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フリーター探偵と貴族の招待状  作者: ほてぃねこ
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第六話「推理ショー」前編

全員の聴取から浮き彫りになった『離れの倉庫』と遺体の調査結果を聞く。

鑑識によると、遺体は衣服、身体から争った痕跡はなし。

死因は刃物で刺されたことによる大量出血死、『殺害方法』は刺殺と判明する。

ここまでは先輩と俺の考察通りだったが、鑑識から添えるように告げられる。


「死因は刺殺によるものなのですが、二度ほど刺された痕がありました」


「二度刺されていた!?」


「はい、1箇所は被疑者の御金歩みかねあゆみが握っていたナイフと一致しました。

 ですが、もう1箇所は一致せず、別の『湾曲した鋭利な刃物』で刺されたもの

 だとわかりました」


「では、犯人が一度刺した後、さらに別の人間が『湾曲した鋭利な刃物』で刺した

 ということか……あるいは同一犯が刃物を別々にして刺したか」


湾曲した鋭利な刃物?何処かで見たような……何か引っかかるんだよな。

俺が思い出せないもやもやの中、話が進んでゆく。


「続いて離れの倉庫の調査結果ですが、等身大の人間を模した『氷の像』が

 あるだけで、争われた痕跡もなく、所々指紋を採取しましたが、

 お聞きしていた四人の指紋だけが検出されました」


「裏を返せば、あの四人以外倉庫に入った者はいないということだな」


氷の像、湾曲した鋭利な刃物……はっと俺の脳内で一欠けらのピース同士が

次々に光の線で繋がる様な感覚が走る。わかる、これが『ひらめき』だ!


「そうか!わかったぞ、後は足りない『証拠』を集めるだけだ!」


「待て南野なみの!閃いたのなら俺にも情報共有しろ」


俺は先輩に今までの現場の状態、聴取と閃いた内容を照らし合わせながら話す。

先輩は殺害に使われた『証拠』に苦戦していたらしく、俺の知らない内容を

沢山持っていた。


「では、犯人はやはり……」


「本来の俺達の捜査目的が、今回の事件と繋がっていたという事だな」


「今聞いた内容だけが全てでは無いと思っていますが、事件が解決したら教えてください」


「……話しておく方が身のため、ということだろうな。わかった、約束しよう」


さて、事件の捜査は大詰めだ。俺は殺害に使われた『証拠』を手に入れるため、

ジャン・フォートの元に向かう。

先輩はアリバイに使用された『録音音声』について心当たりがあるらしく、

そちらの準備にあたってもらうことにした。


食堂に向かうとでジタルカメラで撮った写真を見ているジャン・フォートがいた。

目的の写真を撮っていることを願いながら声を掛ける。


「ジャン・フォートさん、事件解決の為に写真を見せてもらいたいのですが」


「良いけど、そんな人を刺している様なグロい場面の写真なんて撮ってねーぞ?」


「いえ、見たいのはハリーさんが彫られていた『氷の像』です。撮ってますか?」


「あぁ、あれか!もちろん撮ってるぜ。あいつが作品と写ってる写真も、

 これ一枚のなっちまったがな」


デジタルカメラで撮った写真のデータを見せてもらう。

写真には確かに胸元で短剣を構える『氷の像』とハリーさんが写っていた。

これで殺害に使われた『証拠』を見つけたぞ!


「事件が解決したらを返します、カメラごと写真のデータを貸してください!」


「一応言っとくけど、そのカメラ高いから女性を抱く様に扱ってくれよ」


マジか……カメラの価値が高い事がだけど。

俺はカメラを抱えながらさっきまでいた聴取用の席に戻り、

先輩が戻るのを待った。


数十分後、先輩が席に戻ってきた。手にはレコーダーであろう機械を握っていた。

先輩と俺はそれぞれ手に入れてきた『証拠』を見せ合いながら推理をまとめた。

食堂には全員集まっている。先輩と俺、推理ショーの始まりだ!


----ローラン家の食堂:推理ショー----


「皆さん、お待たせしました。真犯人が分かりましたので、

 事件の全貌と共にお話します」


縦長のテーブルの並べられた席に全員が座っている。

皆が俺に注目する中で話を進める。

元々、真犯人を探し出すと言ったのは俺だったからな。

先輩も隣にいてくれるし、一人でない分心強くいれる。


「まず、この事件はそもそも違法なお金のやり取りが絡み合い始まったものでした」


「違法なお金のやり取り!?闇商売的な?」


「はい、それに関わっていたのが二人います。一人は貴方です、

 『コレク・ショーン』!」


ビシッといかにも決めポーズでコレク・ショーンに指をさした。

食堂にいる全員がコレク・ショーンの顔を見ながらあれやこれやと騒ぎ立てる。

決めポーズをしている俺には誰一人見ていなかった……恥ずい。


「わ、私がその違法な商売に関わっていた『証拠』はあるのか!?」


「『証拠」ならあります。それに、私は違法なお金のやり取りと言っただけで、

 違法な商売とは言っていません」


「こ、このクソガキ!」


「話は続きます。そして、この商売と言われるやり取りの相手こそ、

 今回のハリー・ローラン殺害の真犯人……」


「貴女です、『エレナ・ローラン』!」


ここでもすかさず決めポーズをぶち込み、エレナ・ローランを指さす。

食堂が驚きの声と俺を批判する声が混ざり騒音の渦となった。


一人かずと!とうとう考え過ぎで脳みそ溶けて狂ったわね、そんな訳ないでしょ!」


「美人を殺人犯呼ばわりとは、男が知れるな」


「……残念です。人として」


「お疲れですね、また紅茶を一杯いかがですかな?」


何だこのアウェー感は!てか、酷い言われようだろ……

他の人らはともかく、何で味方のおまえに批判されなきゃいけないんだよ!?

俺はおまえの為に事件解決してるんだろーが。


「皆さん、静かにお願いします。ですが南野なみのさん、

 私が彼とやり取りしていたという『証拠』はあるのですか?」


「あります。勿論、コレク・ショーンから直接自白して頂ければ、

 更に確信的な『証拠』がそろいますが」


「そうですか。でも、仮に彼とやり取りをしているからと言って、

 ハリーを殺したのが私とは言えませんわよね?」


また、食堂が騒つく。味方を批判するとかどういう神経してるんだあいつ?

まぁ、全員だけど……


「そうよ!エレナ姉さまが殺したって断定できる理由を聞かせてよ!」


「全くだ、美人を裁くということは、それ相応の覚悟があるのかな?」


「……男に二言はないですよね」


「少しここでティーブレイクでもどうですかな?」


そこに無理やり先輩が割り入る様に話を出してきた。

隣で美麗みれいさんはレコーダーを流す準備をしている。


「夫を殺すのには『動機』で十分だろ。エレナ・ローラン。

 お前はコレク・ショーンを仲介役として秘密裏に世界各地にいる骨董商に

 ハリー・ローランの作品を美術品として売りさばいていた。

 だが、美術展覧会以上の金額が動いていることに怪しんだハリー・ローランは、

 流通経路を調べ、コレク・ショーンを問いただし始めた。

 そして、貴女にもその話を問いただしてきたのだろう」


「あら、面白い作り話ね」


「作り話かどうかは、これを聞いてから答えてもらおうか。美麗みれい、頼む」


「わかりました」


美麗みれいさんが手に持った『レコーダー』の再生ボタンを押す。

レコーダーからは一対一で会話している男の声が流れる。

『ハリー・ローラン』と『コレク・ショーン』だな。


----レコーダー:再生録音----


「コレク、単刀直入に聞きたい。君は妻と密売を行っていないか?」


「ホッ、ホッ、ホッ、何を仰いますか。その様なことはございませんよ」


「そうか。ではこれを見ても密売をしていないと言い切れるのだね?」


「こ、これは……」


「過去の展覧会の予算と実際の費用と売上げだ。

 ミレイユに頼んで収支決算書をまとめてもらった」


「ですが、予算はあくまで予算、さほど実費とは差がないですが?」


「大事なのはここだ、実際の展覧会にある作品の数に対して輸送費が多すぎる。

 本当なら今までの作品数と比例させるとまだまだかかるはずだ。

 輸送というのは売りさばく為の手段として作品を出していたんだろう?

 あと、既にミレイユには骨董商までの足は調べてもらっているよ」


「……優秀な秘書を雇いましたね。ですが、私はあくまで仲介役。

 当事者の奥様にも真実を聞いてください」


コンッ、コンッ


「あなた、居ますの?」


「すまない。今、大事な『作品の展示』の話をしているんだ、

 後にしてくれないか?」


「分かりましたわ。私は寝室にいますね」


「……話はここまでにしよう。コレク、君が自首してくれることを願うよ。

 これから妻にも聞いてくるから」


ブツッ……


レコーダーの再生が終わる。食堂は静寂な空間に変わり、沈黙が続いた。

先輩は静かに歩きだし、エレナ・ローランの前まで歩み寄る。


「録音音声は以上だ。この続きはエレナ・ローラン、貴女の口からお聞きしたい」


うつむくエレナ・ローランの身体は微動だが震えている。

やはり、ハリー・ローランを殺害してしまった為の後悔が、

今になって身に浸みてきたのだろうか。

しかし、エレナ・ローランの口角は段々と上がっていく


「……ククッ、ハハハッ、アーハッハッハッハッ!」


高笑いする女の顔に全員に悪寒の様な冷たさを身体が通り過ぎる。

先輩は動じることなくエレナ・ローランと対面する。


「お前、何がおかしい?」


「何度も言うようですが、例え私が違法な商売をしていたとして、

 ハリーを殺したのが私とは言えませんわよね?」


「では、違法な商売について『寝室』でハリー・ローランに問われた事は、

 事実なんだな?」


「そうねぇ。まぁ、いつかバレるとは思っていけれど、

 国際警察を使って調べているまではちょっと予想してなかったわ」


「フフッ。自白、ありがとうございます。これで、全ての『証拠』がそろった。

 南野なみの、殺害トリックは頼んだぞ」


先輩が問いただした目的は、エレナ・ローランが寝室に居た。

という事実が欲しかった為だ。

今からハリー・ローラン殺害のトリックをエレナ・ローランにぶつけてやるぞ!

俺は彼女エレナ・ローランの前に立ち、冷たそうな目を睨むのだった。


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