第一話「貴族の招待状」
俺の名前は『南野一人』。
コンビニでのアルバイトを終えて、大学のサークルで一緒だった御金歩に呼び出され、待ち合わせ場所の馴染みの喫茶店に着いた所だ。ついて早々、一方的な話が始まったのだが……
「と言うわけで一人お願い!」
物凄い圧力で俺に頼んできた彼女の名は『御金歩』。
見た目は外国によくある人形の様な金髪で童顔の小柄な女性だ。
家は名のある貴族出身で、金持ちであり、学校の成績は優秀で頭は悪くない。
……はずなのだが、天然な性格でどこか抜けているのだ。他にも短気でわがまま、
直ぐにキーキー怒鳴り散らす。困ったお嬢様だ。
「……いや、歩の話はわかった。でも、何で俺がお前の旅行に付き合うんだよ」
「だって、暇でしょ?」
「就活中」
「ニートでしょ?」
「フリーター(就職浪人)」
「じゃあ、クズで」
「何でだよ!急にディスりにきたな」
「とにかく緊急事態なのよ!今日までに招待状に返事しなきゃいけないのっ!」
バンとテーブルの前に叩き出された招待状を読む。
『御金様、ご壮健のこととお慶び申し上げます。
平素お会いしてお話することができず、寂しく感じておりましたので、我が家でホームパーティーを開き歓談でもしたいと思い立ちましてご案内をさし上げました。
なお、当日来られるのは私どもがごく親しくしていただいてる方々だけですからご遠慮されずお越しください。』
「で、何で全く関係ない俺がホームパーティーに参加するんだよ」
「家は執事やメイドだけで誰も居ないから、私一人でパーティーに参加することになるし」
「じゃあ、無理に参加しなくてもいいだろ?」
「でも、断るなんて御金家の名誉に傷がつくし」
「じゃあ、行けばいいだろ?」
「ん~もう!か弱い女性を一人で旅に行かせる訳!?」
八つ当たりだ。要は一人で行くのが嫌だから一緒に来い。そう言うことだ。
「わかった、わかったから店で怒鳴り散らすなよ」
「あなたが怒鳴らせてるんでしょ!」
言っている意味がわからない。もう何を言っても結論は同じだろう。俺の答えは彼女の話を聞いた時に、既に決まってしまっていたのだから。
「俺も一緒に旅行に行いくよ。それで良いんだろ?」
「よろしい」
この女は……そう思いながらも招待状に名前を書かれる光景を見つめるのだった。
----とある空港----
半ば強制連行の様に旅立つ俺には、一つだけ大きな壁があった……そう、それは言葉の壁だ。
「なぁ歩、そーいや場所とか聞いて無かったけどさ。……海外?」
「そだよ」
「一応確認なんだけどな。……外国語?」
「うん」
「俺、喋りも聞いてもわからんぞ」
「私は大丈夫」
「お前は良くても俺は絶望だろ!」
そんなツッコミ話を出発前の空港でする事態お笑い話だろう。俺の心は笑えなかったが。
「喋りとかは私が全部するから。立ってるだけでオッケーオッケー!」
「それじゃ終始木偶の棒じゃねーか」
「木偶の棒とか…ウ・ケ・ル」
「受け狙ってねーよ!」
そんなこんなしている内にフライトの時間になり、俺たちは目的地行きの飛行機に乗るのだった。
----飛行機内----
機内では、歩にこれから向かう招待者のことについて話を聞いていた。当然面識も無ければどんな人物なのか知る由も無い。向かう先がどんな場所なのかもまだ聞けずじまいだ。
「招待者の名前は『エレナ・ローラン』。従姉妹に当たるひとね。今は一流彫刻家と結婚して幸せに暮らしているわ。結婚以来音沙汰が無かった分、ホームパーティーでは久々に会うわ」
「ふーん。人妻か」
「……何考えてたの」
「な、何も考えてねーよ。それより彫刻家の旦那さんはどんな物彫るんだ?」
「氷の彫刻だって聞いてるよ。ほら、ネットにも画像が載ってる」
そう言いながら彼女はスマホで俺に見せてくれた。氷の彫刻と言うだけあり、透き通る様な綺麗な作品だ。滑らかな曲線を絵描くものや鋭く尖った物まで…これが氷で出来ているとは思えない物ばかりだ。
「すげぇな。しかも、マジで有名な人なんだな」
「すごいでしょ。綺麗だよね」
「でも、管理は大変そうだな。家にでっけぇ冷凍庫みたいな場所がないと、彫ってる間に溶けちまうな。」
「うーん……家と言うよりかはお屋敷かな?」
「や、屋敷!?……あのよく貴族の絵に出てくる様なでかい庭がある、あの屋敷か?」
「そんな感じ。私のお家よりでかいよ」
「じ、じゃあ俺達は今、氷の彫刻家の大豪邸に向かってるってことか!」
「うん。わくわくしてきたね」
ヒヤヒヤしかしてないわ。氷だけに。
喋れない、聞けない、頼るのはこの天然女。
不安要素の塊だらけのフライトはもうすぐ終わりを迎えるのだった。




