episode 19
中庭は想像していたよりも広く、道の端々に植えられている木々が木陰を作り、比較的涼しく、休憩する場所としては最適だろう。読書をする少女、剣の手入れをする少女、顔を赤らめながら友達と会話をする少女とここでの過ごし方は多種多様で俺は自分なら何をして過ごすだろうと考えていた。
「えーと、レイス達はっと・・・いた!」
ちょうど対角線上に当たる位置に白髪と黒髪の少女の姿があった。巨木にもたれ、何かを話しているのだろうか。その様子はレイスとディセルの過去の話が嘘なのではないかと思ってしまう程、穏やかで優しい表情を時折見せながら、少女たちは話していた。
(俺がいったらあの二人の時間を邪魔してしまうかもな)
と、思っていると。
「あ、キット!やっと来た____」
その場を去ろうとした時、俺はレイスに気づかれ呼び止められる。
「今までどこに行ってたの?」
「普通に城の周辺を探索してたけど・・・?」
「探索?警備じゃなくて____」
「あ、いやっ!別に警備を怠ったわけではないよ・・・」
「それならいいんだけど。どこを探しても見当たらないから先にお昼食べてるよ?」
レイスに適当な言い訳をした後、俺は視線を地面に向けた。
地面にはテーブルクロスの様な布が敷かれ、その上には正方形のバスケットに入った、サンドイッチが色とりどりと敷き詰められていた。
「これ、レイスが作ったのか?」
「えっと、これは・・・」
「私よ」
不意にディセルが会話に入ってきた。
「えっ」
「何その顔?」
「いや、そうじゃなくて・・・ディセルがこういうの作れるのが意外だなって」
「何よっ!私が料理が出来ることがそんなに驚く事____!」
カチャッ
「あ____」
その音だけで次に何が起こるか分かった。
「安心しなさい、中身は実弾だから____」
「何を安心しろとっ!?」
「脳天に一発、確実にヒットすれば苦しまなくていいから____」
「いやいやっ!?おかしいだろ?____分かった、また弾が入ってなかったとかで俺が助かるとか?」
俺はこの状況下でもポーカーフェイスを取り戻し(取り戻したの時点でポーカーフェイスとは言わない)、ディセルの有利的な立場をひっくり返そうとそう言った。
「今度はそういうミスをしない様に工夫してあるから大丈夫よ____」
「はい・・・?」
俺が首を傾げると、ディセルはポケットから何かを取り出した。そして、それを口に軽く咥え、持っていた銃を左手に持ち替えた。
右手は弾の装填部分を外し、左手はそれを支える。
「あらかじめ入れて置くんじゃなくて、今、装填するの。あんたの場合はだけどね____」
もごもごと喋りづらそうに発したディセルの発言で一連の動作の意味、そして彼女が口にくわえている物にようやく理解ができた。
そう、ディセルが今口に咥えているそれは紛れもなく、弾丸だ。
「・・・・・・なるほど」
ガチャリッ
どうやら弾が銃に装填されたらしい。いよいよ、来るとこまで来たといった所だろうか?
「じゃあ、覚悟、決めてね____」
先程のレイスの様な暗黒微笑で俺に銃口を向ける、黒蝶。
「____」
何か言わないと____死ぬ。
「ディセル、いくら照れ隠しだからってそこまでするのは少しやり過ぎだよ?」
緊迫した空気に変則的な風を刺す、レイスのその言葉。
「照れ隠し・・・?」
俺は頭上に《クエスチョンマーク》が浮かんで見えるぐらい分かりやすく首を傾げた。
「そう、ディセルは最初からキットの分も____」
レイスが本当の事を言おうとした時、背後から風の速さで伸びた手に口を塞がれる。
「大丈夫か!?レイス!」
口を塞がれ、慌てているレイスが涙目になりながら、何かを言っている。しかし、口をしっかりと塞いだ、親友の手がそれを無理やり遮断する。
「お、おい!ディセル、やめてやれよ!」
「だ、だって・・・!」
ディセルの顔は頬の部分から全体的に赤みを帯びており。それはレイスが何かを言おうとした時からだった。
「離せっって____」
俺は両手に精一杯の力を込め、レイスを苦しめる肌色を引きはがした。
「はぁーーーー!はぁーーーー・・・死ぬかと思った____」
レイスは大きく二回、深呼吸をした。
「____で、なんであんなことしたんだ?」
「____ディセル」
俺とレイスは下を向いて顔を赤くしている、ディセルに問いをした。
「それは・・・レイスがいけないんだからね・・・!本当の事、言おうとしたから・・・」
「だって、ディセルが余りにもやり過ぎだったから・・・」
「うーーーー・・・・・・そ、それは____謝るから・・・だから・・・」
ディセルは「お願いだから、それは・・・それだけは____!」と自信に取って一番知られたくないことを言われそうになり、そしてなおかつ一番聞かれたくない人が近くにいるときの様なもどかしさと恥ずかしさを混じらせた様な表情で必死に白髪に訴えた。
(ディセルって意外とこういう表情とかするんだな)
「もう、本当に死ぬかと思ったんだから」
「だから、謝ってるでしょ?」
「さすがの私も今回はそう簡単に許さない」
「えっ?」
レイスは腕を組みそっぽを向いた。その様子にディセルは「じゃあどうしたらいいの?」と声をかけるがレイスは一向に返答をしない。俺はただ、その光景を一つのシーンとして眺めることにした。
「____本当に許してほしいなら、三人で仲良くサンドイッチを食べる。これが条件」
「そんなことでいいの?」
「うん」
「わかった。ほら、キットあんたも、もっとこっちに来なさい」
レイスの条件を受け入れ、ディセルは渋々、俺を食事の空間に招き入れた。
「良かった」
「え?」
レイスはさっきまでのツンとした表情を捨て、いつもの冷静な顔に戻ってそう言った。その変わりようにディセルは思わず、きょとんとした顔になる。
「ディセルが自分の気持ちに正直にならないから、私が助けてあげたんだよ」
「それはどういう意味?」
にっこりと微笑ましい笑顔を向けるレイスにディセルは思わず質問をした。
「言葉の通りだよ。ディセルは昔から素直になれない所があるから、私がこうしてディセルの気持ちを実現させてあげたんだよ?」
「レっレイス・・・?なっ何をい、言ってるの!私はべ、別に____」
「ディセルは最初からキットの分も作って来ていた、一緒に食べたかったんでしょ?」
「なっ____///」
レイスに本当の気持ちをあっさりとばらされたディセルは先程までの頬の赤みをさらに濃くしていた。
「そうなのか?ディセルは案外、優しい所があるな____」
カチャリッ____
赤面した表情と目尻に涙を見せたまま、ディセルは羞恥心に抗う様に最後の抵抗を見せた。しかし、銃を持つその手は恥ずかしさからか、小刻みに震えており、一メートルもないこの距離でも弾は当たらないのではないかと思ってしまう。
「もう、ディセルは本当に照屋さんなんだから____ふふっ」
レイスはそんなディセルの行動と女の子らしい表情を見て、口に手を置きクスッと笑った。
「レッイッスーーーー!!さっきから調子に乗ってーーーー!絶対に許さないんだからっ_____!」
などと赤面したまま、怒りの矛先をレイスに向けたディセルは白髪の少女を背後から捕まえた。
「きゃっ!ちょっ、ちょっと ディセル いきなり何するの・・・・・・!」
ディセルは暴れるレイスの体を無理やり捕まえ、胸の二つのふくらみを鷲掴みにした。
「私にこんな恥ずかしい思いをさせた報いよっ!その罪をその身で味わいなさいっ____!」
筋が通っていない、ディセルの文面にレイスは抵抗で返した。
しかし、座った姿勢から捕らえられた体は思う様に動かず、レイスはその場で足を前にバタつかせたり体を捻ることしかできていなかった。
「や、やめ・・・て・・・・・・これ以上は・・・」
「手に感じるこの感触・・・何でレイスはこんなに・・・・・・はぁ____」
(なんだろうこのシチュエーション・・・良い____)
柔らかく、そして微かに感じる芯のある感触をディセルは自身の手という触覚で感じさせられた。黒蝶はレイスのそれの度合いが自分のモノとは違うことに溜息をつき目の敵の様にそれを先程よりも強く揉んだ。
そして、再び嫉妬感からか、レイスへの行為がエスカレートし始めた。
「やんっ____!もう、十分に分かったから・・・分かったからーーーー!お願いだから、離してよ・・・」
それを傍から見ていた俺は止めないといけないこの状況下で創作意欲を優先させていた。完全に小説の口絵になりそうなこの展開を俺は記憶に留めて置きたくて、後の事は全く考えずに今、この瞬間を目に焼き付けていた。
「このっこのっ!これでどうだ____!?」
「にゃん! ディセル、あっ、だめ!」
ディセルのとどめの一撃にレイスは猫の様な鳴き声を発した。
顔はほてり、ぐったりとしていた。それを見たディセルは満足げにレイスをその手から解放し、愉悦間に浸るような顔をしていた。
(・・・俺はどうすればいいんだ____?)
「うん?」
気が付けばレイスの座っていた辺りに俺のペンと紙が落ちていた。恐らく、今の出来事でレイスのポケットから落ちたのだろう。
(今のうちにっと____)
俺はそれを拾い。今の出来事を静かに描き始めた。
あくまで資料集めの一環だったため、今回は丁寧さを捨て、情報量を重視することにした。レイスの胸の感じとそれに伴う、表情の変化。体の動きといった、視認できるすべての事柄を俺は紙に投影した。
「これでよしっと____」
記憶の全てを紙に刻み込んだ後、俺はそれを目の前に掲げ誇らしげにそう言った。しかし、そんな行動も視界の端に見えた、白髪の鋭い視線で硬直させられた。
「____キット・・・」
(うわぁ・・・。完全に怒らせてしまった・・・・・・)
ディセルの魔の手からレイスを助けなかったこと、そしてそんな彼女を一つの資料として写し取っていたこと。この両方が重なり、俺は今危機的状況に瀕してしまった。
「えっと・・・これは、その・・・・・・」
「____問答無用ッ____!」
「うわっ____!?」
レイスが飛びついてきた勢いで俺は後方に大きく倒れた。幸いにも、地面は煉瓦ではなく比較的柔らかい、草の上だったため。頭を痛めることはなかった。
「これでもくらえーーーー!」
「_あむっ!?」
体を起こそうとし、次の行動に出ようとした時、レイスが俺の口に得体のしれない何かを口の中へとねじ込んだ。
しっとりとした食感と微かに感じる塩加減。噛むとシャキシャキとした音を奏でるそれは、恐らくサンドイッチだろう。
「ちょっ_ちょっとレイス!何勝手に食べさせてるのよ!?」
「え、別にいいよね?だって、最初から食べさせてあげる気だったんだよね?それなら別に問題はないと思うけど?」
「それは・・・そうだけど・・・・・・」
「もしかして、自分が食べさせてあげたかったとか?」
レイスは悪戯に笑ってそう言った。
「なっ____!だ、黙れーーーー!」
「ディ、ディセル!?」
ディセルはサンドイッチが入った、バスケットを両手で掴み今にも投げそうな雰囲気をだった。入れ物の大きさからも分かる様に中にはまだ、たくさんの《色彩》が入っているだろう。もし、仮にそれが投げられた場合、俺やレイスにはバスケットの攻撃と無数に入った柔らかな三角が降り注ぐことになる。そうなれば、もう後の祭りだ。
「レイス!さっきの事は謝るか、今は俺に任せてくれ」
「え、わっ分かった!・・・でも、さっきの事は後で____」
レイスの余韻を残した声色は気になったが今はそれよりも目の前の一大事をどうにかしないといけない。俺は涙目で半分自棄になった少女にただ一言声をかけた。
「ディセルの作った サンドイッチ、美味かったよ」
「え____本当?」
その一言だけでディセルは正気を取り戻し、持っていたバスケットをそっと下ろした。
「ねぇ、キット どういうこと?」
レイスが耳打ちで俺に聞いてきた。
「ディセルに聞かれたらまずいから、ここだけの話だけど、単純なことさ。____素直じゃない事と味への自信が持ててなかった故の照れ隠しさ」
「そうなの!?」
「あぁ」
と、自身の見解を述べていると、ディセルが再び声を発した。
「さっきはごめん・・・レイスそれにキット」
俯いたままディセルはそう言った。
「さっきの事は確かに驚いたけど、もう大丈夫だよ ディセル____」
「俺はその____どちらかと言うと嬉しかったかな?」
「なにっ?それは私があんな目に合ってるのを見れたことを言ってるの____」
「ち、違うって!ディセルが俺の事も考えて、サンドイッチを作ってくれたことがだよ・・・」
レイスのその場を凍り付かせるような、視線と雰囲気を肌で感じた俺はすぐさま弁解した。
「ふーん、そうなんだ。なんか腑に落ちないけど、今はそう言うことにしておく」
「信じて欲しいけど、それでレイスの気が済むなら・・・」
その後、俺達は残りのサンドイッチを涼し気な風が吹き抜ける中庭で食べた。
(やっぱり、こういうのっていいな____)




