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フリーター探偵と貴族の招待状  作者: ほてぃねこ
9/9

最終話「フリーター探偵」

貴族のホームパーティーでの事件から数週間後、俺達は無事帰国し、出発以前と変わらない生活を送り始めていた。そう、バイトと就職活動という苦しい日々を。


事件が解決した翌日は、帰国まで数日空いてしまったため、ホテルで聞いていた近場でおすすめのお店を観光目的で回りまくっていた。長いショッピングから、旨い飲食店までこれでもかと言わんばかりの散財観光だった。


……と言っても、今回の旅行費はすべてあゆみが負担してくれているため、俺にとっての支払いはないのだか、お金が尽きてしまうんじゃないかと内心心配していた。あいつ、クレジット払いはいいが、どんだけお金有るんだ……


あ、そうだ、あゆみで思い出した。この後、バイト終わりに『いつもの喫茶店』で会う約束をしてたのを忘れかけてた。あぶねーあぶねー。また、キーキー怒鳴り散らされるとこだった。


カン、カン


レジ前に缶コーヒーを置く音が響き、接客のために仕事に集中し直す。


「いらっしゃいませー」


俺は定型文の如く言葉を発する。その言葉に気持ちは全くない。


「ふむ……やる気のない挨拶だな。ちゃんと仕事はしているのか?」


顔を見ると、そこには司結城つかさゆうきという俺のよく知る男がレジ前に立っていた。仕事は出来ていると言っても、本音は自分がやりたい仕事というものが接客ではないことをどこかで思っている。


「ゆ、結城ゆうき先輩じゃないっすか!?どうしてこんなところに」


「お前に話しておきたいことがあってな。少しだけ抜けられるか?」


「もうすぐ昼休憩取るんで大丈夫ですよ?」


「わかった。隣の広場で座って待っていよう。あと、コーヒーを2つ買いたいのだが?」


「はい、かしこまりました」


----広場----


先輩のお会計を済ませた後、俺は昼休憩に入り、先輩の待つ広場に向かう。


「それで、話って何ですか?」


「ホームパーティーでの事件後の話でな、少し気になる内容を取り調べで聞いたんだ」


「気になる内容?あ、そーいえば、先輩達が捜査してた理由、全部教えてくれる約束でしたよね?」


「それも込みの内容だ。まぁ、コーヒー飲みながらでも話そう」


先輩がさっき買った缶コーヒーをひとつ貰い、隣に座る。


「俺達の捜査していた目的だが、『ある組織』について探して追いかけていた。偶然にも捜査していた国際犯罪に捜査線上に引っかかってきたのが、『コレク・ショーン』という男だった」


「『ある組織』?コレク・ショーンが関わっていた密売組織ですか?」


「いや、あの男が個人で密売に関わっていただけであって、『ある組織』とは関係はないんだ」


「じゃあ、その『ある組織』ってどんな組織なんですか?」


「国際的に様々な犯罪行為に関わっている組織。だが、どんな人物がどんな犯罪行為に関わっているのか、本来の目的さえも謎に包まれているんだ。例えれば『世界の裏組織』だな」


「『世界の裏組織』って、またマンガに出てきそうな言い方ですね」


「そんな簡単に見つかるような組織だったら良いけどな」


「でも、なんでそんな謎の組織を追いかけてるんですか?」


「……俺の同期だった仲間のかたきを討つためさ」


先輩にも色々あったんだな。それに、世界の裏組織なんて言葉が出てくるとは……いったいどんな規模の相手をしているのかも想像もつかない。暫く沈黙が続いた後、先輩が再び話し始める。


「続きだが、やっとのことで見つけた組織の一人だったコレク・ショーンを捜査していくうちにエレナ・ローランと繋がっていることが分かったんだ。そこで、俺は美麗みれいにローラン家の秘書として潜入捜査を指示して逐一情報を集めさせていたということだ」


「それで、今回偶然にも事件が重なって俺たちと出会ったわけですね」


「偶然なのか必然なのか……そうだ、取り調べでの内容についてだが」


「そうでした。気になる内容とは何ですか?」


「あの男から組織について絞り出そうと徹底的に攻め尽くしたのだが……」


----事件後・警察署:取調べ室----


「コレク・ショーン、お前達組織の目的はなんだ!全て吐け!」


取調べ室の席でコレク・ショーンに言葉で攻めたてる。


「フフフッ」


「何がおかしい、状況を分かっているのか?」


「そもそも、私の名前は『コレク・ショーン』などとふざけた名前ではありませんので」


コレク・ショーンという男は人を見下すような笑みを浮かべながら話す。


「そうか。では、組織とお前の名前を教えてもらおうか」


「組織は不特定多数の人で構成されていますので。私はその一組織、残念ながら知らないことばかりなのですよ」


「期待はしていない、予想通りの答えだな」


「それは良かった。では、私を追い詰めたご褒美に少しだけ『私の情報』をあげましょう」


「私の情報?」


ホームパーティーの時にいた人物とはまるで違う口調だ。どこまでふざけているんだ。


「私の名前は『ナンバー10(てん)』そう組織では言われておりました。こう見えて上位の階級なのです」


「番号で組織は構成されているのか」


「さて、何処まであるのかさえ私にも知らされてないですからね。ただ、私が任されたのは『ナンバー10(てん)』として一部分の組織をリーダーとして統率することですから」


「なるほど……では、組織を統率して動くぐらいだ、目的や上からの指示があったはずだろ?」


「これはこれは、ご明察。ある品物を探せと命令がありました」


「ある品物?」


御金みかね一族の財産の一つ、『首飾りのロケット』ですよ」


御金みかね一族の財産!?何故それを求める!」


「そこまでは……後はご自身の手で真実をお探し下さい」


そう言うと『ナンバー10』という男は話をしながらこっそり懐中時計の中から小さなカプセル薬を取り出し、口に放り込み飲み込んだ。


「ウグッ!」


胸を押さえ苦しみだし、座っていた椅子から倒れ落ちる。


「まさか、毒薬どくやくか!早く医者を呼んでくれ!」


ナンバー10という男は床で悶え苦しみながら言葉を吐き出す。


「い、いずれまた御金みかね家の財産を奪いに組織は小娘を襲うだろうさ。ウグッ!」


そう男は言い残し息を引き取った。


「命を絶つなど、馬鹿なことを!」


---------------


カラン、カラン


飲み干した缶コーヒーをゴミ箱に捨てる音が静かに響き渡る。


「……ということだ」


「……俺は、何か先輩の手助けをできることはありますか?」


「ない。だが、今から御金あいつを傍で守ってやることは、お前にしかできないだろう」


「そうですね、わかりました」


「俺が奴らを捕まえて組織ごと崩壊させてやる。それまで御金あいつを頼むぞ」


そう言って先輩は俺に名刺を一枚渡して、その場から去っていった。何かあればこの電話に掛けろってことだな。俺は名刺をスマホケースの中に入れて再びバイトに戻るのだった。


----とあるいつもの喫茶店----


カラン、カラン


バイト後にいつもの喫茶店に着いた俺は、あゆみがいる席を探し歩いた。


「やっと来たわね、ニート」


ふんぞり返って声を掛けてきた女にさっそく殺意が沸く。お前、店でよくそんな態度と言葉を言えるな。俺は向かいの席に座る。


「フリーターだ!(就職浪人)てか、話ってなんだ?」


「事件後にジャン・フォートから手紙が届いてね、これ読んでよ」


テーブルの前に出された手紙を読む。まさか、また招待状じゃないだろうな?……と内心前回の嫌な展開がよぎったが、どうやら事件後の近状報告のようだな。


グラースさんは庭師であったこともあり、お花に詳しかったため、小さなフラワーショップを町で開き暮らし始めたようだ。そこにペティーさんも一緒に働き始め、芸術家でもある彼女のセンスは町のフラワーコーディネーターに留まり始める。そこでジャン・フォートがジャーナリストの職を利用して世界に情報を発信して広めたら、瞬く間に注文が殺到し、今では有名なフラワーショップになっているとのことだった。


「事件後もみんな、何だかんだ元気そうで良かったよ」


「だね。みんな良い仕事してるよねー」


グサッと見えない鋭い針の様な空気に刺された気がした。わざと俺を見て言うなよ。


「で、何が言いたいんだ?フリーターと箱入り娘で何ができるんだよ?」


「察しが良いね!ニート君。ではでは、さっそく私の家に行こう!」


ニート君……お前の考えはいつも嫌な予感しかしないけどな。そう思いながらも彼女の家に付いて行く。


----御金みかね家----


久しぶりに見るが、相変わらずの大豪邸だ。入り口は大きな柵状の門、玄関までの道のりは花壇が並び立つ。大体家が五軒ぐらい並ぶ広い土地、そこに建ててある家を豪邸と言わないあゆみの神経はもはや狂ってるとしか言いようがない。まぁ、二階建てにしているのは少々もったいない気がするが。


「開け、もん!」


ぽちっとインターホンを押しながら叫ぶ。そりゃ開くわな。家の中でお世話係の誰かが操作しているのは分かり切っている。あゆみに付き合うの同情するよ。


あゆみの後をついていくと豪邸の玄関に向かうのではなく、隣にぽつんと建てられている一軒家分の建物に向かう。中に入るとすぐに二階に続く階段を上がり、登りきると少しだけ奥にある部屋のドア前に着く。


「よーし、到着!」


「看板があるな。なになに……『御金探偵事務所みかねたんていじむしょ』?」


「その通り!ここは、今日から私達の探偵事務所なのだ!」


「そんな話聞いてないぞ!?」


「今言った」


「お前な……私達って俺もするのか?」


「当然、私は事務所の所長。探偵は南野一人なみのかずとだよ。あと、手続きはもう済んでるから直ぐに開業OK!」


またこの女は勝手に話を進めやがって。思い付きでいつも直ぐに動く性格だから仕方ないが、流石に自営業は難しすぎだろ。


「そもそも俺は、今はコンビニでバイトしてるから、直ぐ働くなんて無理だぞ」


「あ、大丈夫、大丈夫。事務所の探偵業務って言っても雇用形態は『アルバイト』だから。始めのうちは探偵業じゃ収入安定しないから、今のバイトは辞めない方がいいよ」


「はい?掛け持ちしろと」


「うん。ある時はコンビニでアルバイト、ある時は探偵でアルバイト……そう、彼の名は!」


『フリーター探偵』


何だよその前セリフ的な設定内容は。恥ずかしすぎるだろ!まだ一度も定職に就けてない俺にダブルワークをさせるお前は鬼だ、鬼。


「探偵なんて俺に務まるのかよ……」


「むしろ、探偵の方が向いてるんじゃない?数週間は事件を解決してくれたし!定職目指してみたら?」


「たまたまだろ、あれは」


でも、もしかしたら、先輩が言っていたある組織からあゆみを傍で守ることができる切っ掛けになるかもしれない。


「お嬢様、お客様が参りました」


「あのぉ、仕事の依頼をしたいのですが」


ドアの入り口に御金みかね家のメイドと依頼者であろう女性が顔を出してくる。


「ようこそ!御金探偵事務所みかねたんていじむしょへ。私は所長の御金歩みかねあゆみですそして彼は……」


パチパチ目で合図をしてくる。あの前セリフ言うのかよ。


「ある時はコンビニでアルバイト、ある時は探偵でアルバイト……そう、俺の名は!」


『フリーター探偵』


----おしまい----


何とか1作品書き終えました。最後まで読んで下さった方ありがとうございます。

作品関して感想、評価頂ければありがたいです。次回からの作品作りに繋げていければと思っています。

これで本作は終わりですが、次回作を作っていく予定です。

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