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残された謎

 あれから、島中が蜂の巣をつついたみたいに騒がしい。


 エスメル姉様の罪の告白、お姉様と守護神獣の悲恋は島中を駆け巡り、呪われた魔女は一夜にして悲劇のお姫様になった。

 情報は諸外国にも漏れて、島の内外から王家のあり方に批判が殺到したの。

 カイルーさんはこれを狙ってたのかな?




『じゃあな、ルビーナ。どうしようもなくなったら、一回ぐらいは力を貸してやるから』


 ……先生も、ほとぼりが冷めるまでは来ないって。

 亡き王妃様やお姉様の対応、そしてエスメル姉様のこともあって、彼の国は王家と縁を結ぶ気はなかったそうだ。


────告白することもできず、あたしの初恋は終わりを迎えた。


 思い出してため息を一つ吐くと、執務室へと重い足を向ける。

 お仕事関係らしき手紙が届いたから、お手伝いしないと。

 バリバリ働きながらも、サンドラ姉様は温かく出迎えてくれた。

 



「お帰り、ルビーナ。エスメルの様子はどうだった?」

「相変わらずよ。鏡に張り付いてずっとぶつぶつ言ってる。でも、孤独になんてさせやしない。壊れた心が元に戻るまで、あたしはずっと通い続けるわ!」

「すっかり頼もしくなったわね」


 精神状態や境遇を考慮した上でエスメル姉様に下された罰は、お姉様が亡くなった離宮での無期限の幽閉。

 ……血塗れの部屋で、エスメル姉様はずっと懺悔を繰り返している。


 本人はもっと重い刑を望んでいたけれど、王妃様の血を引くのはもうエスメル姉様しかいないから。

 対応を間違えれば、先生の家を筆頭に取引先は王家を見限るわ。そうなったらこの国に未来は無い。


 犯した罪の重さに壊れてしまったエスメル姉様を支え、正気を取り戻させるのがあたしの使命だと思っている。お姉様もそれを望んでいるはずよ。


「ルビーナ、エスメルを頼むわね。今は無理でも、いずれわたしが王位を継げば恩赦を与えることも可能よ。

……それまではお父様に馬車馬のように働いてもらわないと!!」


 お父様は針のむしろでしかなくなった国王の座から逃れられず、内外の不満を解消するために不眠不休で頭を下げ回っている。


 面倒事(王位)を押しつけようにも、サンドラ姉様が即位するには早すぎる。

 お姉様だけじゃ飽き足らず、エスメル姉様を冷遇していたこともバレてるから、下手したら先生の国が介入、島民を扇動してクーデターを起こすかもと勘繰っているんだ。


 あたしがまだ小さい頃、王妃様が愛憎劇の果てに病で亡くなられた。

 その途端、かろうじて取引を続けていた王妃様のご実家は技術を提供していた職人を引き連れて、島から引き上げて行った。


 アイテムに頼りきっていた生活は破綻寸前になり、何とか持ち直したものの島民の不満は爆発寸前だったそうで。

 その経験がお父様を疑い深くしている。


 ……何年かかるかわからないけど、今までのツケを支払うまでは国王をやめられないわね。

 何も考えずに権力を欲したお母様も、立場を無くして引きこもった。


 娘を蔑ろにするくらい愛し合ってたのに、最近はけんかが絶えないみたい。正直、自業自得だわ。


「そうだ、姉様に手紙が届いてるの」

「ふふ。最高のタイミングね。それは読んでいいわよ」


 封蝋の紋章は芸術文化で栄えた大国のもの。

 重要そうな手紙なのにと、不思議に思いながら読み進めて驚いた。

 小さな島でも知らない者はいない有名な美術館から、お姉様の絵が展覧会で大賞を取ったという内容だったの。


「もしかして、りんごの木の絵を売った美術館? でも、あれ、作者名が偽名じゃなくてお姉様の名前になってる!!」

 

 いたずらが成功した子どものように、サンドラ姉様は顔を輝かせる。


「お姉様が亡くなった後も絵を売っていたのはね、“スノーホワイト”の絵が一番高く評価されたところで、作者の正体をバラすためだった。お母様達も大金が入るから、喜んで売り出すのに一役買っていたでしょう?

 あんたらの有り難がってる絵は魔女だと恐れられたサフィリアお姉様が描いたのよって、島民に突きつけてやるつもりだったの。

 ……黒百合の魔女が悲劇のお姫様になった今なら、絵の価値は格段に跳ね上がるわね」

「笑顔が黒い、真っ黒よ!」

 

 お姉様のメッセージを聞いてから、サンドラ姉様は変わった。

 迷いが晴れたみたいに生き生きしてるわ。

 

「お姉様を悪く言った奴らは皆後悔すればいい、最悪国が荒れても構わないと思ってた。でも、絵を見ればわかる。お姉様はこの島を愛していた……混乱なんて望んでいないと思い直したのよ。

 最初こそ当てつけだったけど、後からはただお姉様の名誉を回復するために営業してきたわ。

 今回マダムや公子、そしてお姉様を愛してくれた“彼”のおかげでわたしの望みは叶いそうよ。

 ──だから、わたしもできることをする。

 お姉様の絵のパトロンは、諸外国の資産家や権力者揃いよ。絵を売るために培った話術や人脈は最大の武器となる。ヘイトをお父様に集めている間に、わたしはお姉様の美談を広めて、外交を駆使して、心も体も傷付いた守護神獣かれの代わりに国を守っていこうと思うの」


 情が薄いと思っていたのは、あたしの思い違いだった。

 お姉様の言うとおり、サンドラ姉様はいつだって誰かのために行動している。


「結局、姉妹で一番女王に向いてるのはサンドラ姉様なのかもね……。ペテン師じゃないかと疑ってたマダムも本物だったし」


 報酬も何も受けとらず、どさくさに紛れて消えてしまったマダム。

 姉様達のことといい、本当にあたしって見る目がなかったのね……彼女は高潔な霊能力者よ。

 思い返せば、エスメル姉様がピンチの時に入った制止の声だけじゃなく、夢枕に立ったお姉様もマダムの能力だったのかしら。


 なんてしみじみしていると、自信に溢れていたサンドラ姉様の表情が曇っていく。


「言うまいかどうか迷ったのだけど……これを見て」


 取り出したのは人探しの報告書。

 サンドラ姉様は独自にマダムを探していたのね。


「まずは一枚目。自称天才占い師、銀河の母、マダム・ステラの詳細よ。大勢の人から大金を巻き上げた希代の詐欺師として、国際指名手配されてた」

「えっ!?」


「もっと驚くのは二枚目の方。……マダムの死亡記事よ。もう三年も前に死んでいるの」

「嘘っ!!」


 慌てて報告書を引ったくるが、載っている顔はマダムで間違いない。

 逃走中に事故死、享年三十九歳。

 ……詐欺師ってどういうこと? 亡霊を使役していたマダム自身が死んでいたなんて。

 マダムも幽霊だった? じゃあ、彼女を使役していたのは誰なのよ。

 

「不思議でしょう? マダムは公子の紹介だったから(・・・・・・・・・・)疑いもしなかった。狐に抓まれた気分だわ……」


 そんなこと、先生は一言も言ってなかったよね?

 あたしとサンドラ姉様は目を見合わせた。


 思い出すのは全てを見通す蒼穹の眼差し。

 あたし達は最初から最後まで、先生の手のひらの上で踊らされていた? 

 なんかもやもやするわ……。


 マダムや先生が解決に一役買ってくれたことは変わらない。

 真意は、また会えた時にでも聞こうと思っていたのに。


 それ以来、先生が島を訪れることは二度となかった。


 


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