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Last Rotor - Resurrected as Kit -  作者: キット
An angel who has descended of Starry Night.
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episode 11

 ひんやりとした感覚がほおに伝わり、しばらくすると、自身の体温に変わる。触れた指先は優しく画面を触る。俺は修練場での戦いの後、すぐに帰路へと着いた。人の多さと緊迫した緊張感、そして使い慣れていない武器に肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていた。

 そんな、身体からだの状態を戻そうと、向かった液タブに突っ伏す形で俺は眠ってしまっていた。画面に表示されている時間は夜の十一時を指し示していた。この時間が本当に正確なのかは定かではないが、外の暗さと自身の眠気がそれを肯定していた。

 新規で作ったファイルにはラフ段階のイラストが数枚保存されており、どれも完成には程遠い出来だった。セレクトリアに来て、目に入った者やえがきたいと思った少女を記憶にとどめ、それを一気に右手に託す。そんな事を家に帰ってから、数時間ほど続けていたらいつの間にか体がシャットダウンしてしまっていた。だが、本当に体がもつかどうかが怪しまれるのはこれからだった。下描きを仮に終わらせたとしても、次に待っているのは《ペン入れ》だ。この作業は非常にデリケートで使うペンの太さ、そして俺の液タブにはもう一つ制約(特性)がある。それは、筆圧感知機能だ。アナログ描きと言われる、コピー用紙にペンで描く時と同じで手に入れる力の差で線の太さが変わるということだ。無論、太さを一定にするペンや機能もあるのだがそれはそれで髪などの線を描くときに少し困る。最後の抜きの部分で線が細くならないのだ。このように、様々な描き方や知識を駆使くしすることでやっと線画は線画になるのだ。俺が以前、ある絵師さんのインタビュー記事を見た時、「線がイラストを引き立たせる」と言う様なことを言っていたが全くその通りだと思ったことが今の俺の画風に影響している。


 「今日はこの辺でやめとくかな。疲れた状態だとベストな絵も描けないし」


 ひとり呟くと俺は椅子から立ち。窓の方へ歩みを進めた。


 「本当に居るんだな」


 俺は異世界(セレクトリア)に自分が居ることを言葉にできない感情で口にした。冷たく吹き抜ける夜風も今は特別なモノの様に感じ、両手を広げ瞑想めいそうした。風の音が耳の横を過ぎていく。それにともなって木々の葉が揺れる音がかすかに聞こえてくる。


 「そろそろ、寝ようかな」


 落ち着いた心と安心感を抱いた状態で俺はベッドに足を運んだ。


 トンットンッ


 不意に聞こえたノック音。


 「うん?」


 俺は扉の向こうの存在が誰なのかは容易に判断できたのだが何故なぜ今この時間に俺の部屋に来るのかが分からなかった。


 ガチャッ


 扉を開けるとそこにはパジャマ姿の少女の姿があった。


 「こんな時間にどうしたんだ レイス?」


 安易な質問をレイスにした。最も質問する以前におおよその見当はついていた。それは、彼女が胸に抱く様に持っている枕が答えをすぐに教えてくれたからだ。


 「えっとね・・・その、眠れないの」


 予想の範囲内の答えだった。


 「なるほど・・・それで俺の部屋に来たってことは____」

 「今日はここで寝ていい?一人だと怖くて」

 「そ、それは・・・いいのかな?怖いって、レイスは今まで一人でここに居たんだろ?」

 「そうだけど・・・・・・」


 俺はこの感情を知っている。例えるなら、友達と遊んだ後の静けさの様な虚無きょむ感だ。


 「別に俺は構わないけど・・・レイスは俺と一緒でいいのか?」

 「いいよ」


 (警戒されてないのか?それとも相手にされてないのか・・・・・・?)


 あいにくこの部屋にベッドは一つしかなく、二人でこの部屋に寝るとなればベッドはともかく、毛布の一枚位は必要だと思い俺は他の部屋にそれを取りに行こうとした。


 「行かないで」

 「えっ」

 「暗いのは苦手・・・だから、ここに居て」

 「すぐ戻ってくるんだけど・・・ダメかな?」


 持っていた枕に顔を少しうずめ、レイスは俺の退室を引き止める。レイスの少女らしい姿を見るのはこれで数回目だ。それでも、この瞬間一つとっても白髪の少女は絵になる。だから、俺は毛布を取りに行くことよりも、今のレイスを【ラフ(記憶)】にとどめて置きたくて、扉に向いていた足を机に向けた。


 「毛布、取りに行かなくていいの?」

 「行っていいのか?」

 「それは・・・ちょっと・・・・・・」

 「心配しなくていいよ。当分は行かないから」

 「どうして?」

 「今から俺はラフを描くんでね」

 「ラフ?」

 「まぁ、簡単な下描きと思ってくれたらいいかな?」

 「そうなんだ」


 俺はいまいち理解していないレイスを横目に椅子に腰かけた。パソコンの電源ボタンを押して、起動するまでの間、深呼吸をしながら待機した。先程から感じるこの胸の鼓動の速さをしずめるべく行ったその行為はレイスが同じ部屋にいると考えるだけで無意味なものへと変わっていた。振り返ってみると、そこには俺のベッドの上で女の子座りをしこちらを見ている少女の姿があり、「原因はこれか・・・」と心の中で思った。


 (気にしちゃいけない・・・というかせめて寝てくれ)


 ピン____


 パソコンが完全に立ち上がる音が聞こえ注意をそちらに向けた。次に液タブの電源を入れる。こちらの方が比較的早く立ち上がり、俺の作業への取り組みをそくした。


 「えーと、新規キャンバスを作成してっと・・・用紙サイズは1000×1700ぐらいにしとくかな」


 ラフの段階で題名(ファイル名)が思いつかなかった俺はひとまず、新規キャンバスという名で保存した。用紙の大きさも目安サイズの1000×1000を少し大きめに設定したもので形で言うなら、長方形といった所だろう。


 「さぁ、描くぞ!」


 気合を入れる様に一人(つぶや)く。


 「そういえば、キットの絵 まだ見せてもらってなかったな」


 部屋には俺以外の存在が居ることを一瞬忘れていた。例えそれが今から描く対象であったとしても、想像力と創作意欲にかられた俺の意思は周囲の状況など気にはいらない程だった。それゆえ、レイスの存在を完全に忘れてしまっていた。


 「わっ!レイス・・・居たんだっけ・・・・・・?」

 「うん、さっきから」

 「だよね・・・それで俺の絵・・・・・・見たい?」

 「見たい」


 人にイラストを見せるのはこれで何度目になるのだろう。俺は基本的にはネットに完成したイラストしかアップしておらず、目に見えない人にイラストを見せていた。その為、こうして実態がある人に見せるのは少し恥ずかしかった。描き始めた頃は体のバランスや瞳のズレなどが多々ありとても人に見せる程の物ではなかった。しかし、今は昔と比べれば様になってきていると思う。だが、それを決めるのは自分ではなく他者なのだと思った。


 「完成したイラストと下描き段階のイラスト、どっちがいい?」

 「下描き」


 これは予想外の回答だった。普通は完成したイラストの方を人は見たいはずだ。ネットでも下描きをアップする人はほとんどおらず、せいぜい線画か下地を塗った画像が上げられるぐらいだった。よほどの自身がない限り、まず下描き段階のイラストを人に見せることはないだろう。仮にそれで評価されたのだとしたら、それはもう_完成した一枚のイラストだと思う。


 「わかった。えっと、ラフ画のフォルダはっと・・・ここか」


 俺はラフ画を集めたフォルダをダブルクリックした。すると、無数のファイルが表示されそのどれもが少女のイラストだった。


 「凄い____全部、女の子の絵だ」

 「その言い方・・・何か・・・・・・気まずいな」


 この時、俺はアダルト的なモノを大量に保存したファイルを誰かに開かれた人の気持ちが分かった気がした。普通の高校生ならそういうたぐいのモノに興味があっても一つもおかしくないのだが俺は(自分以外の男子高校生)とは違った。それは、価値観だ。確かに女の子に興味がないと言ったら嘘になるが今の俺にはアダルト的なそれらをただの素材として見れなかった。イラストレーターになりたいという想いが強くなればなるほど、俺の心は変わっていった。自身が描きたいイラストの完成形には完璧な曲線と正確な知識が必要だとある時点で悟った。それを達成するには、他の絵師イラストレーター達のイラスト模写や観賞をするだけではダメだという考えに至った。その結論を導き出した時から俺はR指定のかかるモノを観賞して楽しむのではなく、常に構造や影の入り、骨格の出方までを頭の中で認識させ、右手に覚えさせた。

 そうして俺はいつしか、R指定作品をも一つの参考書として見るようになった。簡単に言えば、《見る目が変わった》と言った所だろうか。

 これも絵師イラストレーターを目指す俺への課題なのだと思った。


 「この子達って、キットのオリジナル?」

 「そうだよ。俺は基本、オリジナル絵しか描かないからね」

 「そうなんだ」

 「でも、これとかはちゃんと被写体がいるよ」


 俺はほぼ下描きが終わった一枚の絵をレイスに見せた。


 「この絵って、もしかして ウィック?」

 「うん。この前会った時に描こうって思ってね」

 「少しの時間しか会ってないのに、ここまで正確に描けるんだね」

 「初めのころは全然ダメだったよ。それでも、俺は諦めなかったからね。まぁ、これでもまだ完璧には程遠いんだけどね?」

 「そうなの」


 レイスは「こんなに上手いのにまだ完璧じゃないの?」と言う声が聞こえてきそうな表情をしていた。


 「ところで下描きの絵の子たちの顔にある、この十字の線は何?」

 「これは、正中線と言って、目や鼻、口の位置を決めるときに必須なんだよ。これを描かないと、バランスが崩れてしまうからね」

 「何かイラストって奥が深いね」

 「これぐらいは普通に美術の授業で習うはずなんだけど。レイスの通ってた、剣士学校にはそういった授業とかなかったのか?」

 「あったはずだけど、私はあまり行かなかったから・・・。それに、途中からは剣士になるために必死で剣術専攻の授業しか選ばなかったから」

 「・・・ごめん」


 レイスの過去を知りながら、俺は何でこんなことを聞いてしまったんだと発言の後に思った。俺もそうだが、レイスも学生時代の記憶はあまり良いものが無かった。


 「でも、絵を描く楽しさを教えてくれた人もいたよ」

 「この世界にもそんな人がいるんだな」


 俺は同じ趣味を持つ、仲間がいることに嬉しさを感じていた。


 「その人が私にいつも、綺麗なイラストを見せてくれるんだ」

 「どんな?」

 「どう言ったらいいか分からないけど、そうだね・・・キットが描くイラストに似てるかな?」

 「それってつまり、俺の描き方と似てるってこと?」

 「それもあるんだけど、使っている画材が一緒なんじゃないかなって?」


 レイスの言っていることが本当なら、その絵描きはこの世界に存在しないはずの機器(液タブ)を持っていることになる。もし、その考えが本当なら


 それじゃあ、この世界は____



 「まさかな・・・・・・一つ聞いてもいい?」

 「なに?」

 「その人が描いてるところを見たことってある?」

 「それがないんだよね・・・いつも完成したイラストしか見せてくれなかったから。だから、下描きの状態のイラストが見たかったんだ」


 その絵描きの事は確かに気がかりだが今は目の前の少女の願いを叶えてあげようと思った。


 「そういうことか。わかった!なら、好きなだけ見ていいよ」

 「本当?ありがとう」


 俺はレイスの指し示したファイルを開き、そのイラストを描き上げていった。人に見られていると描きずらくはあったが、それよりも同じ空間で同じことを共有できたことに俺は嬉しさを覚えていた。


 シャッシャッと筆を滑らせる音が部屋にしばらく続いた。

 イラストの基本は下描きそれに考えながら描く。

 ある程度、慣れてきたらそう言った事柄を省いていく事もできなくはないが、それはそれで微妙なズレや違和感といったい感覚的なモノが生じるので時短と言うメリットだけを考えてそれをするのはあまり好ましくない。

 それに今はレイスに描き方を教える形で作業をしているのでなおさらだ。


 「って感じで、大まかな下描きを描いた後に、違うレイヤー・・・じゃなくて、紙を上に置いてペンで清書をしていくって感じなんだけど・・・・・・分かるかな?」

 「全部ってわけにはいかないけど、やり方とか描き方なら把握したよ」


 (それって、もう描けるんじゃないのか・・・・・・?」


 「じゃあ、レイスも描いてみるか?」

 「いいの」

 「もちろん。絵描きの友達が出来るのは嬉しいからね?あっちの世界じゃ、一人もいなかったから」

 「・・・ごめん、嫌な事思い出させちゃたね」

 「大丈夫、描けるようになった今ではそれも一つの記憶の一つさ。それより、描いてみて」

 「うん」


 俺は隣に座っていたレイスと席を代わり、ペンを渡した。


 「これをこの、エキ・・・タブ?の上で動かせばいいんだよね?」

 「うん」

 「じゃあやってみるね」


 レイスは新たに作った新規キャンバスにスゥーっと長い直線を描いた。


 「わぁー、本当に描けるんだ」

 「当たり前だろ?液タブなんだし」

 「そうだけど。私は紙にしか描いたことがないから」

 「俺も絵を描き始めたころは、ずっと紙で練習してたよ。レイスは紙に描くのとこっちで描くのはどっちが好きなんだ?」

 「うーん、紙には紙の良さもあるし、こっちはキットの絵みたいに色彩豊かに描けるからどっちが好きか決めれないかな?」

 「それなんだよ。俺も液タブで描き始めたころは紙の方が描きやすいと思ったけど、描いていくうちにこっちになれたんだ。たまに紙で描くときもあるけどね」

 「じゃあどっちも好きってこと?」

 「そうなるね」

 「私も」


 パソコンの時計は23時30分を示していた。俺とレイスは30分近く絵を描き続けた。と言っても、俺は描くのではなく隣で筆を握っている、白髪のサポートをしていた。初めての経験に目を輝かせ、取り組むその姿に俺はより一層、嬉しさを覚えていた。こうやって、誰かと絵を描くなんて初めてだった。そう考えると俺も今は初めての経験をしていることになる。


 「ねぇ、キット ここはどうやって____あれ?」


 レイスの視界には机に突っ伏せて眠っている黒髪の姿があった。


 「寝ちゃったか____無理もないよね。今日はありがとう」


 ベッドの上に置いてあった毛布をレイスは取り、絵の先生(キット)にかけた。そして、このままここで寝るつもりだったレイスは持ってきていた枕を持って部屋を出た。

 ガチャッと扉を閉めた後、扉の前で数秒立ち尽くした後、自室に向かって歩くレイスは心の中であることを思っていた。


 ____私がいつか描けるようになったら、その時はキットを描かせてね____


 


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