episode 15
次の日、俺達は早速、団長のセリカの元へ行き、俺の推測とクレイの提案の件を話した。
「確かにその線で考えると、連日の事件に肯定的な理由がつけられるな。しかし、それはあくまで推測に過ぎない。信憑性を高めるには確かな証拠が必要だと私は思うのだが」
「ですが、もし、このことが真実だとしたら証拠を探している間にも次の被害者が出るかもしれません!」
「レイスの言いたいことは私にも分かる・・・・・・だが、そう簡単に組織単位での人間を一つの事件に動かすのは難しいんだ」
その話を聞いたセリカは「分からなくもない」と言いたげな、顔はしたものの、組織絡みでの事件究明には難色を示していた。
「セリカ団長、無理かもしれませんが一度、あちら側の団長様に話だけでも掛け合ってもらえませんか?」
俺は一つの望みを託す形でセリカに要望を伝えた。
「私からもお願いします」
続けるように、レイスが声を出す。
「・・・・・・分かった。____だが、過度な期待はするなよ?叶わなかった時のショックがあるからな」
「はい!」
「ありがとうございます!」
セリカの出した答えを聞いた俺とレイスは静かに喜びを噛みしめるようにそう言った。
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翌日、俺達はいつもの様に家を出て、組織に向かって街を歩いていた。
「なぁ、レイス」
「うん、どうしたの?」
「心なしか、街にいる剣士の数がいつもより多い気がするんだけど?それに、騎士っぽい人も」
「確かに言われてみれば、そうかも」
街を見渡すと、至る所に剣士や騎士の様な人が配置され、気難しい雰囲気が漂っていた。そんな光景を横目に俺やレイスは他愛のない会話をしながら、目的地までの道を歩いた。
「中はいつもと一緒だね」
「安心したよ」
純白の剣姫の組織内はいつもと変わらず、ほとんどの剣士が少女で騎士の類は姿形が視認できなかった。
「副団長_レシウル=ロイ様、団長_セリカ=グランシスト様が御呼びです。どうか、そちらに向かわれて頂けますでしょうか?」
オレンジ色をした髪色を持つ、少女剣士が不意に声をかけてきた。
「団長が?分かった、すぐに行く。ありがとう」
「は、はいっ!そ、それでは私はこれでっ____」
オレンジ髪の少女は副団長という上位階級の者と話したことが無いのか、それとも単に緊張しているのか、どちらにせよ、早くその場から消えたそうにそう言って、持ち場に戻って行った。
「あの子、大分、緊張してたな」
「最初は大体、あんな感じだよ」
「そうなのか?」
「私も初めて、組織に入団した時もあの子と同じ感じだったから。・・・まっ、ディセルは逆に先輩に緊張感を与えていたけどね」
「・・・なるほど・・・それが今の性格にそのまま反映されてるってわけか・・・・・・」
などと、話している内に団長室の扉の前にまで来ていた。
「俺は呼ばれてないけど、入っていいのかな?」
「傍付き剣士を付けているのは私だよ、同行の許可権は私に託されてるのだから、これだけはいくら団長でも拒否する権利はないよ」
(副団長様って凄いな・・・・・・一生守られてたい)
扉を静かにノックし俺達は中に入った。
「ん?傍付きは呼んでいないのだが?」
案の定、予測できた状況になる。しかし、先程のレイスの話が本当ならこの場を何事もないように制してくれるだろう。
「傍付き剣士の同行は私が許可しました」
「・・・わっかた。まぁ、キット、私が今から話すことにお前が関わってないとも言い難いからな」
「俺に?」
「実のところ、今回、今は無き最高位が私たちの考えに賛同してくれたのには団長の私が掛け合っただけではなく、キット、お前の考えが後押しをしたと考えてもいいんだ」
「それはどういうことですか?」
俺は率直な疑問をセリカにぶつけた。
「以前の修練場での戦いをあちらさんの団長様が観戦してきていてな、あの変則的な戦いに興味を持ったそうだ」
「それが今回の決め手だと?」
「間接的にはな」
「えっと・・・?話が読めないのですが・・・・・・」
この時の俺の考えはいたって簡単だった。もしかしたら、俺の戦い方が今後の戦力として使えると思った、今は無き最高位の団長が事件捜査への参加する代わりに、俺を含め、純白の剣姫の剣士を次にあちら側の任務に協力するという等価交換の様な契約を結んだのではないかと思った。
「見当はつくだろうが、この事件が無事解決すれば、今度は私たちが協力する側になるという形を取った」
予想は的中した。
「それはどんな任務なのですか?」
「まだ、はっきりとした情報はないのだが、《聖堂教会》の捜査と聞かされている」
「聖堂教会ですか____」
レイスは顎に手を置き、何かを考える素振りを取った。
「レイスは何か知っているのか?」
「ううん、私もうわさで聞いたぐらいの事しか・・・・・・」
「どんな噂なんだ?」
「《黒魔術信仰》かな」
「あからさまだな・・・・・・」
黒魔術_それは以前レイスから聞いた、《反転の呪い》の事が記された書物で出てきた《闇の魔法使い》が使えたという魔術。
もし、この教会が黒魔術を本当に成しえているのだとしたら、この捜査はレイスにとって心の傷口を深く、傷めることになるだろう。逆に考えれば、これはある種の転機なのかもしれない。それは、どんな形にせよ、《黒魔術》=《反転の呪い》に近づける機会なのだから。
「どちらにせよ、教会の捜査は今回の事件が片付いたらの話だ。先の事を考えるより、今は目の前の事に意識を向ける様に」
「はい!」
「分かりました!」
俺達は団長との会話を終えた後、配属された持ち場へと歩みを進めていた。
今回の指揮は今は無き最高位にあるそうで、セリカが渡した名簿を元にあちら側の団長が配属場所を決めたそうだ。普段なら、セレクトリアの街をくまなく歩き、事件が起こっていないか見回りをするのだが、あらかじめ自分の持ち場が限られているとそこだけに注意を集中させることが出来、剣士に立ちにとって、自分が守る範囲が明確なのは非常に楽だろう。
そこまで考えた故の判断なのだとしたら、今は無き最高位は有能な組織と言わざるを得ないはずだ。
『しかし、人間は随分と無駄なことをしますよね?たかが、子供、一人や二人の命、無くなったからって、ここまで厳重な警備をしますかね?』
聞こえてきたのは、恐らく同じ剣士か騎士だろう。薄紫色をした髪の青年が聞こえる様にそう呟いていた。
「おい、マルス!!今の言葉を速やかに撤回しろ!それは亡くなった少女たちへの冒涜だぞ!それに、お前がその様な発言をしたと分かれば、我ら《今は無き最高位》の品格が問われる」
マルスという青年の発言に近くに居た、同じ組織の男が怒声を浴びせた。
『すみません、先輩・・・すこし、言い過ぎました。以後気をつけます」
「まったく・・・お前の言動には心臓がいくつあっても足りんぞ?」
『心臓は一つですよ?後、命も』
「屁理屈を・・・・・・。ほら、お前の仕事をするべき時が来たぞ」
マルスの先輩と思われる男が指さす先には、二人の少女がこちらに向かって中よさそうに歩いて来ていた。
察するに、マルスが任されている仕事は少女たちへの注意と安全の確保だろう。
『そこのお嬢ちゃんたち、悪いんだけど、今日からしばらくは外出は禁止なんだ』
マルスは少女に警戒心を与えない為に中腰になり、少女たちと同じ高さに目線を落として声をかけた。
「えっ?なんで・・・というかお兄さん誰?」
『俺はこのセレクトリアの街を守る、騎士さ。だから、ここはお兄さんの言うことを聞いてくれないかな?』
「どうする?」
「うーん」
マルスの言葉を聞いて二人の少女は互いの顔を見つめ合い、今後どうするかをお互いに目配せをしながら聞いていた。
「お兄さんは、本当に騎士様なの?」
一人の少女が質問した。
『もしかして、俺、疑われてるのかな・・・?えーと、これでどうかな』
マルスは腰に付けていた剣を抜いた。陽の光を反射させる、それは目を塞いでしまう程、眩しく光、少女たちも思わず両手で顔を隠していた。
『信じてもらえたかな?これは紛れもなく、真剣。これを持ってるてことは騎士って思ってほしいんだけど。・・・ほら、一般市民がこういうの持ってると捕まっちゃうだろ?』
マルスは少し、焦り気味に自分の持ち物への意味と理由を肯定的に付けた。
「・・・分かった。信じる」
「そう・・・だね」
二人の少女は引き気味にそう言って。マルスの事を騎士と信じた。
『信じてもらえたようで、助かったよ・・・一時はどうなる事かと思ったよ・・・・・・』
マルスは抜いていた剣を腰の鞘に戻すと、静かに立った。
「ねぇ、騎士様は、あぁ言ってるけど、朝から事件は起こらないよね?」
「う、うん。だから、少しだけなら____」
内緒話をする様に小さな声で会話をする少女たち。この警戒心の薄さが事件を未だに引き起こしていることを俺は良く知っていた。だから、今度は俺が少女たちに忠告をしようとその方へ歩みを進めようとした時、再びマルスが少女たちに声をかけた。
『少しぐらいなら、俺はいいと思うけど』
その発言を聞いて俺は(何を言っているんだ、それじゃあ、さっきの注意と真逆じゃないか・・・?)と俺は心の中でそう思った。
「え!?いいの」
「や、やった!」
思わぬ展開の変わりように少女たち互いに握っていた手を離さないままその場で軽くジャンプをした。
『あーでも、これだけは伝えておくよ?』
マルスが発言すると、少女たちは笑顔を一時消し、目の前の騎士を見つめた。もしかしたら、今のは嘘で本当はこれから「家へ帰されるのでないか?」と言う不安を少女たちは顔に出していた。
俺も彼女たちのその不安が的中して欲しいと思っていた。彼女たちには酷だが、それでも死ぬよりはましだろう。それに、死んでしまったら、元も子もないのだ。だから俺はマルスのこれからする発言に少しの期待と騎士としての節度ある行動を思った。
しかし、彼から出た発言はその場にいた少女の精神面を大きく凍りつかせた。
『____死にたいなら____』
そう言った、マルスの顔は先ほどまでの優しい騎士ではなく、例えるなら・・・例えるまでもないだろう。真逆と言った方が適切だろう。
「ひっ・・・!」
「いっいや・・・・・・!」
この変わりように二人の少女はお互いの体を抱き、震えを必死に抑えていた。
『あ、ごめんごめん・・・!怖がらせちゃったね』
「うぅ・・・・・・」
「怖いよー・・・」
マルスの発言と事件の事が合わさって、二人の少女はその場で涙目になってしまっていた。しばらくすると、状況を察知っしたのか先程の先輩と呼ばれていた男がマルスの頭に拳を勢いよく当てた後、少女たちを引き受けていた。
「お前は何を考えているんだ・・・!!」
『すいません・・・先輩・・・。あぁでも言わないと、分かってもらえなさそうだったんで』
「ったく、お前と言うやつは・・・・・・今の事はもういい。お前は引っ込んで街の警備でもしてろ」
マルスにこれ以上、被害者を出させたくない先輩騎士は自身の仕事をマルスと変わり、事なきを得ようと考えたのだろう。
『分かりました。俺もそっちの方が楽でいいですし』
「____マルス」
『あっ____冗談ですよ・・・!』
先輩の鋭い眼光を目の当たりにし、マルスは『やってしまった・・・・・・』と言う顔をし、苦しい言い訳を返した。その後、仕事を変わるべく、お互いの役割と持ち場を教え合った二人はその場から去っていた。その去り際、マルスは独り言の様に呟いた。
『最近の子供はどうも、言うことを聞かないな____』




