episode 12【First part】
【純白の剣姫の傍付き剣士になって最初の休日 一日目】
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「えっと・・・寝ちゃってたのか・・・・・・?」
気が付けば隣にレイスの姿はなく、代わりにペンが置かれていた。
「ふわっと、うん?」
椅子に座って寝ていたせいで腰には負荷がかかり、体に妙な気だるさを覚える。伸びをしようと、上げた両腕は重く、確実に肩が凝っていた。
「今日は休日だよな。まさか次の日から休みだとは・・・・・・そういえばレイスは何をして過ごすんだろ・・・うん?」
俺は素朴な疑問と自分のするべき事を考えていた。
外の景色はとっくに闇を払い、目を思わず閉じてしまう程の光が姿を現していた。
「そうだ、とりあえず一階に降りるとするか」
席から立つと、ファサッと何かが床に落ちた。
「毛布?レイスがかけてくれたのか」
俺はそれを拾い上げ、ベッドの上に置き部屋を後にした。
左手を手すりに滑らせ階段を降りて行く。
「あっ、おはよう キット」
一階に降りるとすぐにレイスと出会った。紺色のカーディガンに黒ニーソ、それにホットパンツと言った私服が女の子の太ももを引き立たせていた。
「おはよう レイス。今日はどこか、行くのか?」
「これと言ってすることもないんだけど、ウィックの所に行こうと思ってるよ。約束したし」
「あー、確かそうだったな」
「キットも行く?」
「俺も行っていいのかな?」
「いいよ、それにウィックも遊びに来てくれる人が多い方が嬉しいと思うし」
「そうか。なら、支度してくるよ」
「うん」
俺はレイスと休日一日目の予定を早々に決めた。と言うのも俺も別段これと言ってすることもなく、このままでは最悪二日間、家の中で過ごしかねなかったからだ。それそれで良いのだが、折角見知らぬ国に来たというのに見物しないのは勿体ないと思った。そう言った、考えが俺を外へと連れだした。
「ここに来て数日経つけど、未だに慣れない部分もあるな」
「どういうとこが?」
「これと言って断言できるものはないけど、全体的な雰囲気かな?俺のいた世界とは街の風景が真逆なんだよ」
「日本以外の国に似た様な場所は無かったの?」
「海の向こうの国のイギリスとかかな?と言っても俺は外国には行ったことがないからな」
「でも、今はそのどれよりも遠い場所に来てるんだけどね」
レイスは確信的な発言をした。そう言われればここは飛行機に乗って行く海外、それに船に乗って辿り着く島とはそもそものわけが違う。何て言ったてここは《地球》から離れた場所にある《異世界》なのだから、と俺は思った。
「それを言われると返答のしようがないな。でも、多分、俺が一番遠い場所に来た人間ってことになるのかな?」
「そうなるかもね。そう言うの雲の上の人って言うんだっけ?」
「若干意味が違う気が・・・・・・」
この時俺は(それじゃあ、俺は死んでるみたいじゃないか)と心で思った。
「なぁ、レイス」
「うん?」
「そういえば、団長に一つ言ってないことがあったな」
「?」
「少女誘拐事件の話だよ。あの時はそういう、状況じゃなかったから仕方ないけど、今となっては見過ごせない」
俺はその事件の事を忘れてはいなかった。と言うより、ウィックの家へ遊びに行く事になって再び思い出した。俺の推理が正しければ、犯行は午前中に行われている。そのことを踏まえると、今もどこかの少女が狙われているかもしれないという最悪が頭をよぎる。
「____そういえば伝えてなかったね。でも、あの時のキットはただの市民だったから話を真剣に聞いてくれるとは到底思えなかったから」
「確かにあの時はな?でも、今は_君の傍付き剣士だ。純白の剣姫の一員になった今なら話ぐらいは聞いてくれると思うんだけど」
「そうだね。じゃあ、休み明けにも話してみよ?」
「うん」
本当は今すぐに伝えるべきなのかもしれない。しかし、休日の団長の居場所をレイスは知らず、俺は休日明けの通達を余儀なくされた。
____あの時の俺はまだ知らなかった、この選択は何人かの少女を犠牲にする形でそれ以外の被害を産まない、最も残酷で最も最良な選択だった事を俺は後に思い知ることになることを____
以前とは違った服装で俺は街に出た。隣を歩く白い髪の少女も剣士服から年頃の少女に見合う私服に身を包み歩いていた。はたから見たら、デートに見えなくもないこの状況に俺は心音が速くなるのを微かに感じていた。
(こういうのって何て言えばいいんだろ?・・・・・・デート?いや、そうじゃない・・・)
俺は今の展開に意味を探していた。常日頃から女の子を可愛く描くために、欲求よりも想像力を優先的に働かせてきた俺は実際の経験に戸惑いと緊張を覚えていた。挿絵などで見かける、男女が仲睦まじく歩く絵を俺は不意に思い出していた。あそこまで笑顔で手を繋いで歩ける様になるまで俺は何年かかるのだろうと思ってしまう。だが、その疑問すら考えることを俺は許さなかった。
(何年じゃないだろ、レイスには二年しかないんだ)
そう、レイスには明確な寿命があったからだ。
そんな、彼女を笑顔にして手を繋ぐのに数年もかかって良いわけがない。本当の事を言うと、数日すらかかるのも惜しい。だから____
「行こ レイス!」
「きゃっ! キット 急にどうしたの?」
俺は突然の出来事に驚く、レイスの手を取り駆け出した。こんな大胆なことをするのは人生で初めてだ。(少なくとも俺の中で)白く指先まで整っている手を俺は引いていた。
レイスと俺は《描いて・描かれる》の関係で結ばれているいるはずなのに、いつの間にか俺はそれ以外の関係を気づこうとしていた。レイスはどう思っているかは分からなかったがそれでも俺は彼女に貰った、創作意欲をしっかりと使い切ろうとこの時、強く思えた。
「時間は進み続ける、なら少しでもそれに追いつこうと思っただけだよ。____だから、今はこのままで」
「____うん」
意味が伝わったのかは定かではないが俺の言葉を聞いてレイスは優しく微笑み返事をした。
地面を蹴る、足取りは軽く風になったような気分になる。いつもなら、重く感じる、革製のブーツも今はしっかりと足に適合し、身軽さを感じさせていた。
(今はただ、この時を生きよう____)
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二匹の鳥が翼を羽ばたかせ寄り添うように飛ぶ。そんな、感覚で俺とレイスは煉瓦の道を通過していく。始めはお互いの歩幅の違いにつまずきそうになったがそれも次第になくなりいつしか、俺は彼女をしっかりとエスコートしていた。途中で「この前とは逆だね」っとレイスに言われ、俺は「何が?」と問いを返した。すると、レイスは「キットを純白の剣姫に連れて行った時の事」っと返した。それを聞いて俺は「あ、確かにこの前とは逆だな」と返した。
何も逆になったのはエスコートする立場だけではない、それは役目の事だ。あの日俺達は仮にも、剣士としてあの場所を駆けた。でも、今は一人の市民としてこの場所を駆けている。それに、先程も言ったように傍から見たら俺達はカップルに見えてもおかしくないと思えた。そこまで考えると、今の俺達は剣、そして流れる血とは無縁____それらの荒事とは正反対の生活を送っていることになる。
本当の事を言うと、レイスにはこの生活を続けて欲しかった。
「あれ、ここじゃなかったけ?」
「・・・・・・」
無我夢中で駆け抜け行き着いた場所は俺の予想とはかけ離れた、路地裏だった。朝だというのに日の光が届かず常に薄暗い。
「キット 場所分かってる?」
「えーと・・・そのはずだったんだけど____」
何も言えなかった。それを言ってしまうとこの状況を確定させてしまうからだ。
「多分だけど____」
「いや、大丈夫!きっと、俺が何とかするから!」
咄嗟に口から出まかせが出る。
「そうじゃなくて、私はこの場所を知ってるよ」
「え?」
予想外の言葉だった。
「ほら、そこにバーがあるでしょ?」
レイスは俺の背後を指さした。それにつられて俺は指先が示す方向に視線を向けた。
建物と建物の間に出来た、人ひとりいない路地の道に一軒だけ店の看板が出ていた。
「うん?・・・・・・《夢からはぐれた子羊》」
俺はかろうじて見えた、店名を口にする。
「店名からも分かる様にあの店は夜しか開いてないの」
「バーってそういうもんじゃないのか?」
「そうだけど。理由はそれだけじゃないの」
「と言うと?」
「《偽りの営み》、あの店は本来の目的を隠すために営われている表向きの店ってこと」
「それって、闇商売なんじゃ・・・?」
「まぁ、そうなるわね?」
「いいのか、純白の剣姫の副団長がそんな店を目の前にみすみす見逃すなんてことして?」
俺は当たり前の事をレイスに聞いた。仮にも正義の立ち位置を取る組織に属する俺達がそんな輩を野放しにしてはいけないのではないかと思ったからだ。
「そういうわけにはいかないのよ」
「それはどういうことで?」
「確かにこの店は非合法な経営をしている、だけど、その経営の在り方は私たちにとって非常に有益なの」
「有益って・・・何か協定でも結んでいるのか?」
「それはない、だけどこの店は特別な品を扱ってるの。それも、目に見えない特別な品をね」
レイスの言っていることの意味を半分は理解したもののもう半分は未だに理解しえなかった。偶然行きついた路地にその様な店が存在していることに俺はまだ半信半疑だった。
「目に見えないって・・・それはどんな品なんだ?」
「品と言っていいのか分からないけど、《情報》ね」
「情報____なるほど」
その言葉を聞いて俺はようやく理解した、この店はセレクトリアの裏に繋がるかもしれない情報を保有しているのだと。理由はいくつかあったがその中でも一番有力なのは表向きの店を用意して正体を隠していることだった。単に情報を扱うだけなら、そこまでのフェイクはいらないだろう。探偵といった者達も俺の世界では自ら看板を出し、仕事の依頼を待っていたし、その末、依頼主に調べた情報を提示する時もそこまでの警戒はしないはずだ。対して、この夢からはぐれた子羊は依頼場所を本当の意味で隠しバーなどと言う店を経営している。そして、本来の店は情報といった、《形のない不安定》を主に扱っているいるにもかかわらず、フェイクの店を何食わぬ顔で経営している。酒と言った、高価な物から安い物までが存在する、仮経営には不向きと思われる、店を経営できているのは情報の質が段違いで来る客もそれ相応の者だということが推測できた。
「レイスは行ったことがあるのか?」
「一度ね」
「どんな情報を聞いたんだ?」
「任務の裏付けや事件の詳細かな?」
「事件なら警備隊が調べるんじゃないのか?」
「それはあくまで表面上だけ」
「?」
「簡単に言うと死因についての追加情報とかかな?他にもセレクトリア内部の情報も大方知ってるはずだよ」
ここでまた一つ疑問が生じた。
「その店の者は何でそんな《国家機関》並みの情報を知ってるんだ?」
「その情報を聞いた人がいたんだけど、「それは秘密で」って言われたんだって」
「____その店らしいな」
「合言葉をバーのマスターに言わないと入れないんだけどね」
「どんな合言葉なんだ?」
「それは____」
俺が尋ねると、レイスは周囲に人がいないか確認し、俺の右耳に顔を近づけ囁いた。
「《黒ずくめの薔薇》》」
この時俺は一つの希望を芽生えさせていた。もし、レイスの《反転の呪い》の解呪方法を聞き出すことが出来たらと________。
「それより、早く行かないと」
「えっ?」
「もう、忘れちゃったの?ウィックの家に行くんじゃなかったの?」
「・・・そうだった」
それから俺はレイスに腕を引かれるまま元来た道を引き返した。次第に見えなくなる、店を俺は記憶に留めておこうと看板をもう一度見た。いつか、役に立つかもしれないという、心の考えが俺にその行動をさせていた。




