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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第二章ー悪役令嬢、Sランク討伐者になるー
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兄弟

 グレン・リリファルは考えていた。


(あの女のことだ、きっとこのままで終わるわけがない)


 姉・ヴィーナのことを。

 考えて、何度目かのその結論に至った。

 彼は姉の能力を見下す言動を普段からしていたが、それでもあの女はリリファル家の一人。

 

(落ちこぼれとはいえ、仮にも我らリリファル家の長女だ。このまま身を引くとは思えない)


 自身の血筋に誉れを持っている彼は、基本的にヴィーナの存在を認めることは絶対にしないものの、しかしその血筋を引いてる所だけは認めている。


(どう動くか。見付けることができれば、あとは殺すだけだ。だが、見つけることがここまで難しいとは)


 自分が負けるなどとは微塵にも思ってない。戦えば自分が絶対に勝つ。その自信がある。

  

(ふん、魔法の才能はないくせにどうやら雲隠れする才能はあったようだな)

 

 学院での成績もそうだけど、何も彼が姉を見下すようになったのはそれだけが原因ではない。

 彼が姉を嫌悪するようになったのは、リリファル家の出自であるにも関わらず固有魔法が使えない、それが理由の一つでもあった。

 もちろん、ほかにも姉の人間性なども原因ではある。だが、姉の存在そのものに否定的になったのは、少なくとも固有魔法に覚醒することができなかったことに起因するといってもいいだろう。


 グレンはラファリス王国内の地図を広げる。


(王都の周りにはいなかった。どっちの方角を探すか)


 地図に視線を巡らせ、ついでに思考もフルに回転させる。と、その時、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。


(誰だ)


 グレンはベッドから腰を上げて、部屋の扉を開ける。と、そこにはアベルが立っていた。


「やあ、久し振りですね、グレン」 


 見た目は愛らしい女の子であるが、これでもれっきとした男であり、しかも彼にとっての兄という立場の存在だ。


「……お兄様、お久しぶりです。珍しいですね、あなたが俺を訪ねるのは。何か御用ですか」


 グレンは刺々しく言った。


「久し振りの兄の顔だというのに、つれない弟ですね。可愛い弟に会いに来るのに、理由が必要ですか?」


 肩を竦める兄のおどけた言動にグレンは苛立ちを覚える。

 彼はヴィーナとは違った意味で、この兄のことが好きになれなかった。

 

「あなたが何の意味もなく動くわけないでしょう。今度は何を企んでるんですか」


「企むとは人聞きが悪い。私は別に何かを企んでるわけではないですよ。ただ、気になることが人よりも多いだけ。そして、気になったからには解明せねばならないでしょう。そうしていろいろな実験をした結果、その中の幾つかが大変なことになっただけに過ぎない。それだけですよ」


 それだけ。確かに彼にとっては、その程度の認識しかないだろうが、他の大多数の者にとってはそうではない。

 ある時は天変地異を引き起こし、またある時は一つの街を悪魔製造の儀式を行うための舞台へと変えた。

 リリファル家の中でも最も凶悪にして最悪の存在。

 それが彼だといっても過言ではない。


 グレンはアベルを睨む。


「よくそんなことが言えますね。あなたのせいでどれだけの人々が苦しめられたと思っているのですか」

 

「失礼なことを言うのはおやめなさい。私は今まで実験の被験者を苦しませて死なせたことなどは一度もありませんよ」


 アベルは飄々と言う。


「……そうかよ。それより本題は何ですか。まさか本当に会いに来ただけなわけでもないでしょう」


 湧き上がる不快感を飲み込み、グレンは兄が訪ねてきた理由を問う。


「ふふ、そうですね。もちろん、それだけではありませんよ」


 言いながらアベルは指を鳴らす。と、その背後から身の毛もよだつような異形の何かが、その姿を顕した。

 脚の無い百足や内蔵を繋げたような赤黒い蛇、人間の顔が無数に埋め込まれた狼など、とにかく不気味で気持の悪いものだ。


 グレンはその魑魅魍魎を見るたびにいつも心底気持ち悪いと思っていたが、それとは正反対のことをヴィーナは言っていた。

 かわいいと。


 その感性もやはりグレンには理解できなかった。

 グレンは一歩引き、身構える。


「何のつもりですか、お兄さま。まさかお父様に命じられて、俺のことを」

 

「そんなわけないでしょう。これは私の造った魔物で、その一つに母の意を宿してあります」


 グレンは眉根を寄せて、怪訝な表情をする。


「お母様の意思が……? 何故お兄様のところに?」


 色々とやらかしたアベルは、基本的にもう表立つことはなくなった。今では裏で暗躍している。が、実験に実験をし続け、その最中に何度か母の計画を邪魔したこともあるせいで母を怒らせ、基本的には無視されるようになってしまった。


「さあ、そこまでは分かりませんが、ただ、少し面倒事を押し付けられてしまいました。これを断れば彼女のことです。使えないと判断し、本格的に私のことを始末するために動くことでしょう」


 自業自得だとグレンは思う。


「そこで愛しい弟君に、頼みがあるのです」


 にこにことアベルは笑みを浮かべる。どんな頼みかは何となくだけど、想像がつく。


「私の代わりに母の命令を受けてくれませんか」


 やっぱりだ、とグレンは嘆息する。

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