〔変わり行く景色と変わらぬ景色〕
番外編21〔変わり行く景色と変わらぬ景色〕
「さあ、行きましょう。ラウクン王子が首を長くして待っています。」
ミプレオに促され、僕達は建物を出た。その時、ミプレオから木の実を渡され、僕達はそれを食べた。そして、建物を出た瞬間、
「うわ~~~!!!!」
僕達3人は、おもわず声をあげてしまった。
何度も来た事のある僕でさえ、あまりの違いに驚いた。
1番最初に来た時は、広大な土地に、岩山だらけの景色だった。
2年後に訪れた時は、岩山自体は博物館にされ、そこに続く道もキレイにされ、チラホラと建物があった。が、全体的にはまだ、岩山だらけののイメージだった。
しかし、今、見ている景色はまるで違った。
眼下には町が広がっていたのだ。
博物館の岩山も、2年前は岩山の上だけを囲い、博物館にしていたのだが、ふもとまでキレイに整備され、入り口を出ると広い駐車場?が出来ていた。
馬車が何百台と整頓されたように並べられ、まるでデパートの駐車場のようだったのだ。その中に馬の付いていない馬車があった。馬が居ないのに『馬車』というのはおかしいが、それが『蒸気自動車』という事がわかったのは少し後の事だった。
イサーチェが、地面に足をつけると、何やら変な顔をした。
「タロウ様?ここの地面は少し柔らかいような気がするので御座いますが、大丈夫なのでしょうか?」
その言葉を聞いた僕は、イサーチェに1番大切な事を言い忘れてた事に気が付いた。
それは、1ヶ月とはいえ、僕の世界で暮らしていたイサーチェの体は僕の世界の重力に慣れ、重力の軽いこの世界では、オリアンとは言わないまでも、セオシルぐらいなら互角に戦えるスピードとパワーを備えていたのだ。
「イ、イサーチェ!大切な事をひとつ言い忘れていたよ。」
「あら?何で御座いましょう?」
と、イサーチェは、軽くなった体を確かめるかのように、ピョンピョンとジャンプをしながら尋ねて来た。
「イサーチェ、1ヶ月ぐらいは、絶対に力いっぱい物を握ったり、ジャンプしたりしたらダメだよ。王子に触れる時も優しくね、殴るなんてもってのほかだよ!」
「な、殴ったりなんか絶対に致しませんわ!懐かしさのあまり…ハ…バグぐらいはするかもしれませんが…」
「はい!バグも禁止!」
「な!なぜですの!?」
イサーチェは、驚くと同時にジャンプするのを止め、僕に詰めよって来た。僕は少したじろぎながら、
「今、イサーチェがバグなんかしたら、王子の背骨が折れちゃいそうだから…」
僕は重力の違いの事を、どう説明したらいいのか迷ったが、僕の世界の物を食べ続けたら力が強くなる。とだけ伝えた。
その話を聞いたイサーチェは、半分わかったような、わからなかったような顔をしたので、僕は足下にあった手の平サイズの石を拾うと、
「イサーチェ、これを握り潰してみて。」
そう言いながら、イサーチェに手渡した。
イサーチェは、戸惑いながら、
「そ、そんな大きな石…潰すどころか、持てるわけが…」
「まあ、いいからいいから。」
イサーチェは腕に力一杯の力を入れて、待ち構えたが、手の平に石が乗ると、
「あら?これは?!」
拍子抜けしたように、顔に笑顔が戻った。そして、
「もう!タロウ様もお人が悪い!作り物の石で私を驚かそうなんて…」
そう言うやいなや、イサーチェは、両手に岩を持つと、「えい!」の掛け声と共に2つに割り、更に割った破片を両手いっぺんに握り潰してしまった。
今のイサーチェにとって、この世界の岩石は、ただの発泡スチロールの張りぼてでしかないのだ。
すぐ横で、その光景を見ていた人達がざわめき始めた。
建物を出る際に、木の実を食べたおかげて、僕達の姿が認識されるようになっていたのだ。
僕は急いで、2人を馬車に乗るように急かした。
ミウは、私もやりたい感を出しまくっていたが、これ以上ここにいると、騒ぎになると思ったのだ。
幸いな事に、この博物館には大勢の人が居たが、ほとんどが他の国からの観光客で僕達の顔を知っている人は居なかった。
特にミウは、髪の毛を黒く染めたおかげで、『ミウ』の名前は知っていても、本人だと気付く人は、1人も居ないかもしれない。なぜなら『ミウ』=『白い髪』と定義付けられているからだ。
僕達は前よりキレイになったミプレオの馬車で城に向かった。
いつもは凄いスピードでブッ飛ばすミプレオも、僕達が前と変わっている景色を眺めている事に気付いたのか、ユックリと馬車を走らせてくれた。
馬車で城に向かう途中、何台かの『蒸気自動車』とすれちがった。
僕はミプレオに、『蒸気自動車』について聞いてみた。
「ミプレオさん、さっきから馬の付いていない馬車が通っているんですけど…?」
するとミプレオは、
「ああ、『煙車の事か。」
僕はあえて、何も知らないふりをして聞いたのだ。
「煙車?」
「かなり遠くの国から来たみたいなんだが、馬が居なくても、走るらしい。なんでも車の中で火を炊いているんだと。馬と違って疲れる事もないから、長い距離にはいいらしい。スピードも馬より早いって噂だ。」
「ミプレオさんは『煙車』に変えないんですか?」
「僕は『煙車』は好きじゃないんだ。煙を撒き散らしながら走るからね。
僕だけじゃないよ、この国の人達は誰も『煙車』に乗っていない。
少し前に、この国に『煙車』を作る工場を建てないか?という話があったんだが、ラウクン王子が断ったんだ。「煙を撒き散らす車は作りたくない!」ってね。
イサーチェは景色を眺めるフリをして、僕達の話に聞き耳を立てていた。
と、いうのも『ラウクン王子』というワードが出て来たからだ。
イサーチェにとって、『ラウクン王子』は、かけがえのないものになっている、生きがいそのものだ。何をしていようが、『ラウクン王子』のワードは、勝手に耳が拾うようになっていたのだ。
そしてイサーチェは、『ある事』を思い出していた。
それはラウクン王子が、まだ10才ぐらいの時の事だった。
暖炉のある部屋で、王子が寝ていたところ、煙突が詰まり、煙が逆流し部屋に流れ出したのだ。
窓は、開けてはいたのだが、煙はみるみる天井に溜まっていった。
そしてようやく窓の高さまで降りて来ると、外に向かって流れ出た。
庭で手入れの手伝いをしていたイサーチェが、その煙にいち早く気付き、近くに居た衛兵に連絡をし、急いで部屋に駆け付けた。
幸いにも、ラウクン王子は低い場所で寝ていた為、煙を吸うこともなく無事だったが、イサーチェは慌てていたこともあり、煙を吸い込んでしまい、何日間か寝込んでしまったのだ。
ラウクン王子は毎日のようにイサーチェの側に来た。
ラウクン王子は、時には泣き、時には煙に怒り、最後にはイサーチェをこんな目に合わせた『暖炉』を壊す、とまで言うようになっていた。
イサーチェは、そんな王子をいつも優しく抱きしめ、宥めていたのだ。
その事件があってから、ラウクン王子はもともと慕っていたイサーチェを、さらに慕うようになった。何か恐い事や、不安な事があると、必ずイサーチェの側に寄ってきたのだ。
イサーチェは、ふと思った。
「あの時の事が原因で、『煙車』を作らないのかしら…」
僕は、イサーチェがそんな事を思っているとは全く知らなかった。
城に向かっている間、何台かの『煙車』にすれ違ったが、確かに黒煙を撒き散らし、後ろの馬車はたまったものじゃない。と思うほどだった。
僕は、この世界の澄みきった青い空が大好きだった。
前にミウと見た星空は、日本で見る星空とは桁違いに美しかった。
きっとラウクン王子も、煙で空気が汚れるのが嫌で、工場を作るのを断ったかもしれないと、僕は思った。
それにオリアンや獣族が大勢住んでいるこの国では煙は御法度なのかもしれない。
そうこうしてるうち、見慣れた街が見えてきた。チェスハさんの店や、イブレトさんの宿がある街だ。
ホンの数ヶ月前の事だが、とても懐かしい気持ちになった。
が、ただひとつ、ある違和感が残った。
僕の世界では1ヶ月だが、この世界では10年経ってるはずだ。確かに国は大きくなり、郊外には建物が増え人も多くなった。
あの洞窟の岩山から見た景色も一変していた。
しかしどうだろう、この街だけは、僕が初めて来た時とほとんど変わらない、いや、確かに活気は増えているような気はするが、街自体は大きくなる訳でもなく、街の後ろにある城も大きくなっている気配もない。
今、『ユーリセンチ』には莫大な利益がもたらされているはすだ。それこそ僕の想像出来ないぐらいの額が…
ラウクン王子はお金を独り占めにするような人間ではない。なんらかの方法で国民みんなに分け与えているはずだ。
その証拠に、郊外には町が出来、人も増えた。
よく見ると、個々の建物は新しくなっているような気がする、しかし外見は昔のままだ。
僕が、その理由を知ったのは、ラウクン王子と再会を果たした後だった。
ミプレオの馬車は、街の中に入って行った。
前にミウと来た時は、僕の正体がばれないように、頭からスッポリとローブ被ったが、10年も経てば、僕の顔を知っている人も少ないだろうと、そのままで行くことにした。ミウも髪を黒く染めたおかげで、誰にも気付かれている様子はない。
しかも、いろんな国から人が集まって来てるのであろう、服装もまちまちだ。そのまま日本に来てもなんら違和感のない服装が数多く歩いていた。
中にはミニスカートの女性も居るみたいだ。
イサーチェとミウは、馬車から身を乗り出し街を眺めていた。
そして城に近付くにつれ、さらに人の数は増えていった。
さすがに馬車では身動きが取れなくなったので、僕達は馬車を降り、歩いて行くことにした。
馬車を降りて気付いたのだが、どうやら街は祭りの準備をしているみたいだった。
僕は近くにいた男性に尋ねてみた。
「何か、お祭りでもあるんですか?」
するとその男性は、
「なんだ、兄ちゃん他所から来たのか?
ラウクン王子の結婚式だよ。そしてラウクン王子が国王になるんだ!」
「え?!ラウクン王子の結婚式?!」
僕は驚き、さらに尋ねた。
「それっていつですか?」
すると男性は、興奮しながら、
「あさってだよ!あさって。ラウクン王子が、ついに国王になるんだ!」
僕は心の中で、
「あさって?!いやいやいや、タイミング良すぎだろ?王子には10年ぐらいしか言ってないのに、ピンポイントで今日『イサーチェ』が帰って来るなんてわかるはずが…
まさか、しびれを切らして他の女性と?
いや、ラウクン王子に限ってそれは無いな…
とにかく王子に会ってみなきゃ。」
僕が男性と話をして、考え込んでいる姿を見たイサーチェは、不安な様子を隠す事が出来ないでいた。
僕は、そんなイサーチェに、
「大丈夫!ラウクン王子は僕と約束したんだ。それにミプレオさんも言ってたでしょ?『ラウクン王子が待ってる』って。とりあえず王子に会いに行こう。」
「はい…」
僕は、不安そうなイサーチェとミウの手を取り、城へと向かった。




