副ギルド長、激昂
「光栄に思え。この副ギルド長たる私が直々に、キサマへの指名依頼を出してやる」
「断る」
宿から出た後、三人の職員たちと共にギルドへ向かい。
受付の奥にある応接室まで連れていかれた少年を待ち受けていたのは、二人の人物だった。
一人は出荷寸前の豚並みに脂が乗った男、通称 副ギルド長。
「……」
そしてもう一人は、副ギルド長の発言に目を見開き、驚いた様子を見せる女性。
先程、少年が冒険者ギルドにいる時に、その場にやってきて、全ての注目をかっさらった人物だ。
応接室へと入ってきたのが少年であることが分かると、目をくわっと見開いたかと思えば、しかめ面になるという百面相を彼女に見せられ。
少年は少し、面をくらった。
彼を連行した三人の男たちは、副ギルド長にその身柄を渡し、媚びへつらった顔を権力者へ見せると、そのまま部屋から去っていった。
今この場には三人しかいない。
そのため、指名依頼などという、少年からするとふざけた申し出は、間違いなく自分に出されたものであると。
そう判断し、即刻拒否の回答を出したという状況だった。
「……何やらおかしな言葉が返ってきたような気がするが、念のためもう一度確認してやる」
おかしいのはてめえの体型だと、少年は心の中でツッコミを入れた。
さすがの彼も、それを口にするほど分別がつかないわけではなかったが。
「副ギルド長、かつ、フトイ伯爵家当主たる、この私が、キサマに、指名依頼を出してやる。光栄に思え」
「もう一度お答えする。断る」
今度は家の名前まで出し、おまけに一言一句強調してきたフトイ。
少年は再度、同じ答えを返し、それに、と付け加える。
「そもそも俺は、冒険者じゃない。指名依頼に従う義務はないと思うが?」
「……よかろう。ならば、この依頼を終えた後、キサマをギルド員にしてやる」
誠に遺憾だと言わんばかりの顰め面を見せる副ギルド長。
アホか、と思いながら少年は変わらない答えを返した。
「結構だ。今のままでも、それほど困ってないしな」
さんざっぱらギルド員でないことを揶揄されてきたのだ。
ここでギルド員にしてやると言われ、喜んで依頼を受けるほど少年は大人ではなかった。
実際、ギルド員でなくとも生活出来るほどの稼ぎを得ることは出来ている。
むしろ、なったらなったで、今回のようにこき使われる危険性があるのだ。
それなら、ならない方が良いのでは、とさえ少年は思い始めていた。
少なくとも、この町ではだが。
何はともあれ、出動要請なんていうふざけたものを出してきた奴の面も拝めたことだし、これ以上は時間の無駄だ。
そろそろ帰ろうかと。
少年が回れ右をしようとした、その時だ。
「おい……! こちらが下手に出ておれば良い気になりおって! いい加減にしろ!!」
フトイは突然、逆上した。
顔は茹でられたタコのように真っ赤になり、所々に血管が浮き出ている。
興奮しすぎて、今にも倒れそうだ。
体にさぞかし、負荷がかかっていることであろう。
フトイの言動に少年は驚いていた。
どうやら先程の頼み方でも、フトイからすれば下手に出ていたようだ。
「キサマ! 庶民で紋なしのくせに、キサマ! この私に口答えするというのか!?」
唾を飛ばしながら激昂するフトイ。
「……話にならないな」
少年は今度こそ、回れ右を行う。
「キサマ?! このまま帰って、ただで済むと思うな?! 二度とこのギルドで活動出来なくさせてやるぞ!?」
脅しまで付け加える始末だ。
王女は、余りにも愚かな言動をするフトイに、言葉を無くしている。
「お好きにどうぞ。誰かさんの小遣い稼ぎが出来なくなるのが良いならな」
「キサマッ?! な、なぜそれっ……?!」
フトイは慌てて口をふさいだ。
少年はフトイの顔も見ずに、それだけを吐き捨てると、小声で何事かを呟く。
そして、応接室のドアを開け放ち、そのまま去っていくのだった。
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「……私は、人を紹介してほしい、とは頼みましたが、ケンカ別れをすることは頼んでません」
「い、いえ、王女……! こ、これは何かの間違いです! もう一度あやつを……」
「結構です。あれほど自信満々に任せろと言われたので、思わず傍観してしまいました」
王女はフトイに答えると、早々に席を立つ。
「ようやく見つけた条件の合う人物を、みすみす逃してしまうわけにはいきません」
「……お、お待ちを」
「最初から私が交渉すれば良かったです」
追い縋るフトイへピシャリと言い放ち、彼の目の前でドアを締めた。
「話を聞いてくれると良いのですが……」
王女はフトイを思考の外に置くと、少年のあとを追い始めるのだった。




