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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
33/100

epilogue

 一度上ったことのある階段は上り切るまでの時間が実に短く感じられた。地上は暗黒の海に観られ、青い月が街を照らす。人の魂の数を比喩したかのように無数に輝く星々。そのどれもが、今はとても恋しく思えた。

 そして、今夜は事件の解決を祝うためのパーティーが行われることになっていた。普通ならこんな事はしないのだが何せ、今回は組織が協力し合って一つの事件に取り組んだ。それに____。


 「キットはこういうのに招待されるのって初めて?」

 「規模にもよると思うけど、そもそも人付き合い自体がなかったからな・・・」

 「そうなんだ。私は何度か経験あるけど、やっぱりなれないな・・・」

 「レイスもなのか?」

 「うん・・・人が多い場所は苦手」

 「良かった」

 「何が?」

 「レイスも、ボッチ気質があるんだなって」

 「・・・・・・キットと一緒にしないで」

 「素で言われると流石に傷つく・・・・・・」

 「それに今は一人じゃないでしょ?」


 そう、俺はもう一人ではなかった。ここに来て、たくさんの出会いをした。始めに出会ったのは夜の闇を真っ白に染める様に舞い降りた純白の天使(レイス)。次に出会ったのは、シルクの様な髪色を持つ、お茶くみのテレサと俺の属する組織_《純白の剣姫(リリィ・ソードダンス)》の団長_セリカ。この街を優雅にそして、気ままに舞う黒蝶(ディセル)

 その他にも数えきれないほどの出会いがあった。そのどれもが目まぐるしく変化する日々に在って、俺はいつしか心に温かさを覚えることが多くなっていた。このことは、隣を歩く少女に言われて初めて気づけたことで、俺はこの繋がりを想いを大切にしていこうと心で強く思うのだった。


 「そうだな」

 「だから、キットも今日はしっかり楽しもう?」

 「うん」


 その言葉で俺は気を取り直し、今からの事に前向きになれた気がした。


 「それにしても、月が綺麗だね」

 「____なぁ、レイス その言葉ってそのままの意味でとった方がいいのかな?それとも・・・・・・《傾く前に出会えてよかった》って返した方がいいのかな?」

 「うん?それはどういう意味?」

 「いや、これは俺の世界の話なんだけど。好意を持ってる相手に直接好きって言えない代わりに使われる言葉に《月が綺麗ですね》って返すことがあるんだよ。・・・だからさ、その____俺のさっきの返答の意味は・・・俺もって意味があるっていうか・・・・・・そういう理由(わけ)で・・・」


 俺も自分自身が何を言っているか分からなくなった。レイスにこんなことを伝えた時点でどうなるっていうんだ?俺とレイスは《描いて描かれる》という関係でそれ以上は無い。何の俺がこんな日本の風習の様なモノを引き合いに出すのは少々意味が違う気がした。


 「____そ、そそそっ・・・そうなんだ____!?しっ知らなかったな?」

 「・・・レイスッ?」

 

 レイスの顔が急な発熱とでも言わんばかりに真っ赤になる。それに何故か慌ててるような口調に俺はとりあえずレイスの手を取った。


 「大丈夫かっ?レイス」

 「きゃっ!」


 手が触れたことでレイスは反射的に一歩後ろへ下がってしまった。そして、俺はレイスの背後に目を向ける。そこには今まで登ってきた階段の段差が無数に見え、俺は咄嗟に離された手を強く握り後方へ傾く少女の体を強く自分の方へと引っ張り返した。


 「・・・死ぬかと思った・・・・・・ありがとう キット」

 「元々は俺が悪いんだし・・・あんな事言って・・・・・・」

 「ううん、キットは何も悪くないよ」

 「そうか・・・?」


 俺はパーティー前の雰囲気ではなくなってしまった、この状況をどうにかしようと、何かいい言葉はないかと考えた。そうして、出た言葉は先程のレイスの発言に今度は答えるモノだった。


 「本当、月が綺麗だな____」

 「うん、そうだね。もし、二年後、こんな月の下で君に描かれながら終われるのなら____私は《死んでもいい》って思えるのかな」


 名残惜しそうな声色でそう発した、言葉はどこか満足しているようにも見えた。


 「あぁ、それまでは想いの限り君を描き続けるよ____」


 俺は白髪の少女を白髪の少女は俺を互いに見つめ合ってそう言った。この世界に来るより前に初めて会った、俺の大切な人。そんな君と今こうして、同じ空の下で意思を疎通できることを俺は永遠に忘れることはないだろう。それでも、どこかに置いてきた寂しさが時折、俺の心を撫でる。そんなことさえも今は愛おしく思えるのはレイスの存在があるからなのだと俺は強く思うのであった。


 「確かに月が綺麗ね? キット」


 聞こえてきたのはディセルの声。


 「ディセル、いつからそこに!?」

 「二人が良い感じになりそうな頃から」


 不敵な笑みを浮かべるディセルにそれを聞いたレイスは思わず顔を赤らめる。


 「でも、安心しなさい?私のは本当にそういう意味だから」

 「聞いてたのか・・・ってそれは言わなくていい!・・・・・・」

 「そんなこと言って、ディセルは好きじゃなくて、キットの事が大好きなんだよね?」


 などと暗黒微笑を作り、ディセルに問いかけるレイス。話を聞かれていた事への仕返しだろう。俺はこの展開を知っている。シチュエーションは少し違うが、俺の予想が、記憶が正しければこの後に来るのはディセルの反逆(照れ隠し)だろう。レイスは今から、自身の身に起こることを知っての事か何故かそう言い終えた後でも余裕の表情を浮かべていた。


 「・・・レイス・・・レイスッ____!あんたまた、そういうことっ____!今度という今度は許さないんだから!!」

 「ディセルから逃げるのなんか、簡単なんだからねー」


 レイスを捕まえようと走り出したディセルだったが、流石にレイスもこの展開を予想していたらしい。待ってましたと言わんばかりにディセルの横をすり抜ける様に交わし、残りの階段を軽やかに上りながら逃げていく。同時にそれを負い始めたディセル。


 「月夜の階段に俺一人か・・・・・・」


 見上げた空に呟いた。


 「俺も行くかな」


 残りの段数を上り終え、俺は城内に入った。

 中は想像を遥かに上回る広さで一フロアだけで過ごせそうに思えてしまう。大理石で出来た床と壁。それにダイヤモンドを散りばめたかの様な装飾のシャンデリア。そのままここで女性の手を引いて舞いを披露すれば、舞踏会と間違われてもおかしくはないだろう。


 「レイス達は先に行ったのかな?」

 「キット様ですね?パーティーは二階の大広間で行われています」


 声をかけてきたのは、モノクロの衣装に身を包んだ、城のメイドと思しき女性だった。


 「君は?」

 「私はこの城の専属メイド兼《今は無き最高位(ロスト・ファミリア)》の秘書剣士です。皆さま、お揃いのご様子ですので急がれた方がよろしいかと」


 澄んだ声で発せられるその声に俺は従う様にその場を後にし、会場に向かう。

 厚みのある絨毯が敷かれた通路を延々と歩き、レイス達のいる場所を目指す。すれ違うのはこの城の使用人だろうか?黒いタキシードを着た男が俺の横を通り過ぎて行く。その他にも、先ほど見たメイドと同じ格好をした少女が数名いた。


 「二階はここであってるんだよな?」


 言われた通りの階に着いた俺は辺りを見回し、パーティーが行われているであろう会場を探した。組織単位の人数が一ヶ所に集まれば、間違いなく扉の隙間から声が聞こえるはずだ。だが、声が聞こえるどころか、物音すら俺の耳には届きはしなかった。


 「あ、キット!こんなところに居たんですね」


 不意に聞こえた人の声。


 「うん?・・・クレイじゃないか」


 現れたのは《今は無き最高位(ロスト・ファミリア)》の一剣士_クレイだった。


 「どうして、クレイがここに?」

 「それはこっちのセリフですよ。ってパーティーに招待されてるから当たり前じゃないですか____!?」

 「クレイも道に迷ったのか?」

 「迷った?僕は別に・・・あっ!キットは意外と方向音痴なんですね?」

 「・・・違うよ。レイス達に先に行かれたから場所自体が分からなかったんだよ」

 「何か言い方を変えただけの様が気がしますが、それなら一緒に行きましょう。会場はこの建物と対をなす向かい側の建物です。ここからなら、空中通路を使えばすぐに行けますよ」


 俺はクレイについていく事にした。空中通路という聞きなれない単語に俺は少しばかり、興味があった。道なりに歩き、時折右に曲がったり左に曲がったりと迷路の中を移動しているような錯覚に陥る。それでも、クレイの様子を見る限りはこの行き方であっているようだった。そうして、俺達は一つの大きな扉の前に辿り着いた。


 「ここからすぐに行けますよ」

 「あ、あぁ」


 クレイが扉を開くと目の前には城の側面部分であろう壁と光の灯った窓硝子が見えた。そして、肌に感じた冷たい風。どうやら、この通路は城内と城外を繋ぐ、最短の道らしい。しかし、一度外に出なければならないとなると、雨の日などはどうするのだろうと思ってしまう。


 「なんかすごいな」

 「そうですか?僕は時々通っているんで何とも」


 灰色の煉瓦で作られた空中通路を俺は歩き出した。音の聞こえる風が耳を掠め、服を靡かせる。

 俺は目線を真っ直ぐから右へと向けた。

 すると、そこにはせれセレクトリアの街が広がっており、例えるなら暗い海に星を降らせたような光景が広がっていた。それに、夜空を鏡のように映し出したようなそれに俺は思わず息を呑んだ。

 そうして、俺は止まっていた足を再び動かし目的地へと向かった。


 「ここ?」

 「そうです」


 RPGで言うところのボス部屋の前と言わんばかりの扉に手を掛けると俺はそれを開いた。重みのある扉はゆっくりと前に弧を描きながら開いていく。鏡開きの扉は本来、両方の取っ手を持って開けるべきなのだろうがその大きさから片方を開けただけでも人が通るには十分すぎる程のスペースがあった。


 「おぉ!」

 「ほとんどの人がそろってますね」



 中に入ると無数の剣士と思しき人間がいた。いや、今は人々と言った方が適切だろう。組織の枠組みを超えて、互いに手に取ったグラスを交わし、楽し気な会話に身を預けていた。クレイは中に入って早々、同じ組織の仲間に呼ばれそっちの方へと向かった。

 眩しいほどのシャンデリアは床を照らし、注がれた液体を輝かせる。それは人も例外ではなかった。


 「あっ、キット こっちこっち」


 俺は視界に入った灯りによって金色こんじき色に染められた髪の白髪の少女に声をかけられた。


 「レイス・・・先に行かれたから道に迷ったよ・・・・・・」

 「ごめん。ディセルから逃げるので精一杯で・・・」

 「それはレイスが始めたことだろ・・・・・・・?」

 「それを言われると、何も言い返せないなかな・・・・・・」

 「ま、クレイのおかげでここまでこれたんだけどな」

 「そうなんだ」

 「それより、その手に持ってるやつ やろうぜ」


 俺はレイスが手に持っている、液体のグラスを見てそう言った。


 「うん!」

 「じゃあ」


 俺は近くを通った、メイドからグラスを一つ受け取り____


 カンッ____!


 交わされたグラスから金色の粒が数滴、宙を舞う。その粒の中に映し出される、会場の光景、幻想的でとても暖かな人の感情、そのどれもが今はこの場所に居る人からくるものだと俺は思った。

 そんな、人たちの顔や話し声、雰囲気、自身の心の温度の上昇を感じていると、失われた俺の青春時代を今、取り戻している様だった。


 「それにしても凄い人だな」

 「そうだね。二つの組織が一つの場所に集まってるんだもんね」

 「あの時を思い出すな」

 「あの時?」

 「ディセルと初めて戦った時だよ」

 「確かにそうかも。でも、あの時の方が多かったと思うよ?」


 そうなのだが、あの場合は俺のいた場所と観戦場所とでは距離があった。それに、目の前の事に精一杯で人の多さなどを気にする事すらできなかった。しかし、今は人の目を気にすることはいらない。それ故、人の多さに圧倒されていた。


 「俺は出来るだけ端の方に居るよ」

 「なら私も____」


 と、レイスが俺の傍に居てくれそうな言い回しをした時だった。


 「キッット~~~~!!待ちなさい、レイスと二人っきりになるのは許さないんだからーーーー!」


 タイミングを狙ったかのように発せられた、違和感のある語尾を伸ばした声。


 「え____?」

 「ディ・・・セル?」


 俺もレイスも目の前の少女に確かな見覚えがあった。あったのだが・・・・・・そのあまりにも普段と違った雰囲気に言葉を失ってしまった。


 「なによ~っ!二人そろって私をじっと見て~!」


 よろよろと、おぼつかない足取りでこちらに近づいて来る瀕死の状態の黒蝶。その手には俺達が持っていた物と同じグラスが握られていたのだが、その中にある液体だけはその限りではなかった。あざといほどに赤い液体がグラスの中で妖しく揺らめく。


 「レイス、ディセルが持っているあれってもしかして・・・・・・」

 「____ワインだよね・・・?」


 気が付いた時には時すでに遅し。


 「それにキットッ!あの時の魔法は何だったのよ~!詠唱も発していないのにあんたの周りに魔力を感じたわよーーーー!あんたなんかが何で《広域魔法》を使えるのよ~~~~。私だってまだその域に達していないのにーーーーっ!」


 酔った勢いというモノはこういうことを言うのだと俺は思った。

 俺があの時使った魔法はどうやら《広域魔法》と言うらしい。一瞬、心の中で誰かが詠唱を唱えたと思ったが本当の事だったんだなと俺は思った。それに、ディセルの口ぶりからして、その魔法はかなりの上位魔法と取れる。発動詠唱は微かに覚えてはいるがその効果までは仮にも発動主の自身でさえも掴み切れなかった。


 (日を改めて聞いてみるか)


 「それに・・・・・・」


 ディセルが急に黙り込んだ。もしかしたら、酔いがさめて正気に戻り自身の言動に耐え切れずに何も言葉を発しないのかと考えた。しかしそれも次のとどめの言葉で打ち消される____


 「なんでレイスばっかり気にかけるのよっ!!私だって・・・私だって~~~~~~~~っ!!キットの事が____」


 それから先を言おうとしたディセルは背後からの何かによって口を塞がれてしまう。暴れるディセルにそれを止める何か。


 「す、すいませんっ!私の不注意でこんなことにしてしまってっ!」


 聞こえてきたのは焦りを感じさせる少女の声だった。


 「君は確か・・・?」


 俺はその少女に見覚えがあった。以前、団長セリカからの言付けがあることを俺とレイスに報告してくれた、オレンジ色の髪をした少女剣士だった。


 「それで何があったの?」

 「ワインをぶどうジュースと間違えられたらしく・・・・・・気が付いたらこんなことに・・・私はすぐに止めたんですがその時には既に一杯程、吞まれてまして・・・私の静止も聞き受けてはもらえず・・・・・・」


 オレンジ髪の少女は事の発端を分かりやすく、そして言いずらそうに俺達に言った。


 「はぁ、でディセルにはもう少し教育が必要だな・・・・・」


 などと、レイスが言ってる間にもディセルはグラスに注がれていた残りの赤を飲み干した。


 「一応確認なんだけど、これで何杯目かな・・・?」

 「私が気づいた時には恐らく一杯程は飲まれていたので・・・これで三杯目かと・・・・・・・」


 俺の質問に対し、少女は少しづつ声の音量を下げながらそう言った。 


 「わかった。後はこっちで何とかするから君は戻っていいよ」

 「は、はい!」


 俺は仲間の元へと戻って行く、少女を見た後、問題の黒蝶に目を向けた。


 「・・・・・・レイス、これってどうしたらいいんだ?」

 「水を飲ませて、酔いをさめさせるとか?」

 「夜風に当てるとかどうかな?」

 「うーん、それもいいかもね。どっちみち、このままここに置いてたら大変な事になりそうだし・・・」


 レイスは苦笑いをしながらそう言った。


 「ほーら、ディセル?ちょっとこっちに来て?」

 「な、なによ~?この前の仕返しをするつもりー!レイスの癖にーーーー!」

 「あはは・・・もうすでに仕返ししてるみたいな気がするんだけど」


 レイスに手を引かれ、半ば連行されていく、涙目を浮かべたディセル。その様子を見ていると、妹を姉がなだめている様に見えて、二人が本当に姉妹の様に見えた気がした。


 「ここは本当に景色が綺麗だよね」

 「そうだな」


 もう一度俺は地上に映った夜空が見える通路まで来ていた。ここなら、外の風も直に当たることが出来るし、周りに人もいない。そう言った点ではここは絶好の場所だろう。

 

 (アニメのキャラが少し風に当たってくるってこういう事なんだろうな)


 「ディセルの方はどうだ?」

 「この有様だよ」


 視線をレイスに向けると、ディセルはレイスの肩にもたれかかる様に眠っていた。その様子は白猫に黒猫がまとわりついているようだった。実際、俺は以前その様な場面を見たわけなのだが・・・・・・。


 「寝てる顔は可愛いのにどうして、いつも素直じゃないんだろう」


 白髪の少女は微笑みながら、ディセルの髪を撫でた。


 「キット 悪いんだけど。私、ディセルを寝かせてくるね?ここにはそう言った場所があるから」

 「あぁ、分かった。俺はもう少し、ここに居るよ」

 「うん」


 _____________________________________


 俺はレイスとディセルを途中まで送った後、再びあの場所に戻ってきていた。満点の星空に澄んだ風。瞳を閉じると、聞こえる風が通り過ぎる音。思い出されるここでの日々、その何もかもに浸れるここで俺は数分の時間(とき)を過ごした。そうして____


 「俺もそろそろ戻るかな____」


 バサッ________。


 背後で風の流れを歪める様に聞こえた何かの音。それは次第におさまり、次聞こえたのは地に足をつける様なコツッという音。とても軽く、何もかもを見破られたかのような雰囲気が俺へと伝わる。


 俺は反射的に振り返ろうとした。しかし____



 『おっと、振り返らないでください。もし、振り返ったら____この城、爆破しますよ』


 (なんだ・・・城を爆破!?そんなことできるのか?それにこの声、どこかで)


 「お前の目的は何だ?」


 俺は必死に平常心を保ち、そう返した。


 『目的、何てありませんよ?ただ、あなたを観察していただけです』


 「観察?」


 『随分と()()()()になれているようですね。 キット=レイターさん・・・・・いや、_____さんの方が良かったですか?』


 「____ッ!」


 『どこで、それを知ったて思ってますね?』


 「お前は人ではないのか。それにここは地上からはかなりの距離がある、それに扉を開けた音は聞こえなかった。お前はここに飛んできたのか?」


 『さぁ、どうでしょう』


 「それに観察って、俺をどこかで見ていたのか?」


 『まぁ、管制塔からでしょうか?あの戦い方は実に見ごたえがありましたよ』


 「あの時のルール説明をしていたのがお前なのか!?」


 俺はこの声に聞き覚えがあった。それもそのはずだ、だってこの声は俺とディセルの修練場での戦いの際に試合のルール説明をしていた時に聞いた声なのだから。


 『覚えていてくれたんですね。光栄です』


 「俺をこれからどうするんつもりだ?」


 『何もしませんよ、現時点では』


 「____」


 少しの沈黙の後、再び何かが声を発した。


 『それでは今宵はこの辺で失礼させていただきます。パーティーを楽しみたいので』


 ____バサッ!


 地を蹴る音が聞こえた。次に翼を羽ばたかせる様な音と強い風圧が俺を襲った。

 今の会話は何だったのかと、考える以前に俺は夢でも見ているんじゃないかという思いの方が強かった。しかし、それも否定できた。もし、この世界に来たこと自体を一つの夢としてしまえばそれは俺の精神を壊しかねないからだ。レイスと過ごした日々が全て偽りのモノだったらと考えるだけで手の震えが俺を取り巻いた。

 それに、背後の何かの気配はあたかも最初からそこに居なかったかのように消え、残ったのはただ一人の剣士のみだった。

 それと、一つ気になる単語が何かの言葉の中にあった。それは、《パーティーを楽しみたいので》という文面だ。これが意味することは、ただ一つ、何かは《純白の剣姫(リリィ・ソードダンス)》もしくは《今は無き最高位(ロスト・ファミリア)》のどちらかの組織の中に紛れ込んでいると考えるのが妥当だろう。城の使用人と考えることもできるがそれはまずないだろう。《楽しみたい》といった言葉は使用人からは絶対に出ない言葉だからだ。


 「今のは一体?うん?」


 気が付くと足元には一片ひとひらの花が落ちていた。妖しい紫色をしたその花は落ちていたというよりはそっと置いていったかのように静かにその場に姿を現していた。


_____________________________________


 それからの俺は失った心を取り戻す様にパーティー会場に戻った。

 ありふれた日常に不穏な気配が静かに迫ってきていると感じた俺はそれに気づきまいと、今はただ目の前の輝きに気持ちを向けようと思った。どんな時だって、傍に居てくれる、俺の大切な人。俺を必要としてくれる白髪の少女に俺はいつだって暖かさを貰っていた。そして、俺も彼女の気持ちに応えようと自身の持てる全ての才を使ってレイスの存在に意味を与える。

 約束で繋がった仲ではあったけど、今はそれが少し違った形へと変化していってるように思え、俺は思わず笑みをこぼした。

 これから先の未来、終着する二年後に俺は何を思うのだろうか?そして、白髪の少女は最期にどんな気持ちをどんな世界を描いているのだろうか?思うことはたくさんあった。それでも、俺はどんなことになろうと後悔はしない、しちゃいけないんだと強く心に誓った。


 「キット、楽しめてる?」


 俺の顔が彼女にそうさせたのかは分からないがレイスは心配そうに俺にそう聞いてきた。


 「レイスといられるのに楽しくないわけないじゃないか」


 ____そんな少女に俺はいつしか安らぎを感じていた。


 「そっか、なら、もっと楽しも?」


 ____包まれるような笑顔に俺は心の脈が速くなるのを感じた。


 「そうだな」


 ____だから、今はその何もかもは不明のままでいようと思った。 


 「レイス」

 「なに、キット?」

 「家に帰ったら、今日の君を描いてもいいかな?」


 ____うん、いいよ。


 他愛のない会話の中にある、絶対の約束。それを守ろうと創作意欲()の続く限り、描き形にする、それを守るために残りの二年()を共に生き続けることを誓った。


 ____これは、少年少女の儚く、そして切なく二人だけにしか理解されない数奇な運命と物語(ストーリー)の話。



 _____________________________________


 「薔薇には何故、棘があるか知っていますか」


 自室の窓から外を眺めながらそう呟く、女。

 景色の最奥を眺める様に淡い瞳で空を見る。


 「これは私の想像なのですが、大切なものを他人に触れさせない為と思うのです。それはまるで、好きな人を悪しきモノから剣で守るような____」


 女は腰かけていた椅子から立ち上がると、先程の窓に近づき透明な硝子に手を触れた。微かにひんやりとした感触が指先に伝わる。


 「この世界も随分と変わりました、それもあの方が来たせいなのでしょうか」


 右手に持っていた赤い花を目線より上に持ち、何かを思い出す様にそう言う女。


 「私の薔薇をまだ持っていてくれているのでしょうか。それにしても不思議ですね。あの庭園には高度な人除けの結界が張られていました、それなのに迷い込んだというのですか」


 それだけが唯一の疑問と言いたげに女は薔薇をそっと夜風に投げた。


 「そんなことは別に気にすることでもありませんね。だって____」



 ____私に会うことが出来るのは、私よりも____。


 と、夜が更ける街を観ながら一人、金髪の髪を持つ女はそう言った。

 残ったのは机に置かれた赤く、そして棘という名の自己防衛を備えた、薔薇だけだった。


 セレクトリア帝国女王 セレクトリア_世はこの先起こる事を予測と言う前兆で感じながら、今はただ急ぐわけもなく、物思いにふける様に静かに瞳を閉じ、そしてゆっくりと開いた。


                              【終わり】





 始めまして、キットです。


 この度は俺の小説をここまで読んでくれて、ありがとうございます。


 俺は今、セレクトリアの街に居るんだけど、こっちの時間帯は今は夜なんだ。剣士兼警備隊の仕事もちょうど終わって、レイスの家からこれを打ってるんだけど、あとがきはどうも書きづらいな。


 イラストなら描けるんだけど・・・・・・。


 まさか、俺がこんな事になるなんて夢にも思っていなかったからさ・・・少し驚いているんだ。それでも、俺はその運命に今では感謝しているんだ。もし、あの月夜でレイスに出会えなかったから俺はきっと____。


 じゃなくてっ____!

 でも今は信頼できる仲間もいるし、イラストの参考になる場所がこの街にはいくつもあるから俺は生きているんだと思う。あっち側の世界じゃ、絶対に見ることのできなかった景色や体験もこっちじゃ、当たり前の様に実現させることが出来る。魔法も少しだけど、使えるようになったし、後は熟練度の差ってディセルには言われてるんだけど、それでも俺の使った魔法はかなりの上位魔法だって話だからいづれは、あの白い髪の少女の呪いも解いてあげたいな。


 ____だからさ、俺は二年後の選択はきっと、二人の望んだ結果になればいいなって。


 それじゃあ、レイスが呼んでるから俺はそろそろ行きます。


 また、どこかで出会えることを信じて____。


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