episode 4
セレクトリアの城へと続く階段程ではいないがそれでも、かなりの段数を誇る灰色の直角を一段一段上って行くと、次第に大きな建物が姿を現した。目線の飛び込んで聞きたのは、かの有名なノートルダム大聖堂を遥かに上回る程の大きさと装飾が圧倒する聖堂だった。
「うわ、凄いな・・・・・・」
「そう?セレクトリアの城に比べたらこの程度、何とも思わないけど」
「また、違った凄さなんだよ。これは」
「違った凄さ・・・か」
大聖堂の横に備える様に建てつけられた小さな受付に行くと、一人の女性が俺達に話しかけてきた。
「入信をご希望ですか?」
どうやら、この女性は大聖堂の受付け嬢らしい。教会のシスターの様な服装に小さなベレー帽被ったその女性は優しく語り掛ける様に聞いてきた。
「えっと・・・その、まぁそんな感じです」
「失礼ですが、隣のお方とはどのような関係でいらっしゃいますか?差し支えなければどうか」
遂に聞かれたそれに俺は背筋が張りつめるのをひしひしと感じた。ここでの回答は間違いなく、《恋人》と言うのが正しいはず。だが、もしも・・・・・・ディセルの予想だにしない行動・もしくは条件反射の否定が出れば、ここでの状況は一気に疑いに変わるだろう。最悪、入信自体を断られかねない。
「どうされましたか?何か、ありましたか?」
受付嬢が追い打ちをかける様に無垢な顔で話しかけてくる。
(ディセル・・・!頼む、今だけはどうか耐えてくれ____っ!そして、演技してくれ)
俺は隣の少女の目を見て、強く、そして、訴えかける様に心の中でそう叫んだ。
「____恋人です」
とうとう、言われた真実にディセルが息を呑んだのが分かった。
「あ、そうでしたか!?言いにくいことを聞いてしまいすみませんでしたっ!」
「いえっ、何も隠してるわけではないので・・・・・・な?」
「・・・うん」
奇跡としか言い様がなかった。何かあればすぐに銃を手に取る、ディセルが今回ばかりはその衝動を必死に抑え、今もこうして俺の策の中に懸命に応えようとしている。それを見ただけでも、この任務は自身の考える限りの最良の幕を閉じれるのではないかと思ってしまう。
「ディセル 本当に良かったのか?」
「何がよ?」
「俺と恋人と思われてしまっても」
「それは癪に障るけど、そうゆう事にしておけば、あんたの計画が上手くいくんでしょ?」
「う、うん・・・」
もうここまで来たら、本当の事は言えない。もし、言ったとしたら俺の脳天に風穴が開くことはまず間違えないからだ。それに俺の計画にここまで賛同してくれている、彼女を見るととてもではないが、仕返しとは言えなかった。
「こちらです」
案内されるままに俺達は前を歩く、受付嬢に着いていった。そして、足を止め、視界に飛び込んできたのは、とても現実とは思えない程の広さと神々しさを兼ね備えた大広間だった。フロアは見渡す限り、虹色のステンドグラス調の窓ガラスに囲まれたおり、屋根に当たる場所に備え付けられているそれは、差し込む陽の光を通し、床に《彩色の池》を作っていた。
「ここは信者の皆様が神への信仰をする神聖なる場所です」
だろうとは思っていたが改めて聞くと、何か感じるモノがあった。そう、神が身近に居る様な感じだ。
「俺達も何かしないといけないのですか?」
「入信されるのならば、まずは教祖様へのご挨拶などを済ませてください。と、言ってもそんなに堅くならなくていいんですよ?教祖様はとても寛大な方なので、来る者は拒まずをモットーになさっておられますので」
「分かりました。それで教祖様はどちら行けばお会いできるでしょうか?」
「私が呼んでまいりますので少々お待ちください」
受付嬢が教祖を呼びに行っている間に俺はディセルと最初の作戦を軽く話し合った。まずは普通に挨拶をし、心では別の事を考える。ここまでが計画の基盤を担う絶対的な要だ。次に、相手の出方を悟られない様に確認する。息遣いから、眉の動きといった一見すると気づかないであろう部位に注意する。俺がディセルをリードする形で話を進める。
コツ_コツ_コツ____
ディセルとの会話をしていると奥の方から足音が聞こえた。一つの足音にずれる様に聞こえる音で分かる様にこちらに向かってきているのは一人ではなく、恐らくは受付嬢と教祖の二人だろう。
「いいか、ディセル 君はそのままでいい。普段のクールな君のままでいいんだ」
「うん、わかったわ」
最後に交わした言葉を境に俺達は仕事の時の自分へと人格を変えた。
「私はここで教祖を務めている_ゼオル=ターニスだ。入信を希望すると言うのは君たちかね?」
地に着く程のローブを着た老人が声を発した。賢者の様なその風貌はまさしく、教祖と呼ぶにはふさわしく、こちらも圧倒されない様に気をしっかりと繋ぎ止めようとする。
「はい、俺達はここへの入信を希望しています。俺の名前は_キット=レイターで隣の彼女が_ディーセルシ=ラニです」
(理由を聞いたら殺す)
ここで最初のトラップを設置する。
「そうですか。では、どのような理由で入信を希望されるのかな?」
初撃は想定内だった。これは単に異能が無いのか、それともあえてこちらの手の内を知っての行動なのかはまだ分からない。だが、《殺す》というワードが出されれば例え、嘘だとしても多少の動揺は現れるはずだ。しかし、このゼオルと名乗る教祖は動揺どころか、非常に落ち着いていた。
「理由は特にないですけど・・・・・・強いて言うなら・・・何でもないです」
ここであえてどのような意味にも取れるであろう、言葉を残す。
すると、教祖の隣に居た女性が耳打ちをし、何かを告げた。
「大方、神への永遠の愛を信仰したいと取れるのがだが?どうかね?」
「何故それを!?」
耳打ちで俺達が恋人という事を聞いたのかそれとも、心を読んだのかは分からなかったが確かにこれなら、異能持ちと思われても仕方がない。だが、ここで俺は自身でそれを確かなモノにする様な素振りを取り、相手に有利な立場を少しばかり渡した。
「ははは、その様子だと本当のようだね。彼女から聞いたからね」
今のは単に受付嬢から聞いた事を強調した様に思えた。もしくは出会った瞬間に俺達の関係を読んだのか、それとも、読んだ上での耳打ちで異能の信憑性を隠したのか?
「知られたんなら、仕方ありませんね。実はそうなんです。俺達、お互いに神への信仰が一緒という事が切欠でここまで来たっていうか」
(そんなわけはないだろ、お前たちのやっている事の真意を確かめに来たんだ。俺は剣士だからな)
さらにワントラップ。
「理由はどうであれ、神への信仰を共にする者がここに新たに二名、それは素晴らしいことだよ」
「そうですか?」
「あぁ、私は嬉しい限りだよ。明日からでも来るといい」
入信は教祖との挨拶であっさりと終わり、すぐに介入することに成功した。
____とでも、思うと思ったか?
これは入信を許可されたのではなく、強制されたと取る方が妥当だろう。もしも、仮に俺達の心を読んでいたのだとすれば、入信を拒否し、危険因子をこの場から排除するようなことはしないからだ。むしろ、その危険因子を自身の目の届く、大聖堂で泳がせていた方がもしもの時にすぐに行動に出ることが出来る。そこまで考えての受け入れだと、俺達は考えた方が良いのかもしれない。
「それだは今日はありがとうございました。明日から来ます」
「・・・」
俺は渡された主な信仰内容の紙を手に出口の扉へと向かった。軽く会釈をしたディセルは極力感情を無にし、心を読まれない様にしていたのだろう。
だが____
「最後に一つ聞いてもいいかね?」
「はい、何でしょう?」
「君の思い人は以前、何か調べることを仕事にしてはいなかったかね?例えば____夜を生業にする」
不意の発言に俺達の体は硬直状態になる。これは動作を見て思った事なのか、それとも____。
「何て、冗談だ。老人の悪い癖だと思ってくれていいよ。はっはっは」
「急に聞かれたので驚きましたよ。彼女は以前は花屋で働いていましたのでその調べものならしていましたよ」
(気づいているのか?)
「なるほど」
最後にそう言い残し、俺はステンドグラスが埋め込まれた扉を開き外に出た。
最初の計画としては少し、予想外の出来事があったがこれで一つ_《大聖堂への入信》が達成された。それともう一つ、今日中には終わらせないといけないことが出来た。
__________________________________
「ゼオル様」
大聖堂の受付嬢が声をかける。
「何かね?」
「あの二人はここに入会させても良いとお思いでしょうか?」
「あぁ、そのことか。それなら心配はいらないよ」
「なら!?」
「もちろん、彼らの心は読ませてもらったからね。大方、私たちのやろうとしている事への捜査か興味の類だろう。と言っても、心を読むには少々、手こずってしまったがね・・・」
「そこまで分かっていて大丈夫なのですか?しかし、心が読める以上私たちの立ち位置が危うくなるとは思えませんけどね?それに、そんなこと夢にも思っていないでしょうに」
女は安心したと言いたげな口調でゼオルに尋ねる。
「いや、彼はちゃんと会話していたよ」
「?」
ゼオルの発言に首を傾げる女。「何故、そんな当たり前の事を言われるのですか?」と聞き返すよりも先にゼオルは口を開き核心を言った。
「心の中でね」
「え____? それじゃあ、相手の心の声を聞いた上での会話だったのですか?」
「もちろん。(殺す)と言われたときは少々驚いたがそこはまぁ、精神力の戦いかな。少年の方はわざと心を読ませている様に見えたし、少女の方は少年に心から意識を向けていて何も読めなかったよ。恐らく、あれは本心だろう」
(うわぁ、あの少年、かなりエグイこと言ってるなぁ・・・ゼオル様もよく耐えられたな、てっきり殺られる前に殺るのかと思ってたけど。それにやっぱり心を読まれるのはれ苦手かな・・・・・・なんか恥ずかしいし)
「・・・・・・マナ君、聞こえているよ」
「ひゃいっ!す、すいませんっ!」
「それよりも、明日からは少しばかり警戒しないといけないね。だが、過度な意識は相手に気づかれかねないから気を付けてね?」
「はい!」
「それにしてもなぜ彼は最後に・・・・・・」
「どうかしたんですか?」
マナが尋ねると、ゼオルは暗い顔をし何かを考えた後、声を発した。
「心の中でさえも嘘をついたんだろうか」




