繭の開花
白い光の繭が生まれ、その背後に距離を挟んで幾つも屹立する光の柱。それを眺める彼ら"魔物討伐者"の視線には、数多の感情が揺らいでいた。
困惑、混乱、動揺、驚愕ーーからの憧憬。
全ては討伐者が、己には無い圧倒的な能力を示されたが故に生じたものだ。
凄い。凄すぎる。
あの"王国騎士団"の隊長が、手も足も出ずに敗北。騎士団の一部隊にも匹敵するほどの……否、それ以上の存在。
自分たちの小さき街が有するSランク討伐者は、それほどの担い手だったことが彼らの心を喜悦に満たし、「おおお」と快哉を上げさせた。
「凄い。これがドラゴンを倒したほどの実力なのか!」
「これなら我々の街に貴族の介入は必要ないな!」
「神の恩恵か。このような強き者を私達の街に寄越してくれたことを神に感謝する」
だがしかし、それに反する声も同時に上がった。
「おい、でも、王国に狙われてるってことは、何らかの罪人なんだろ」
「そうだ。街を守る為には渡した方がいいのではないか」
「あ、ああ。確かにドラゴンから街を救ってくれた恩義はあれど、しかし我らが優先すべきはやはり街の人達だ。国に目を付けられて"地獄"のような惨状になるのは避けた方がいい」
その言い分も正しい。勿論、本音を言えば恩人のことを売るようなことはしたくない。でも、彼らはタクラスの街とヴィーナ達を天秤にかけたらほぼ総意で、タクラスの街を守ることを選ぶだろう。
それを理解した上で、それでもやはりその言い分に反論する声も上がった。
「だが、我々にとっての恩人を売るつもりか。彼女がいなければ今頃タクラスは更地で、我々の命はドラゴンの血肉と化していたんだぞ」
「ああ、そうだ。確かにタクラスを"地獄"と同義語にするのは望むところではないが、それでも先ずは話を聞くことが大切なのではないか」
そうだな、とちらほらと同意が上がる。が、それでも未だに呻る者も多い。
と、そこで誰かが確信に触れる部分の情報を拾い上げて、それを話の核に据える。
「そうだな。それにユアがどうたらって言ってたし、あの妹さんも関わってる問題なんだろうよ」
「ユア……、ちょっと待ちなさい。あの王国騎士団の女騎士が確か"ユア様"って言ってたわよね」
グレムリンは直ぐにそのことに思い至り、次いでそれなりに外部の情報を得ているものも理解を進めていく。
が、このような辺境の街に生まれて育くまれた彼らには、その事実に気が付けない者が大多数である。
「言ってたが、それが何だよ」
「ユア様ってことは、あのユアって子は偉い人なのか?」
「ええ」とグレムリンは肯定し、答える。
「あの子はラファリス王国の第三王女。つまりお姫様」
その言葉に一瞬の沈黙を経てから、直ぐ騒然と怒涛の困惑が溢れ出した。
「お姫様だって……? そんな馬鹿な」
「ーーってことは何か? ヴィーナちゃんはお姫様を攫ってきた悪党ってことか」
それを「いいえ」と真っ向から否定するのは、仔細を知ることはないが、何となくの察しはつけているグレムリン。
「それは無いでしょ。強引に拉致してきたのならば、伸び伸び健やかで愉快に日々を暮らしている彼女の様子が説明付かない。私には仔細まで把握することはできないけど、二人の中の良さから察するにその韜晦はユアさんも承知の上だと思いますよ」
虚心坦懐に考えを延べながらもグレムリンは、ヴィーナと褐色の女騎士を包み込んだ光の繭に近寄る。
「まあ、とりあえず詳しくは二人が出てきてから聞くわよ」
すると、そのとき。
白い繭が中心から裂けて、花の蕾が開花するように解かれた。
その中から姿を現したのは、この魔法の使用者たるヴィーナと、荒げた呼吸が妙に艶やかな女騎士である。
何があったのだろうか。少し気になったが、女騎士の艶やかな顔を見た瞬間にカンクル含めた男連中が一気に沸き立ち、それによってグレムリンの興味は後ろの連中に対する不快感へと変転した。
うるさいわね、と内心で悪態をつきながらも彼女は目の前の神秘を見る。
彼女たちの立つ場所を中心に幾つもの花弁が倒れて、その直後に落ちた硝子のように砕けて散り、その散った硝子片は花吹雪のように空に流れて、溶けた。
美しい光景だ、とグレムリンはしばらくその光景に目を奪われ続けていた。
そして、それは他の者達も同じで、舞い漂う白の花弁の中で感嘆の声を漏らし、その中心で優雅に髪を払う仕草で莞爾と笑う美麗なる彼女の姿に見蕩れ続けていた。




