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悪役令嬢、百合に目覚める  作者: クロロフィル
第二章ー悪役令嬢、Sランク討伐者になるー
33/45

討伐者でない理由

 それからヴィーナは何とか二人を宥めて、レーナを腰に貼り付けたままエリア達を家の奥まで連れてゆく。

 その間、ユアの氷点下に放置した鉄の板を背に押し当てるかのような冷たい視線に耐える。


 レーナを引き剥がすことも考えたが、ヴィーナは自他共に認めるシスコンである。

 潤んだ瞳で「お姉様、レーナのこと嫌い?」などと言われたら強引に剥がすことなどできるはずもなく、かといってこのままでいることはそれ即ち冷たい視線という名の針の筵の中に延々身を投じることになる。


 何とかしなくては。

 そう思ったところで直ぐに何とか出来るのならばここまで悩んではいない。


(もう少し仲良くしてくれると嬉しいのだけど)


 ヴィーナはユアの視線を背負いながら奥の居間にあるテーブルまで向かい、椅子を引いて腰を下ろす。その膝の上にはレーナ、頭にはシルフが乗っかっていた。


 続いてユアもいつもの定位置に座り、ぷかぷかシャボン玉のように浮遊するエリアはその隣に降ろされ、他の騎士達も適当な場所に降りた。勿論その身は未だ拘束されたまま。


 全員が場につくとヴィーナは頭を切り換える。

 それから話を始める。

 最初こそは敵意満々で警戒の限りを尽くしていた彼らだが、第三王女たるユアが積極的に口を挟むことによって次第に話が広がっていった。







 そうして日没を踏み越えて、夜が訪れた。

 大体の状況を把握したユアとヴィーナは、レーナが入浴している間(入浴前に一緒に入りたいと駄々を捏ねていたがそこは半ば強引に一人で入るように促した)に、居間から少し離れた別室で腰を落ち着かせていた。


「それにしてもまさかレーナが騎士になっていたとは、驚いたわ」

「ヴィーナ様もご存知なかったのですか?」

「ええ。あの子のーーというよりはお母様の仕事は私にも秘匿されているのよ。多分お母様の仕事のことを知っているのはお父様とあの子だけ。多分お兄様も知らないはず。だから何をやっているのかまでは私にも分からないわ」


 そうなんですか、と納得するユア。先程まであれだけ憤然たる様子だったのに今はご機嫌だ。

 その理由としては、今のこの状態が大きい。


「ねえ、それよりユア。そろそろ離れてほしいわ」


 ヴィーナの足の間に体を収めて、風呂上がりにマッサージチェアの世話になるかのように深々と背をヴィーナの胸に預け、顔を蕩けさせていた。


「レーナだけずるいです。私ももっとヴィーナ様と時間を共にしたい。あ、そうです! 私も討伐者になれば」

「それは駄目よ」

 

 ユアの頭を撫でながらその耳元で囁いた。

 

「どうしてですか? これでもAランクの魔物程度なら余裕で勝てるくらいには私は強いですよ」


 ドラゴンの猛攻を凌げるくらいだからそのくらいは当然だろう。ヴィーナがユアを討伐者にさせたくないのは、その危険性の問題ではない。彼女が真に危惧しているのは、その仕事内容の方だ。


 討伐者はその仕事柄、大量の魔物を殺すことになる。つまりは金の為だけに徒に生命を奪い続け、しかも命を頂くという大義名分もなく、むしろその真逆。最終的には人を殺める凶器にも成り得る武器を作る為の素材の為に大量の魔物を虐殺する。


 その殺戮の果てに待つものが何かをヴィーナは知っている。いや、憶えさせられたというべきか。


「そういう問題ではないのよ、ユア」


 過去にヴィーナは無為に命を奪い続けるという苦行を強制されたことがある。それはヴィーナだけではない。レーナもアベルもグレンも、リリファル家の人間ならば誰もが当たり前に通る道。


 巣から這い出る蟻をスプーンでプチプチ押し潰すかのようにヴィーナは、物心ついたばかりの頃に限りある生命を奪い続けてきた。何も考えずに、ただ命じられるがままに。家の方針だった。ある時は人を、ある時は魔物を、ある時は愛玩動物を。人に危害を加えたそれらを幼い彼女は、ただ殺し続けてきた。


 人というのは不思議なもので、同じことを繰り返していると段々と慣れてくる。殺しとてその例外ではない。

 無垢で何事もスポンジのように吸収するユアには、限りあるものを奪い続けるような愚行に慣れてほしくはない。それ故にヴィーナは彼女が討伐者になりたいと言うたびにこうして諭しているのである。


「じゃあどういうことなんですか?」

「……そうね。いずれあなたにも分かる時がくるわ」

「?」


 分からないと言った様子でユアは首を傾げ、それから話を変えた。


「それはそうとヴィーナ様。シルフのことはレーナ達に話さないのですか?」

「そうね。まだ幼体とはいえドラゴンを犯罪者(わたし)が抱えているのは、色々と問題があるでしょう。だから今は彼らには伝えないわ」


 ぼふんとユアの膝にシルフが降り立った。冷たく硬い鱗に覆われており、本来ならばその体積も岩塊のように重いのだが、今はヴィーナの魔法によって著しく軽く、だから非力なユアでも軽々と持ち上げることができた。

 そして、ユアは「なら」と続ける。


「ドラゴンの件はどう説明をするのですか? 流石にあの山の成れの果てを見て、ドラゴンが暴れたのは見間違えというのは通用しませんよ」

「ドラゴンは私たちで倒したことにするわ。ただ、その子の説明だけはしない」


 ユアは納得し、そのままこれから先のことまでを軽く雑談を交えつつも色々と話し合う。

 




 

 

 




 

 




 

 


 


 


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