〔太郎VSジプレトデン王国〕
第19話〔太郎VSジプレトデン王国〕
「あれは…?」
僕とミウは、土煙の方角を見た。
と、瞬時にチェスハの言っていた事を思い出し、
「ジプレトデン王国…」
「え!?なんでジプレトデンの兵が?」
「ユーリセンチ王国をジプレトデンの奴らに攻めさせる気なんだ!」
そう、ジプレトデン王国の兵士達が大軍を連れて、ユーリセンチ王国に向かっていたのだ。
僕はミウに、
「ミウ、馬車は走らせれるかい?」
「う、うん…でもどうして?」
「僕はジプレトデンの人達を止めて来る。先にチェスハの所に行っててくれないか?
たぶん、大きな『黒龍』がいるはずだから、すぐにわかると思うよ。」
「で…でも…タロン1人じゃ…」
僕は笑みを浮かべ、
「大丈夫、僕は勇者なんだから。そうなんでしょ?」
「う、うん…でもタロンって、勇者っぽくないというか…」
「アハハ、でも僕は、ミウにとっての勇者なんだ。ミウが信じてくれれば、僕は必ず帰って来る。」
「絶対?帰って来る?」
「もちろん!絶対ミウの所に帰って来る。約束するよ。」
僕はミウの頭を撫でながら言った。
「早くチェスハの所に行って。
チェスハも心配してたから、安心させてあげて。」
「タロン!気を付けてね!きっと…きっと帰って来てね!」
僕は馬車を降りると、手を振り答えた。
そしてミウと家族を乗せた馬車は、僕とは正反対の方向へ走り出した。
僕は全速力で、ジプレトデンの軍隊に向かって走った。
「スライン将軍!何かが近付いて来ます!」
軍隊の先頭を走っていた兵士が、土煙が向かって来るのに気が付いて、隣にいた一回り大きな馬に乗っている男に伝えた。すると、
「全体!止まれぇ~!!!」
男の一声で、何万という馬が止まった。
「なんでしょう?はぐれ馬ですかね?」
兵士がスライン将軍に尋ねた。
「いや、違うな。信じられない速さだが、あれは『人』だ。」
「まさか!人があんなに早く走れる訳が…」
兵士が、まだ言い終わらないうちに、僕は隊列のすぐ目の前まで来た。
「敵襲~!!陣形を整えろ~!!!」
するとスライン将軍を真ん中に、扇形に兵が広がった。
僕は、中央突破と見せかけて、瞬時に方向を変え、横に飛んだ。すると土煙を残し、僕の姿は消えた。
「な、なに!消えただと!?」
慌てて辺りを見回すスラインだったが、どこにも僕の姿は無かった。
すると突然、右端に居た兵達の叫び声が聞こえてきた。
「ギャ~!」「うわ~っ!」
「た、助けてくれ~!!」
「バキッ!」「ボキッ!」「バリバリバリ!!」
「ひいぃぃ~!あ、悪魔だぁ~!!!」
それを聞いたスラインは、
「くそ!あっちだ!」
と、同時に兵が右に向かって走り出した。右からは僕から逃げる兵で大混乱だ。
「ええい!相手は1人だ!回りを囲め!!3番隊、4番隊は、右から挟み込め!!」
スライン将軍の的確な指示を交わすかのように、僕は大きく左に走った。
僕は、始めから戦う気はなかった。とにかく武器を壊して回ったのだ。
攻撃してくる兵には、剣を素手で叩き折り、盾に拳で穴を空け、兵の間をすり抜けながら、とにかく武器を壊して回った。
兵士達が右に向かって来ると、僕は大きく左側に回り込み、今度は兵士達の後ろから攻めこんだ。
スラインが右側に向かって走っていると、今度は後ろから叫び声が聞こえ、大きな土煙が舞っていた。
「なに!?今度は左側だと!?他にも仲間が居るのか?」
「た、助けて!」「スライン将軍~!!」
「バキバキ!!」「ベキッ!ボキッ!」
僕は、直接真ん中には行かず、後ろを回り込みながら、スラインに近付いていた。
隊列の真ん中に、少し雰囲気の違う馬車が止まっていた。その回りを馬に乗った兵士が取り囲み、戦いにも加わらず、その馬車を守っているようだった。
僕は、その馬車にジプレトデンの国王、もしくはそれに相当するような人物が乗ってるに違いないと思い、馬車に向かって走った。
それに気付いたスライン将軍は、
「その馬車にそいつを近づけるな~!!!」
スラインの悲鳴とも取れるような叫び声が響いた。
僕は向かって来る兵士達を、手で撥ね飛ばしながら、馬車に取りついた。
馬車の扉を開け、中を覗くと、そこにはダシールと同じ年ぐらいか少し下かな、というような女の子が座っていた。
隣と向い側には、母親か、世話係りなのか、2人の女性が座っていた。
しかし、僕を見るやいなや、女の子をかばうように前に立ち、
「無礼者!貴様のような者がこの馬車に入るではない!!」
そしてもう1人の女性が、短剣を抜き、身構えた。
僕は、その短剣をひょいと指でつまむと、「ペキッ!」と折った。
そして、戦う意志が無いことを示すように、両手を上げ、女の子に語りかけた。
「いきなり入ってきてゴメンね。
僕は、君達と友達になりたくて来たんだ。
外の怖いおじちゃん達が、僕の事をいじめるんだよ。僕はただ、みんなと友達になりたいだけなのに…」
と、泣くふりをした。
すると、
「お兄ちゃん、お友だちいないの?」
「いけません!お嬢様!こんなわけのわからない男と話してはなりません!」
短剣を折られた女性が、女の子を黙らせた。
しかし、僕はお構いなしに話を続けた。
「ううん、いっぱいいるよ。でも、君もお父さんや、お母さんに言われたでしょ。「友達を沢山作りなさい」って。」
「お兄ちゃん、お父さまと、お友だちになりたいの?」
「お父様?」
「うん、国で1番強いんだよ。「しょーぐん」って言うの。」
「そ~なんだ。将軍様なんだね。うん、お友だちになりたいな。手伝ってくれないかな。僕は「タロウ」お嬢ちゃんは?」
「なりませぬ!口をきいてはなりませぬ!」
短剣を素手でへし折る男を前に、震えながらも、必死に女の子を守る女性達に、
「僕は、貴女達に危害は加えない。信じて欲しい。」
と、頭を下げると、鞄の中から瓶を取り出した。
その頃、馬車の外は静まり返っていた。
自分の娘が人質になったと思っているスラインは、ただただ、馬車の回りをウロウロするだけであった。
下手に刺激をすると、娘の命が危ないと思ったからだ。
僕は、瓶を女性の目の前に見せると、
「これは『ジャム』と言って、僕の国で作った食べ物です。友達の印に、これを差し上げます。」
すると、女性達は、
「そ、そんな怪しい物はいらん!早く出て行きなさい!」
「大丈夫ですよ。毒なんて入ってませんから。」
僕は、瓶の蓋を開け、指にジャムを少し付け、舐めてみせた。
甘い香りが、馬車の中に広がった。
甘い香りに誘われたのか、1人の女性がジャムの瓶を手に取った。
そして、おそるおそる指に付け、「ペロッ」と舐めた。
「あら…」
女性の口元が、一瞬緩んだ。
すると、もう1人の女性も瓶に指を入れ、ジャムを舐めた。
「え?…」
今度は完全に笑顔だ。
そんな2人の表情を見ていた女の子は、
「あたしも、あたしも、あたしも、食べたい!」
と、瓶を持っている女性にしがみついてきた。
そんな女の子に僕は、
「このジャムは、パンに付けて食べる物なんだよ。パンはありますか?」
すこしは信用してくれたのか、先程のキツい言葉使いではなく、少し優しい言葉で、
「少しならありますが。」
と、フランスパンを小さく切ったようなパンを出した。
女の子はパンにたっぷりのジャムを付け、口に入れた。
「わ~!おいしい~!!」
予想通り、満面の笑みだ。
年が近いせいか、ダシールを思い出した。パンを食べてる姿がダシールに似ていたのだ。
女性達も、パンにジャムを付け食べた。
言葉には出さないが、美味しいらしい。顔が物語っている。
3人は、僕の存在を忘れたかのように、喋りながら夢中でパンを食べた。
というより、完全に僕の存在を忘れていた。
パンもジャムも無くなりかけた頃、僕は小さく、
「あの~…」
と、声をかけた。
すると、瓶を持っていた女性が、「ハッ」っと思い出したように、僕の顔を見た。
そして、ジャムに夢中になっていた事を隠すかのように、赤くなった顔を下に向け、「コホン」とひとつ咳払いをすると、
「わかりました。将軍様に、お話出来るようお願いしてみます。」
「ありがとうございます。」
僕は再び頭を下げた。
すると、女の子が、
「ねえ、お兄ちゃん?」
「ん?なんだい?」
「お兄ちゃんのお友達は、いつもこんなに美味しい物食べてるの?」
「うん、そうだよ。みんな「美味しい」って言ってくれて、お兄ちゃんも嬉しいんだ。」
「あたし、お兄ちゃんのお友達になる!いいでしょ、お兄ちゃん。」
「もちろんだよ!今日からお友達だね。」
女の子の嬉しそうな笑顔に、「やれやれ…」という表情の女性達だったが、僕が悪い奴ではないとわかったのか、2人は顔を見合わせ頷いた。
そして、1人の女性が扉を開け、馬車の外に出た。
すると、すぐにスラインが駆け寄り、
「ニーサは!ニーサは無事か?」
すると、女性は、
「はい、お嬢様は、ご無事でございます。それから、その…お嬢様から、将軍様にお話があるそうです。」
「私に話?」
その時、馬車から、僕とニーサが一緒に降りてきた。
「貴様!ニーサから離れろ!!」
すると、ニーサが、
「お父さま、あたしお兄ちゃんと、お友達になったの。お父さまも、お兄ちゃんとお友達になって!」
スラインは訳がわからず、隣に居た女性に聞いた。
「レセナ、これは一体…?」
レセナは馬車の中であった出来事をすべて話した。
「なるほど、つまりは兵を退けということか。」
僕はスライン将軍を見つめながら、
「さすが将軍様。話が早い。もし退いて下されば、『このジャム』の作り方を教えても構いませんよ。」
「もし、退かなければ?」
僕は笑みを浮かべ、
「このまま『黒龍』と共に、ジプレトデンに攻め込みます。」
「何! 黒龍だと?!」
「黒龍…」「黒…龍…?」「黒龍…」
兵のあちこちで、黒龍の名が呟かれた。
すると、ニーサが、
「お父さま!お父さまが、お兄ちゃんとお友達にならないなら、あたしはお父さまをキライになります。」
スラインは頭をかきながら、
「ふ~、参った参った。お父さんの負けだ。わかったよ。お兄ちゃんとお友達になろう!」
「ヤッタ~!良かったねお兄ちゃん!」
「ありがとう。ニーサちゃんのおかげだよ。」
僕はニーサの頭を撫でた。
「ところで、その『ジャム』とやらは、もう無いのか?」
スラインの問いに、レセナが、
「はい…申し訳ございません。全部食べてしまいました…。」
「そんなに美味いのか?」
「それはもう!思い出すだけで…ねぇ…」
レセナは隣にいたロレールに同意を求めた。するとロレールも、
「はい…あんなに美味しいパンは、初めて食べました。」
レセナとロレールの目が遠くを見ていた。
スラインは僕に近付くと、
「カイ・スラインだ。」
と名乗りながら、握手を求めて来た。
「タダノ・タロウです。攻めるのを止めてくれてありがとうございます。」
「フン!俺の目はごまかせんぞ、お主が本気を出しておれば、こんな人数あっという間に片付けていたはすだ。」
僕は笑いながら、
「買いかぶり過ぎですよ。」
「ところで、タロウ、本当に『ジャム』とやらはもう無いのか?」
「すいません。最後の1瓶をニーサちゃん達が食べちゃって…
でも、街に帰ればありますよ。これから取りに来ます?」
「いいのか?」
「もちろんいいですよ。それにスライン将軍には、もっといいものがあるんですよ。」
「もっといいもの?」
「はい、絶対気に入ると思いますよ。」
「なんだそれも食べ物か?」
「いいえ、飲み物なんですけど、言葉では説明出来ないので、実際に飲んでみて貰わないと。」
「よし、わかった。お主がそこまで言うのなら、ただの飲み物じゃないんだな、いただこうではないか。」
スライン将軍は、大きな声で、
「みんな聞け~!!只今より『ユーリセンチ王国』は、我が『ジプレトデン王国』の兄弟国となった!!
これより友好の証として、『表敬訪問』を行う!!全兵士は、武器をその場に置き、出発の準備をしろ!!!」
兵達は、将軍の命令に、一斉に準備を始めた。
「ささ、お嬢様も馬車にお戻り下さい。」
レセナがニーサを馬車に乗せようとすると、
「お兄ちゃんは?お兄ちゃんは一緒に乗らないの。」
「ゴメンねニーサちゃん。お父さんともっと仲良しになりたいから、お話するんだよ。あっちに着いたら、また一緒にジャムを食べようね。」
「わかった。きっとだよ。」
ニーサは手を振り、レセナとロレールは、お辞儀をしながら、馬車に戻った。
「ありがとうございます。スライン将軍。」
「堅苦しい挨拶はいい、友達なんだろ?スラインで構わんよ。ここに座れ。」
僕は先頭の馬車の、しかもスライン将軍の隣に座った。
「お邪魔します…
じゃあ、スライン。ひとついいですか?勝手に『兄弟国』って決めて良かったんですか?」
「何の問題もない、国王は俺の言いなりみたいなものだからな。
それに断っていたら、ジプレトデンは無くなっていたんだろ?」
「ハハハ…まあ…国は無くならないけど、占領はされてたか…な…
それより、スラインはユーリセンチ国王がやっていた事を知っていたんですか?」
「国王のやっていた事?」
「奴隷の売買です!」
「ああ、その事か。俺は気に入らなかったんだがな。ジプレトデン王国は、資源が豊富にある。金だけはあるんだ。しかし人が少ない、お主らの所みたいに獣族もおらん。
それにつけこんだ、お前の所の国王が、うちの国王を言いくるめたんだ。」
「そう、だったんですか。
でも、よく小さな娘さんまで連れて来ましたね。
大軍とはいえ、戦いですよ?」
「国は空け渡したと言ってたからな。城に残っている兵も数人と聞いている。」
「でも、王子やオリアン、猿姫とかもいるんですよ。」
「ん?王子は国王と一緒に逃げたと聞いている。それにオリアンと猿姫は、犬猿の仲だ、一緒に戦うはずがない。
もし仮に一緒だとしても、たった2人で何が出来る。
いくら強い犬と猿でも、何万という軍隊アリには勝てっこない。」
僕は『軍隊アリ』の映像を何回も見ている。自分より体の大きな物だろうが、動くものをすべて食べ尽くす、そんな光景がユーリセンチ国王で行われたかと思うと、ゾッとした。
「しかし、その軍隊アリも、お主1人で止められてしまったがな。ハハハ…」
笑い飛ばすスラインに、僕は照れながら、
「みんなの協力があったからですよ。
それより早く行きましょう。国王が逃げてしまいます。」
「おう!わかった!よし!全員出~発~!!!」
スラインの号令と共に、全員が前に進み始めた。
僕は、スラインと色々な事を馬車の上で話をしながら、ミウの待つ『黒龍』の元に向かった。




