第53話 エターナルアイスヘル
「ルーナ、まだ探すの?」
「…ん、もう少し、まだ一匹も捕まえてない…から」
僕とルーナさんは今、スターリット山脈の東から3つ目の山、標高5657m、ウィルブルム山の山頂に来ている。
ウィルブルム山の山頂は,高さ100mの岩壁に囲まれ、東西に約30km南北に約20kmの楕円形の盆地状になっている。年間最高気温はマイナス40℃、エターナルアイスヘルと呼ばれる極寒の地だ。この低気温の原因はアイスヘルの中心程のの位置にある凍らない湖ウィレム湖、ウィレム湖の水温はマイナス150℃以下で、正確な温度は今の技術では計れない、見た目は普通の湖に見えるのだが、誤って触ったりすると大変な事になる。ウィレム湖の水はマイナス80℃で気化し、その冷気が山頂一帯の温度を下げているのだ。
しかし、こんなところでも植物は生え、生物も生息している。氷樹と呼ばれる氷で出来た様な木や雪花と呼ばれる草花。スノーラビット、アイスシープ、ブリザーボアといった草食系の獣やスノーウルフやブリザーベアといった肉食系の獣等が生活している。
そして、数は多くないが、フロストバーンと呼ばれる狂暴なモンスターも存在する。
フロストバーン。恐竜系モンスターの上位種、ワイバーン(飛竜)の変異種。体長10m程で高い氷属性耐性をもち氷のブレスや鋭い牙、爪で攻撃する。飛行速度は時速100kmを超し、知能は犬並と言われている。
人間族の認識ではエリーもワイバーン種と同種扱いだが、全く別の生物である。エリー達竜族は人間族以上の高い知能、身体能力、魔力と、人形態、部分竜化、竜形態等の変体能力や様々な特殊能力を有する。ちなみに、竜族とドラゴン(恐竜系上位種)を同じに考えるとエリーは少し機嫌が悪くなるのだ。
なぜ僕とルーナさんがここに居るのかと言うと、遡ること4日━━━━
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「やった! 遂に土魔法が使えるようになったよ」
土魔法の修行を始めて約70日、やっと魔力を土や岩に変化させる事に成功した。
「…ん、やった…ねアステル」
「ルーナの3倍以上時間が掛かったけどね」
「ルーナは特別じゃから比べても仕方ないのじゃ。アステルが掛けた時間でも充分に誇れる習得速度じゃぞ」
「本当に? なんだかちょっと嬉しいな」
普段はここから落とされるのだけど、こう素直に誉められると少し照れるな、でもやっぱり嬉しい。
「そろそろ次の段階に進んでも良い時期じゃのう」
「次の段階?」
「うむ、これまでは魔力を水や土といった物質に変化させる修行じゃったじゃろ? 次は凍結、発火、放電といった現象を起こす魔法の修行じゃ」
「なんか難しそうですね」
「魔力操作をそこまで習得しておるのじゃ。あとは感覚とイメージを高めれば、そう難しいものではない、早速出発するのじゃ」
「出発? どこにですか?」
「うむ、感覚とイメージを覚えやすい場所じゃ」
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━━で、連れてこられたのがここ「肌で感じるのが早いのじゃ」と、言って7日ほどここで生活する事になった。ひょっとして火魔法を覚える時は火山にでも連れていかれるのだろうか?……
ルーナさんは直ぐに感覚を掴んで氷魔法の第一段階、氷を作り出すことに成功。今は冷気を作り出す氷結の感覚を探っている。もうここで修行しなくても大丈夫な段階なのだけど、僕の護衛も兼ねて残ってくれてる。
フェリシアとアリシアはまだこの段階に至っていないからダンジョンでクエストをこなしながらエリーさんの厳しい修行を受けている。
ルーナさんとエリーさんにとっては厳しい修行ではないらしいけど、この人達は普通の基準がおかしい……本当に何度死んだ父さんに会ったことか……2人が無事なことを祈るよ。
ティガは寒いのが苦手らしく頑なに部屋魔法から出てこようとしない、部屋魔法内は常に一定温度を保って暑くも寒くもないらしい、今回ばかりはちょっとティガが羨ましい気がするよ……
僕達は今、アイスヘルの中心部に向かって歩きながら獣を探している。急に連れて来られたから大した食料も用意していなかった事もあり、肉類が不足している。
食料だけなら氷樹の実や葉、雪花等を調理すれば問題ないのだけど、寒い中狩りをしているのはルーナさんがお肉が食べたくなったのが理由。
今日は空も晴れて風もないからまだ寒さはマシだけど、現在の気温はマイナス45℃、もう2時間も歩き回っているから、そろそろエリーさんがここに来た時に土操作で作ってくれた小屋に戻って暖まりたい……ルーナさんはなんでこの寒さが平気なんだろう?
「ごめんルーナ、そろそろ体が限界近いかも……」
「…ん、仕方ない…ね」
仕方ないと言ってくれたルーナさんが少し悲しそうな雰囲気を漂わせている。
ダメだ! 僕の所為でルーナさんが悲しむなんて! 今こそ最大限の力を発揮しろ僕の食材鑑定スキル! お肉の反応を発見するんだ! うおーーー!!
「ルーナ、あっちに肉系の生き物の反応が!」
食材鑑定スキルが500m程先から肉系の反応を感知した。
やった、よくやった食材鑑定スキル。
僕の声にルーナさんが素早く反応し駆け出す。
辿り着いた場所はウィレム湖、一見何も居ない様に見えるが、僕の目にははっきりとウィレム湖を泳ぐ大きな魚影が見える。
「魚が居るけど、どうしよう?」
流石にウィレム湖に入って捕ることは出来ない、間違いなく凍死する。かといって釣竿や網も無いし……湖に近づく程に急激に気温も下がって、あと100mが進めない。
「…ん、魔法で捕まえる」
そうか、覚えたての土魔法を使えば何とかなりそうだよな。
ルーナさんは早速土魔法を使って即席の銛を作り出し大きく振りかぶってぶん投げた。
銛は見事に魚に命中、そのまま突き抜けた。
「よく正確に当てれたよね。でも貫通しちゃったら持って来れないよ?」
「…てへ、張り切り過ぎちゃっ…た」
うん、お茶目なルーナさん最高です。これが見れるだけでこの極寒の地が天国に思えるよ。
「じゃあ、今度は僕がやりますね」
僕は土魔法で手を作り、ルーナさんが仕留めた魚を拾い上げた。
拾い上げた魚は体長1m50cm程の大きさで全身が鏡の様に回りの景色を映し、傷口から血と一緒にキラキラ光る液体が流れ落ちていた。
「こんな魚始めてだね?」
ほぼ間違いなく新発見食材だよな?
「…ん、早く帰って食べ…よ」
そのままこちらに引き寄せようとしたその時、突然何者かが空から現れて魚を奪って飛び上がった。
「フロストバーンに取られた!」
「逃がさな…い」
ルーナさんの気迫漂う声と同時に直径1m程の岩がフロストバーン目掛けて飛んで行く。
岩は音速の壁を突き破って見事フロストバーンに命中、頭部を砕いて何処かへ飛んでいった。
「……凄い威力だけど土魔法としてはどうなんだろ?」
「…ん、倒せたから問題ない…よ」
うーん、それはそうなんだけど、魔法って感じじゃないよね? まあ、ルーナさんならなんでも有りか……
魚も無事そうだし、フロストバーンという大物も捕れた。残りの3日は肉の心配はせず修行に専念出来そうだ。ルーナさんも大量のお肉ゲットでかなり機嫌が良さそうだ。
フロストバーンが落ちた場所にウィレム湖を迂回して向かっていると北東方向に大きな建物が見えてきた。
「なんだろう? あれ」
「神…殿?」
見えたのは真っ白な円柱が立ち並ぶ神殿の様な建物。
おかしいな……あんな建物の情報は前に読んだ本には載ってなかったはず……
僕が読んだ本は約50年前に書かれた物で、当時の調査の結果、この場にはこれといって価値のある物がないと決定付けられ、その後は調査もされず、エターナルアイスヘルには殆ど誰も近寄らない。
氷樹の樹液や雪花は精神安定魔法薬や解熱鎮痛魔法薬の材料になるのだけど、他でも代用が利くからここに来るリスクを考えて価値なしとなった。
あの建物は当時の調査員が見落としたと考える事も出来るけど、あんなに目立つ建物を見落とすだろうか? 調査後に現れた可能性が高いよね? でもどうやって? 考えられるのは1つ……




