姫騎士の登場
ギルド内の視線を一心に集めるなか現れたのは、気品溢れる佇まいを身にまとう美女。
その美貌は、美の女神があしらえたと言っても過言ではない、静謐な輝きを放っていた。
騎士を象徴するかのようなデザインの制服は、王国に三つしかない騎士学校のものである。
それを見て、スアはようやく、彼女が自らと同年代の人物だと気づいた。
ヴィーは驚いたように顔を固めている。
少年の腕を掴んでいたことも忘れて。
今が好機だと、彼はヴィーの腕を振りほどく。
あっ、と彼女が気づいた時には、彼は足早にギルドの入り口へと向かっていった。
扉へ足を運ぶ最中で一瞬、制服を着る美少女と目が合いかけた少年だったが、彼は努めて気づかないふりをした。
周りの視線を彼女が独占している隙に、少年は人知れずギルドの外へと出るのだった。
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冒険者ギルドの扉を開け放った瞬間。
視線のほとんどが自身に向かうのを、少女は感じ取っていた。
何をやるにしても、意識するしないに関わらず、その一挙一動に注目が集まるのを、彼女は少し煩わしく思う。
この身は騎士へなるために捧げているのに、まるで一国の姫のように傅かれることもある。
内心では納得が行っていない。
付け加えるとするのなら、この少女にとってある意味で不幸なのは、彼女が本当に一国の王女であることだった。
そうであるなら傅かれるのも、仕方がないことではあるのだが。
それでもやめてほしいと、彼女は常々から感じていた。
ここでもいつも通りかと。
思考を切り替えた彼女の視線の先で。
(……? あれは……)
見覚えのある顔を、王女は見つけた。
国に七つ存在する侯爵家の一つ、リーヌ家の一人娘。
勝ち気ながらも、同性から嫉妬を受けそうなほど綺麗に整った顔立ち。
身に付けているものは、冒険者の装備にも関わらず、それを華やかに着こなすセンス。
(相変わらずオシャレな娘ですね……)
堅物な自分にはないものを併せ持つヴィーのことを、王女は羨ましく思っていた。
それだけに、そんなリーヌの一人娘が、自分たちと同年代ほどの少年の腕を掴んでいることに、内心で興味を隠せない。
状況を確認する限りでは、どうやら彼がギルドの出入り口へと向かうのを、引き留めているらしい。
すわ痴情のもつれかと。
王女らしからぬ、オッサン染みた野次馬根性全開の考察をしながら、彼女はわくわくと少年の観察を始めた。
目はくわっと見開いている。
体格はそこまで大柄ではなく、身長も至って平均的。
ヴィーの方へ向けられているため、顔はよく見えない。
服装も、冒険者として普通の装備を身に付けているだけ。
強いて特徴と言えるのは、少し灰かかった色の黒髪くらいだろうか。
良く言えば無難、悪く言えば平々凡々で地味。
それが少年への第一印象だった。
とてもではないが、あのじゃじゃ馬を扱えるような男ではなさそうだが。
王女がそう感じていると。
少年がヴィーの腕を振り払い、こちらへと向かってきた。
どくん。
彼の顔を確認した瞬間、首筋にある紋章が、熱を持ってうずき出すのを、王女は感じ取った。
(なんでしょう……?)
疑問に思いながらも、彼の顔へ向かう視線を外さ……。
否、外せないでいると。
ふいに、ほんの一瞬だけ目が合う。
かと思えば、すぐに逸らされた。
王女は少し、ムッとした。
彼女はこれでも、社交界にて様々な年代、様々な性格の人々と交流してきている。
そのため、相手の感情を読むのに長けると、僭越ながら自負していた。
そんな彼女であるため、少年がこちらに関わりたくない、めんどくさいといった理由で、視線が合わなかったふりをした。
いや、視線に気づかないふりをした。
そのことを何となく理解したがゆえに、らしからぬ感情の発露を、思わず出してしまった。
少年がこちらへ一度も振り向くことなく、ギルドの外へ出るまで。
王女は一人、意地でも視線を外さなかった。
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「これはこれは王女様。本日はどのようなご用件で、当ギルドへお越しいただきましたか?」
王女は、副ギルド長を名乗る、不健康極まりなさそうな男と対面していた。
結局。
彼女は少年を見送ったのち、ここへ来た用件を思い出し、受付へと向かい。
受付の職員が、上の者を呼んで参りますぅ、と慌ててドタバタ奥へ引っ込んでいき、この男が出てきたのだった。
手揉みして、露骨なまでに下手に出てきている男。
自分の身体へと向かう、その粘ついた視線。
自らの野心を取り繕うことなく、前面に出してくるその態度。
それらを不快に思いながら、王女はなんとか話を切り出す。
「……人を紹介してほしいのですが……」
「ほう。人、ですか……」
早く会話を終わらせたい。
本音が相手にバレないよう、王女は努めていた。
それでも、声のトーンが冷たくなってしまうのは止められない。
そんな王女の様子には気づかず。
あるいは、気づいていつつも、それを無視する厚顔を持ち、得意げに思案顔を見せている男が相手であったのは、不幸中の幸いと言えた。
「人、と申しますと、人材のことでしょうか?」
「エエ」
「左様でございますか。して、どのような人材でございましょうか?」
肥え太って死相が見えるほどの男は、頭の中で、何人かの冒険者をリストアップした。
それは、このギルド支部でトップクラスの実力を持つ者たちだった。
王女からの覚えがよくなれば、このようなギルド支部の副長ではなく、さらなる栄転が待っている。
男は血圧が上がるくらい張り切っていた。
肥満体の、そのような取らぬ狸のなんとやらは、次の王女の一言で瓦解した。
「ギルド員ではない方で、ギルドの依頼を受けていたり、ある程度戦闘をこなすことが出来るような方を」




