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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
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episode 24

 「君がここに居るってことは何かあったのかい?」

 「子供が街を歩いてまして。たった今、親御さんの元に帰したんですよ」

 「それは危ないね、女の子たちが街を一人で歩くなんて・・・・・・。でも、無事でよかった」

 「えぇ、無事でよかったですよ」

 「流石は剣士様だね」


 一連の会話はいつもの様に落ち着いていて、穏やかな声色が感じられた。


 「____今の俺は警備隊ですが____」

 「____何だいその()はまるで・・・いや言わないでおくよ」

 「それじゃあ、俺は仕事に戻ります」

 「あぁ、夜の警備ご苦労様」


 仕事に戻る。それは、俺が先程まで放棄していた警戒心を取り戻し、剣士兼警備隊(ダブルフェイス)に戻ることを意味していた。


 「____一つ、いいですか?」

 「何だい?」

 「俺はさっき、子供、と言ったんですがあなたは《女の子たち》と言いましたね?何故、一人ではないと思ったんですか?」

 「____」

 「それにここにある、物置小屋に入った時____」

 「最初から見ていた、じゃ、疑いは晴れないかな?」

 「確かにそれは前者の分に対しては有効____ですが、後者に対しては有効ではありません。仮にこの物置小屋で女の子たちが閉じ込められていたとします。それも口、両手両足を拘束された状態で」

 「それで、その監禁という仮説は何の意味があるんだい?」

 「犯人確定に近づける_と、俺は考えています」


 声の主は感情は変えないものの黙った。


 「仮説で生じたその光景で俺は少女たちを助けました。そこで、あることに気づいたんです」

 「何かな?」

 「少女たちに使われていた布からは、ある施設特有の匂いがしたんです。()()()()()()

 「なるほど、だが、それは最初から付着していたとは考えられないかな?」

 「その点に関しては、俺も考えました。しかし、気になる点がありまして____」

 「なんだい?」

 「それは________」


 ____ここが個人診療所の裏側の位置に当たるということ____。


 「何が言いたいのかな?」


 依然として表情共に焦りを感じさせない声。俺はその全てに不気味さを感じずにはいられなかった。


 「単刀直入に聞きます、あなたがこのセレクトリアの街で起こしている、《連続少女誘拐事件》の犯人ですね?」



 ____セレクトリア 個人診療所経営者 院長_リフ=スケープ____



 俺は決定打を放った。

 この時俺は夜の暗さが一気に闇に変わるのを精神を含め五感の全てで感じた。



 「心理戦なら自身があったんだけどね____君には他の人間とは違う何かがあるのか?」


 リフの声色が今まで感じたことのない、黒い声色に変わる。


 「あいにくですが、俺の方が話術は得意なんですよ。だから、最初、()()と言って性別と人数を明かさなかった。それなのにあんたは、()()()()()と性別、そして一人ではないと断言した」

 「なるほど。私としたことが思いがけないアクシデントに動揺してしまったとは・・・」


 リフは不敵な笑みを浮かべ、「まだまだ、だな」と言いたげな表情で頭に軽く手を置いた。


 「仲間に耳が良い奴がいたんでね。場所はすぐにわかりましたよ」

 「・・・まさか、外に聞こえていたとは、私としたことが情けない・・・・・・。いつもの様に殺しておけば良かったんだね」

 「あんたはもう、異常者だ」

 「確かにキット君の言う通り、私は異常者。そして、《連続少女誘拐事件》の犯人だ」


 リフはもう逃げ場が無いと悟ったのか俺の言うことをすべて受け入れ、犯人だと自ら認めた。


 「自白するんですね?俺はてっきり、心理戦で洗脳してくると思っていたんですけど?」

 「それは意味がない事だろ?」

 「?」


 リフはこの状況下においても、焦り一つ感じさせなかった。


 「君は最初から私がこの一連の事件の犯人だと疑ってかかっている様に見えたんでね」

 「見えたのなら、言葉巧みにその場を切り抜けることも出来たはずですが?あなたは人の心理を仕事の一つにしているんですよね?」

 「確かに私はその分野においては並の人間よりは上を取れると思う。だが、鼻からそれに気づいている君には少々やり方が思いつかなくてね・・・・・・。完璧すぎても駄目、下手過ぎても駄目・・・・・・と微調整は得意ではないんだよ」


 リフは「お手上げだ」と言わんばかりに、両手を開き俺を欺くように見つめた。


 「____少女から心臓を取る事は繊細に行っていたあなたにしてはらしくないですね」


 皮肉めいた文面を白衣の男に提示する。


 「それはちゃんとしないといけないだろ?____だって、手術なんだから」


 不敵な笑みを浮かべ、リフ自らの正当化を試みる。


 「じゃあ聞きますけど、あんたのその手術(殺人)に少女たちは同意したんですか?」

 「同意・・・?何だい、それは?」


 リフはきょとんとした顔で俺の質問に返答をする。その様子が俺の怒りの度合いをぐらつかせる。


 「俺の世界には《インフォームドコンセント》っていう言葉(もの)があります。簡単に言ってしまえば、あんたがやろうとしている手術(殺人)の方法やそれに伴う内容、要はしっかりとした情報と少女たちの意思に基づいて行った事なのかってことです」


 俺はいつの日にか、習った医療にまつわる知恵を医者という、確固たる存在の元に振りかざした。


 「イン・・・フォームド・・・・・・コンセント・・・?それはどこの言葉だい?仮にその内容に当てはまる言葉を出すなら・・・そうだなー・・・・・・《必然的制約(ギアス)》とでも言っておこうか?___それと君はまた、《俺の世界》と言ったね?もしかしたらと思ったけど、君はやっぱり、転移者(エミュレーター)だったんだね」


 ここでリフに転移者(エミュレーター)だとばれようが、今の俺には関係のない事だった。それよりも、目の前の男に死んでいった少女たちへの償いを。


 「それがどうかしましたか?」

 「いや、何も?ただ、これで心理戦は引き分けということになるね?」

 「まさか計ってたんですか?」

 「それはそうさ・・・負けるのは自身の心に負の感情を抱かせてしまうからね」


 あくまでも今を一つのゲームとして楽しんでいるリフに俺は鞘に入っていた剣を抜きそうになる。この男を殺せば、事件は解決する。それに俺達には、ある《権限》があるのだから。


 「そうですか」


 俺はこれ以上の語りは必要ないと思い、リフを連行しようと考えていた。無論、犯行動機や犯行手段などこの事件には人の手では到底行えそうにない事柄が多く、その全てを解明しなければいけないのだが、それは今は関係のない事だ。今は一刻も早くこの事件を犯人の牢獄行という形で終止符を打ちたかった。


 「またその目か。君は守りたい者の為に悪魔に魂を売ったことが無いだろ?」

 「何ですか、いきなり?」

 「僕が言いたいのはね・・・大切な存在の為なら人は悪魔にだってなるって言いたいんだよ」

 「____」

 「黙っちゃうんだね?まぁいいさ、どうせ君には分からない」

 「何がだ____」


 俺はこの時、体全体に殺気がみなぎったのを感じた。髪が逆立つような、ポテンシャルが上がるような____。言い様のない、感じが俺の内側、そして外側をオーラの様に取り巻いていた。

 そうして、少しの間があった後、今度はリフが決定打を俺の心に会心攻撃(クリティカルヒット)させた。



 「________《反転の呪い》をかけられた少女の気持ちなんて」



 頭を銃で撃ちぬかれた様に俺の体はゆっくりとスローモーションの様に後方へと傾く。分かっていたはず、理解していたはず、共有していたはずのその気持ちが今、こうして他人に否定されただけで揺らいでしまった俺は恐らく、《分かろうとしていた》だけだったのかもしれない。


 「うるさい・・・うるさいうるさいうるさいうるさいっ!黙れっ!」


 俺は感情に全てを任せてしまった。これがリフの思惑だということは目に見えていた。だけど、そんなことがどうでもよくなる位、俺は自身の気持ちを言い当てられたことに半ば半狂乱になっていた。


 自身の腕が残り二年で使えなくなるという、未来と白髪の少女に出会ったあの夜の日を俺はいつしか、偶然ではなく運命と心に刻み、そう思い込ませていただけなのかもしれないという、根底からの崩壊に俺は俺ではなくなりそうだった。

 それでも、一つだけ揺るぎない思いがあった。それは____



 ____彼女(レイス)を最後の最期までえがき続けるという誓い____


 それだけはどの感情も心も否定はしなかった。

 だから、俺はいつもの様にそっと、あの白い髪の少女を思い出し、心を取り戻した。

 そして、静かにゆっくりと俺がしなければいけないことに目を向けた。


 「よくもまぁ、落ち着いていられるねぇ?今の僕にとっての切り札だったんだよ?」


 ____調子を崩されてはいけない。


 「また沈黙かい?なら、僕から一方的に話させてもらうけど、さっきの話_少女の同意の件だけど、彼女たちに果たしてそれはいるのかな・・・?」


 リフは「何故?」と言いたげにそう言った。


「僕はいらないと思うな?だって____手術後には死んでるやつにはなっ________!!」


 突然、リフは声を荒げ、俺へと向かって走って来た。白衣をなびかせ、向かってくるその姿はあまりにも無防備で俺が剣を前に構えれば、一瞬で心臓を貫くことが可能だろう。

 しかし、リフは止まらない。

 俺は剣を抜き、前に構えた。鏡の様に銀を反射する刃は街の景色を映し出していた。それに俺は視線を向けた。映し出された景色の中に銃を構えるディセルの姿が見え、俺は小さく瞬きをした。それを察しディセルは小さく頷き、銃をリフの右手に向けた。


 「俺に攻撃するということは、死んでもいいってことですね____?」


 俺は目の前の殺人鬼に問いを下す。


 「《あらゆる負傷に対する正当防衛》ってやつかっ!剣士どもはそうやって、合法的な殺人を繰り返してきたんだなっ!それは自分に危険が及んだ時に行う、行為だろ!?お前たちはそうやって____」


 リフは右手に着けていた手袋を外す。そこには、今まで殺してきた少女たちの血だろうか?赤や黒と言った色が肌にしっかりと染みついていた。それは、次第に人の物から何か違った異形の物へと姿を変え、爪先は魔物の如く、鋭利に伸び、見るだけでも切れ味は剣以上と思われる。


 そして、それは俺のすぐ近くにまで迫っていた。



 ____バンッ!



 一発の銃声が聞こえた。


 次にリフの右手から血が飛び散る。


 「うっ____あ、あぁぁぁぁーーーー!」


 リフは突然走った痛みに思わず叫び声をあげ、その場で後ずさる。ディセルの放った弾丸は右手の自由どころか体の自由も奪う程の効果を兼ね備えていたのかリフはその場で立つのがやっとに見えた。左手は右手を支える様にし、荒い息遣いをしながら、こちらを睨んでいる。


 「貴様あぁぁぁぁ、何をしたーーーー!!」


 リフが低い声で俺へと問う。


 「俺は何もしていない」

 「嘘をつくなっ____!じゃあ、この弾痕は何だっ!」


 リフは力任せに右腕を前に掲げ、穴の開いた右手を見せた。


 「それは私が狙撃した跡よ____。それに体中が痺れる弾丸を使ったから逃げ場はないわ」


 不意に響いた声にリフは思わず辺りを見回す。当然、狙撃手(スナイパー)の姿を視認することが出来ず、再び焦りがリフを襲う。


 「残念だけど、あなたは私を見ることは出来ない」

 「こんなことをして許されると思うのかっ!」

 「それは《正当防衛》に対して言っているのかしら?それなら、無意味よ」

 「何故だっ!」

 「だって、見えてないんでしょ?それなら、()()()()()()()()()()()()()()()と考えるのが普通。それに、あなたの様な異常者の話を誰が信じるというの?」


 ディセルは冷酷さを全開にし、リフに完全なる敗北を告げる。


 「もう、あんたは終わりだ。最後に一つ聞かせてくれないか?」

 「何を・・・だ・・・・・・」


 ____何でこんなことをしたんだ?


 質問はただそれだけだった。だが、この質問こそが今回の事件の全てだと俺は思う。


 「____ただ、助けたかったんだ・・・・・・」

 「助けたかった?」

 「あぁ、ウィックを・・・・・・」


 膝から崩れ、壁にもたれかかったリフはただ一言そう言った。


 「あの子は生まれつき、《心臓》が悪かったんだ。だから、満足に外で遊ばせてやることもできなくて、たまに外出しても同じ位の歳の子が走り回ってる姿をいつも羨ましそうに見つめていた」


 話始めた白衣の男の口調は殺人鬼から一人の父親になっていた。


 「妻は仕事で忙しかった私の代わりにウィックの相手をしてくれていた。いつもウィックを常に心配していた。私はそんな妻をこれ以上、悲しませたくない、それにウィックの心臓はどうにかして直したいと思った。そんな矢先、妻は事故に巻き込まれて死んでしまった」


 ____何もかもに絶望し、自分が誰なのかさえ分からなくなっていた。


 「そんな時だった。一人の男が私の前に現れた。全身が黒いローブに覆われ、姿形をはっきりと見ることのできないその男は私にこう言ったんだ」



 『____娘を助ける方法が知りたいか?』と____。


 「初めは半信半疑だった。しかし、その男の話を聞いていくうちに私はそれが真実なのでないかと思い始めてしまった」


 ____妻を亡くし、娘は先の短い命。この先、私だけが残る未来が鮮明に見える様になった時、私は発狂し、黒いローブの男に助けを求めた____。

 すると、男は私に心臓の病気を治す方法を告げた。



 ____『同じ年頃の少女の心臓を移植すること』____と。



 「それを聞いた時、私はどうしようもない気持ちと衝動に襲われた。大切なものを守るために他の何の罪もない少女を殺すのか?と心問いただされたよ」


 ____後悔なんてしてもしきれなかった。


 初めの一人は暴れて、泣きわめき、助けを求めた。 ____殺してしまった。

 二人目はただ、泣いていた。 ____殺したくはなかった。

 三人目は抵抗をした。 ____殺しずらかった。

 四人目は諦めていた。 ____手っ取り早かった。

 五人目は____。 ____奪った。


 「きりがなかった。何度、心臓を奪っても娘に適合する物は見つからなかった。だから、今もこうして____」


 リフは俺に対して、今までの経緯、そしてそれに伴う、感情の変化を話続けた。そこで俺は気づいた、リフのやってきていることは決して許されることはない大罪だ。だが、この罪も最後には全て、一つに交わるのだと。


 ____大切な人を守りたいという気持ちへと____。


 「黒いそいつは僕の心理学からしても何も計れなかった、感情を灯しておらず、人間に対しての殺人にも何の躊躇ためらいも無いように見えた。だから、僕は気づいたんだ、きっとそいつは____」


 リフが言葉を言い終えようとした時だった。


 グサッ____!


 リフの心臓から鋭利な銀が飛び出してきた。俺の顔へと飛び散る赤。


 「キットッ!」


 ディセルが俺の名を呼ぶ。


 俺はすぐに後方へと下がった。

 こんな状況なのに辺りは一斉に静まり返っていく。


 「キット 女の子たちはクレイが____」


 この最悪な展開の最中にレイスは戻ってきてしまった。


 「レイスッ!来るな!」


 俺が声をかけた時にはすでに遅かった。因縁かそれとも運命なのか____それは俺達の前へと姿を現した。


 _____________________________________

 『それ以上の語りは我らへの干渉に繋がりかねない、それ故、火種であろうと鎮火させてもらう』



 おぞましい声が頭に響く。


 「お前は・・・・・・・・・!」


 リフは口から血を流し絶命まじかな体で背後の何かに声をかける。


 『どうやらお前はここまでらしい。使えない駒には用はない。ここで死んでもらう』


 冷たい声が反響する。


 「なん・・・で・・・・・・・俺はお前の言った通りに・・・・・・」

 『汝は最後に道を踏み外した。故にこの様な状況になってしまった。私は隠密な行動を好む故、これ以上はそれに反する』

 「そんな・・・り・・・・・・ゆう・・だけ・・・で」

 『これは全てお前が望んだことだろ?』

 「・・・・・・?」

 『娘の病気を治したいだったな?私はお前にその方法を教えた。しかし、教えたのは手段であり、確実は約束していない』

 「わっかってい・・・る。だが・・・・・・私が死んでしまってはウィックは・・・・・・」

 『安心しろ、お前が居なくても娘は時期死ぬ。結果的に冥府で三人揃う』

 「妻が・・・妻が・・・事故にさえ会わなければ、僕・・・が・・・・・・居なくても・・・・・・」

 『事故」


 何かはそのワードを聞いて、少しだけ感情を現した。その様子を感じ取ったリフの顔は青ざめ、「まさか____!」と声を発した。


 『そうだ、一連の事は全て、お前が願った《故》に起こった《事》だ』

 「・・・・・・」


 最後の言葉が聞こえていたのは分からない。しかし、リフは何かが言い終えた後、それ以降の語りはなくなった。

 _____________________________________


 リフの背後に黒いローブを被った何かが居た。恐らくリフを刺したのはその黒だろう。

 そして、その黒いローブはリフに刺していた刃物を勢いよく抜いた。凄まじい勢いで赤い液体が地面を染める。

 数歩、歩いたところでこちらに向いた黒はこちらを見て、言葉を発した。


 『二年ぶりといったところか。どうやら発動したようだな?視認できるのは好都合だ』

 「____嘘・・・そんな・・・・・・・・・?」


 先程、黒い手紙を見つけた時と比べ物にならない程、レイスの精神は乱れた。悲鳴を上げる気も起きない程にレイスは膝から崩れ落ち、煉瓦の道に体が触れる。


 「レイスッ____!」


 俺は咄嗟にレイスの元へ駆けより、少女を抱きしめた。咄嗟に取ったその行動でレイスの震えが俺へと伝わる。尋常ではない、レイスの異変に俺は戸惑いを隠しきれなかった。


 「な、何で____!?」


 次にディセルの声が耳に届く。


 視線を上へ向けると、ディセルの愛銃は銃口から砕け散っていた。


 『その様な物、私には効かぬ』


 黒いローブの男が言ったその言葉には二つの意味が込められていた。一つは銃の攻撃が聞かないという事。そして、もう一つは《視認遮断》の魔法が効かないという事。先程のディセルの銃への正確かつ迅速な行動はまず、見えていないと行えない芸陽だ。

 そして、俺はもう一つ最後に気づいてしまった事があった。


 「ディセルッ!大丈夫か?」

 「え・・・えぇ、何とか・・・・・・」


 ディセルは苦しい表情でそう言った。俺の位置からは確認することが出来なかったがディセルは声を出す際に辛そうにしていた。もしかしたら、どこかに傷を負っているのかもしれない。しかし、今は他人の心配を出来る程、俺は余裕を持て余してはいなかった。


 『まともに動けそうなのはお前だけだな』


 黒いローブが言葉を発する。


 「あいにく、運だけはいいんでね」


 俺は強がりを見せそう言った。


 『だが、その腕に抱く者はそうではないらしいな』

 「____」


 俺は腕に感じる、感触に違和感を覚え、そちらに目を向けた。

 そこには白い髪をした少女がしっかりと俺の腕の中に収まってはいたが少女の瞳は光を灯しておらず。


 「レイス____?レイス・・・・・・レイスッ!」


 俺は何度も何度も何度も何度も、大切な人の名を呼んだ。声が続く限り、意識が続く限り。

 しかし、そんなことも無に帰されてしまう。

 両手に感じた糸の切れる様な感覚。俺はそれの感じに否定絵的な感情しか持てなかった。少しでも、抱く力を弱めてしまったら、何もかも失いそうで俺は一層に力を強めた。


 『無駄な事を・・・それは自分を壊したくないからしていることなのだろう?』


 言われた言葉は俺の芯を刺そうとする。それに対して、俺は内側の在り方で対抗しようと意識を精神面に向けた。

 その時、ほんの少しだけで力を弱めてしまった。後悔なんてして仕切れない。慰めなど、聞きはしない。慈悲は俺への断罪となるだろう。

 あらゆる、思惑が心を埋め尽くす。

 俺はその全てをあしらおうと必死だった。必死だったんだ____。


 ________そして、少女はそのまま静かに俺の腕の中から零れ落ちた。


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