表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/100

第1話 冒険の始まり

 ダンジョン都市グランセル、この都市の中心街から離れた小さな家の少年アステルは、今日も日課の素振りをしていた。


「アステル、今日もやってるのか? 毎日頑張るなぁ」

「うん、僕も父さんみたいな冒険者になるんだ、今日父さんが帰って来るから、僕がどれだけ強くなったか見てもらうんだ」


「お兄ちゃん! こんなとこで何やってんのよ! もう直ぐお父さん帰って来るんだからご飯のお手伝いしないとダメでしょ!」


 僕が素振りをしていると、家の窓から僕を呼ぶ声が……アイリスだ。不味い手伝い忘れてた……


「はは……ごめんごめん、今からやろうと思ってたんだ……」

「うそばっかり」

「いや、ホントだよ? そんなに怒んなよアイリス」


 窓の向こうで腕組みをしてプンスカしているのは、僕の3つ下の妹、まだ六歳だというのにしっかり者で、家事やもう直ぐ一歳になる弟の面倒などの手伝いを率先してやっている。

僕も家の手伝いはやるんだけど、やっぱり冒険者修行を優先してしまうので、いつもアイリスには怒られっぱなしだ。


 木刀を片付け、急いで家の中に走って行き、アイリスに発破を掛けられながら食器を並べていると━━


「今帰ったぞ」


 玄関から、家中に響く大きな声が聞こえてきた。父さんだ。


 僕とアイリスは、玄関まで競争するように走って行き、父さんに抱き付いた。


 このもみ上げから口の回り全体に髭を生やした、男らしくカッコいい人は、僕の自慢の父さんベアトル、僕も大きくなったらこんな風に髭を生やしたいんだけど、母さんに目くじらを立てて反対される。何でだろう?


「父さんお帰り」「お父さんお帰りなさい」


「ただいま。二人とも元気にしてたか?」


 父さんは、玄関に膝を付いて僕達を抱き締め頬擦りをしている。と、そこへ弟のアレンを抱っこした母さんが、ゆっくり歩いて来た。


「お帰りなさい、あなた」「あーうー」


 このふわふわ話す人は僕の母さんのユミリア。そして抱かれているのは弟のアレン。母さんは近所のおじさん達のアイドル的存在だったらしく、父さんと結婚した時は、多くのおじさん達が引きこもったらしい、今でも結構僻まれ、美女と野獣とか、色々と陰口を言われる事が多いのだけど、僕は最高の夫婦だと思っている。


「ただいまユミリア、それにアレン」

 父さんはゆっくり立ち上がると、母さんの元へ歩いて行き、優しく抱き締めて、ただいまのキスをした。


 ダイニングへ移動し、今回の冒険の土産話を聞きながら家族団欒を楽しんでいると、アイリスは自分1人で作った料理を父さんに手渡す。

「上手いな、アイリスが作ったのか? お前は良い奥さんになるぞ」

 父さんは口一杯に、アイリスの作った料理を頬張り、上機嫌でアイリスの頭を撫でている。


「本当に? やったぁ」

 誉められたアイリスは少し照れた様に、とても嬉しそうに父さんに笑顔を向けた。


「僕もいっぱい修行したから後で見てよ」


「お兄ちゃんたら修行ばかりして家の手伝いをあまりしてないのよ」


「ははは、修行も大事だが母さんの手伝いも忘れるなよアステル」

父さんに注意はされたけど、怒っている様子はなくて、優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。


 ちょっと照れ臭いけど父さんに撫でられるのは嫌じゃないな。


 食事も終わって僕は父さんの手を引き、庭に出ていつものように修行の成果を見てもらっていると


「アステル、だいぶ動きが良くなったな」


「ホントに? やったぁ父さんに誉められた」


 会話をしながら父さんは、ごそごそと何も無い空間から一振りの剣を取り出した。


「今どこから出したの? その剣」


「ああ、これは収納魔法(ストレージ)って言ってな、冒険者になるなら必須の魔法だ。お前ももう少し大きくなったら覚えると良い」


「うん」


「それは良いとしてほら、お前に俺の使ってたダガーをやろう」

父さんは僕に、片刃の剣を手渡してきた。


「父さん、これってダガーじゃないよね?」


 体の大きな父さんからすればダガー扱いかも知れないけど、一般的に見ればショートソード並の大きさだ。


「お前が冒険者になったら持って行け、20階層で見つけた風切りと言う剣だ。特殊な能力は付いてないが、切れ味の鋭い名品だぞ、それとその鞘は無くすなよ、剣より貴重品だからな」


「うん、ありがとう、でも良いの?」


「ああ、俺は新しいのがあるからな、それでお前がもっとやる気になるなら俺は嬉しい」


「やったぁ、僕頑張って父さんみたいな立派な冒険者になるよ」


 僕は嬉しくて剣を抱き締めた、よーし頑張って修行するぞ




 数日の休養の後、父さんはまたダンジョンに冒険に出た。今回の探索は少し長引く予定らしいけど、僕の10歳の誕生日までには戻ってくると約束してくれた。




 でも父さんに誕生日を祝ってもらえることはなかった。父さんはダンジョン27階層の探索中、仲間の冒険者を庇い致命傷を負ってしまったのだ。


 ギルドに呼び出され、皆で駆け付けた時には、父さんは天国に旅立った後だった。父さんの仲間の人達は、母さんに謝っていたけど、母さんは責めることもなく━━


「主人を連れて帰ってくれてありがとうございます」


 と、一言お礼を言って父さんを連れて家に帰った。


 僕とアイリスはずっと涙が止まらなかったけど、母さんは一度も涙を見せなかった。家に帰って泣きながら僕とアイリスは、いつの間にか寝てしまった。


 翌日に父さんのお葬式が終わると、母さんは僕達を集めて━━


「いい? 二人とも、いつまでも泣いていたらお父さんが悲しむわ、お父さんを悲しませないようこれからは四人で協力して頑張るのよ」


 そう言って僕達を抱き締めた。僕達は涙を流しながら『絶対に父さんを悲しませたりしない』と心に誓った。




 ━━それから6年が過ぎ。


「アステル、肉野菜炒め一丁と焼き飯三丁、それにガラスープ三丁だ」


「了解」


 僕は今、父さんの冒険仲間だったバルおじさんが、冒険者を引退して始めた居酒屋でアルバイトをして家計を助けている。


 冒険者への道を諦めた訳ではなく、子供だったから冒険者にはなれなかったのだ。


 今日で16歳、成人の年齢になったから、ここを辞めて明日から冒険者に登録する予定だ。


 アイリスは危ないからダメだって、ずっと反対しているけど、母さんは「父さんの子なのだから」と、許してくれた。


 でも本当は嫌なんだろうな、時々父さんを思い出すみたいに悲しい顔をしていたし、大丈夫だよ絶対にまた悲しませたりしないから……



「お疲れ様でした」


「ご苦労さん。アステル本当に冒険者になるのか?」


「うん、今日までお世話になりました」


「そうか……そうだよな、ベアトルの子供だもんな……解った俺も応援する。解らない事があったらいつでも頼ってこい、俺の経験で得た事ならなんでも教えてやるから」


 店長がグッと拳を突き出し、僕も突き出された店長の拳に拳を合わせる。


「ありがとう、また顔出すよ」


 店長に挨拶を済ませ家路についた。


 家に帰ると、母さん達がご馳走を用意して待っていた。


「お帰りアステル」


「お帰りなさいお兄ちゃん」


「兄ちゃんお帰り」


「ただいま、今日はどうしたの? このご馳走」


「何言ってるのアステルの誕生日でしょ、それに明日から冒険者になるんだからしっかり食べて精をつけないとね」


「そうよ、今日は私も腕によりを掛けて作ったんだから」


「ありがとう凄くうれしいよ」


「僕も手伝ったんだよ」


「アレンもありがとな」


 僕達は、この6年でゆっくりと気持ちも落ち着き、自然に笑える様になった。アレンも大きくなり、アイリスがしっかり躾をしたお陰で、今ではかなりのしっかり者だ。


 この日僕は、母さんやアイリスが作ってくれた料理をしっかり堪能して、気分良く眠りについた。



 ━━翌朝


「気を付けて行くのよ」


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


「兄ちゃん頑張ってね」


「今日中には帰って来るから心配しなくていいよ。いってきます」


 家の外まで家族に見送られ、手渡された弁当を収納魔法にしまい、僕はギルドに向かい駆け出した。



「ここに来るのはあの時以来か」


 父さんが死んだ日に来て以来、久しぶりに来たギルドの扉は緊張の所為なのかとても大きく見えた。


 扉を開けると、広いロビーの中央に掲示板、その奥に広がるカウンターでは、屈強そうな冒険者が、カウンターに向かい受付をしている姿がチラホラ見える。


 先ずは登録をしなきゃな


「こんにちは、登録はここで良いですか?」


「はい……あなたはひょっとしてベアトルさんのお子さんじゃないです?」


「はい、父さんを知ってるんですか?」


「大きくなったわね、ベアトルさんが見たらどんなに喜んだか」


 少し目に涙を浮かべ、昔を懐かしむように僕に笑顔をみせる受付のお姉さん。指で涙を拭い直ぐに登録手続きをしてくれた。


 冒険者に登録すると簡単に冒険者についての説明を受けた


 冒険者は(アイアン)青銅(ブロンズ)(シルバー)(ゴールド)白銀(プラチナ)金剛鉄(アダマンタイト)神鉄(オリハルコン)の七段階で分けられ、最初は鉄から始まり最高ランクは神鉄になる。


 ランクは名誉になるが、これと言って権限が与えられる訳ではないが、高ランクほど何処に行っても色々と優遇してもらえる事が多い。


 ダンジョンは国が運営するギルドが管理しているが、中で手に入れた物は基本的に本人の物。


 ギルドの掲示板で依頼を受けてクエストをこなすと、報酬が貰えるが、依頼を受けずダンジョン探索のみをする事も可。

等、色々教えてくれた。


 説明が終わると、ギルドカードとランクタグを渡され、奥の部屋に通される。


 そこでは、自信の能力を数値化した情報や、取得しているスキルを調べる事が出来るらしい。


 スキルには先天的な物と後天的な物があり、ちゃんと把握しておくと、無駄無く自分にあった鍛え方が出来るのだ。


 僕の現在の能力は━━


筋力112

瞬発力98

魔力187

生命力134

スキル

賢者の卵、調理師A、食材鑑定A、剣術D、回復魔法D、収納魔法D


 16歳の駆け出し冒険者の平均は100程なので、魔力が少し高めで魔法師向けらしい、先天スキル賢者の卵スキルは結構よくあるスキルで、所詮は卵なので大した事は無いのだ。調理師スキルと食材鑑定スキルのAはかなり高めで、美味しいご飯を作る才能あり、鑑定眼を使えば見たものの食材的な情報(毒の有無やどんな調理に適しているか等)が解るらしい、やってて良かった居酒屋のアルバイト。


 剣術スキルは鍛えれば大抵の人は習得出来るスキルで、2つの魔法は魔法屋で購入すれば誰でも覚えられる魔法だ。


 ギルドカードに記録し、仲間や身内以外にはあまり見せない様に注意を受けて、初のダンジョン探索へ向かった



 ギルドの西側の扉を出ると広い通路があり、そこを歩いて行くと大きな扉。扉の前には守衛が立っていて、冒険者タグを見せると快く通してくれた。


 地下へと伸びる薄暗い間道、暫く進むと……外に出た?


 地下に降りたはずなのに何故外に? いや、外じゃない天井が見える


 外に出てしまったと思ったそこには木々や草花が生い茂り、日が射した様に明るい


「これがダンジョン? 凄い、地下なのにこんなに広大な景色が……」


 僕は沸き上がる好奇心が抑えきれず、ダンジョンの奥へと駆け出した。


 話には聞いていたけど実際の景色は驚く事ばかりだ。見たことの無い植物、想像以上に広いダンジョン内部、外には居ないモンスター……


 モンスター!? 


 はしゃぎ過ぎて忘れていたけど、ここはダンジョン内部、危険なモンスターで溢れている。


 咄嗟に屈み息を殺したけど既に遅く、モンスターに気付かれた。


 ゴブリン5匹か……最弱ランクに位置するモンスターだし、これくらい何とかなるだろう……


 ゴブリン。鬼族ゴブリン種に属し、ゴブリン、ホブ、ジェネラル、ロード、キング、と、上位種になるほど強くなる。ここに居るのは最弱ランクの只のゴブリンだ。



「キシャー!」「ゲギョゲギョ」


 ゴブリンは奇声を上げ僕を威嚇してきた。


 僕は囲まれる前に父さんに貰った風切りでゴブリンに斬りつける。しかしゴブリンの動きは素早く躱されてしまい、躱された直後、別のゴブリンが後方から攻撃を仕掛けてきた。


「あぅっ!」


 背中に蹴りを受け倒れてしまい、風切りを手放してしまった。


 ゴブリンは風切りを拾い上げ、不適な笑みを浮かべて僕を見ている。


「キシャー!」


「うわぁー!」


 武器を取られた。ダメだやられる!


 僕は怖くなって逃げ出した。ゴブリンは逃げる僕をどこまでも追いかけて来る。


「た、助けて……誰か……」


 僕は必死に逃げ回り、広い部屋の端にたどり着くと、小さな通路らしき場所が見えた。


 その通路に駆け込み、奥へ奥へと走った。


 僕を嘲笑うかの様に追いかけて来るゴブリン、薄暗い通路を脇目も振らず走っていると突然! 地面が無くなっている事に気が付いた。


「あっ!」


 気が付いた時には、もう深い谷に落ち始めていて、通路のあった方向に首を向けると━━谷の上で、はしゃぎ回るゴブリンの姿が見える。



 初日に、こんな事になるなんて……母さん……アイリス……アレン……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ