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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
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episode 23

 レイスとディセルが一連の会話をしている間、俺は周囲の景色を見張っていた。吹き抜ける風に対して、不自然な動きをする葉は無いか、とありとあらゆる事柄に注意を向けていた。《今は無き最高位(ロスト・ファミリア)》の騎士たちもこれぐらいの警戒はしていたはずだ。それなのに、犯人の痕跡どころか姿すら捕らえられないのは、何か別の要因が加わっての事ではないのかと思ってしまう。まず、考えられるのは犯人は単独犯ではないということだ。仮に二人組の犯行だと考えると、どちらか片方が人々の注意を引き、その間にもう片方が犯行に及ぶ。

 そう考えると、この事件は案外、難しい物ではないのではないかと思ってしまう。

 しかし、今もこうして警備を強めているにも関わらず何も進展がないという事に関しては少し気がかりだった。


 「何か聞こえないか?」


 それはちょっとした気づきだった。窓から吹き抜ける、隙間風の様に微弱で会話をしていればまず気づかない程の少音だった。風が運んできたかの様に耳の横を流れて行ったそれは確かに聞こえた。


 「何も聞こえないよ?」

 「微かに聞こえなくもないわ」

 「ディセル、聞こえるの?」

 「凄く、微弱だけど」


 レイスには耳にはこの何かが届かなかったのだが一人を除いてはその限りではなかったらしい。屋根上の黒蝶は何かを感じ取ったようだ。


 「耳を澄まして」

 「うん」

 「分かった」


 俺は二人にもう一度音の確認を取った。


 「何か聞こえる・・・!」

 「これは音なの・・・?」


 レイスとディセルにもそれは聞こえたらしい。


 「ディセル、分かるのか?」

 「仕事柄、銃弾の音とか聞き分けてるから、これぐらいの音ならある程度把握できるわ」

 「どの辺か分かるか?」

 「恐らく、そこの路地を曲がった辺りかな」


 ディセルは街の大通りを少し抜けた場所を指示した。


 「分かった。それと、これは俺からの頼みなんだけど、ここからは出来るだけ身を潜めておいてくれないか」

 「・・・何か策があっての事なのね?」

 「あぁ」

 「分かったわ。あんた達からは視認できないかもしれないけど、すぐ傍に居るから」


 そう言うとディセルは屋根の上で何か呪文の様なモノを唱えた。


 「《闇よ・我を取り巻く・存在意識を消し給え》」


 すると、ディセルの周りに黒い風が吹き乱れた。そして、それは数秒後に消え、再びディセルの姿が現れた。


 「今のは?」

 「《魔法》ね」


 俺はこの時、魔法の存在を改めて認識した。今まで俺が使ってきていたのは剣技と呼ばれる、武器に力を宿し、それを発動させるというモノ。簡単に言ってしまえば、必殺技だ。それに比べ、魔法と言うのは自身に対して効果を発動させるモノだ。今、ディセルがやって見せた魔法だって、俺達へ向いて発動したのではなく発動主に向いて効果を発揮している様に見えた。


 「それで効果は?」

 「《ある特定の存在を除いたすべての存在からの視認遮断》ね。ま、二人からは私が見える様に調整したんだけどね」


 ここで俺は思った。


 「じゃあ、誘拐事件の犯人はそれを使ったんじゃないのか?」

 「それはないわ。だってこの呪文、人に触れたら解除されるのよ?」

 「・・・そうか」


 俺はその現実を突きつけられ落胆した。


 「今はそんなことより、音の聞こえた方に行った方がいいと思うんだけど?」

 「そうだな 行くぞ レイス」

 「うん」


 俺とレイスは下から、ディセルは上から目的地を目指し道を駆けた。走っている最中は風が音をかき消し、その音は聞こえなかった。しかし、そんなことはどうでもよくなるくらい、その音は風の音より勝り始めていた。いや、これは音ではない____人の声だ。

 そうして、辿り着いたのは薄暗い路地裏だった。場所で言えば民家が立ち並ぶ通りの裏側といった所だろうか?


 「この辺から聞こえてる気がするんだけど」


 俺は辺りを見回し、それを探した。


 「ねぇ、キット」


 不意にレイスが俺を呼んだ。


 「何だ?」


 レイスは少し暗い表情をし、斜め前を見てそう言った。その方角には木造の物置小屋の様な者が配置されており、扉には鍵がしっかりとかけられていた。恐らくは、この家の持ち主の物だろう____。


 「____行ってみるか」


 (今回ばかりは俺も・・・怖い・・・・・・)


 だが、そんな心を俺は押し殺し、扉に近づいた。始めは静寂がただ続くだけだったのだがそれも数分経った頃には変化を現した。


 ____た・・・す・・け・・・・・・て____


 ____おね・・・・・・が・・・ここ・・か・・・ら・・・・・・・・・だして____


 「____!」


 その場に居合わせた、俺達、 三人が皆、同じ反応を取った。

 そこからの流れはとても早く、自分でも何をしているのか分からない程だった。

 扉を壊し、中に入ると両手両足を縄で縛られ、口にはきつく布が巻きつけられ、言葉を発するのもやっとな程に拘束された、二人の少女が居た。


 「君たちはっ____!」


 そう、俺はこの少女たちに見覚えがあった。

 今朝、マルスと名乗る騎士が外出禁止の注意を促した少女たちだった。


 「レイスッ!」

 「うん!」


 俺はレイスに声をかけ、少女たちを拘束しているモノを全て外した。


 「何があったんだ?」


 俺が問いをかける。


 「・・・・・・」

 「・・・・・・」


 しかし、二人の少女はあまりの恐怖から声を出せないでいた。俺はこれ以上聞くのは負担が大きいと思い、ひとまず路地の道に二人連れ、座らせた。だが、二人の目には光が灯っていなかった。まるで、死人の様なその目からは、これ以上何も聞き出せないと思ってしまった。だから____


 「レイス、頼みがあるんだ」

 「なに?」

 「この子たちを親御さんの元に帰してもらえないかな?」

 「え、でも警備は?それにこの子たちがどこの家の子とか分からないよ?」

 「それなら、きっと大丈夫だ。夜の警備は何も()()だけじゃないだろ?」

 「・・・《今は無き最高位(ロスト・ファミリア)》」


 現時点でこの周辺を警備しているのは《純白の剣姫(リリィ・ソードダンス)》の一剣士、三人しかいないがそれは場所をここに限定した場合の話だ。街は広く、とてもじゃないが俺達の様な少人数では全てを回れない。だから、組織は区域を分けた。このことが意味するのは俺達の他にもセレクトリアを警備している組織が居るというもの。


 これは単に二人の少女の事を思って頼んだのではない。


 「後は俺に任せてくれ____」


 これはレイスの心を思って頼んだことだ。


 「____分かった。でも、無茶はしないでね」


 レイスの顔はいつにもまして綺麗だった。そんな、白髪の少女を見つめていると、これから起こる事にも自然と勇気が持てた。


 ____うん、俺は大丈夫だから____


 この時の俺はどんな顔をしていたのだろうか。目の前の白猫を安心させる為に笑顔をしっかりと作れていたのか?それとも、溢れ出す不安を閉じ込める時の様な苦痛な表情を必死に隠していたのだろうか?そんなことはどうでもよくなるくらい、俺はレイスにこの場から消えていて欲しかった。


 「____死なないでね」


 一応言っておくと言いたげな口調でレイスはそう言い残し、少女二人を連れその場から去った。俺には分かる、レイスの一応は一応ではなく本当の事だ。この場で一番、不安なのは俺やディセル、それに誘拐されていた少女達ではなく、レイスだ。白髪の少女はここに来る際、「似てる」と言った。それは、間違いなくあの《呪いの体現者》と対峙した夜の事を指している。また、大切な人の心を苦しませてしまうかもしれない・死なせてしまうかもしれないと言う、心配と不安が入り混じった感情を抱かせたまま俺は彼女を一人で行かせてしまった。だが、ここに居るよりはましだろう。


 ____きっと____


 心に言い聞かせるように俺は左手を胸に置き息を吸った。

 そして____


 「そこにいるやつ出てこい____」


 冷静さ冷徹さ冷酷さ、闇を感じさせる声色でこの夜に身を潜めこちらの様子を伺っていた、存在にそう投げかけた。


 コツ_コツ_コツ____。


 煉瓦を踏む靴の音が数回聞こえた後、それは止まり。次に声が発せられた。


 「大きな物音がしたから、気になって見に来ただけなんだけど・・・やっぱり夜の外出はダメだよね」


 声色は非常に落ち着いており、むしろ違和感を覚えるくらい焦りを感じさせなかった。これも、その道、特有の者の癖なのか____。


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