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王位継承編7〔扉〕


王位継承篇7〔扉〕




次の日の朝、シンタローは黒龍に乗って、オリアン達の居る山小屋に帰って来た。


リムカとツヴァイも無事に見つかった事もあり、ほとんどの人は街に帰り、オリアンの仲間達が数人片付けをしているだけであった。


もちろん、リムカとツヴァイもチェスハが強制的に街に連れて帰った。


ツヴァイはもう一度シンタローに会うと駄々をこねていた。しかしリムカはというと駄々をこねるわけでもなく、素直にチェスハに付いて帰って行った。


言いつけを守らず立ち入り禁止の森に入り、みんなに迷惑をかけた事もあるだろうが、未来の旦那様かと思った男性が、思ったよりパッとしなかった(泥だらけでずんぐりむっくり)のも原因であった。



その日、一番先にシンタローを見つけたのは、外で作業をしていたアイガだった。



「ん?あれは。」



アイガはすぐにオリアンに知らせるため小屋に駆け込んだ。



「オリアン!黒龍とシンタローが帰って来た!」



「なに!本当か!!」



オリアンと小屋の中に居た全員がすぐに飛び出した。



オリアン達が外に出た時には、黒龍はすでに小屋の近くに降り立ち、シンタローも黒龍の側に立っていた。



「おはようございます。みなさん。」



シンタローは丁寧にお辞儀をし挨拶をした。


その丁寧さにオリアンは少しビックリしながらも、



「お、おう。昨日はすまなかったな、リムカを見つけてくれてよ…

俺は寝てちまってて、気が付いたらリムカは帰って来てるし、お前は居なくなってるし、チェスハには怒られるし、散々だったんだからな。」



するといきなりファンが泣き出し、



「よかった~!シンタローが生きていて、黒龍のエサになったのかと…」



すると黒龍が、



「ガ!ガオガオオガオガ~!!(だ、誰が人なんかを食すか!)」



それを聞いたシンタローは、



「アハハ、まあまあマルク、お前は見た目が怖いから仕方がないよ。」



と、ポンポンと足を撫でた。



「マルク?」

「マルク?」

「マルク?」



オリアン達は一斉にシンタロー見た。



「え?いや、マル…黒龍の名前がマルクって言うみたいで…」



「「言うみたいで」って、お前、どうしてそれを?」



オリアンが不思議そうに聞いた。



「えっと、マルクから聞いて…」



すると、オリアン達はさらに驚き、



「はあ?黒龍から聞いただと~!お前、黒龍の言葉がわかるのか?!」



すると、シンタローが、



「何かそうみたいです。マルクもビックリしてました。アハハ…」



「お、おい聞いたかファン、黒龍と話せるってよ!タロウの時にだって、そんな話は聞いてないよな。」



「あ、ああ、タロウと黒龍がたまに遊んでいたのは見たが、話せるなんて聞いたことが無い。」



すると、オリアンが、



「ま、まあいい、俺達にとっては黒龍は黒龍だ。伝説でもあり、仲間でもある。

せっかく帰って来たんだ、みんな帰っちまったが、祝杯だ一杯やろうぜシンタロー!もちろん黒龍、いやマルクさん…もな。」



それを聞いたマルクは、



「ガガガオガ。(『さん』は要らん、マルクで良い。)」



「『さん』は要らないそうです。」



と、シンタローが通訳をした。


それを聞いたオリアンは、



「よし!てめぇら、オサケの用意をしろ!ありったけ持って来い!

おい!シンタロー!昨日は負けたが今日は負けね~!飲み比べだ!!」



と、シンタローに指を指しながら、仲間に指示を出した。しかし、ファンとアイガは、



「え~!また飲むのかよ。」



「昨日、あれだけ飲んだのにか?またぶっ倒れてもしらね~ぞ。」



「せっかく片付けたのによ~。」



と、ブツブツ小言を言い始めた。


それに気付いたオリアンは、



「パコッ!」



「ぶつくさ言わずに準備しろ!」



と、ファンの頭を叩きながら小屋に向かおうとした。


その時、シンタローが右手を少し挙げながら、



「ちょっといいですか?…」



それに気付いたオリアンは、振り向きながら、



「ん?なんだシンタロー?」



「いや、祝杯は嬉しいんですが、一旦帰って来てもいいですかね?まだ仕事中だったもんで…」



「帰る?仕事?」



オリアンはクビを傾けながら、シンタローに聞いた。続けざまに、



「帰るって、シンタローの国にか?」



すると、シンタローは、



「はい、勝手に仕事を脱け出してきたから、心配してるかもしれないし。」



「その事なら心配いらね~よ、この国とシンタローの国じゃ、時間の流れがナントカで心配いらね~。って、タロウが言ってた。」



と、オリアンは額に人差し指をあて、思い出すように言った。



「また、適当な事を…」



ファンがタメ息混じりに言った。続けてアイガが、



「シンタローは知らないかもしれないが、この国とシンタローの国では、時間の流れが違うみたいなんだ。」



すると、シンタローは、



「それは、マルクからも聞きました。俺の国は時間が止まっているとか。疑うわけじゃありませんが、やっぱり自分の目で確かめてみないと…」



すると、オリアンが、



「よし!わかった!そこまで言うなら仕方がねぇ!一旦帰って来い。ただし、またここに来いよ、ツヴァイも寂しがる。また会いたいっていってたしな。」



すると、ファンが、



「え?!いいのかよオリアン?帰ったら二度と来ないかも…それにツヴァイちゃんだけじゃなくリムカちゃんも…」



ファンの言葉を遮るように、オリアンが、



「リムカはいいんだよ、リムカは!」



すると、アイガがファンの耳元で、



「ほら、リムカちゃんて、国王が好きだろ?国王と同じような顔をしているシンタローにリムカちゃんを持って行かれないか心配してるんだよ。」



その時、オリアンの耳がピクリと動いた。



「バ、バカ!そんなんじゃね~よ。いいかお前ら、この国が危ねぇって時にタロウは現れるんだ。そして、その問題が解決しねぇ内はタロウも自分の国に帰れねぇ。

タロウもそうだったろ?自分の意思じゃ、行ったり来たり出来ねぇんだよ。」



「そういや、タロウも帰ろうとしたけど帰れなかった。って言ってたっけ?」



アイガが思い出すように言った。そして、オリアンは話を続けた。



「そうだろ?今、国の危機は国王に跡継ぎが居ねえって事だ。この問題が解決するまで、シンタローもニホンに帰れねぇんだよ。」



その話を聞いたシンタローは、



「ち、ちょっと待って下さい!その跡継ぎ問題が解決しないと、俺は日本に帰れないんですか?」



「まあ、そういうことになるな、慌てる事はねぇ、こっちに10年居たとしても、シンタローの国じゃ、1ヶ月位しか経ってねぇって言ってたからな。」



「そうそう、王妃がタロウを捜しに行って、10年経って帰って来たかと思ったら、全然歳を取ってなかったからな、しかも綺麗になってたし。」



と、ファンがイサーチェが帰って来た時の事を思い出し言った。


すると、シンタローはタメ息をつき、



「はぁ…、みなさんの言う事はわかりました。でも一度だけ試してもいいですか?帰れるかどうか。もし帰れなかったら、ここにもう少し居ます。

国王の跡継ぎ問題を俺が解決出来るとは思いませんけど…」



そう言うと、シンタローはアタリをキョロキョロと見回しながら歩き、自分が出て来たであろう小屋に目を止めた。



「確かあの小屋から飛び出して来たんだよな…」



シンタローはゆっくりとその小屋に近づき、おそるおそる扉の取ってに手をかけた。


また手が素通りするかもしれないと思ったからだ。


そんなシンタローの後ろからは、オリアン達が複雑な心境でついて来ていた。


オリアンは「帰れない」と言った反面、もし帰ってしまったらという気持ちが拭い切れなかったのである。


しかも、今回のニホンとの道が自分の酒蔵だった事にも驚きを隠せなかった。


酒蔵の取ってに手をかけた瞬間、ファンが、



「お!おい、シンタローが酒蔵に入ろうとしてるぞ。まさかシンタローは酒蔵から出て来たのか?」



それ聞いたオリアンは、



「わかんねえ、誰もシンタローが出て来た所を見てねえからな。」



シンタローは取ってを掴む事が確認出来ると、扉を開けて、中に入って行った。


するとオリアン達も小走りに扉の所まで行き、覗き込むようにして、シンタローの動向を伺った。


シンタローは小屋に入ると、グルリと見回し壁を確認するかのように部屋を一周回った。


小屋の中には入口以外には扉は1つしかなかった。



「ここだろうな?」



シンタローは、その扉の前に立つと、「フゥ、」と息を吐き、扉に手を掛けた。



「ガチャ…」



シンタローは扉を開けると、中を確認するかのようにゆっくりと入って行った。



「ガチャン…」



扉が閉まると、小屋の入口から見ていたファンが、



「お、おい、入って行っちまったぞ…」



するとオリアンは、動揺しながらも、



「な、なに、すぐに出てくるさ、あの部屋はただの物置部屋だからな。「やっぱり帰れませんでした。」とかなんとか言いながら出てくるだろうよ。」



しかし、5分が経ち10分が経っても扉は開く事もなく、もちろんシンタローも戻って来る事はなかった。



「オリアン、シンタローが出て来ねえぞ…ホントに帰っちまったんじゃ…」



アイガが焦ったようにオリアンに言った。するとオリアンが、



「そんなバカな事があるか!まだ何も解決してねぇってのによ!」



オリアンは、すぐに小屋に入りシンタローが入った部屋の扉を開けた。



「ガチャ!」



「シンタロー!!」



が、部屋の中にはシンタローの姿は無く、薄暗い部屋には、使い古された樽や、道具が無造作に置かれているだけだった。


オリアンの藍色の毛が、さらに青くなったのを仲間は見逃さなかった。


オリアンは振り向きながら、



「お…おい…シンタローが居ねえ…マジかよ…シンタローは勇者、いや、新しいタロウじゃなかったのかよ。」



ガックリと肩を落とすオリアンに、ファンが追い討ちをかけるように、



「どうするよ、オリアン。街中はおろか、国中で『新しいタロウ』が来たって大騒ぎしてるんだぞ…」



さらにアイガも、



「シンタローがニホンに帰ったって聞いたら、ツヴァイちゃんも悲しむだろうな。いや、チェスハさんが黙っているかどうか…」



オリアンの脳裏に鬼のような形相のチェスハが浮かんだ。



「だよな、「なんで引き留めなかった~!!!」ってオリアンの胸ぐら掴んで、張り手の2、3発は来るだろうな。アハハ。」



「笑い事じゃねぇ、ファン!お、お前らも同罪だからな!」



「ひ、ひでえよ、オリアン。オリアンが大丈夫って言ってたんじゃねえか。」



するとオリアンは少し考え、



「よ、よし!こうしよう。シンタローはまだ帰って来てない!」



「え?どういうことだ?オリアン。」



アイガが尋ねると、



「シンタローは黒龍と一緒にまだ何処かに居るって事だ。拐われたまま、まだ帰って来てない。

シンタローも言ってたろ?「すぐに帰って来ます」って。帰って来るまで知らぬ存ぜぬで通せばいい。」



するとファンが心配そうに、



「で、でもようオリアン、シンタローはすぐのつもりでも、こっちじゃ何年もかかるかも…」



「ごちゃごちゃうるせぇ!居ねえもんは居ねえんだ!いいかお前ら!この事はここに居る俺達だけの秘密だ!

この事は他言無用!!何をされようが絶対に口を割るな!いいな!!!」



「おう!!」



その場に居た全員が雄叫びを上げる中、ファンとアイガはヒソヒソと話してた。



「絶対、一番に口を割るのはオリアンだぜ。」



「ああ、チェスハさんに詰め寄られたらすぐにウソがバレるからな、あの人は…」



「ん?何か言ったか?お前ら?」



「いいえ!何も。」

「いいえ!何も。」



「とりあえずお前らは街に帰って、シンタローがまだ帰って来てねぇって言いふらせ。それで当分は誤魔化せるだろ。」



するとアイガが、



「それはいいけど、黒龍はどうする?黒龍が帰って来てるのにシンタローは帰って来てないのはおかしいだろ?」



「黒龍には俺から言っておく、言葉が理解出来るみたいだからな。シンタローに会いにまたここに来るはずだ。

おっと、それから、『マルク』の事は伏せとけ、黒龍の名前を知ってるなんて知られたら後々めんどうだからな。

よし!これで、解散!!」



「おう!!!」



みんなが雄叫びを上げる中、ファンとアイガがヒソヒソと話してた。



「一番心配なのがオリアンなんだよな。」



「そうそう、子供達にむちゃくちゃ弱いからな、泣かれでもしたら…」



「ん?何か言ったかお前ら?」



「いいえ!何も!」

「さっさと街に帰って言いふらします!」




そんなオリアン達の心配とは裏腹に、シンタローは、まだ日本に帰ってはいなかったのであった。



オリアン達がいろいろと謀略を考えていた頃、シンタローは色とりどりの花畑の真ん中に立っていた。



「ん?あれ?日本じゃない?」



シンタローがこの国に来る時に入った扉はスーパーの地下にある厨房の冷蔵庫だ。シンタローはてっきり扉の向こうは厨房だと思っていたのだ。



「何処だ?ここは?まだあの人達の国なのか?それとも違う世界に迷い込んだのか?」



シンタローが不思議がるのももっともであった。

木々が生い茂る深い森の中、かといえば次は一面美しい花畑なのだから。


シンタローは少し歩いてみた。よく見るとちゃんと手入れされており、道もある。何より自分の出てきた場所には白い屋根の小屋が立っていたのである。

小屋と言っても壁はなく、白い柱と屋根で作られた休憩所みたいな感じだった。


中には白いテーブルに白いイスがあり、ここはただの花畑ではなく、庭園ではないかとシンタローは思った。


シンタローの予想は当たっていた。もう少し歩くと少し離れた所に城のような物が建っている。シンタローは日本ではなくユーリセンチの城の庭に居たのだ。





リムカとツヴァイが無事に見つかり、チェスハ達が街に帰って来た。

当然、シンタローの話は一気に国中を駆け抜けた。

新しいタロウなら、また何かをやってくれる。国民は期待せずにはいられなかった。自然と笑顔になり、街中に活気が溢れた。



その頃、お城の一室では、



「コンコン」



「イサーチェ様、ナカリーでございます。お食事を御持ち致しました。」



セオシルの妻、ナカリーは今や王妃の側使いとなり病弱なイサーチェのお世話をしていた。


ナカリーがいつものように食事を運んで来て部屋に入ると、



「え?!」



ナカリーは驚きのあまり、落としそうになった食事をなんとか耐えながら、近くのテーブルに置くと、イサーチェの側に駆け寄った。



「イ!イサーチェ様!?」



ナカリーが驚くのもムリはなかった。子宝に恵まれない事に悩み、ここ何年もほとんど寝たきり状態だったのだ。体調がよい日でも上体を起こすぐらいで、ベッドから降りた事がほとんどない無い。


しかし、ナカリーの目に映ったのは、ベッドから降り、しかも窓際に立つイサーチェの姿だったのだ。


ナカリーはすぐにイサーチェの体を横から支えた。


イサーチェはそんなナカリーを微笑みながら、



「ありがとう、ナカリー。今日はとても気分がいいの。

外も賑やかだし、みんな笑顔だわ。何かあったのかしら?」



するとナカリーが、



「たぶんシンタロー様の事ではないでしょうか。」



ナカリーはシンタローの事を聞いて、またタロウが帰って来たのかと喜んだが、違う人物だと聞いて少しがっかりしてたのであった。



「シンタロー?」



イサーチェの問いに、



「はい、リムカ様を探しだしてくれたそうです。話によればツヴァイ様が、ニホンに行き連れて帰ったとか。」



「ツヴァイちゃんが?!まあ!ウフフ。」



久しぶりに見たイサーチェの笑顔にナカリーは聞かずにはいられなかった。



「イサーチェ様、嬉しそうですね?何か?」



イサーチェは窓の外を見ながら自分がニホンに行った時の事を思い出していた。



「私がニホンに行った時の事を思い出したのです。

見たこともない物ばかりで、ツヴァイちゃんもビックリしたでしょうね。ウフフ。」



と同時に、イサーチェの頭にある男性の姿が映った。


が、イサーチェはその映像を掻き消すように2、3度首を振ると、



「ねえ、ナカリー、天気もいいし、お庭に出てみたいわ。外で食事をしてもいいかしら?」



ナカリーは嬉しくてたまらなかった。何故だかわからないが、ずっと苦しんでいたイサーチェに笑顔が戻り、外に出てみたいと言ったのだ。


ナカリーの瞳から涙が溢れた。そしてさらに溢れようとする涙をぐっと堪えて、



「はい…王妃様…」



と、イサーチェに笑顔で答えた。







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