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〔そして…〕



第24話〔そして…〕



次の日から、ラウクン王子は本格的に、売られて行った国民の救出に乗り出した。


と、同時に湖を半分埋める計画も発表した。湖をを埋め、何処からでも自由に街に入れるようにする為だ、そして埋めて出来た土地に街を広げ、『オサケ』の製造工場を建てたいとも言った。


さらに残りの湖も、昔のような綺麗な水にする為、ドラゴンフルーツの木を撤去することにした。

もともと、前の国王がドラゴンを手なずける為と、湖を毒水にするためだけに残していたので、今となっては必要無くなったのだ。


しかし、ドラゴンフルーツの実は、オサケ作りに必要な材料ということをラウクン王子に伝え、湖の邪魔にならない、オオカミ族の例の小高い丘に植え替える事にしてもらった。



昨日、スライン将軍とシクサードの死闘を目の当たりにして、僕がここに来た理由を考えてみたが、頭に浮かんで来るのは、ミウの笑顔や、チェスハ、オリアン、子供達の喜ぶ姿で、僕は深く考えるのを止め、とにかく自分に出来ることをする事にした。


僕は、木の植え替えや、湖を埋める手伝いをしながら、エティマスさんにパン屋の「タンシェ」さんを紹介してもらい、『サンドイッチ』を教えた。

といっても、パンを薄切りにし、ハムやレタスを挟んだだけの物だったが。

『マヨネーズ』があればとは思ったが、この世界には無いらしい。

作り方は、妹が家庭科で作った事があり、家でも作っていたので、知ってはいるが、たしか『お酢』が必要なはずだ。


『バター』や『マーガリン』あればいいにな、と思うばかりだ。

たしか、牛乳を放っておけば『チーズ』なると聞いた事があるので、今『ミルク』を分けてもらい放置しているところだ。


サンドイッチの評判は想像以上のものだった。

パンと一緒に、野菜や肉も食べられるとあって、一気に主食に躍り出て、大ヒット商品になった。


もちろん、ミウやチェスハにも食べてもらい、何を挟めば美味しいかなどを聞いた。


チェスハに至っては、僕の姿を見つける度に近付いて来て、新しい食べ物を催促するようになっていた。


僕が、「今日は何も作って無いんです。」と答えると、残念そうにトボトボと帰る姿が、可哀相になり、いろいろと思い出しながら新しい食べ物や飲み物を考えた。

ここへ来て改めて『ネット』のありがたみが実に染みてわかった瞬間だった。


ラウクン王子の方は、売られて行った国民を全て取り返すという、少し無謀とも思える事柄を実行中だったが、

『ジプレトデン』に加え、『ルアスティ』からも国民を返すという約束を取り付けていた。

もちろん、交渉の場に『ジャム』や『オサケ』を持って行ったのは言うまでもない。


中には返さないという国もあったが、後日「オリアン」と「黒龍」を連れて行き、「もし、断るなら力ずくでも。」と伝えると、あっさり返還に応じた。


さらにラウクン王子は、今まで国交の無かった『ジェンドレ王国』『サップレイン王国』『スクエード王国』までも足を運び、友好を広げて行った。


次々と新しい物を作り出す『ユーリセンチ王国』は、今や他の国からの注目の的だった。


そして、2週間が経った頃、ジプレトデンから馬車が何台かやって来た。


ジプレトデンに売られた国民が帰って来たのだ。


城の回りでは、久しぶりの再会をする家族で溢れ帰った。

しかし、長い年月の間に不幸にも命を落とした者も何人かいた。


ラウクン王子は、そんな家族の為に、城の前を憩いの場所とし、真ん中に亡くなった者を偲ぶ石碑を建てた。


そんな中、1台の馬車が街を通り抜け、町外れにある『イブレドの宿』の前に止まった。


馬車からは、ニーサを連れた綺麗な女性が降りてきた。


馬車に気付いたダシールが、宿の中から人を掻き分けながら走って来ると、


「いらっしゃいませ~!お泊まりですか?お食事ですか?」


と、元気よく尋ねた。すると、その女性は目に涙を浮かべながら、


「ダ…シール?ちゃん?お父さんとお母さんは…居る?」


ダシールは、訳がわからなかったが、たぶんお母さんかお父さんのお客さんだと思い、


「お父さ~ん!お母さ~ん!お客さんだよ~!!」


と両親を呼んだ。しかし、イブレドは僕と一緒にキッチンの奥で、料理をしていて、手が離せなかったので、エティマスに、


「お~い!今、手が離せないから、お前出てくれ~!」


と、大声で叫んだ。するとエティマスは、忙しそうに、ジャムの瓶を持ったまま、玄関に向かった。


そしてエティマスは、その女性を見るなり、一瞬

固まったかと思うと、


「ガッチャ~ン…」


手から瓶が離れ、地面に落ちて割れてしまった。


「エ…ミナー……」


すると、ダシールが、


「もう、お母さんたら、気を付けてよ。ホウキ持ってくる。」


と、ホウキを取りに中に入って行った。



「お、お母さん…」


「エミナー!本当にエミナーなのかい?」


「ただいま…お母さん…」


「ちょっと!あんた!エミナーが、エミナーが帰って来たよ!あんたってば!!」


エティマスは、今まで聞いた事がないような、大きな声でイブレドを呼んだ。


イブレドは、エティマスのただならぬ大声で、なにかとんでもないことが起こったのだと確信していた。


エティマスの声は、僕の耳にも届いていた。「エミナー」という単語が聞こえたので、

「あ、エミナーさんが帰って来たんだ」と、すぐにわかった。


イブレドが玄関に着いた時には、人目もはばからず、抱き合いながら泣いている、エミナーとエティマスの姿があった。


その光景をみたイブレドも、大粒の涙を流しながら、


「エミナー~~!!!」


と、2人の上から、さらに抱きついた。


その少し後ろには、ホウキとチリトリを持って、不思議そうにしているダシールと、その反対側には、これまたキョトンとしているニーサが居た。


すると、少し落ち着いたエティマスが、ダシールの手を取り、


「ほら、ダシール、あなたのお姉さんだよ。」


と、説明するが、ダシールにはまだ、なんのことかわかっていなかった。


「お姉さん?」


すると今度は、エミナーがニーサの手を取り、


「ほら、この人達が、おじいちゃんと、おばあちゃんよ。」


と、2人を紹介をした。


しかし、ニーサもダシールと同じように、


「おじいちゃん?おばあちゃん?」


と、よくわかっていないようだった。


するとエティマスが、ニーサを見て、


「可愛い子ね、エミナーの小さい頃にソックリ。

ダシールにも似てるんじゃない?

さあ、さあ、中に入って入って。ニーサちゃん、おばあちゃんが美味しい物を一杯作るからね。」


と、初めての孫に嬉しそうだった。


ダシールは、いきなり出来た『お姉ちゃん』と『姪』に嬉しい半面照れ臭く、イブレドの後ろに隠れ、なかなか喋れないでいた。


中に入る途中、ニーサが僕を見つけた。


「あ!タロウお兄ちゃん!」


「いらっしゃい、ニーサちゃん。美味しい物が一杯あるから食べてね。」


と、僕がニーサに挨拶すると、ニーサが、


「お母様、お母様。お友達のタロウお兄ちゃん。

ジャムをくれたタロウお兄ちゃん。」


と、エミナーに僕を紹介してくれた。


「お帰りなさい、エミナーさん。タロウです。」


すると、エミナーは僕に会釈をすると、


「貴方がタロウさん?スラインから話は聞いています。」


と、優しい口調で話しかけて来た。しかし、表情は不思議そうというか、なんとも言えない表情だった。



後でわかった事だが、『ジプレトデン』においては、『タロウ』はとても怖い悪魔の化身とされてるみたいなのだ。


昨日、ジプレトデンに帰った兵達は、ユーリセンチで起きた出来事を家族や友人に話した。


「『タロウ』という、真っ黒な人間離れした奴が現れ、伝説の『黒龍』と『最凶オリアン』を従え、素手で武器を壊して回り、3万の兵を1人で蹴散らし、あのスライン将軍をも手懐けた」と。


ニーサちゃんと、レセナさん、ロレールさん達は、


「『タロウ』という人と友達になり、ジャムやファンタといった、美味しい物を頂きました。」


と、エミナーや、友人に話していた。


しかし、噂というものは、「怖い」「恐ろしい」といった物の方が広がるもので、さらに尾ひれが付き、身長は黒龍の倍はあるだの、ひと息で馬車がぶっ飛び、目に見えない速さで空を飛ぶなどと、『タロウ 』=『世紀末の悪魔』になってしまったらしい。


だから、子供をしつける時には、「いい子にしてないと『タロウ』が来るよ。」とか「オモチャを片付けないと『タロウ』が来て、全部壊されるよ。」などなど…。


もはや『タロウ』は都市伝説以上の存在になっていたのだ。


そんな『タロウ』が僕みたいな子供だとわかった時のギャップがエミナーさんの顔に表れたのだ。



中に入ると、僕は早速出来たばかりの『ミルクセーキ』をニーサちゃんた達に出した。


「新しく作った飲み物です。甘いから、疲れた体にはピッタリですよ。」


エミナーさんは、初めて見る黄色い飲み物に、戸惑っていたが、ニーサちゃんは、ジャムの事もあり、なんの疑いもなく、コップに口をつけた。


「ん~~~!美味しい~~!!」


ニーサの嬉しそうな反応にエミナーやレセナ達もコップに口をつけた。


「本当!甘くて美味しい。また『ジャム』とは違った甘さね。卵とミルクかしら?」


さすが、エミナーさん宿屋の娘である。すぐに材料を言い当てた。


「ダシールちゃんも飲んでみる?」


頷くダシールに僕は『ミルクセーキ』の入ったコップを渡した。


ひと口飲むと、驚いたような顔になり、そして一気に飲み干した。


「ん~~~!美味しい~~~!!」


ニーサとまったく同じ反応だ。


するとエミナーが、


「でも、よくここまで混ぜ合わせる事が出来たわね?いくら卵をかき混ぜても、ここまで滑らかにはならないのに…」


と、少しづつ味わいながら言った。


確かにその通りだった。『ミルクセーキ』自体の考えは何日か前に思いつき、作ってはみたものの、ジューサーミキサーやカクハン器のないこの世界では、手で混ぜるのは限界があったのだ。


そこで僕は、泡立て器みたいなのを作る事にした。

ヒントはファンさんの所にあった大工道具だ。


木に穴を開ける『ドリル』で横に丸いハンドルが付いており、それを回すと先端のドリルの刃が回るというものだった。


僕はその『ドリル』の部分に『針金』を円く曲げて、何本も重なるように取り付けた。そう、小さな鳥篭みたいな感じだ。


これにはチェスハにも手伝ってもらい、「出来たら1番に飲ませるからね。」と約束をしていたのだか、もはや何番目かわからなくなった。

まあ、1番がエミナーさん達だから、喜んでくれるだろう。


そして僕は、エミナーさんが帰って来た事をチェスハさんに伝えようと、「ティージーの店」に向かった。


街に向かって歩いていると、真正面から物凄い形相のチェスハが走ってきた。


そして僕を見つけるなり、


「タロン!エミナーが帰って来たって本当か!!?」


僕は、胸ぐらを掴まれ、その鬼気迫る気迫に押されながらも、


「は、はい。イブレドさんの宿に居ます。ニーサちゃんも一緒ですよ。」


と、答えた。すると胸ぐらを掴んだ手の力が抜け、ヘタヘタとその場に座り込み、


「良かった~、みんなに会うことが出来たんだな。」


「はい、ダシールちゃんは、いきなりお姉ちゃんが出来て戸惑ってましたけど、エティマスさんとイブレドさんは、初孫が出来た事に大喜びでしたよ。」


「そうか…。よし!」


チェスハは「ポン!」と膝を叩いて立ち上がると、クルリと背を向け走って来た方向に歩き出した。


「あ、あれ?チェスハさん?エミナーさんの所に行かないんですか?」


僕はチェスハに声をかけ、呼び止めた。するとチェスハは、またクルリとこちらを向き、


「フフフ、せっかくエミナーが帰って来たんだ、しかもあの『スライン将軍』の奥さんだぞ。

ド派手に『歓迎会』をしようじゃないか。城の庭を使わせてくれるよう、ラウクン王子に頼んでみる。「困ったことがあれはなんでも言ってくれ。」って言ってたからな。

あ、あいつらも呼んでやらないと…タロン!夕方迎えに行くよ。」


「あいつら?」


僕が、誰だろうと考えてる間に、チェスハの姿はすでに無くなっていた。


僕は来た道を引き返し、エミナーさんに、チェスハと会ったことを話した。

するとエミナーは懐かしそうに笑っていた。


その日の夕方、ロコナのおじいさんが、馬車でエミナーさん達を迎えに来てくれた。

僕は、馬車に新しく作った『ジュース』や『サンドイッチ』それからエティマスさんとイブレドさんが作った料理もたくさん積み込んだ。


そしてついに、僕がどうしても作りたかった『アレ』が完成し、誰にも内緒で持って行くことにした。


城に着くと、すでに大勢の人が賑わっていた。
















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