〔イサーチェの「逆」異世界生活〕
番外編3〔イサーチェの「逆」異世界生活〕
僕がラウクン王子から手紙を受け取っている頃、多田野家では朝早くから、伊佐江の叫び声が響いていた。
「母上様!母上様!釜戸がありませぬ!これではご飯が炊けませぬ!!」
「あら、おはよう。佐江さん。まだ寝ててもいいのよ。」
「め、めっそうもない!泊めて頂いた以上、何もしないわけには…
私これでも『ご飯炊き』には自信がありますの。」
「あらそう、ぜひ食べてみたいものだけど、ごめんなさい、もう『ご飯』は炊けているの。」
と、母さんは『電子ジャー』を指差した。
「え?…この箱みたいな物が『ご飯』の入れ物でございますか?」
母さんがジャーを開けると、伊佐江が覗き込んだ。
「あれえ~?!ご飯が、ご飯が炊けてる!火は?火はどこにあるのですか?」
「フフフ、これはね、火を使わずにご飯が炊ける『魔法の箱』なの。」
母さんは、詳しく説明するのが面倒なのか『魔法の箱』で済ませた。
伊佐江はポカーンとしながらも、お手伝いの意地からか、何か手伝える事はないかと、母さんに聞いた。すると、
「じゃあ、鍋に切った大根を入れてくれるかしら。もうお湯が沸いているはずだから。」
「わかりましたわ。母上様。これを鍋のお湯に…?お湯?
母上様?お鍋が置いてあるだけですが?
この黒い台の上に置いてある鍋でよろしいのかしら?」
「ええ、その中に入れてね。」
すると伊佐江は、母さんが火を着けるのを忘れていると思い、鍋を動かそうと触った。すると、
「うわっちっ!!熱っちい!!~あちちちちち~!!!」
その声に驚いた母さんは、
「伊佐江さん!伊佐江さん!大丈夫!?
ほら、ここで冷やして。」
と、母さんは伊佐江の手を取ると、蛇口から水を出して冷やした。
「でえ~!!水~!?水が出た~?!!」
いつもは井戸の水を汲んで来て、料理などに使う伊佐江にとっては、蛇口をひねるだけで、止めどなく溢れ出てくる水道の水は、信じられない物だった。
「んな!?なんで?どうして水がこんなに!?」
すると母さんは、落ち着いた様子で、
「伊佐江さん、この国ではね、川の水や湖の水をキレイにしてくれてる人達がいるの。それから、そのキレイになった水と家が『水道管』という道で繋がってるの。だから水を汲みに行かなくても、いつでも水が出てくるのよ。」
「そ、そんな水を汲んでキレイにしてくれる人達がいるんでございますか?しかも家まで繋がっているって…」
「でもね、その人達もお仕事だから、お金は払ってあげなくちゃいけないんだけどね。」
「でも、毎日水を汲みに行く事を考えると助かります。」
と、その時!
「ガシャン!!」
トースターにセットしていたパンが飛び出して来た。
「ギャ~!!」
伊佐江がビックリして、叫んだその後ろでも、
「ピーピーピー…」
電子レンジの音が鳴った。
「ヒェ~!!こ、今度はな、なんですか…」
すると、母さんは電子レンジから、昨日食べた「煮魚」を取り出し、
「きのう残った魚を温めてたの。」
「え!?この箱の中に入れるだけで温かくなるのですか?」
「少し食べてみる?」
「じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ……パクっ」
「どう?」
すると、伊佐江の表情は、みるみる驚きと歓喜の表情になり、母さんを見つめながら、
「は、は、母上…お、おいおい…あああ味が…出来たててて…」
「フフフ…まあまあ、伊佐江さん落ち着いて…」
母さんは、言葉にならない伊佐江を落ち着かせ、
「どう?昨日と少しだけ味が違うでしょ。うふふ。」
「は、はひ!き、昨日より味が濃くなってるというか、しかも熱々で出来たてみたいです。」
「でしょ?これはね「電子レンジ」と言って、電気で入れた物を温めてくれるの。
でもね、どうして温かくなるのか、私もよくは知らないんだけどね。
たぶん中に居る『妖精』さんが頑張っているんだと思うわ。」
「電気…電子レンジ…妖精…
初めての事ばかりで訳がわかりませんわ…」
伊佐江の頭はパニック状態だった。
「あ!それから伊佐江さん。」
「ひっ!ま、まだ何かありますの?…母上様…」
「そんなにオドオドしなくても…ウフフ。
その『母上様』は止めてくれる?同年代なんだし、伊佐江さんから『母上』って呼ばれると、なんだかお婆さんになった気がするのよね。」
「す、すみません!気が付かなくて…それでは何とお呼びすれば…」
「名前でいいわよ。私は『瀬羅』って言うのよ。」
「それでは、セラ様…」
「伊佐江さん、一緒にすんでる家族なんだから、「さん」でいいわよ。」
と、そこに『ミウ』と一緒に『智恵葉』が下りてきた。
「おはようございます。お姉さま、お母さま。」
「もう、伊佐江さんたら、朝からうるさい…」
智恵葉は、アクビをしながら、伊佐江に言った。
「おはよう、ミウ。おはようございます、智恵葉様。
ミウ、ここは凄いですよ。見たことも無いものが一杯で驚きっぱなしなのよ。」
するとミウは、笑顔を浮かべながら、
「はい、お姉さま。私もタロウに話だけは聞いておりましたが、実際に見てビックリしました。」
「もう、2人とも大袈裟なんだから~…」
智恵葉は呆れたように、イスにすわると、パンにイチゴジャムをつけて食べ始めた。
それを見た伊佐江は、
「あ!それは知っていますわ!『ジャム』ですよわよね?」
「へ?ほんはほははふえれひょ?」
「こら!智恵葉、パンをくわえたまま喋らないの!」
母さんに注意をされると、智恵葉はパンを飲み込み、
「へ~、伊佐江さんの所にも『ジャム』はあったんだ。
それを聞いた伊佐江は、自慢するかのように、
「ジャムだけじゃ、ありませんわ、『オサケ』に『ファンタ』さらに『マヨタロウ』だってありますのよ。」
「へ~、そうなんだ。『マヨタロウ』?…」
さらに伊佐江は話を続けた。
「しかも、それら全部、タロウ様がお作りになられたのです。そのおかげで、私達の『ユーリセンチ王国』は何倍にも大きくなったのでございますのよ。」
その話を、聞いた智恵葉は、表情一つ変えず、
「ユーリセンチ?聞いた事ないなぁ~、どこかの架空の町かな?まあ、お兄ちゃんの事だから、何かのアニメイベントにでも参加したんでしょ?」
と、心の中で思っていた。
そんな智恵葉とは、逆に、とても嬉しそうな表情で母さんは、
「へえ~。太郎がね~、頑張ったのね~。やっぱりあの人の子供なのね~。」
と呟いた。
するといきなり智恵葉が、
「あ!ヤバイ!もうこんな時間だ!学校に行かなきゃ。」
慌てたように玄関に行くと、
「それじゃ、お母さん、ミウお姉ちゃん、イサッチ、行って来ま~す!」
と、元気よく飛び出して行った。
「イサッチ?」
伊佐江は、自分の事なのか、智恵葉が言い間違えたのか、わからなかった。
智恵葉を見送くると、母さんが、
「それじゃ、私たちも食べましょうか。」
「はい、お母さま。」
「はい、セラさん。」
3人は、『お味噌汁』『煮魚の残り』『卵焼き』『ご飯』と日本の朝ごはんを堪能した。
しかしミウは、智恵葉が食べていた、パンも食べたくて、母さんに頼み、トースターの使い方を教えてもらうと、焼いたパンにイチゴジャムをつけて食べた。
もちろんイサッチも真似をしたのは言うまでもない。
朝食を終えると、母さんが、
「ねえ、伊佐江さん、ミウちゃん、後で3人で買い物に行かない?
この世、この街を案内するわ。それに、太郎からも頼まれているの、伊佐江さんの眼鏡を選んで欲しいって。」
するとイサッチは驚いた様子で、
「よ、よろしいのでございますか?」
「もちろんいいに決まってるじゃない。ミウちゃんにも洋服を買ってあげたいし、伊佐江さんにも服を選んであげたいし、私もね、同年代の人と町に行きたかったのよ。
あ、下着も買いに行かない?可愛い下着。太郎には内緒でね。」
母さんは、ミウにウインクをしながら言った。
「お、お母さま…」
ミウは赤くなってうつむいた。
「うふふ、それじゃ、お昼ご飯は外で食べようかしらね。」
その言葉を聞いたミウは、
「あ、あの、お母さま…」
「な~に?ミウちゃん。」
「私、どうしても、お姉さまに食べてもらいたい物があるんですけど…」
「あら、何かしら?」
店の名前がわからないミウは、身振り手振りで話始めた。
「あ、あの…『黒い水』があって、丸いパンみたいなのに、美味しい肉と野菜が挟んであって…」
ミウが言い終わらないうちに、母さんは、
「あ~!『ハンバーガー』と『コーラ』ね。」
「はんばーがー?こーら?」
初めて聞く名前に、イサッチは、ミウに
「ミウ、なんですのそれは?」
ミウは遠くを見つめながら、
「それはもう…食べたら病み付きになりそうな食べ物で、
『コーラ』は刺激的で、これも病み付きになりそうな飲み物ですわ。お姉さま。」
「へ、へ~。そ、そんな病的な食べ物が…この町にはそんな食べ物があるのでございますか?…」
イサッチは、懇願するような表情で母さんを見つめた。
「うふふ、いいわよ。それじゃ、お昼ご飯は『ハンバーガー』にしましょ。
そうと決まれば、片付けと掃除を済ませて出掛けましょ。」
「はい、お母さま。」
「かしこまりました。瀬羅さん。」
「もう、伊佐江さんたら、かしこまらなくていいから~。」
「あら、失礼。私としたことが。アハハ…」
「アハハハハ。」
「ウフフフフ。」
そして3人は、掃除を済ませると、街に出掛けて行った。




