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フリーター探偵と貴族の招待状  作者: ほてぃねこ
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第二話「ホームパーティー」

目的地の空港に到着した俺達はまず、ホームパーティーが開かれる屋敷近くのホテルに向かった。どうやらあゆみが事前に予約を取っていたらしく、珍しくしっかりしている姿に少し安堵した。


『天然女って思って悪かった』


俺は心の中で彼女に謝罪した。カウンターで彼女は外国語で話しをしている。何を話しているのか全くわからない俺でも、大概ホテルに着いたらまずすることはチェックインだろ。予想はついている。カウンターと話しを終わらした彼女が帰ってきた。


「おっ、チェックイン終わったのか?」


「え?なんのこと?屋敷までの道と近場でおすすめのお店を聞いただけよ?」


撤回、やはりこいつは天然…いや、ど天然女だ。


「何でだよ!ホテルに着いたらまずはチェックインだろ!」


「うっ…忘れてた訳じゃないから!それに、着いて直ぐにチェックインしてどうするのよ?」


「ホテルを利用するんだろ!荷物置いたりしないと。キャリーバッグ引きずってホームパーティーに参加するのか?」


「う、うるさい!細かい男は女子に嫌われるわよ!」


彼女は指を指しながら怒鳴り始める。また八つ当たりか。いつもの事だと慣れている分、俺には全く響かないが、これが他人だと今頃その場が怒号の戦場になってるぞ。


「わかった。わかったから、他国のホテル来てまでも怒鳴り散らすなよ」


「また、あなたが怒鳴らせてるんでしょ!」


「俺の言い方が悪かったよ。カウンターでチェックイン頼めるか?」


「よろしい」


………疲れる。何度このパターンをすればいいんだ。この先を不安に思いながらもチェックインを終わらし、招待されている屋敷に向かうのだった。


----屋敷前----


ホテルを出て暫く歩くと目的の屋敷が見えてきた。あゆみから聞いていたイメージ通り、大豪邸だ。池に庭園、3階建てのバルコニー付きの横長ホテルのようだ。駐車スペースには高級であろう車が数台止まっている。俺達が屋敷前の入り口に辿り着くと、年配の男性が一人声をかけてきた。


「お二方様、ホームパーティーの招待者でございますか?」


「はい。そうです」


あゆみは男性に答えながら頷く。俺も後に続いて頷いた。


「ようこそ、いらっしゃいました。私は『グラース』と申します。エレナ奥様と旦那様の執事をしております。お二方様、お名前は?」


「私は御金歩みかねあゆみです。彼は南野一人なみのかずと


会話をしながら執事は招待客の名簿に目を通していく。


「確かに、招待状の返事を頂いた方々ですね。どうぞこちらに」


俺とあゆみは彼の後ろをついていく。暫く庭園を進むと、そこには、豪華な椅子やテーブルが、庭に並べられている。何人か奥に人が居るが身なりが高級感溢れている人物ばかりだ。


「お二方が最後の招待者でございます。全員揃われたので、今から旦那様と奥様をお呼びします」


そう言ってグラースは屋敷の中に入っていった。隣ではあゆみがそわそわしながら俺に声を掛けてくる。


「何か……緊張するね」


「おう」


どうやら俺も一言しか答えられない程緊張している様だ。そんな空気を割くように、ある男が声をかけてきた。


「やぁ、素敵なお嬢さん。俺はジャン・フォート。君の名前を教えてくれないかな?」


背の高い茶髪で天然パーマの男だ。仕草がチャラチャラしているので、言葉がわからなくてもすぐにわかる。


「あいつ、ナンパしに来たんじゃないか?」


「名前を聞かれただけだよ」


「ほぼ同じだろ!少しは警戒しろよ……」


あゆみは人見知りをしないため、警戒心を余り持たない。俺が気にかけるしかないな。そうこうしていると、屋敷の中央門から色白の背の高い男性が出てきた。


「皆さま、今日は我が家でのホームパーティーに参加して頂きありがとう」


男性に続き背の高さが同じくらいの金髪で華奢な女性が出てくる。


「お料理のご用意ができましたので、どうぞごゆっくりお召し上がり下さい」


普段では見られない高級感のある料理がテーブルに並べられていく。ステーキやサラダ、フルーツの盛り合わせ、ケーキ、ワインと贅沢コースだ。料理を少し食べ、俺達は二人に挨拶をしに行った。


「お久しぶりです!エレナ姉様」


あゆみちゃん!会いたかったわ」


背の高い女性があゆみにはぐをしてきた。どうやら、従姉いとこの女性とはこの人らしい。今気づいたが、日本語も話せるようだ。気持ち安心だな。


「もしかして、君の親戚かい?」


「ええ、そうよあなた」


「それは初めまして、私は、『ハリー・ローラン』会えて嬉しいよ」


「……あら?後ろの殿方はどちら様?」


エレナという女性が俺を見ながらあゆみに質問をしてきた。


「只の友達。一緒に行きたかったみたいだから連れてきたの」


……お前が誘ってきたんだろ!

込み上げてくる様々な黒い感情を、今はとりあえず寛大な俺の心に留めて頷いた。


「そう、てっきりフィアンセかと思ったわ」


「まさか、彼とは仲が良いだけですよ」


……何故だろう、むかつくな。

暫く女性二人が話をしている間、俺は棒立ち状態になった。……木偶の坊だ。そう思いかけたため、テーブル上の料理を再び食べ始めた。


----庭園広場----


暫くすると、中央のテーブルにみんなが集まり顔合わせが始まった。時計回りに順々に自己紹介をする流れだ。


一人目は髭面の白髪男性、スーツにハットを被っている。


「私は『コレク・ショーン』と申します。ハリー様の作品に心打たれ、今では私が運営している美術館に作品を展示させて頂く程の仲で御座います」


「彼には資金援助もしてもらっていて、作品を作る時はいつも助けられているよ」


「とんでも御座いません、私の美術館が安定して運営できるのもハリー様の作品があるからなのです」


俺はあゆみに翻訳してもらいながら場の会話の内容を聞いていた。どうやら招待状に書いてあった『親しくしてくださっている方々』とは、主催者とビジネスで関わりのある人達のことを指しているようだ。


次に二人目が一歩前に出てきた。背の高い茶髪の天然パーマ、カジュアルな服に黒いサングラス 。『ナンパ男だ!』俺は心の中で思っていたが、あゆみは何も考えず口に出す。


「あ、ナンパ男」


「酷いなぁ、あゆみちゃん。俺には『ジャン・フォート』って言うハンサムな名前を教えたジャン?ってな」


「ジャン、もう女の子に声を掛けたのかい?君は相変わらずだね」


「ハリーこそ、相変わらずキラキラした良い作品を創るねぇ。後で写真、良いかい?」


「勿論さ。今回は『等身大の人間』を彫ったからね、良い値の写真を撮ってくれよ?」


「イイネ!だけにSNS映えもするかもな」


次の三人目は、眼鏡をかけ、綺麗な黒髪、レディーススーツを着たスタイルの良い女性だ。表現で言うボン、キュッ、ボンだな。


「ハリー様、来月予定しております、展覧会の予算の件ですが、後でお時間宜しいでしょうか」


「ミセス、『ミレイユ』。そうだね、後で時間をつくろう。だが、今はホームパーティ中だよ。君も息抜きをしないとね。私と一曲、社交ダンスはどうかな?」


そう言って細い手をそっと女性に伸ばす。


「すみません。ハリー様、私は結構です」


「……残念。良い女はガードが硬いね」


次の四人目は、ひ弱そうで小柄な三つ編みツインの女性。ベレー帽子にキャンバス、画材。画家であろうことはすぐに検討がついた。


「あの、ハリー様……来月の展覧会のポスターデザインですが、いくつか案ができましたので、後で確認お願いできますか?」


「ありがとう、『ペティー』。後でミレイユと展覧会の話す時間をとるから、順番に声をかけるよ」


「わかりました」


5人目、6人目は俺とあゆみだ。当然、俺は喋れないので、彼女任せになる。精々言えて挨拶ぐらいだ。


「どうも~御金みかね家の一人娘、『御金歩みかねあゆみ』と連れの『南野一人なみのかずと』です」


ビシッと敬礼が決まる。


「そこは違うだろ!」


俺はつい、ツッコミを入れてしまった。


「あ、左手で敬礼だっけ?」


「そこは、右であってる……じゃなくて、挨拶に敬礼は要らないだろ!」


「自己紹介って何かしたくならない?」


「ならねーよ!」


くすくすとまわりが笑っている音がする。おいおい、御金みかね家の名誉……お前が壊してるぞ。そこにすっとエレナさんが傍に来てくれた。


「ありがとう、あゆみちゃん、一人かずとさん。息の合った動きだったわ。皆さん、これは私の故郷でよく行う演芸での挨拶なのです」


エレナさん……めちゃくちゃ良い女ですよ!俺は咄嗟のフォローに心が惹かれてしまった。


「すばらしいかったよ二人とも、息の合った演芸だね。仲が良くなければできないことだよ」


ハリーさん達にも何とか受けたようだ。御金みかね家の名誉は何とか救われたか……冷っとした自己紹介の時間は過ぎ去り、また楽しいホームパーティーが再開した。このまま楽しい時間が過ぎて終わる……と思っていた。この後にあゆみが巻き込まれる事件が起きるまでは……

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