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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
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episode 27

 穏やかな平穏と静かな日常が戻って来た。昼下がりのコーヒブレイクの様な休憩にも似た時間を俺は自室で過ごしていた。窓から吹き抜ける風は白いレースをなびかせ、次第に俺の髪も揺らめかせていた。

 シャッ シャッと懐かしい音を立てながら、俺は想いを形にしていた。落ち着いた心と取り戻した安定に俺は____。


 トントン____


 扉を叩く音に俺は返事をし、声の主をやさしく部屋へと迎え入れた。


 「ねぇ、キット 今日は何を描いてるの?」


 簡単な質問を少女にされる。


 「今は何も描いてないよ」


 _とだけ、返した。


 「えっ?でも、今、ペン持ってたよね?」

 「持ってたけど、ほら」


 俺は電源の入っていない、パソコンと液タブの画面を見せた。


 「ほんとだ」

 「たまにはのんびりしたいなって思ってさ」

 「そうだね」


 レイスは俺に笑みを見せた。陽の光を反射して、白い髪が一層に光る。


 「レイス」

 「なに?」

 「俺はこのまま、君を描き続けてもいいのかな?」

 「当たり前だよ?逆に描かなくなったら、承知しないんだから!」

 「____ありがとう」


 俺は一言、心の底から気持ちを込めてそう言った。

 視界に映った少女はその言葉を聞いて、「こちらこそ」_____と。

 その時から、俺は自身の現実を真に受け入れることが出来た気がした。気持ちがスッと軽くなる様な感覚に俺は今すぐにでも、目の前の【純白の天使】をえがきたい気持ちになった。



______________________________________________________


 時間は二日前に遡る。


 あの夜、俺は泣き崩れたレイスと傷を負ったディセルを介抱しその場にしばらくいた。

 クレイの呼びかけで駆け付けた、警備隊と捜査隊が迅速な後始末と状況の処理を行ってくれたおかげで俺達への負担は比較的に軽かった。監禁されていた少女は黒い手紙入れが落ちていた家の娘だそうでもう片方の家にも同様の者が落ちていたという。少女たちの両親は二人とも殺されており、首を鋭利な物で斬られた跡があったそうだ。このことが監禁された少女に気づくことを遅らせたのは言うまでもないだろう。

 少女誘拐事件の主犯格である、リフ=スケープは診療で外に出た形跡はなく、この殺人に関しては、俺が相まみえた黒いローブの犯行だと分かった。

 リフの一人娘のウィックはあの夜、自室で眠りについており、()も事件の事に関しては一切を知らない。しかし、自身の父親が居ないことには疑問を抱いており、度々、聞かれることがある。

 間もなくして、ウィックは心臓を悪くし、国の医療機関に入院することが決まった。監禁されていた少女たちも目立った外傷はないものの、両親を亡くしたことへの喪失感と恐怖の後遺症で精神を壊し、ウィックと同じ医療機関に属する、専門的な医者の元、回復への一歩を踏み出したばかりだった。

 そして____


 「あっ!レイスお姉ちゃんにキットお兄ちゃん、来てくれたんだ・・・」

 「すぐに来れなくて ごめんね・・・仕事の後処理が残ってて」

 「ううん、いいの」

 「ウィックの方はどうなんだ?」

 「少し、息がしずらいかな?」

 「・・・大丈夫か?」

 「心配しなくていいよ」


 ウィックの病室を訪ねた俺とレイスは窓際で外を眺めている少女の元に訪れていた。完全個室で面会には特別な許可がいるここは、一言で言うなら、隔離部屋とでもいうのだろうか。病気自体に感染などはなく、無菌室の様な部屋にいる必要なないのだが、ウィックにとってここはある意味心の無菌室であると思えた。

 事件の事についてウィックは俺達に聞いてきたことがあった。最初に聞かれたのはリフの行方だった。自分の心臓の事よりも父親を心配するその少女に俺達は言葉が詰まった。本当の事を言うのが道理なのだがそれを言ってしまえば、赤髪の少女の瞳に今後一切の光が灯らないと思ってしまった。だから、俺はリフの死については語ったもののその中に少しだけ、嘘という名の幸せを着色した。


 ____リフさんは誘拐犯からウィックを守って死んだと。


 赤髪の少女はそれを聞いて、「そうだったんだ」と小さく呟いた。

 白いシーツを握りしめたその手と小さな肩は小刻みに今にも感情を涙に変えそうだった。


 「なぁ、ウィック」


 俺はそんな少女に声をかけた。


 「・・・何?」

 「これを」


 俺は持ってきていた、ある物を少女の前に差し出した。


 「・・・・・・これは?」

 「ウィックとリフさんの絵だよ」

 「えっ? キットお兄ちゃんは絵が上手いの?」

 「上手いかどうかは見た人が決めるものだから、何とも・・・」

 「うん・・・うん!とっても上手だよ!・・・・・・ありがとう」


 ついに泣いてしまった、少女はとても嬉しそうな表情をしてそう言った。

 

 「ウィック、俺から一つだけ頼みがるんだ」

 「うん?」

 「その絵を見るたびにリフさんの事を思い出してあげて欲しいんだ」

 「うん・・・?」


 ウィックは不思議そうな顔をする。


 「以前、リフさんと話した時、ウィックには《お母さんの記憶》があまりないから、せめて《お父さんの記憶》を覚えていて欲しいって言われたんだ」

 「そう・・・なんだ」


 俺の言葉を聞いて、ウィックはもう一度、俺の渡したイラストを見た。その顔色はどんなものだったのか、下を向いていたことで赤髪の少女の真意を確かめることはできなかった。それでも、一つだけ分かったことがあった。それは、紙の上に、ぽつぽつ と小さな水滴が二つ落ちていたことだった。

 

 それから、数日後、ウィックの容態は急激に悪化した。言葉を発するのもやっとな少女は薄れゆく意識の中でしっかりと俺とレイスを見た。今にも閉じてしまいそうな、か細い瞳で赤髪の少女は口を開いた。


 「本当にありがとう キットお兄ちゃん それにレイスお姉ちゃんも」


 少女は最期にそう言って、胸に一枚の絵を抱いたまま静かにそして安らぐように深い眠りについた。


 その様子をレイスは儚い瞳で見つめていた。彼女が今どんなことを思って、その瞳をしているのかは容易に分かった。しかし、それを分かってしまったら俺は____。


 こうして、リフの娘_ウィック=スケープは父親の犯行の一切を告げられないままその一生を終えた。監禁されていた二人の少女の命の対価と言わんばかりに、失われた二つの命。痛み分けと言ってしまえばそれだけの話なのだが、どちらも報われた終わりだったのかは俺には分からなかった。

 もし、天国と地獄というモノが存在しているのなら、ウィックは決して父親には会えないだろう。それがリフ=スケープというただ一人の娘を守りたかった、者への代償なのだと____。


 


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