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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第一章ー悪役令嬢、お姫様と暮らすー
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悪役令嬢、最下層になる

 ミナ・ユキシロは焦っていた。


(ヴィーナ・リリファルを探して始末しないと……、このままでは間違いなくバッドエンドになる)


 彼女にとって最強最悪の怨敵。この人生(ゲーム)において、彼女が勝つ為に最も排除しなければならない女。

 悪役令嬢、ヴィーナ・リリファル。


(アーナイト様を籠絡し、婚約破棄させるまでは順調だったのに……、どうしてこんなことに。まさかあんな邪魔が入るとは……、どういうこと。私の主人公補正が続く間に彼女を追い詰めないとならないのに)


 本来ならばヴィーナは、あの婚約破棄の場で処断されてるはずだった。それがどうしてか、途中で邪魔が入った。

 アーナイトの妹のユア・ラファリス。

 あれは話の筋にはない、完全なイレギュラーだ。


(まさかあの子も、私と同じ? いや、可能性はある。私がこの世に生まれてきたなら他に居ても不思議ではない。どうして私はその可能性に思い至らなかったんだろ)


 ミナ・ユキシロはこの世の人間ではない。元々はニホンという国に生まれた、雪代美奈という女の子だ。

 それがどうしてこうなったのかは、彼女自身にもよく分かってはいない。


 部屋で『悠久の魔法』というゲームをプレイしてた時、気付けばそのゲーム世界の中で目を覚ました。

 最初は夢かと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 彼女がこの世に生まれて直ぐに『原作者(エンゼル)』と称する者の天の声を聞き、『主人公補正』という特殊な体質を与えられた。

 それはその名の示す通り、あらゆる困難を乗り越えることが許された体質だ。


 その体質を用いて、彼女は生きることになった。

 原作者(エンゼル)曰く、どう生きるかは彼女次第。

 物語の通り王子様と共に幸せを目指すのも良し、またそれとは関係なく生きていくのも良し。

 だが、物語の通りに生きなければ主人公補正は意味の無いものになるようだ。


 彼女は当然、物語の通りに生きることを決めた。そうすることで幸せは保証されてると思ったからだ。とはいえ、悠久の魔法は常にバッドエンドと隣合わせのゲームでかる。


 『悠久の魔法』ラスボスの悪役令嬢ヴィーナ・リリファルは物語の終わりまでに処理しなければいけない。そうしなければゲームではバッドエンドになる。

 だからこそ、彼女は焦っていた。このままでは恐らくバッドエンドだろう。


 それを避ける為にはヴィーナを早く何とかしなければならないはず。

 ヴィーナさえ始末すればミナはハッピーエンドを迎え、王子様と一緒に幸せになれる。その確信があった。

 

(少し強引だけど、婚約破棄の場で始末しといた方がよかったかな。あの時ならアーナイト様やグレン君、他にも味方がいたし、いくらヴィーナが強くても倒せたはず。

 というかヴィーナは何であんなに強いんだろ。前に何とかして殺そうと模擬戦を挑んだことあるものの、私の主人公補正を以てしても単身では勝てなかったし……)


 まあ、『悠久の魔法』内でもラスボスなのだから強いのは当然といえば当然ではあるが。


(まあ、とりあえず言い逃れが出来ないように罪状だけでも固めるように動いておくか)


 内心で溜息をつきながらも彼女は物語(じんせい)を進めていく。だが、彼女は気付かない。もう既に物語のレールからは外れてることに……。

 気付かず、そのまま突き進む。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 

 私ことヴィーナ・リリファルは現在、今までの上流階級の高い身分から、平民以下の地位にまで身を落とした。身分のない身分。つまりは最下層の人間だ。


 名は親に与えられたものを使っているものの、それを示すものが今の私にはない。

 が、不思議と不便には思わず、それどころか謎の充実感すら抱いていた。

 私はリリファル家で培ったもの全てをフル活動し、魔物等を滅することでお金を稼ぎ、飢饉等の生き死にに関わるような問題も今の所は特にはない。

 

「ユア、ただいま戻りました」


 猪の姿に似た魔物を、魔法によって倒した私は、それを引きずりながらも今住んでる小さな家に戻ると、エプロン姿のユアが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、ヴィーナ様。猪を狩ってきたのですね!」

「ええ、猪とは少し違うのだけど、そうね。ユアはこれを捌けるかしら?」

「ふふーん、お任せ下さい。ヨユーです」


 薄い胸を張り、ドヤ顔のユア。王族……いや、貴族全体を含めてもだけど、上流階級にしては珍しく、何故か使用人の仕事のはずの家事炊事までユアは仕込まれている。

 その為、ユアとの暮らしは最初に家事炊事に躓くこともなく、順風満帆である。


「では、お願いします。私はこの魔物の牙を換金してくるので」


 私は手に魔力を込め、筋力を上げて、猪の牙を折り曲げる。ぽきりと木の枝を折るかのように容易く折れた。勿論本来ここまで柔らかくはない。というか私のような小娘に折ることなどできるわけのない程度の硬度はある。だが、それは元々の腕力の話だ。


 私は……、というより私に限らず貴族の大半は魔法を使うことができる。これはその貴族の中でも、恐らく誰もが会得してるはずの最も簡単な魔法の一つ。魔力によって身体能力を強化する魔法だ。


「はーい」


 ユアは自身の身の丈ほどある猪を軽々と持ち上げる。それもまた身体能力強化の魔法だ。










 



 

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