episode 18
駆け出した足は急勾配の階段とは相性が悪く。俺は止まらない恐怖を体で感じながら高速でそれを下りて行く。せめてもの慈悲と言わんばかりに、階段を上ってくる者は一人もおらず、ぶつかって大惨事になることはまずない事に俺は安堵した。
(いやいや、この状況が既に大惨事だろ____!?これ、どこかでグリップかけないと・・・このまま下まで一直線だぞ!?スピードも上がってきてるし・・・・・・)
考える余裕だけは何故か持ち合わせていた。
視界の横を目にも止まらぬ速さで景色が流れていく。
(そうだ!剣技を使ってみるか?)
俺はレイスから最初に教わった剣技_突進突刺 《チェイス》を発動させようと考えた。あの時、使ったこの剣技は一直線上に刃を突き抜けさせるという技で発動後はと加速した体のスピードがゆっくりと収まり、無重力がその時だけ体を制しているかのような錯覚に陥ったことを思い出した。もし、それがここで上手く発動すれば、俺は天から降臨した使者の様にゆっくりと地に降り立つことが出来るだろう。
「やってみるか・・・!?」
上手くいくかどうか分からない可能性に俺は未来を託すように腰に装備し直していた剣を抜き、すぐさま目の前に突き出した。
「____チェイスッ!」
斜め下を向く階段から俺は無理やり、垂直に飛び出した。重力を無視した、その様子は真横から見たら実に不可解な光景だろう。地を蹴った部分を正三角形の60度の部分として置くなら、今俺のいる場所はそこから架空の延長線を引いた90度の部分に当たる。下を見下ろすと、残りの階段がそこにはあり、俺は本当に空中に浮いていることを改めて認識した。
「って、そんなこと考えてる場合じゃないだろっ!」
そう___まさにその通りなのだ。
このまま、剣技の効果が弱まれば、俺は地上に一気に吸い寄せられる。チェイスの発動時間はせいぜい、十秒といった所だろうか、俺の右手に伝わる剣技特有の雰囲気が徐々に薄れていくのを感じていた。
「ハンググライダーとかあれば・・・あの白い怪盗みたいに____」
そして、ついにその時は訪れた。
「あ____」
剣技終了後、最初に言った言葉がそれだった。次に目線を下に向ける。
「まだ半分も降りていないのか・・・・・・?」
つまりは高低差がかなりあるということ____《落下死》。
「いや、俺にはまだ____」
急降下するはずの体はゆっくりと降下を始めた。走馬灯でも見ているのではないかと思ったがそれは違うらしい。眼前に広がる、広大な街とそのさらに向こう側に見える、新たな街は俺に何のゆかりも無く、走馬灯と言うのは大体が今までの振り返りだと聞く。それが本当だとしたら、この状況は振り返りでも回想でもなく今だと思えた。
「発動後は自身の体に補正がかかるのか・・・どちらにせよ、これはいつか使えそうだな」
徐々に自身と階段との距離が近くなり、俺は安堵のため息をついた。
足先には微弱ながらも、空気の抵抗を感じられ思わず、某RPGの移動呪文を思い出していた。
「____天からの使いが下界に降りて来たみたいだな」
そして、地にブーツの靴底が点くその瞬間____俺は何とも言えない懐かしい気持ちにとらわれた。
_____________________________________
________なんだろう、この感覚・・・・・・もうずっと昔に忘れていた様なこの感じは・・・以前は日常的に感じていた様な________
_____________________________________
「・・・うん?俺今、何考えていたんだっけ?」
気が付くと俺は半分程進んだ階段の上に立っていた。そこに先程、感じた違和感はなく、俺は本来の目的を思い出すかのように再び歩き始めた。
「流石に・・・走りはしないさ・・・・・・」
しばらくの間、道なり一直線に歩みを進めていると、いつしかそれは終わりを告げ、いつもの街の風景が瞳に飛び込んできた。
組織はここから歩いてすぐの場所にあるので、今度は軽く駆けることにした。
_____________________________________
「もう皆、帰ってきてるな」
組織内は任務を終え、各々、食事や会話を楽しんでいる、少女剣士たちで賑わっていた。そんな中、俺は一人の少女を探すべく、辺りを見渡した。しかし、いくら探そうと白髪の姿を見つけることが出来なかった。
「流石に修練場にはいないよな・・・」
俺はもしかしたらと思い、一階の通路を抜け修練場まで来てみたもののそこにはレイスどころか剣士一人の姿もなく、そこにはただ俺が突っ立ているだけになっていた。
引き返そうと、俺は先程歩いてきた道に直れをし、歩みを再開した時だった。
「レイスッ___」
視界に入った白髪に俺は思わず、声をかけた。
「え____?」
声をかけられた白髪はただ一言そう言葉を発した。
「えっ?」
俺も同じように言葉を発した。
「・・・えーと、私・・・レイスちゃんじゃなくて、テレサなんですが・・・・・・」
目の前にいたのはレイスではなく、《お茶くみのテレサ》だった。その容姿のあまりに類似した様に俺は思わず声をかけてしまったらしい。首を傾げ、少々困り気味のテレサの手には忘れるはずもない、あの時のティーカップやソーサーが持たれていた。
「ごめん、間違えた。・・・あまりに似てたから・・・・・・」
「私は別にいいんですけど。レイスちゃんがそのことを知ったらどう思いますでしょうか?」
「うん・・・?」
「もしも、いつも近くにいる人が自分と他人を間違えたらって話ですよ?女の子からしたらそういう何気ないことも気になっちゃたりするもんですよ?」
「そうなのか?」
「少なくとも私はそういう経験をして、気になったことがありますから・・・。あっ、いや別に好きな人にとかじゃないんですからねっ!?」
テレサの妙な言い換えは置いといて、俺は彼女に今自分がしないといけないことをする為に質問をした。
「それはそうと、レイスを見かけなかったか?」
「レイスちゃんですか____うーん・・・あっ!確か中庭にディセルちゃんと居ましたよ」
「そうか!ありがとう」
俺はテレサにお礼を言うとすぐさまその場を後に走り出した。
「間違えられる____か」
そんなことを俺が去って誰もいなくなった通路でテレサは一人呟いていた。




