単に俺に剣士としての心構えを持てと言う意味で言ったのか、心のはけ口を見つけ発したのかは分からなかった。けれど、そのどちらを取ったとしても、ディセルの過去は決して幸せとは言えない程遠いものだという事だけは言えた。


 「・・・地下競売からはどうやって逃げたんだ?」


 俺は感情の高ぶった少女に小さく聞いた。


 「逃げた?私が?・・・・・・逃げるわけないじゃない____消した(殺した)のよ」


 もう終わった事だと言いたげに発せられたその事実は俺の心に何か刺さるモノを残した。


 「どこかの権力者が競りに買って私を落札(落とした)のよ。その時、私は手足の枷を外され引き渡されたわ・・・・・・そして気づけば、まだ使い方も知らなかった《魔眼(オッド・アイ)》を発動させていた」

 「・・・どうなったんだ?」


 これ以上を聞いてしまうと彼女の中の何かに触れてしまうのではないかという、後戻りのできない後悔を感じながらも俺は興味本位にその続きを聞いた。もしも、その話の続きを聞いて俺の彼女(ディセル)へ向ける目が変わってしまったら・・・・・・。などと、まだ先の分からない事実を聞いた後の俺の心境の変化を考えてしまっていた。


 「【悪魔】が全てを終わらせた____としか言いようがないわ」

 「悪魔?」


 現実味のない単語。

 しかし、聞きなじみのあるそれに俺はどうも、心当たりがある様な気がしてならなかった。


 「幼かった私はまだ、左眼の(魔眼)を制御できるほどの抑止力は持っていなかったの・・・当然よね。だって、歳が一桁の小娘にそんなことが出来るはずもないんだけど・・・・・・」


 ディセルはそう言って苦笑いを浮かべた。


 「そこからはただ、黒い影が集まった大人たちを一人残らず、圧殺・惨殺・撲殺____言い出したらきりがないわ。発動主の私は代償なのか張り裂けそうな左眼を抑えるのに必死であまり見えなかったんだけどね」

 「・・・・・・」


 言葉が出ない。


 「気が付けば、視界に血の海が広がっていたわ。一面、真っ赤な液体に浸され、裸足だった私の足に生暖かい感触が伝わった・・・・・・くるぶし近くまで沈まれたそれは一歩踏み出すごとに指の隙間から、ねっとりと、そしてゆっくり垂れていくの。まるで、死してなおも、落札した商品を手放したくないと言う者の《最期の執着》にも思えたわ」


 少女から語られるのは、想像を絶するほどの過去と吐き気を覚える程の言葉の描写。そのどれもが事実なのだと決定づけるのは、ディセル、本人の存在とその性格だろう。彼女はどんな思いでここまで生きてきたのだろうか?もう、これ以上、魔眼絡みで同じような目に合うのは嫌だとう言うのであれば、レイス以上に彼女には組織での活動をやめて欲しいと思ってしまった。しかし、それを口に出してしまうと目の前にいる少女の信念に何かしらのぐらつきを生じさせてしまうのではないかという不安に駆られてしまう。


 「ディセル・・・俺は・・・・・・」

 「・・・あんたが気にすることじゃないわ」

 「・・・・・・一つだけ聞いていいか?」

 「____何?」

 「どうして、あの頃のディセルは剣士学校に入ろうなんて思ったんだ?」


 それは俺が出せる唯一の質問だった。


 「____自分を守る為よ」


 少女から出た答えはそれだけだった。けれど、その言葉にはいくつもの意味合いが込められたいると思った。魔眼を持って生きていく事で今後、あの時の様な競売に賭けられないという保証はどこにもない。それに、家族を失い身寄りもない彼女を守る者もいなかった。だからこそ、少女は誰にも頼らなくても一人で生きていく術を身に着けられる場所を選んだのではないだろうか。剣士という組織の一員ではなく、単独行動が主な狙撃手(スナイパー)を選び、《一人だけの自己防衛》を身に着けていったのだと俺は思った。魔眼が取引として利用されるのを身をもって知っていながら、今もこうしてそれ(魔眼)を人前に隠すことなく晒しているのはきっと、そういうことなのだろう。


 「それはあんたにも言えたことなのよ?」

 「____え?」

 「私は以前、「その瞳を大事にしなさいよ」と言ったわよね?」

 「あぁ、でも俺の瞳は普通の黒目だけど?」

 「そうかもしれないけど。・・・・・・私と戦ったあの日を覚えてる?そう、中盤位」


 それは俺の件が粉々に砕け散り、無数の破片へとなり果てた頃だった。


 「覚えてるけど、それがどうかしたのか?」

 「あの時のあんたの瞳____青色だったのよ」

 「____っ!?」


 身に覚えのない体の変化を告げられ思わず、意識が眼球に向く。


 「安心しなさい。今は黒だから」

 「そう・・・か・・・・・・でも、何で・・・」

 「恐らく、あんたも《異能》持ちよ」

 「じゃあ俺も、ディセルと同じ《魔眼(オッド・アイ)》ってことか?」

 「それは違う。だって、あんたは両目が青になっていたのよ」

 「両目が・・・・・・?」

 「それに魔眼は《悪魔の眼》とも言われることがあって、色は決まっているのよ」


 ____赤色と。

 ____そして、両目に赤を持つ者を人は悪魔と呼ぶわ。


 赤。俺にはこの色がとてもおぞましく感じた、直接的な何かは分からなかったものの間違いなくその色を俺は見た。単に赤色を見ただけなら、そこまでの詮索はしないのだが俺の()()というのは物などの色合いではなく、生物に対する彩色だった。もしも、それが両眼の色だったら____


 ____そいつは【悪魔】という事になる。


 「それじゃあ、俺の瞳は一体・・・・・・」

 「《天使の眼》と言った所じゃないかしら」

 「天使の眼?____でも、両目が青なんだろ?それなら、俺は天使言うことに・・・」

 「確証はないけどね。赤の反対色だら安直に思いついただけだけど。あんたが天使?そんなわけないでしょ・・・?」


 俺の発言を聞いて、一瞬だけだったがディセルの動きがピタリと止まった。


 「ま、今は発動してないみたいだし。その時が来たら確認してみたらいいわ」


 「ディセルの言葉に俺は頷いた。本当は今すぐにでも鏡を見つけて、自身の目で確かめたかったのだが、もしもそれが《天使》ではなくもっと、違った何かだった場合、制御の方法も使い方も知らない俺では止めることはできず、最悪の事態を招きかねない。そう考えると、俺は自然と今やるべき事へと意識が向いた。


 「____それと、あの子(レイス)を守り抜きたいのなら。いつかはあんたも私と同じ道を辿ることになるかもね」

 「それは俺に《殺人》をしろと言う事か?」

 「殺人?そこまでは言ってないわ。でも、本当に大切な人を守りたいのなら、いつかは悪魔になってならなければいけない瞬間(とき)が来るものよ?それが例え親しい人だったとしても首をはねなければ、自分が殺される。もしかしたら、レイスを手にかけなければいけない時が訪れるかもしれないのよ?どんな誓いを立てたのかは知らないけど、それは絶対なものではないと思った方がいいわ。そうでないとあんたは一生____」


 ディセルには経験故の考察と先を見据えた者の言葉があった。俺は月の日、レイスと出会いここまで来た。そして、約束という名の誓いを交わし、今、こうして生きている。本来なら手放すはずだった命を繋ぎ止めたのは紛れもなく白髪の彼女で創作意欲など今はそれを後押しした気持ちの補正でしかなかった。命を貰った俺が今度は摘み取る側になるなど____ましてや、大切な人を自らの手で殺すなど考えることさえ出来なかった。


 「____例え、その瞬間(とき)が来たとしても俺は決して____」


 この時の俺はまだ何も知らなかった。守るという言葉の意味も誰かを好きになる事への罪も____。その何もかもを現時点での思考や感情では解読出来ずにいた。レイスという一人の女の子と出会った事で変わった俺の人生(全て)、何もかもが新鮮過ぎて時に戸惑い時に焦ったことも幾度となくあった。でも、それを苦にも思わずただ、楽しいという感情が取り巻いていた。そんな気持ちにさせてくれていたのは、白い髪(黒い髪)を持つ少女だった。だからこそ、俺は彼女の為だけに全てを注ごうとまで思った。しかし、そんな思いはただの綺麗ごとだという事に、この先の未来____【二年後の先】を考えてはいなかった俺には気づく事すらできなかった。このレイスに対する気持ちがいつか、他の大切を見つけ季節の様にゆっくりと移り変わってしまうことも、それが起こす惨劇も、何もかも知らなかったんだ。その末に永遠の呪いを残すことになることも____。


 ____それが俺が犯した、自身への最初の殺人だった。



 


 


 _____________________________________



 どれだけの時間(とき)が経ったのかは今はもう分からない。

 それでも、一つだけ分かることがある。

 それは、今もなお、【約束(誓い)】は果たされていないことだ。


 鮮やかに広がる景色の中で一人の描き手は筆を取る。涼し気な風と眠気を誘う暖かな気候が優しく在った。色彩豊かな植物たちと青々とした空。そのどれもが今は愛おしく思えてしまう。過ぎ去ってしまった日々、失った未来の以前、その中に何を抱き、何をくみ取ればこの生命は満足してくれるのだろうか____。もうこれ以上は辛い思いをしたくない、させたくない、それに____死なせたくない。

 かつての自身が抱いていた願いにも似た、想いはいつしか薄れ、今はもう何も感じなかった。ただ、純白と交わした約束だけを最後の最期まで果たそうと心に刻んだ。


 サッ_サッ_と濃淡のあるキャンバスに無数の糸の集まりを滑らせて行く。

 時折、それを水につけながら付着させる色を変えてゆく。

 慣れない画法は描き手に緊張感を与え、筆を持つその手が震えていた。それは、単なる精神的なものからくるモノなのか、それとも____。

 消すことも戻ることも出来ない、その描き方は人生そのもので、まるで自分の事の様だと描き手は苦笑いをした。


 「その子は誰?」


 不意に描き手の右側に現れた純白。

 不思議そうにキャンバスの中の少女に目を向けていた。

 描き手はその質問に対して、少しばかり考えた。

 止めた手に持った筆の先には多めに着けた水分のせいでインクが溜まり、今にもキャンバスに落ちそうだった。

 そうして、止まった時は言葉を発すると同時に動き出す。



 「____【千歳 楪葉(ちとせ ゆずりは)】、共にこの世界に連れてこられ、救えなかった大切な人だよ」



 描き手が質問の答えを言い終えると、不意に筆の先の水滴が音も無しにそっと落ちた。

 それはまるで、涙の様にキャンバスの表面をにじませていた。


 光にに包まれた大地で一人の【描き手】と一人の【純白】は()の許す限り、その中で存在し合っていた________。

 


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