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一つになる夜

※視点が途中で変わります。

 待ちに待ったデートの夜。


 こんなに胸が高鳴るのは何年ぶりかしら?

 驚かせたいからと目隠しをされた私は、流れ星にエスコートされて大鏡をくぐり抜ける。



「ほら、到着したよ」


 潮風が頬を撫でた。

 裸足の足裏から、湿った砂の心地良い感触が伝わる。

 ああ……波の音がこんなにも近いなんて!

 はやる気持ちを抑えられず目隠しを外そうとするけれど、焦って上手く指を動かせない。


「慌てなくていいよ。今外してあげるから」


 流れ星が笑いながら目元を覆う布を取ってくれた。

 その瞬間、私の視界に飛びこんできたのは、ロゼワインで染めたようなピンクの月。


 そういえば毎年この時期に、一日だけストロベリームーンが見える夜が巡ってくる。

 それが今夜だったのね。


 見どころは満月だけじゃないわ。

 目隠しをしていたおかげで闇に慣れた目には、きらめく星空と溶け合う海の全貌がくっきりと見えた。


 黒揚羽貝の絵の具を流したような海に浮かぶ、三日月の形の小さな島────こんな場所があるなんて、知らなかった。


 波打ち際で砂をさらう海水にそっと足をひたす。

 くすぐったい感触と冷たさに、鏡の映像なんかじゃなくて、私はこの場に確かに立っているのだと実感する。



「なんて綺麗なの……。見渡す限りの星空と海。キャンバスにおさまりきれないわ」



「あぁ。綺麗だな」 


 バルコニーから仰ぐ星空も見事だけど、ここは空気が澄んでいるのと、陸から遠くて人工的な光が一切ないから星の数が全然違うのよ。


 手を伸ばせば届きそうな満天の星空の下、輝く砂浜に打ち寄せる、青ガラスみたいな波とピンクの月光との対比が幻想的だわ……。





「ここは位置的にはミリベルーの領海内だけど、月の魔力に反応して夜にだけ現れる島なんだ。景色を遮るものは何も存在しない。ここ以上に美しい星空をオレは見たことないよ。……そろそろこっちに戻っておいで」


 普段は海に沈んだ島だから、濡れた砂が月の光を反射するのね。


「流れ星、最高よ。素敵なところに連れて来てくれてありがとう」


 あなたはいつだって綺麗なものを見せてくれる。

 いくら感謝しても足りないわ。


 甘えるように彼の胸に飛びこむと、流れ星は無意識に流れていた私の涙を拭い、もう片方の手を取って指を絡める。


 背後にはいつの間にか敷物が敷かれ、すぐにまめる果物や、甘いりんごのお酒まで用意されていた。……相変わらずそつが無いわね。


「愛おしい真珠姫。どう、満足したかい?」


 答える前に唇を奪われた。

 いつもの触れるだけのキスとは違う、本物の恋人同士のように深いキス。

 銀の瞳が熱を帯びて、あっと思う間もなく体が持ち上げられる。


 ふかふかした敷物の感触を背中に感じた時には、星空と流れ星を見上げていた。

 これから何をされるか、わからないほど愚か(こども)ではない。あなたに求められるなら、拒まないわ。

 






 

 十三歳から始まった療養と銘打った幽閉生活は、五年以上も続いている。……私には自由なんてないの。



 逃げ出せないように外に面するフロアの窓は塞がれ、庭に降りることすら許されなかった。

 深く関わることを禁じられた警備という名の監視と、最低限の世話をして帰る使用人はよそよそしくて。



 私にとって離宮は監獄でしかなく、二月ふたつきに一、二度の頻度で訪れる妹たちを待ち焦がれる日々……。

 昼間はまだ我慢できたけど、広い部屋で一人きりになる夜は寂しくてたまらず、妹が差し入れる日持ちのよい菓子を食べては自分を慰めていた。



 離宮に持ちこめた唯一の母の形見、大鏡が映し出す島の風景は救いであり、苦痛でもあり。

 大好きな絵に打ちこむことで誤魔化していていたけど、決して手の届かない光景は私の心をすこしずつ削っていたわ。


 断崖絶壁にあるおかげで封鎖されずにすんだバルコニーで、ぼんやり夜の海を眺めながら、願い事を唱える時間が増えていく。


 誰でもいいから言葉を交わしたい。

 どこでもいい、私を離宮おりから連れ出してほしい。

 寒くもないのに人の温もりを欲してやまず、孤独に気が狂いそうだった。


 …………もう一人は嫌!!


 ほんのわずかな時間でいいから、寂しさを埋めてくれる“なにか”を渇望していた。

 私の心は、とっくに限界を迎えていたの。

 



 流れ星、あなたには本当にたくさんのプレゼントをもらったわ。

 誰にも顧みられることのない私を、あなたが見つけてくれた。

 でも私に払える対価は、私自身(からだ)しかないから。

 元より政略結婚もできない身、喜んで純潔を捧げましょう。




────誰もいない島で私たちの影は重なり合う。

 空を彩る星の一つが流れて消えた。




       ☆彡 ☆彡 ☆彡





 いつもより早い時間のデート、オレだけが知っている幻の島に真珠姫を連れて行く。


 ここは歴代の彼女たちにも教えたことがない特別な場所だ。

 この島でしか見れない絶景を真珠姫に見せてあげたい──いや、オレが一緒に見たいと思ったんだ。


「なんて綺麗なの……。見渡す限りの星空と海。キャンバスに納まりきれないわ」


 無意識なのか、真珠姫は指で枠を作って構図を取っている。

 淡いピンクの月光に照らされた横顔は可憐で儚く、白い足が波に触れる度に真珠のような飛沫しぶきが舞う。


 追いかけっこをしてもすぐ捕まる手狭な砂地で、島自体はなにもないところだと思っていた。

 でもこうしていると、彼女の髪を飾る真珠の三日月みたいに美しい島だと気づく。


 ……違うな。真珠姫が居るだけで、全てが輝いて見えるんだ。

 

 満天の星空、頭上にはストロベリームーン、そして波とたわむれる真珠姫────すごく絵になる光景だと思わないか?


「あぁ。綺麗だなぁ……」


 思わず、オレの口から感嘆のため息がもれた。

 いつまでも眺めていたいけど、ただでさえ体が弱いのに夜風に当たりっぱなしでは風邪を引いてしまう。

 休む場所を確保してから声をかけるか。




「ここは位置的にはミリベルーの領海内だけど、月の魔力に反応して夜にだけ現れる島なんだ。景色を遮るものは何も存在しない。ここ以上に美しい星空をオレは見たことないよ。……そろそろこっちに戻っておいで」

「流れ星、最高よ。素敵なところに連れて来てくれてありがとう」


 感極まったのか真珠姫は涙を流し、初めて自分からオレの胸に飛びこんできてくれた。

 ヤバい、可愛い。……もう我慢できねー。


 ぽろぽろこぼれる涙を拭って、真珠姫の白百合のような左手を掴む。


 りんごから蛇やドラゴンを作り出し、ハンマーを振るってはただの貝殻や花を絵の具に変え、一度ひとたび筆を握れば美しい絵画を描き出す。

 いつの間にかこの魔法の手に魅了され、絡め取られていた。


 キミと出会って、オレはようやく退屈を忘れられたんだ。



「愛おしい真珠姫。どう、満足したかい?」

 


 答えを聞く前に可愛い唇を塞ぐ。

 貪るようなキスに、目を白黒する真珠姫。

 悪いな、今夜は手加減できそうにない。



 キミを傷つけないよう自制して他の女で発散していたけど、リミッターは外れてどこかに行ってしまった。


 敷布に真珠姫を横たえる。

 至近距離の赤い顔、全てを受けとめる微笑みに、きっと彼女も同じ気持ちだと確信して。


 オレの真珠姫、と紡ごうとした唇に白い指が添えられた。

 潤んだ瞳で恥じらう表情が愛らしい。



「わかってると思うけど、ちゃんと避妊はしてね?」



 ………………このタイミングでそれ言っちゃう? ムードまで打ち砕くのかよ。




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