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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
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episode 25 【Black day】

 《初めて黒に遭遇したのは闇より暗い夜だった》


 剣士を目指したいと思った理由は様々だったけど、その中でもあの日の記憶は今でも鮮明に思い出せる。友達の女の子たちとつい遊び過ぎて、時間を忘れ暗がりの帰路を急いでいた時の事だ。私の家は街の中心街から少し離れた外れにあって、暗い夜道を少女が一人で歩くには十分すぎる程の距離があった。このころ、セレクトリアの街には《黒の手紙(ブラック・レター)》と呼ばれる、正義とは対照的な組織の活発的な動向が連日、新聞の見出しを飾っていた。組織の行動は多種多様で人さらい、盗み、殺人といった代表的な犯罪は日常的に行われ。そして、組織の犯行と思われる事件の現場には決まって、黒色の手紙入れが残されていた。

 私はまだ少女と呼ばれる歳頃だった為かそのことをあまり強く意識していなかった。そう、あの時までは____


 「うぅ・・・・・・ちゃんと時間を見て帰ればよかった・・・」


 遊ぶ時の時間の流れは風が強く吹いた時の雲の流れの様にあっという間に過ぎ去っていくのに帰り道の暗がりはどんなに歩いてもすぐには消えてくれなかった。家までの距離と精神的な恐怖心が少女の心を壊そうとする。黒い髪の少女は胸に両手を当て、常に周囲を警戒しながら歩いていた。


 ニャーッ


 「きゃっ!?猫ちゃんか・・・・・・」


 少しの事にも敏感になった少女の心は一度起こってしまった、鼓動の加速を止めることはできなかった。深呼吸をすれば多少はやわらぐのだが今の少女の判断能力ではそこまでの気持ちの配分はできなかった。ただ、灯りを求め、辺りを警戒し、帰路を行く少女は例えるなら、《迷い込んだ子羊》とでも言うのだろうか?武器になりそうなものを何一つ持たず歩くそれは少女に危害を加えさせようとしている者達からしてみれば、《いつでも殺れる》と思わせてしまっても仕方がないものだった。その考えが少女をここまで延命させていると言っても過言ではないと断言できる。仮に相手が武器を持っていたとすれば、不意を突いて寝首をかぐという手段もするのだろうがそれは《相手が武器》を持っていたらの話だ。それに今ここにいるのは武器の有無に関わらず、身体的にも勝てそうな少女_つまり、《狼と羊》の様な関係性が成り立っている。狼の視点から感が手見たらどうだろうか?明らかに勝敗が見えた試合をすぐに終わらせようとするだろうか?少なくとも、今の状況から考えるには狼は獲物をわざと泳がせているように見える。無論、狼と例えた犯罪者がいればの話だが。


 「あと少し・・・」


 少女が家への帰宅を感じ、安心した時だった。


 ガシャンっ!


 突然、家の窓硝子が割れた音が響く。


 きゃあぁぁぁぁーーーーーーーー!


 次に女性の悲鳴声が聞こえ、黒髪の少女は抑えきれない恐怖心からその場に座り込んでしまう。この時の少女の行動が後に大きな分岐点を生むことになる。


 「____な・・・に・・・・・・?」


 鳴り響いた硝子がらすの衝撃音と女性の悲鳴は闇夜に吸い込まれるように消え。何事もなかったかのような静寂せいじゃくが再び訪れる。


 「今のは・・・?急ごう・・・・・・」


 《自分と関係のないことに関わるのはやめておこう》と、少女はその時思った。今の自分の状況もあまり良いとは言えないのだから_と。

 もしかしたら、次は自分かもしれないという思考の産物生成を無理やり中断させ少女は暗がりの夜道を駆けた。


 駆けて


 駆けて


 駆けて・・・・・・。


 駆けた先で少女は立ち止まった。


 黒いローブを被った者に少女は行く手をはばまれた。

 突然姿を現した黒に少女は判断ができないまま、目の前の恐怖を視界に入れ続ける。闇に現れたそれは何も喋らず、ただ目の前の白に注意を向ける。お互い対をなす色をした者同士は瞬時な判断はせず、少なくとも黒い者は相手の出方を見計らった。そうして、しばらくの沈黙を過ごした後、止まった時間を切り裂くように黒が言葉を発した。


 『理由はどうであれ、この場にいたという事実は変えられない。私たちの様な黒は少しの種火も鎮火ちんかせずにはいられない。まだ、幼い少女のようだがここで命をませてもらう』


 黒は淡々と今から起こりうる、事実を少女にげるとローブの内ポケットに隠し持っていた、小型のナイフを取り出した。持ち手からは先までが綺麗きれいまされており、月明かりを反射しあやしく光る。その銀の輝きに目を一瞬奪われてしまった少女が次に目をしたものは首元で黒光りを放つ刃だった。黒は無駄な動き一つせず、少女の背後に回り込み、首元にナイフをからめる。


 「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!」


 爆発するように吹き上がる恐怖心は少女の精神の限界リミットを壊し、内側から破る様に現れた。のどが潰れる程、叫ぶ少女を前にしても慌てり素振りを一つ見せず手の位置を変えない黒は少女の静寂を待つ様にじっとしていた。


 「い・・・や・・・・・・だ・・・・・・・・たす・・け・・・て____」


 そうして、感情を失った少女を前にしてようやくナイフが意思を持ち始める。


 『精神の方を先に鎮火したか。まぁ、その方が楽でいい』


 黒は命に終止符を告げるべく、刃の腹の部分を少女の首に当て________



 「そんなに可愛い少女を殺すにはしいと思はないのかい?」


 不意を突くように発せられた第三の声。


 「誰だ!?」


 今まで感情の一切を感じさせなかった黒に少しの焦りが芽生える。

 

 「そちらのおおよその正体は見当がつく、黒の手紙(ブラック・レター)だろ?名を名乗るならまずは自分からと言うけど、君には名などないのだろ?まぁ、組織名が分かってるだけで名乗ったことにしておくよ」

 『お前は・・・何だ?』


 黒は声に怒りと不信感、そして殺意にも似た敵意を向け、声の主に言葉をかけた。


 「俺は_アシエル アシエル=グランシストだ」


 アシエルという名を聞いた時、黒髪の少女の意識が少し回復し始めているのを黒は感じ取り、早めに蹴りを付けないと取り返しがつかないことになるとさとった。少女だけなら、ナイフ一本で終わらせることができるのだが今、目の前にいる者はナイフといった玩具おもちゃではじゃれあいにもならない事を黒は嫌と言う程、分かっていた。


 『まさか、こんなところで《白銀の勇者》様に会うとは思わなかった』

 「その呼び名、あんまり好きじゃないんだよね・・・・・・。もっとこういい名前とか思いつかない?」

 『・・・こいつ!・・・・・・無駄な話はよせ、どうせ逃がす気なんて無いんだろ?』

 「それは偏見だな・・・俺達がそんな血も涙もないように見えるのか?」

 『言ってろ お前らはそうやっていつも』

 「まぁ、敵意を向けるんなら こちらもそれ相応の対応はするけどねっ!」


 アシエルと名乗る銀髪の青年は左腰に装備していた剣を抜き、闇を切り裂くようにぎ払った。シュッと風が切れる音が聞こえ、その音を皮切りに黒も隠し持っていたもう一つの短刀をにぎり、銀髪に迫る。


 キィーンッ!!


 凄まじい速度でぶつかりあう金属音が辺り一面に反響はんきょうする。耳の奥まで届く程の衝撃音に少女は思わず耳をふさぐ。だが、少女は先ほどまで失っていた精神を取り戻していた。その理由は今、目の前で起こっている光景が要因だろう。瞳に映る無数の剣線ソードラインは音は聞こえずとも、月の光で美しい閃光を放つ。まるで流星群の様に絶え間なく流れるそれに少女は心を奪われていた。


 『立ち位置一つ変えず、やりあえるのか・・・!?』

 「リーチのせいもあるけど____何より____」


 アシエルと黒の両者は一向に退く気配がなかった。ただ、目の前の敵を消すと言わんばかりに戦闘は続く。終わりの見えない戦いとはこのようなことを言うのだと、少女は子供ながらにそう思った。

 しかし、少女のその思いは次の瞬間かき消されることになる。


 「・・・・・・!!」


 あまりのまぶしさに少女は目をつぶる。瞼の裏側にまで入り込むその光は次第に拡大し、やがて白《無》になった。そのころにはつぶっていた目を開け、少女は再び戦闘の続きを確認しようとする。だが、そこには黒の姿はなく、アシエルと名乗る剣使いの姿しかなかった。


 「えっ・・・?」


 突然の出来事に唖然あぜんとする黒髪を目の前に銀髪が話しかける。


 「体の方は大丈夫だったかい?怪我けがとかしてない?」

 「あの、えっと・・・ありがとうございます」

 「お礼なんていいよ、こっちも仕事の一環いっかんなわけだし」

 「仕事?」

 「言ってなかったね、って言うすきなかったんだけど・・・・・・。俺は剣士をやってるんだ、今は警備隊何だけどね」


 アシエルとの会話は少女の心を和らげ会話も友達と話すときの様に自然になってきていた。


 「そう、朝は剣士で夜は警備隊 そういうのを総称して剣士兼警備隊ダブル・フェイスって俺は呼んでる」

 「ダブル・・・フェイス・・・・・・?」

 「うん あ、そうだ君、家はどこ?女の子を一人で帰らせるのは危ないから俺が送って行ってあげるよ」

 「え、でも・・・・・・私・・・ぐすっ・・」


 家と言う言葉を聞いて、黒髪の少女は今までの事を鮮明にフラッシュバックしてしまった。脳裏によみがえる様々な光景とそれに伴う、感情のあわただしい変化が波のように押し寄せる。首元に這いよるナイフの光、一人で歩く夜道が脳内で再生される。その中でも少女の心に深い傷を刻んだのは無感情な鋭利えいりだろう。


 「いや・・・だ・・・・・・いや・・・いやぁぁぁぁーーーー」


 何がほんとでどこまでが現実なのか境界線を見失ってしまった少女は再び叫び声を上げる。精神が壊してしまってもおかしくない少女を前にアシエルは少女の顔をじっと見つめ、右手を動かしていた。その腕の動きは少しの焦りを感じさせたもののメスを持った医者の様に繊細かつ丁寧な動きをしており、いつしか動きを止めていた。そして、依然として叫び続ける少女の左肩に手を置き、語りかけた。


 「ねぇ、君 こっちを向いて」


 アシエルは半狂乱で何が何だか分からなくなってしまった少女に優しく声をかける。


 「触らないでっ!」


 しかし、その声と共に肩に添えた右手ははじかれてしまう。それでもアシエルはもう一度今度は手を握り声をかける。


 「こっちを向いて」

 「やめて!」


 再び弾かれそうになる手をアシエルは離されないように今度は優しく、そして強く握った。

 そうして、ようやく少女の心が平常に戻った。


 「え、私何を・・・・・・?」

 「何もしてないよ。大丈夫落ち着いて」


 ここで今の事を言うのは無意味だろうと思ったのかアシエルは落ち着いた口調で少女に嘘をついた。


 「あ、そうだ。確か家まで送ってくれるって」

 「うん だから君の家を教えてくれるかな?」

 「えっと、私の家はここから少し遠くにあって・・・」

 「そっか なら護衛のやりがいもあるね」


 アシエルは少女に微笑みかけた。


 「なんでそこまでしてくれるの?」

 「言ったろ?仕事だって、それに君は将来 立派な淑女しゅくじょになりそうだし。そんな女の子を殺させはしないさ・・・ははは」

 「シュク・・・ジョ・・・・・・?」

 「あっ!い、今のは忘れてほしい・・・冗談だから・・・・・・ね?」

 「冗談?よくわからないけど、分かった」


 もし、今の事を少女の両親に言われでもしたらわざわざ家まで送った意味が無にされてしまう。こちらが不審者扱いされてもおかしくない発言をしてしまったのが悪いのだが少女は言葉の意味を理解していない。逆にその何も知らない少女に何かしようとしたと思われることの方が面倒なことになるとアシエルは思った。


 「そうだ、君にこれを上げるよ」

 「え?」


 アシエルが差し出したのは少女の顔が描かれた紙だった。強弱のある線と正確な陰影はモノクロながらに立体感を出したそれは、見るものに「上手い」と思わず言わせてしまう程の仕上がりだった。


 「これは?」

 「君の似顔絵」

 「私こんなに可愛いの?」

 「俺はそのままの君を描いたつもりだよ」

 「そう、なんだ____」


 少女は自分の似顔絵をじっと見つめ微笑んだ。その表情の変化を見逃さなかった銀髪の剣士は「もう大丈夫だ」と心でそう言った。


 「こんなに絵が上手いなら絵描きさんになれば良かったのに」

 「そうだね。俺もできるならそうしたいな____」


 この時、少女の目にはアシエルの穏やかな表情が写っていたがその顔にはどこか影があり、儚さがある様に思えた。幼いながらにも人の感情の変化が読み取れる少女にはこのことが気がかりだった。


 「そろそろ行こうか?」

 「うん」

 「そうだこれ拾っておかないと____」

 「?」


 レイスにはアシエルが拾ったものが何かわからなかったがそれはこの暗闇と同じ位、暗い物だった。


 この後、黒髪の少女と白銀の剣士はゆっくりと目的の場所へと歩みを進めた。

 そして、無事に家へたどり着いた私を両親は泣きながら抱きしめてくれた。叱られることもこの時だけは嬉しく思えた。

_______________________________________ 


 闇の中を黒は一人駆け抜けていた。風より早く、音より俊敏に____。


  『呪いは不十分だが、時期に発動する。その時から、二年がそれが残りの寿命だ』


 黒は駆け抜ける、景色には一切の興味を示さずそう呟いた。

_______________________________________


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